新型コロナウイルス感染症の拡大により最高リスク管理責任者の役割はどう変わったか
執筆者
Bill Hobbs
Managing Director, Financial Services Consulting and Center for Board Matters, Ernst & Young LLP
Federico Guerreri
EY Global Financial Services Risk Leader
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11th EY/IIF global bank risk management survey (PDF)
第11回EY/IIFグローバルバンクリスクマネジメントサーベイ(EY/IIF global bank risk management survey)によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大は、最高リスク管理責任者(CRO)が業務運営の在り方を考え直すきっかけとなっています。
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要点
新型コロナウイルス感染症の拡大によって大きく変わった社会では、顧客のニーズの変化とデジタルテクノロジーが中心的な役割を果たすようになっており、CROは新たなリスクに対応している。 環境の変化に迅速に対応するCROの能力の重要性がかつてないほどに高まっている。 CRO自らが果たす役割を見直し、金融機関を取り巻く環境全体の変革を加速させる大きなチャンスが生まれている。
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かつてはCROは、金融機関業務の裏⽅的な役割と考えられていたこともありますが、世界⾦融危機以降、その役割が著しく変化しています。金融危機の影響でCROにスポットライトが当たり、現在どのようなリスクがあって、どのようなリスクが迫っているのかを金融機関の取締役会に効果的に伝える役割を果たすようになりました。
世界経済を揺るがしたもう1つの危機から回復し始めた今、CROが担う役割はさらに増えています。この新たな役割で求められるのは、新型コロナウイルス感染症の拡大によって大きく変わった社会で、金融機関が新たなリスクをどう管理すればよいかを的確に伝えることだけではありません。顧客のニーズや期待の変化とデジタルテクノロジーが金融機関の意思決定において中心的な役割を果たすようになっているこの時期にこそ、新たなリスクへの対応について効果的に伝える必要があります。
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第11回EY/IIFグローバルバンクリスクマネジメントサーベイ(EY/IIF global bank risk management survey)(PDF、英語版のみ)
CROは、デジタル通貨の急速な興隆などの新たな課題に加え、低炭素経済への移行に関連したより広範な社会の動きや世間一般の認識にも注目しなければなりません。
第11回EY/IIFグローバルバンクリスクマネジメントサーベイによると、金融機関がトランスフォーメーションへの旅を続け、今日だけでなく明日、そしてその先の未来を見据えた継続的かつダイナミックなディスラプション(創造的破壊)と変革に取り組む中、CROが金融機関の成長と成功において果たす役割は今後、かつてないほど大きくなるでしょう。
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リスクリーダーは、業務運営においてデータとテクノロジーを活用し、イノベーションを取り入れることができれば、より多くのことをより効率的に行うことができると認識するようになっています。
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正しい行いのコスト
パンデミックによって経済が混乱する中、政府の給付金等を支給し、顧客が融資を受けやすくするために、金融機関は極めて重要な役割を担うこととなりました。給付金等の支給を容易にし、顧客が必要とする支援を届けることで、多くの金融機関は、自らの評判を損なうことなく、危機から抜け出しつつあります。その一方で、こうした支援策の最終的なコストと経済成長への広範な影響を多くのCROが懸念しており、今後12カ月間で最大のリスクとして信用リスクが挙げられています。経済回復が順調に進まず、厳しい状況が長期化する場合、信用問題が深刻化する可能性が高く、この問題にどの程度うまく対処できるか懸念を抱く金融機関もあります。
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金融機関は顧客の財務基盤の安定回復を図っていますが、今後12カ⽉から24カ⽉の間に決定する必要がある損失軽減と融資返済猶予に関連して、CROの69%が最も懸念しているのは、政府の景気対策を受けた金融機関の対応に関する規制上の調査や措置です。その他に懸念事項として挙げられたのは、あらゆる借り⼿に良い結果をもたらしながら、金融機関のリスクアペタイトやポリシー、⼿続きに従って、(数百万⼈とも⾔われる)膨⼤な数の顧客の損失軽減措置を図ることが現実的かどうかということです。
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回復に向けたより良い道筋
特に懸念されるのは中⼩企業ですが、金融機関のリスク評価は国によって異なります。⽶国では、政府の景気対策により、2020年の破産申請件数が35年ぶりの最低⽔準を記録しました1。⼀⽅、南欧諸国では中⼩企業の倒産率が上昇する可能性が⾼く2、その場合、金融機関の⾃⼰資本利益率に影響が及びます。今回のEY/IIFサーベイによると、今後3年間の利益率について、欧州の金融機関がおしなべて5%から10%の間になると⾒ているのに対し、⽶国では金融機関の3分の1以上が16%を超えると⾒込んでいます。
危機が沈静化する中、CROの間での話題の1つが中⼩企業への⽀援の充実です。パンデミックで⼤きな打撃を受けたものの、成⻑が⾒込める有望なビジネスモデルを持つ中⼩企業を⾒極めて、いわゆる「ゾンビ」企業と区別することは難しく、このことが⽀援の充実を阻む最⼤の障害の1つとなっています。
パンデミック後の社会では多くの企業が進化を遂げる必要があります。今後は中小企業も、大企業と歩調を合わせて、ビジネスモデルに環境・社会・ガバナンス(ESG)の枠組みをますます取り込むようになるでしょう。それにより、カーボンゼロ経済に向けた取り組みをどのように進めるかという新たな話し合いを取引金融機関と開始できるはずです。その結果、金融機関の全体的なサステナビリティ戦略の一環として、関連リスクの管理と評価を支援する上で、CROは重要な役割を果たすことになります。
データ保護:安全の確保
ロックダウン中は、多くの従業員が円滑に在宅勤務をしました。トレーディングから財務アドバイスに⾄るまで、重要な業務を⽀えたのはテクノロジーです。⼀⽅、多くの⼈たちが⾃宅のキッチンやリビング、地下室で仕事をしたことで、データのセキュリティと保護が最優先課題となりましたが、この課題はまだ解決されていません。
パンデミックが起きる前に、デジタルトランスフォーメーションへの取り組みで先行していた一部の金融機関は、リモートワークへの移行をより安全かつ安心に進めることができました。それ以外の金融機関は迅速に追いつくことを余儀なくされました。ただし、CROによると、何千人もの従業員がリモート環境でデータにアクセスできるようにしたことは、最終的に深刻なリスクを生じさせました。今回のサーベイの対象となったCROの大多数が、オペレーショナルレジリエンスの枠組みにデータ管理とプライバシーが十分に組み込まれておらず、IT関連のチェンジ・マネジメントとサードパーティーリスク管理もまた同様であることを認めています。
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その上、今回のパンデミックで、従業員のテクノロジー分野の能力にも大きな疑問符が付きました。これは金融機関のリスク部門のメンバーだけでなく、組織全体に言えることです。金融機関のリスク部門のアジリティを向上させるとともに、より迅速に、もっと段階的に変革を進める必要があることが明確になりました。今回のサーベイでは、今後3年間で習得する必要がある最も重要なリスク管理スキルとして、CROの70%が環境の変化への対応力を挙げています。多くの金融機関にとって、これはテクノロジー面の問題というより、文化、ガバナンス、そして組織面の問題です。成功するためには、チームが変化に素早く対応できるよう、CROがチェンジマネジメントについて確固たる姿勢を持つことが求められます。
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新たなCRO像の出現
CROが現在対処しなければならないリスクの範囲は拡大し、気候変動リスクから、仮想通貨に関連する漠然としたリスクまで、急速に変化する分野にも及んでいます。多くの場合、迫り来るこのような課題やその他の課題にうまく対応していくには、データとアナリティクスに詳しい人材を増やす必要があるでしょう。
市場での仮想通貨に対する需要と関心をどう管理するかについて、中央銀行と政府が下す決定によっては、すべての金融機関がデジタル資産に関するガバナンスと管理態勢を構築するとともに、仮想通貨取引のテクノロジーを活用しなければならなくなるでしょう。また、企業がカーボンゼロ経済に移行するスピードが金融機関の負担となる可能性があります。革新性とアジリティを発揮して、新たなタイプの金融商品や金融サービスの開発、価格設定、販売を行う必要があるかもしれません。
金融機関のポリシーに対する世論の変化のスピードと社会的圧力は今後、一層高まるでしょう。パンデミックが起きてすぐに、世界経済がいかに相互に結びついているか、そしてそのメリットとリスクが明らかになりました。CROの前にはさまざまな課題が横たわっています。多くのCROが、自金融機関にとってリスク環境の変化が持つ真の意味に向き合うことになるでしょう。しかし、組織全体で変革を加速させ、次に待ち受ける大きな試練に向けた態勢整備を進める大きなチャンスでもあります。
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サマリー
第11回EY/IIFグローバルバンクリスクマネジメントサーベイ(EY/IIF global bank risk management survey)の結果から、パンデミック後の社会で、競争に勝ち、⽣き抜いていく能⼒を金融機関が⾼める上で、CROは主導的な役割を果たす必要があることが明らかになりました。
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Bill Hobbs
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