新たな地政学的戦略時代を迎える2023年に戦略をいかにシフトすべきか

新たな地政学的戦略時代を迎える2023年に戦略をいかにシフトすべきか


各国での政策の不安定化により、企業戦略において地政学的動向の重要性が非常に⾼まっています。

2024年版「2024年に予想される地政学的動向トップ10」は、こちら


要点

  • 企業戦略において地政学的動向の重要性が今世代で最も高まっており、経営幹部は政治的な機会とリスクに対応する必要がある。
  • 各国政府が自給自足を追求する背景には地政学的緊張、経済的不確実性、環境のサステナビリティがある。
  • 企業にとって、地政学的動向は、今後もサプライチェーン戦略に影響を及ぼし、投資先の変更やコストの押し上げの要因となる可能性が⾼い。

米中の緊張が高まり、多くの中堅国が発言力を強める中、世界は⼀極集中型から多極分散型への移⾏が進み、地政学的な環境は近年ますます不安定化しています。また各国中央政府が自国経済の統制を強め、ポピュリズムとナショナリズムが台頭していることも国際機関の弱体化を招いています。こうした傾向は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックで加速しており、さらにこれに追い打ちをかけたのがウクライナを巡る情勢です。

グローバル化が進む中で世界貿易が比較的自由化されていた時代は終わりを告げました。それに伴い、グローバルな経営環境も⼤きく変わり、経営判断において地政学的問題を経済⾯より重視せざるを得ない場合が増えました。EYが今後5年間の世界に関するシナリオ分析で示したように、グローバル化の中期的な⾒通しは極めて不透明となりました。

ただし、2023年の短期的な⾒通しは明らかになり、2023年の地政学的戦略環境を特徴づける包括的なテーマには2つあると考えられます。

  • 1つ⽬は、⽭盾した表現になりますが「ボラティリティの定着」です。昨今の地政学的緊張や政府の経済介⼊の傾向は持続し、ボラティリティは2022年に⽐べて⼀定の高いレベルで続く可能性が⾼いものと考えられます。
  • 2つ⽬は、重大かつ緊急な政策におけるトレードオフの拡⼤です。現在の地政学的環境は、エネルギー安全保障やインフレの進行といった深刻な課題を各国政府に突き付けていますが、容易な解決策は見当たりません。トレードオフ解消のために政府が取り得る選択肢が国により異なることも、グローバル企業の経営環境が複雑さを増す遠因になるものと思われます。

本稿では、2023 Geostrategic Outlook(PDF)に示された見解に焦点を当てます。これは、2023年に予想される地政学的動向のうち、最も発生の可能性が高く、かつ影響の⼤きいものについてのEYの⾒解です。また、こうした動向がさまざまなセクターに与える影響を掘り下げるとともに、自社の成⻑を促進するために経営幹部が取り得る5つの「後悔なき」地政学的戦略上の対応に焦点を当てています。

 

2023年に予想される地政学的動向トップ10

EYの地政学戦略グループ(Geostrategic Business Group)は、2023年にセクターや国・地域を問わず企業に最も重要な影響を与える得る地政学的動向トップ10を予想しました。ここで挙げられた動向の多くは、近年リーダーが対応を余儀なくされてきた地政学的なトレンドを元に引き起こされるものとみられます。



地政学的動向は各セクターにどのような影響を与えるか

2023 Geostrategic Outlookで示された2023年に予想される地政学的動向トップ10は、セクターや国・地域を問わず幅広い影響を企業に与えることになりそうです。また、特に短中期的には、動向トップ10の中でも特定のセクターに対してより直接的な影響を与えるものがありそうです。

以下のセクターに関する主要な地政学的戦略上テーマと事業への影響について、詳しくは該当するセクターをクリックしてください。


不確実な社会に対応した強固な戦略を構築するには

こうした地政学的動向はいずれも、グローバル企業に課題と機会の両⽅をもたらしています。地政学的に不確実な時代にあって企業が成⻑するには、地政学的動向のみならずその他の政治リスクまでをマネージし、⻑期的戦略に織り込むなど、より一層戦略的なアプローチをとる必要がありそうです。ボラティリティが定着し、政策のトレードオフが発生しそうな2023年に、自社の成⻑のために経営幹部が選択できる「後悔なき」地政学的戦略アプローチを5つ、最後にご紹介します。
 

1. コスト上昇にうまく対応する

ほとんどの地政学的動向は企業の経営コストを押し上げることが予想されます。サプライチェーンの再構築、クロスボーダー・オペレーティングモデルの有効性の向上、エネルギーの効率化といった対応策が、こうしたコスト上昇を抑える⼀助となるかもしれません。
 

2. サプライヤーエコシステムを評価する

2023年も地政学的動向のすべてがサプライチェーンに影響を及ぼす可能性は⾼く、それが現実となれば2年連続のことです。リスクを多⾯的に評価する、サプライヤーのオンショアリング/ニアショアリング/フレンドショアリングを行うことを検討する、サステナビリティやESGの⽬標達成を後押しするサプライチェーンを築く、といった対策をとり、レジリエンス強化を目指すことが有効と考えられます。
 

3. 「友好的」な国・地域での事業機会を模索する

産業政策の利用拡⼤と⾃給自足へのシフトの動きは、従来型のグローバルなビジネスモデルを動揺させることになりそうです。企業に最も確実に成⻑と投資の機会をもたらすのは、主に本国やその同盟国での市場開拓ではないかと考えられます。
 

4. ステークホルダーの優先課題に合わせて経営戦略を策定する

地政学的動向の影響により、ステークホルダーの優先課題や企業に対する期待も変化すると思われます。その先を⾒越して、顧客、従業員、投資家、政策決定者の要求を満たすような成⻑戦略を策定することが、政治リスクを軽減する⼀助となる可能性もあります。
 

5. シナリオ分析を実施する

2023年に予想される地政学的動向は、中期的な地政学的⾒通しの不確実性の高さを浮き彫りにしています。地政学的なリスクに対するシナリオ分析の実践は、今後訪れる激動の時代において、企業が不確実性への備えを整える上で非常に有効な手段の1つであると考えられます。


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    サマリー

    企業は戦略、ビジネスモデル、コーポレートガバナンスに地政学的分析結果を織り込む必要があります。経営幹部が企業のDNAに地政学的分析を組み込むことにより、その企業は戦略的な意思決定を⾏う際に地政学リスクに対して、より適切に対応することができるようになると思われます。また、変動の激しい地政学的環境下においても、競合他社に対して⼤きく優位に⽴てるようになる可能性が高まるでしょう。


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