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2025年1月20日、ドナルド・トランプ(以下、「トランプ大統領」)は第47代米大統領に就任しました。就任後、トランプ大統領は「アメリカファーストの貿易政策」と題する覚書(The Presidential Memo “America First Trade Policy”、以下、「本覚書」)1を含む、数十の大統領令に署名しました。本覚書は、米政府の経済機関に対し、トランプ大統領が選挙活動中に提起した一連の貿易問題についての調査、施策の提案を行うよう指示しており、その中にはカナダやメキシコ製品に対する25%の関税、外国歳入庁(External Revenue Service:ERS)の創設、貿易赤字への対応が挙げられています。覚書内では関税の即時発動は見送られているものの、後の記者会見でトランプ大統領は、翌月2月1日にメキシコとカナダに対して関税を課す可能性を示唆しています。
本覚書は、投資と生産性の促進、米国産業および技術的優位性の強化、そして経済および国家安全保障上の懸念に対処することを目的としています。本覚書は3つのセクションに分けられて記載されており、各セクションの詳細項目は下記の通りです:
1. 不公正かつ不均衡な貿易への対応(Section 2)
トランプ大統領は米国通商代表部(USTR)、商務長官、財務長官、国土安全保障長官に対し、以下の実態の検証・提案を指示しています:
項目 |
概要 |
---|---|
(a) |
米国の貿易赤字の原因の調査、全世界に対するベースライン関税の導入を含む、適切な措置の勧告 |
(b) |
関税およびその他の関税を徴収する外国歳入庁(ERS)の創設の実現可能性の検証 |
(c) |
他国の不公平な貿易慣行の調査 |
(d) |
米国-メキシコ-カナダ協定(United States-Mexico-Canada Agreement:USMCA)の2026年7月の見直しに向けた、公開協議プロセスの開始と同協定が米国の労働者や企業に与える影響についての検証 |
(e) |
米国の貿易相手国による潜在的な為替操作を調査し、その不公平な競争優位性を検討 |
(f) |
既存の米国の貿易協定を広範囲で検証し、修正点を提案 |
(g) |
将来における貿易協定を締結すべき国の特定 |
(h) |
アンチダンピングおよび相殺関税の使用に関する米国の手続を調査し、外国企業および外国政府による遵守状況の検証 |
(i) |
800米ドル以下の輸入貨物に適用される非課税基準額(デミニミス)ルールが、米国経済および安全保障上にもたらすリスクについての検証 |
(j) |
米国市民または企業に対する他国の差別的な課税状況の調査 |
(k) |
「Buy American and Hire American」政策の推進のための、連邦調達におけるWTO政府調達協定を含む全ての貿易協定の確認 |
2. 中国との経済および貿易関係(Section 3)
トランプ大統領は米中間の貿易関係に関し、USTRに対して以下の対応を指示しています:
項目 |
概要 |
---|---|
(a) |
中国との経済・貿易協定2に対する、中国の遵守状況の確認、関税やその他課税措置の必要性についての評価 |
(b) |
前バイデン政権が作成した1974年通商法301条に関する調査レポート(“Four-Year Review of Actions Taken in the Section 301 Investigation:China’s Acts, Policies, and Practices Related to Technology Transfer, Intellectual Property, and Innovation”)の確認、特に第三国を通じた迂回貿易に対する追加の関税措置の必要性の検討 |
(c) |
米国企業にとって不合理または差別的な貿易障壁となる、中国の政策や慣行についての調査 |
(d) |
米中間の恒久的正常貿易関係(Permeant Normal Trade Relations:PNTR)の撤回3を含む、過去数カ月に米国議会で提出された立法案についての見直しと提案 |
(e) |
(商務長官に対し)中国人の有する知的財産権に対し、相互かつ公平な取り扱いに対する評価 |
3. 経済安全保障問題に関する追加事項(Section 4)
本セクションは米国のサプライチェーン、輸出管理規制、および国家安全保障上の懸念に関連する、さまざまな問題をカバーしています。具体的には、以下の対応を指示しています:
項目 |
概要 |
---|---|
(a) |
米国の産業基盤に対する経済および安全保障に関する調査、通商拡大法232条に定めるセーフガード措置の開始に対する必要性の検討 |
(b) |
第1次トランプ政権下で発動された、鉄鋼およびアルミニウムに対するセーフガード措置について、適用除外や免除などの措置の有効性の検証 |
(c) |
戦略物資、ソフトウェア、サービス、および技術に焦点を当てた米国の輸出管理体制の見直し、既存体制の抜け穴防止の検討、米国の輸出管理のコンプライアンスを促進するための執行メカニズムについての提案 |
(d) |
2025年1月に発表された、中国とロシアが関係するコネクテッドカーの輸入・販売を禁止する最終規則について、他のインターネット接続製品への規制拡大の検討 |
(e) |
バイデン政権の行政命令「特定の国家安全保障技術および製品への米国投資に関する対応」(”Addressing United States Investments in Certain National Security Technologies and Products in Countries of Concern”)に基づく米国の対外投資体制の見直し、2025年1月2日に施行された関連する行政命令の変更または撤回の必要性の検討 |
(f) |
行政管理予算局(Office of Management and Budget:OMB)による他国による補助金の米国の連邦調達プログラムへの影響の評価 |
(g) |
カナダ、メキシコ、および中国からの不法移民とフェンタニルの流入についての評価、これの「緊急事態」に対処するために必要な措置の検討 |
本覚書に基づいて、関係省庁はそれぞれの項目に関する調査結果および推奨事項をレポートにまとめ、2025年4月1日までにトランプ大統領に送付する予定です。なお、行政管理予算局によるレビュー(Section4(f))の締め切りのみ、4月30日に設定されています。トランプ大統領はこれらのレビューのため、議会の聴聞会のプロセスが進行中である間、以下の暫定閣僚を任命しています:
覚書は、現時点で新たな追加関税の負荷などの具体的な措置についてまでは記載していません。一方、覚書の署名に伴う記者会見で、トランプ大統領は、2月1日からメキシコとカナダに対する関税を開始する可能性に言及しています4。これらの将来的に予想される追加関税の影響を緩和するためには戦略的計画が不可欠であり、米国へ輸入を行う企業は以下の点について考慮することが必要です:
巻末注
EY税理士法人
大平 洋一 パートナー
福井 剛次郎 シニアマネージャー
※所属・役職は記事公開当時のものです
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