米国次期大統領がカナダ・メキシコに対する関税、中国に対する追加関税について議論

  • 米国次期大統領のドナルド・トランプ(トランプ氏)は、メキシコおよびカナダからの全製品に25%の関税を課す意向をソーシャルメディアに投稿しました。
  • トランプ氏は現在、適用されている関税に加えて、中国製品に追加で10%の関税を課す計画についても議論していることが明らかになりました。

エグゼクティブサマリー

米国次期大統領のトランプ氏は、TRUTH social(トランプ・メディア&テクノロジー・グループが所有するソーシャルメディアプラットフォーム)に、就任最初の大統領令として、メキシコとカナダから輸入される全製品に25%の関税を課すと公表しました。1 トランプ氏は、両国が薬物と不法移民の対策を強化するまで、これらの関税を維持すると付け加えています。2

トランプ氏は、同時に中国に対して、メキシコ国境から米国に流入する薬物の問題に対して、より強固な対応が確認できるまで中国に対する既存の追加関税に、さらに10%上乗せして課税することについても議論していることを明かしました。3

米国への輸入品に対する可能性のある関税

2024年11月8日、トランプ氏は米国の大統領選挙を制し、2025年1月20日に米国の第47代大統領に正式に就任します。

選挙運動中には、トランプ氏は米国に輸入される全ての商品に少なくとも10%の関税、中国やメキシコのような国々に対しては追加関税を課すことを表明していました。4 しかし、当選後に、特定の関税政策についてトランプ氏が発言するのはこれが初めてのことです。

ほとんどの中国製の貨物は、すでに1974年貿易法の第301条(301条)を根拠とした追加関税の対象となっています。これらの中国製品に対する追加関税は、米国が不公正な貿易慣行と国内産業の保護に焦点を当てた通商政策の一環として実施される措置です。特筆すべきは、301条を根拠とした中国からの輸入品に対する追加関税の課税については、米国通商代表部(USTR)に対して訴訟が提起されていることにあります。原告は、USTRがその権限を超えて関税を課しており、適切な手続きを踏んでいないと主張しています。特別関税からの救済を求める訴訟の中で、米国連邦巡回控訴裁判所は2025年1月8日に口頭弁論を予定しています。

さらに、カナダ・メキシコとのパートナーシップが大きな難局に直面していることはすでに知られています。トランプ氏は最初の大統領任期中に米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に署名しました。一方で、USMCAには「最後の審判時計(doomsday clock)」メカニズムを含んだサンセット条項があり、6年ごとに協定の延長に関するレビューを義務付けており、延長が合意されない場合には、その有効期限まで毎年レビューが継続するとしています。2024年の選挙運動においては、トランプ氏は6年ごとの再交渉条項に沿った交渉に取り組む意向を表明していました。5

米国の行政府は、国家安全保障または経済的損害を根拠にした、関税率の変更および貿易救済措置の発動を可能とする権限を持っています。これには、1962年貿易拡大法第232条、1974年貿易法第201条・第301条、国際緊急経済権限法(IEEPA)といった法律が挙げられます。以前、議会は貿易政策に関する自らの権限を再確立する立法の導入を試みましたが、現在は議会が通商関税に関連する大統領の権限を大きく後退させる動きを取ることは考えにくい状況にあります。その結果、トランプ氏は重要な通商関税政策を実施するための広範な権限を持ち続ける可能性が高いです。

次期大統領のトランプ氏がメキシコ・カナダ・中国からの輸入品に対する関税をソーシャルメディアで投稿したことは、彼の選挙公約と一致しており、米国の輸入業者にとって大きな財政的影響を及ぼす可能性があります。

企業における対応

2025年1月20日以降、中国からの輸入品に対する関税が10%増加し、メキシコおよびカナダからの輸入品に対する関税が25%増加することが予想されますが、何も対策を講じなければ、米国の輸入業者は大幅に高い関税に直面することになり、これらの追加関税を軽減するための戦略的計画が不可欠となります。米国に製品を輸入する企業が早急に検討すべきアクションとして、以下が挙げられます。

  • 可能な限り、2025年1月20日以前に関税の影響を受ける国からの追加の製品輸入と在庫積み増しを検討する。追加の在庫コスト、移転価格および直接コストの影響、製品の制約条件(例:生鮮食品における鮮度)およびキャッシュフローへの影響に注意を要する。
  • 商流・物流を含むサプライチェーンの特定およびそれぞれの関税支払額を分析し、予想される新しい政策シナリオに対する潜在的な関税を含むコストへの影響を評価する。
  • 現在の代替となる調達オプション(例:中国、カナダ、メキシコ以外)について評価し、関税の影響軽減を念頭においた製造拠点プランニングを行う。
  • 関税の影響を軽減するために、輸入貨物の取引価格における関連コスト・非関連コストのセパレーションおよびファーストセールの活用などの関税評価プランニングを検討する。
  • 移転価格ポリシーと税関評価の整合性を検討する。米国の税制改革により、企業は知的財産(IP)を米国に移転する傾向にあるが、米国にIPがある場合、直接輸入モデルでは課税価格が低減できる。また、課税価格には、特定の設計および開発コストを加える必要があるが、米国の研究開発(R&D)関連費用は除外することができる。米国でのR&Dが多い企業にとって、課税価格削減の効果が大きくなることがある。
  • 輸出時に、米国の関税還付制度(Duty Drawback)を利用してサプライチェーンを最適化することで、同種・類似の製品に対して支払った関税を回収する。
  • 通商政策の変更に伴うあらゆる結果を予測するため、シナリオプランニングを実施し、ビジネスの継続性を確保するための非常時行動計画を策定する。
  • 最新のニュースと貿易政策の動向に注意を払い、貿易規制と関税率の変更に迅速に対応できるように柔軟性を持つ。フリー・トレード・ゾーンにどのような影響を与えるかについても注視する必要がある。

 

巻末注

  1. Reuters. (2024, November 25). "Trump promises 25% tariff on products from Mexico, Canada in 2024."
  2. 同上
  3. 同上
  4. Reuters. (2024 November 4). "Trump's tariffs would reorder trade flows, raise costs, draw retaliation."
  5. The Wall Street Journal. (2024, November 4). "Trump's trade threat to Mexico."

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EY税理士法人
大平 洋一 パートナー
福井 剛次郎 シニアマネージャー

※所属・役職は記事公開当時のものです


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