これだけは知っておきたい!管理入門 第4回 固定資産管理

公認会計士 福山 伊吹

5回にわたり、「これだけは知っておきたい!管理入門」シリーズを掲載しています。このシリーズでは、皆さんが会社を経営していくに当たって、日々、直面されるような身近な管理上の問題を取り上げて、どんな解決方法があるのかについて、ご紹介していきます。

  • 第1回 資金管理
  • 第2回 売掛金管理
  • 第3回 在庫管理
  • 第4回 固定資産管理
  • 第5回 経費の管理

このシリーズに登場するWWN社は、こんな会社です。

  • 業種: 女性向け衣料の製造・販売
  • 拠点: 本社のほか、店舗2カ所、工場1カ所
  • 社員: ひろ子社長のほか、社員は30人

それでは、第4回「固定資産管理」の中身に入っていきましょう!


1. 固定資産管理についてのケーススタディー

WWN社のある日の出来事

WWN社は銀座の直営店とO百貨店の2店舗で製品を販売しており、女性向け衣料を製造する自社の工場を持っています。

WWN社の決算に当たって、経理担当社員のみゆきさんは工場の固定資産の現物実査をすることになりました。固定資産台帳(固定資産の種類、区分別の台帳)をもとに、工場の機械装置や備品などを一つ一つチェックしていきました。ところが、下記のような不整合がいくつか出てきました。

  1. 固定資産台帳には載っているのに、現物(備品)が見当たらない。
  2. 現物(機械装置)はあるのに、固定資産台帳には記載がない。

みゆきさんは経理担当取締役のとおるさんに報告し、さらに、ひろ子社長にも報告しました。

とおるさん:「ひろ子社長、工場の現物実査をしたところ、備品と機械装置で固定資産台帳と合わないものがありました。原因を調査します。」

ひろ子社長:「それは、おかしいわね。固定資産は購入した時に固定資産台帳に資産ごとに設置場所や番号を入れておいて、毎年の決算日に現物実査をして確認しているはずだけど・・・。」

とおるさんがみゆきさんとともに原因を詳しく調べてみたところ、以下のような事実が判明しました。

  1. 備品
    備品を購入した時に、工場の固定資産として固定資産台帳に登録していましたが、工場の特定の場所に置いてあった一部の備品については現物実査の対象としていませんでした。また、その後、工場から銀座の直営店に資産を移動し、事務用の備品として使用しているのに、固定資産台帳にはそれが反映されていませんでした。
  2. 機械装置
    経理部では、機械を新式のものに入れ替えた際には旧式の機械は処分をすると工場長から聞いていたので、工場からの除却(処分)申請書が提出されていないのに、経理部門で先に固定資産台帳から当該機械を削除していました。しかし、実際には旧式の機械は処分されていませんでした。

皆さんの会社では、こんなことはありませんか?


それではどうしたらいいの?
  • 固定資産は管理ルール(固定資産管理規程など)に基づいて、適切に管理を行う必要があります。管理ルールがない、もしくは不十分な場合、また、ルールがあっても、実際にそれに従った日常の管理が行われていない場合、固定資産台帳と現物に差異が発生してしまう可能性があります。
  • 固定資産台帳と現物との照合(現物実査)は定期的に行う必要があります。
  • 固定資産が老朽化して、今後は使用しない、または、新しい資産に切り替える際、古い資産を処分することがあります。この場合、処分申請の稟議書などに基づいて固定資産を処分し、固定資産台帳から削除する必要があります。
  • 固定資産を帳簿上、処分したものの、実際にはまだ使用中の現物の資産が存在している場合、固定資産税の納付が必要となったり、会計上、計上した固定資産の除却損が税務上の費用(損金)と認められないリスクがあったりするので、留意が必要です。

WWN社の対応策

→WWN社では、固定資産の日常の管理につき、検収、移動・処分処理も含めた固定資産管理規程などを見直し、それに従って業務を行うこととしました。

→WWN社では、経理部と各部門とが連携を取り合って、少なくとも1年に1回は固定資産の現物実査の実施を徹底することとし、その結果を本社の経理部に漏れなく報告することにしました。

→WWN社では、本社および工場、各店舗からの固定資産の現物実査結果をみゆきさんが取りまとめ、とおるさんが確認の上、その結果をひろ子社長に報告することにしました。


2. 固定資産の特徴とリスク

固定資産は金額的に多額となることが多く、使用期間も長期にわたるため、購入・処分時期や維持管理を誤ると、大きな処理誤りが継続的に発生したり、損害が生じてしまったりする場合があります。

3. 固定資産管理のポイント

今回、取り上げたケーススタディー以外にも、固定資産管理のポイントはいろいろあります。皆さんの会社では、どのくらい管理体制が整っているか、ぜひ一度チェックしてみてください。

項目

内容

設備投資計画

 

承認
  • 損益計画、資金計画に基づいて作成し、取締役会等の承認を得る。

 

残高管理
  • 予算と実績比較管理、投下資本の回収状況を確認する。
現物管理

 

職務分掌
  • 見積、稟議、発注、納品・検収、固定資産台帳入力、現物管理の担当を分離する。

 


 

発注
  • 相見積もりの取得の実施、購入金額・支払条件について職務権限規程に基づく承認を得る。

 


 

検収
  • 品質、性能等の検査、試運転など、所要の手続きを適時に行う。

  • 発注した内容と一致しているか、発注書と納品書および現物との照合を行う。

 


 

台帳登録
  • 固定資産台帳に登録をする際、「ΟΟΟΟ一式」で登録するのではなく、固定資産の区分別に台帳へ登録し、定期的に現物と照合す。



管理番号付与
  • 現物との照合ができるように個々の資産に固定資産管理番号をシールなどにより添付る。

 

実査
  • 定期的な現物実査(現物の稼働・維持管理状況含む)による現品チェックを行う。

 

付保
  • 資産保全のために保険の範囲を検討する。

 

維持修繕
  • 修繕と買い替えの場合のコストを比較する。
会計・税務対応

 

制度理解
  • 固定資産の減損会計基準、リース取引の会計基準、資産除去債務の会計基準を理解する。

  • 法人税、償却資産税などの固定資産に係る税務制度を理解する。

処理選択
  • 上記の制度理解に基づき、会計・税務上の処理方法を選択する。

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