これだけは知っておきたい!管理入門 第5回(最終回) 経費の管理

公認会計士 福山 伊吹

5回にわたり、「これだけは知っておきたい!管理入門」シリーズを掲載しています。このシリーズでは、皆さんが会社を経営していくに当たって、日々、直面されるような身近な管理上の問題を取り上げて、どんな解決方法があるのかについて、ご紹介していきます。今回は最終回の経費の管理についてです。

  • 第1回 資金管理
  • 第2回 売掛金管理
  • 第3回 在庫管理
  • 第4回 固定資産管理
  • 第5回 経費の管理

このシリーズに登場するWWN社は、こんな会社です。

  • 業種: 女性向け衣料の製造・販売
  • 拠点: 本社のほか、店舗2カ所、工場1カ所
  • 社員: ひろ子社長のほか、社員は30人

それでは、第5回「経費の管理」の中身に入っていきましょう!


1. 経費の管理についてのケーススタディー

WWN社のある日の出来事

WWN社は銀座の直営店とO百貨店の2店舗で製品を販売しており、女性向け衣料を製造する自社の工場を持っています。
WWN社の経理担当社員のみゆきさんは、期末の決算作業の一環で、当期経費の発生額を前期の発生額と比較する分析資料を作成しました。そこで、旅費交通費が前期と比べて2倍に増加していることに気付きました。
経理担当取締役のとおるさんに相談し、原因を調べたところ、WWN社では、販売部門の担当課長B氏が期末日近くに退職したのですが、B氏が在職中に出張旅費として、架空に会社に旅費交通費を請求していたことが分かりました。B氏は直営店の顧客と百貨店の販路を増やすため、ここ1~2年は地方の百貨店へ営業のための出張に行っていましたが、実際には当期の出張経費の中に、実際に出張していない日も出張したとして旅費の申請をしていたものが多数含まれていたのです。
B氏は出張のために立て替えた旅費は、WWN社の所定書類の「立替支払精算書」に出張の日程、目的、金額などの必要な事項を記載して提出していました。勤務状況を示す勤怠表にも同じ期間に出張している記載をして、提出者と承認者の押印個所の両方にB氏自身が押印の上、申請を行っていました。WWN社では、管理職の出張申請と旅費の立替払いの支払承認は、管理職自身の承認で、経理部に回すことになっていました。


皆さんの会社では、このようなことは起こらないようにしたいですね。


それではどうしたらいいの?

上記のケーススタディーは、カラ出張による旅費の請求のケースでしたが、実際には発生していない経費を計上する場合として、

  • 旅費を実際の発生額より多く請求する。
  • 経費に係る領収書の金額を改ざんして水増し請求する。

などがあります。
これらを防止するには、立替払いを申請する起票者と、それをチェックする承認者を分け、管理職自身が精算請求を行った場合には、精算書をチェックする部長や役員などの上席者を設けるなど、職務分掌を行うことが有効と考えられます。
また、領収書の領収日、金額、使用頻度に異常がないか、筆跡に不審な点はないかなどを、きちんとチェックすることが必要です。領収書の発行先が特定の相手に偏っていないか、手書きの領収書が多くないかなどをチェックすることも有用です。
その他、従業員の勤怠管理の徹底、出張や接待交際費を支出する従業員個人別の予算管理を行う、従業員のモラルやコンプライアンスの意識を高める教育を行うことが求められます。


WWN社の対応策

→WWN社では、旅費・交際費等の経費の管理につき、申請方法、承認手続、支払処理までを見直しました。管理職であっても、部長もしくは役員などの上長の承認を必要とすることにしました。また、出張の多い従業員は上長が勤務状況もきちんと管理をするように指示を行いました。

→WWN社では、経費の予算管理と増減分析を月次ベースで行い、異常な増減額や異常な増減率が出ている場合は担当者が原因を確認して上司へ報告することにしました。


2. 経費の特徴とリスク

経費は不正だけでなく処理誤りも含め、1件当たりの金額的は少額のものが多いと思われますが、累積すると多額となります。よって、会社にとって発見が遅れると多額の損害が生じてしまう場合があります。

3. 経費の管理のポイント

今回取り上げたケーススタディー以外にも、経費の管理のポイントはいろいろあります。皆さんの会社では、どのくらい管理体制が整っているか、ぜひ一度チェックしてみてください。

項目内容
経費
事前承認
  •    支出が一定の金額以上となる場合には、事前の稟議の起案および承認が必要な体制となっている。

 
予算管理
  •    経費の費目別や部署別の予算管理を実施し、実績と予算とのかい離がある場合は原因を把握する。

 
内部統制
  • 伝票の起票者、入力者、チェック者、承認者などの職務分掌が整っている。
  • 上席者の起票、申請についても別の承認者がチェックする体制を構築する。
経費の申請書類のチェック
  • 経費を申請する書類(経費申請書)に添付されている領収書が市販の領収書である場合、領収書が発行元の正規の領収書であるかを確かめる(例えば、過去の領収書と整合しているか、領収印が過去の領収書の印影と同一のものか、領収印が個人印でないかなど)。

  • 経費を申請する書類(経費申請書)に添付されている領収書が手書きの領収書の場合、金額や内容、日付に異常がないかを確かめる(例えば、手書きの場合、加筆した跡がないか、色や太さが異なっていないか、数値や文字が不揃いな並びになっていないかなど)。

  •  経費申請に添付されている領収書の内容と、その日の業務内容や業務を行った場所が一致しているかを確かめる。

上記以外にも、定期的な人事異動やローテーションを行ったり、連続した営業日の休暇を取得したりすることを制度化することも、経費の支出に関する不正をけん制する機能が期待できます。


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