これだけは知っておきたい!管理入門 第2回 売掛金管理

公認会計士 芦田 千晶

前回から5回にわたり、「これだけは知っておきたい!管理入門」シリーズを掲載しています。このシリーズでは、皆さんが会社を経営していくに当たって、日々、直面されるような身近な管理上の問題を取り上げて、どんな解決方法があるのかについて、ご紹介していきます。

  • 第1回 資金管理
  • 第2回 売掛金管理
  • 第3回 在庫管理
  • 第4回 固定資産管理
  • 第5回 経費の管理



このシリーズに登場するWWN社は、こんな会社です。

  • 業種: 女性向け衣料の製造・販売
  • 拠点: 本社のほか、店舗2カ所、工場1カ所
  • 社員: ひろ子社長のほか、社員は30人

それでは、第2回「売掛金管理」の中身に入っていきましょう!


1. 売掛金管理についてのケーススタディー

WWN社のある日の出来事

WWN社の常設店舗は銀座の直営店とO百貨店の2店舗ですが、期間限定で他の百貨店にも出店しています。売掛金の入金があった時には、WWN社の本社において資金担当社員のみゆきさんが入金伝票を起票しています。

2月決算のWWN社で決算作業を進めていた3月後半のある日のこと。経理担当取締役のとおるさんからひろ子社長に連絡が入りました。

とおるさん:「ひろ子社長、決算数値を見ていたところ、2月の売上5百万円に対して2月末の売掛金残高が8百万円あります! 3百万円多くて変ですね。原因を調査します。」

ひろ子社長:「えっ!・・・どうして? 毎月の入金は、みゆきさんがちゃんと管理しているはずよね?」

WWN社の売掛金は、当月分が翌月5日に入金になるため、2月末の売掛金残高は、2月の売上高と一致するはずですが、なぜか3百万円多くなっていました。

とおるさんが、みゆきさんのほかに営業担当社員のよし子さんを加えて詳しく調べてみたところ、8百万円の売掛金には、常設のO百貨店に対する2月の売上5百万円のほか、昨年4月と10月にM百貨店とT百貨店に期間限定で出店した際に生じた売掛金の一部が、いまだに回収されずに残っていることが判明しました。


皆さんの会社では、こんなことはありませんか?


それではどうしたらいいの?
  • 売掛金の入金があった場合には、まず先方の支払通知等を検証するなどして、相手先ごとの入金額が対応する売上計上額と整合しているかを確認した後、売掛金の入金処理を個別に行う必要があります。
  • 毎月の売掛金の動きを検証するだけではなく、とおるさんのように売掛金の残高の内容を検証することで、見過ごされていた過去の間違いを発見することができます。今回のケースのように、入金されるべき金額が、長期間にわたって入金されずに残って滞留しているような場合も、早期に発見して、得意先に連絡し、入金を促すといった対応が必要です。さらに、残高の検証を、より的確に行う方法として、決算期末などに得意先に残高確認状を送付する方法も考えられます。
  • 毎月の入金額および残高の検証、決算期末の残高確認状の回答額の検証により、想定していた金額と実際の金額に差異がある場合には、原因を調査して必要な会計処理をしなければなりません。経理・資金・営業の各部門が連携して情報を共有し、迅速に対応することが望まれます。

WWN社の対応策

→WWN社では、資金担当のみゆきさんが、毎月入金があった時に請求額と入金額を照合し、金額に差異が生じていた場合には、上司のとおるさんと営業のよし子さんに報告することにしました。

→WWN社では、みゆきさんが毎月末に相手先別の売掛金残高明細を作成し、上司のとおるさんに報告することにしました。

→WWN社では、とおるさんがみゆきさんからの報告をもとに営業のよし子さんと連携して売掛金残高を検証し、結果をひろ子社長に報告することにしました。


2. 売掛金の特徴とリスク

販売活動は企業の存続と発展を左右する最も重要な活動であり、経営戦略の頂に立つといわれています。売上計上の後、一定期間をおいて入金される場合、売掛金という債権が発生することになります。
いくら売上高を伸ばしても代金を回収できなければ、会社は資金繰りが悪化し倒産の可能性も生じるので、売掛金の回収までを含めて販売活動と認識し、債権管理の重要性に目を向けなければなりません。

3. 売掛金管理のポイント

今回取り上げたケーススタディー以外にも、売掛金管理のポイントはたくさんあります。
皆さんの会社では、どのくらい管理体制が整っているか、ぜひ一度チェックしてみてください。

項目

内容

与信管理

  • 顧客の支払能力を評価し、円滑な債権回収を行うため、与信限度枠を設定し、適切な承認を得て取引を行う。

受注・販売管理

  • 数量・価格・品質・納期などで対応困難な注文を引き受けてしまうリスクを回避するため、受注内容について事前に適切な承認を得る必要がある。
  • 会計処理(売上計上)の適正性を客観的に裏付けるため、また得意先との間に生じたクレームやトラブルに対応するため、売上伝票・出荷指示書・納品書・受領書などの販売関連の証憑を網羅的に入手し保管しておく。
  • 売上戻り、値引き、割戻などの売上マイナス取引について社内承認方法と会計処理の方針を明確化しておき、内容が不明確なリベートや、誤った会計処理を防止する。

回収管理

  • 不明残高やマイナス残高の発生を防止するため、売掛金の入金時の確認・管理体制を整備する。
  • 債権の滞留状況を把握し、得意先との違算発生によるトラブルを防止するため、また必要な会計処理を行うため、債権を発生日ごとに管理する売掛金年齢表を作成する。または、得意先に対して書面による残高確認を行う。

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