金融商品 第7回:デリバティブ取引、債権の評価(貸倒引当金)、その他

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 山岸聡
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 湯本純久
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 中村崇
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 水野貴允

19.デリバティブ取引の特徴と会計処理

(1) デリバティブ取引の特徴

デリバティブとは、以下のような特徴を有する金融商品です(実務指針第6項)。

①その権利義務の価値が、特定の金利、有価証券価格、現物商品価格、外国為替相場、各種の価格・率の指数、信用格付け・信用指数又は類似の変数(基礎数値と呼ばれる)の変化に反応して変化する基礎数値を有し、かつ、想定元本か固定もしくは決定可能な決済金額のいずれか又は想定元本と決済金額の両方を有する契約です。

②当初純投資が不要であるか、又は市況の変動に類似の反応を示すその他の契約と比べ当初純投資をほとんど必要としません。

③その契約条項により純額(差金)決済を要求もしくは容認し、契約外の手段で純額決済が容易にでき、又は資産の引き渡しを定めていてもその受取人を純額決済と実質的に異ならない状態に置きます。

(2) デリバティブの会計処理

金融商品会計基準では、デリバティブ取引により生じる正味の債権及び債務は、原則として時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額はヘッジに係るものを除き当期の損益として処理することとされています(実務指針第101項)。
会計処理は、以下のようになります。

表

①上場デリバティブ取引の時価評価
取引所に上場しているデリバティブ取引により生じる債権及び債務は、貸借対照表日における当該取引所の最終価格(終値、終値がなければ気配値(公表された売り気配の最安値又は買い気配の最高値、それらがともに公表されている場合にはそれらの仲値))を用いて時価評価します。同日において最終価格がない場合には同日前直近における最終価格を用います。また、委託手数料等取引に付随して発生する費用は時価に加味しません(実務指針第101項)。

②非上場デリバティブ取引の時価評価
取引所の相場がない非上場デリバティブ取引の時価は、市場価格に準ずるものとして合理的に算定された価額が得られればその価額とします。合理的に算定された価額は、一般に、下記のいずれかの方法を用いて算定します(実務指針第102項)。

<合理的に算定された価額>

算定方法

詳細

(i)インターバンク市場、ディーラー間市場、電子売買取引等の随時決済・換金ができる取引システムでの気配値による方法

取引所以外でも、いわゆる流通市場ないしセカンダリーマーケットでデリバティブ取引の気配値を入手できる場合があります。複数の市場で気配値を入手できるデリバティブ取引については、会社が通常使用する市場又はより活発な市場での価格を使用します。保有しているデリバティブ取引そのものに気配値がない場合でも、類似するデリバティブ取引に気配値がある場合には、当該気配値に契約上の差異等を調整して、時価を見積もります。

(ii)割引現在価値による方法

類似する取引に気配値のないデリバティブ取引については、将来キャッシュ・フローを見積もり、それを適切な市場利子率で割り引くことにより現在価値を算定します。
将来キャッシュ・フローの見積りは、一般に、契約上の諸条件を将来の各期間に展開し、信用リスク等のリスクを加味することによって行います。一方、適切な市場利子率は、一般に、短期の利子率については先物市場の相場又は銀行間短期資金貸借の気配値を参考にし、また、長期の利子率については金利スワップの気配値等を参考にして各将来時点の市場利子率を算定し、各将来時点を補間することによりイールドカーブを描いて見積もります。なお、信用リスク等のリスクを将来キャッシュ・フローに反映されることができる場合には、市場利子率はリスク・フリーに近いものを使用します。他方、リスクを将来キャッシュ・フローに反映させることが実務的に困難な場合には、市場利子率をリスク要因で補正します。

(iii)オプション価格モデルによる方法

オプション取引については、ブラック・ショールズ・モデル等のオプション価格モデルを用いて時価を算定します。

時価は原則として自ら算定すべきですが、取引相手の金融機関やブローカー等から入手した価格を自らの責任で使用することができます。

③時価のないデリバティブ取引の会計処理
非上場デリバティブ取引の時価評価に当たっては最善の見積額を使用しますが、取引慣行が成熟していないため内容が定まっていない一部のクレジット・デリバティブ、ウェザー・デリバティブ等で公正な評価額を算定することが極めて困難と認められるデリバティブ取引については、取得価額をもって貸借対照表価額とします(実務指針第104項)。

【時価の算定に関する会計基準の適用に伴う改正】

2021年4月1日以降開始する連結会計年度及び事業年度の期首より時価算定会計基準が適用となり、デリバティブ取引の時価評価に関する項目は削除されました。2021年4月以降開始する連結会計年度及び事業年度の期首以降、時価算定会計基準に従って時価を算定することとなります。


20.債権の評価と貸倒見積法

債権の評価は、その債権の貸倒見積高を合理的に見積もり、それを貸倒引当金として設定することにより適正に行う必要があります。金融商品会計基準は、債務者の経営状態に応じて適切に債権の区分を行い、その債権区分に従って貸倒引当金の計上を行うという考え方を採用しています。

(1) 債権ごとの貸倒見積高の算定方法

受取手形、売掛金、貸付金その他の債権の貸借対照表価額は、取得価額から貸倒見積高に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とするとされています。ただし、債権を債権金額より低い価額又は高い価額で取得した場合において、取得価額と債権金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、償却原価法に基づいて算定された価額から貸倒見積高に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額としなければなりません(金融商品会計基準第14項)。また、貸倒見積高の算定方法については、下記の表のとおり一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権等に区分に応じた方法が示されています(金融商品会計基準第27項、28項、実務指針第113項)。

<貸倒見積高の算定方法>

区分

定義

算定方法

一般債権

経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権

過去の貸倒実績率等合理的な基準

貸倒懸念債権

経営破綻の状況には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権

「財務内容評価法」
担保又は保証が付されている債権について、債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額について債務者の財政状態及び経営成績を考慮して貸倒見積高を算定する方法
「キャッシュ・フロー見積法」
債権の元本の回収及び利息の受取に係るキャッシュ・フローを合理的に見積もることができる債権について、債権の発生又は取得当初における将来キャッシュ・フローと債権の帳簿価額との差額が一定率となるような割引率を算出し、債権の元本及び利息について、元本の回収及び利息の受取が見込まれるときから当期末までの期間にわたり、債権の発生又は取得当初の割引率で割り引いた現在価値の総額と債権の帳簿価額との差額を貸倒見積高とする方法

破産更生債権等

経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権

「財務内容評価法」
債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額を貸倒見積高とする方法

一般事業会社においては、すべての債務者について、業況の把握及び財務内容に関する情報の入手を行うことは困難であることが多いことから、債権の計上月(売掛金等の場合)又は弁済期限(貸付金等の場合)からの経過期間に応じて債権区分を行うなどの簡便な方法も認められています(実務指針第107項)。
一般債権は、債権全体又は同種・同類の債権ごとに、債権の状況に応じて求めた過去の貸倒実績率等合理的な基準により、貸倒見積高を算定します。貸倒懸念債権については、財務内容評価法又はキャッシュ・フロー見積法のいずれかによって貸倒見積高を算定します。担保処分により債権を回収する場合は財務内容評価法を採用し、債務者の収益により債権を回収する場合はキャッシュ・フロー見積法を選択することが考えられます(金融商品会計基準第28項)。

貸倒実績率法に基づく貸倒見積高の算定

一般債権について、債権全体又は同種・同類の債権ごとに貸倒見積高を算定します。債権を同種・同類の債権に区分する場合、同種とは売掛金・受取手形・貸付金・未収金等の別における同一のものをいい、また、同類とは同種よりもより大きな区分、すなわち、営業債権と営業外債権の別における同一のもののほか、短期と長期の期間別区分をいいます。
債権の状況に応じて求めた過去の貸倒実績率とは、一般債権においても個々の債権が有する信用リスクの程度には差があるため、与信管理目的で債務者の財政状態・経営成績等に基づいて債権の信用リスクのランク付け(内部格付)が行われている場合に、当該信用リスクのランクごとに区分して過去の実績から算出した貸倒実績率をいいます。
貸倒実績率は、ある期における債権残高を分母とし、翌期以降における貸倒損失額を分子として算定しますが、貸倒損失の過去のデータから貸倒実績率を算定する期間は、一般には、債権の平均回収期間が妥当です。ただし、当該期間が1年を下回る場合には、1年とします。なお、当期末に保有する債権について適用する貸倒実績率を算定するに当たっては、当期を最終年度とする算定期間を含むそれ以前の2~3算定期間に係る貸倒実績率の平均値を使用します(実務指針第110項)。一般債権について実績率を算定している設例について以下に示します。

設例 一般債権の貸倒実績率法に基づく貸倒見積高の算定

<前提条件>
T-5期からT期までの債権の発生、回収及び貸倒損失に関するデータは以下のとおりです。

T-5期

T-4期

T-3期

T-2期

T-1期

T期

当初元本
損失累計

元本期末残高
貸倒損失

6,000

4,500
35

2,500
30

0
15

6,000
80

元本期末残高
貸倒損失

2,000

1,400

600
20

0
15

2,000
35

元本期末残高
貸倒損失

2,500

1,500

700
15

0
10

2,500
25

元本期末残高
貸倒損失

3,200

2,200

1,000
30

3,200
30

元本期末残高
貸倒損失

2,500

1,800

2,500

元本期末残高
貸倒損失

3,000

3,000

元本期末残高合計
貸倒損失合計

6,000
0

6,500
35

6,400
30

5,300
35

5,400
30

5,800
40

<会計処理>

①発生年度ごとの貸倒実績率の平均値による方法

この方法では、当期末に残高のある債権の基準年度元本残高に、当期に適用する貸倒実績率を乗じて貸倒損失総発生額を見積もり、そこから当期発生額を控除して貸倒引当金計上額を算定します。基準となる各算定期間に係る貸倒実績率を算定します。

  • T-5期を基準年度とする貸倒実績率=80÷6,000=1.33%

  • T-4期を基準年度とする貸倒実績率=35÷2,000=1.75%

  • T-3期を基準年度とする貸倒実績率=25÷2,500=1.0%

上記の3算定期間に係る貸倒実績率の平均値を計算して、T期の貸倒見積高の算定に適用する貸倒実績率を算定します。

(1.33+1.75+1.0)÷3=1.36%

対象債権金額に貸倒実績率を乗じて当期の貸倒引当金計上額を算定すると以下のようになります。

(3,200+2,500+3,000)×1.36%-30=88.32

①発生年度ごとの貸倒実績率の平均値による方法

②合計残高ごとの貸倒実績率の平均による方法

この方法では、当期末に残高のある債権の合計期末残高に、当期に適用する貸倒実績率を乗じて貸倒損失総発生額を見積もり、貸倒引当金計上額を算定します。基準となる各算定期間に係る貸倒実績率を算定します。

  • T-5期を基準年度とする貸倒実績率=(35+30+35)÷6,000=1.66%

  • T-4期を基準年度とする貸倒実績率=(30+35+30)÷6,500=1.46%

  • T-3期を基準年度とする貸倒実績率=(35+30+40)÷6,400=1.64%

上記の3算定期間に係る貸倒実績率の平均値を計算して、T期の貸倒見積高の算定に適用する貸倒実績率を算定します。

(1.66+1.46+1.64)÷3=1.58%

当期の貸倒引当金計上額を算定します。

5,800×1.58%=91.64

②合計残高ごとの貸倒実績率の平均による方法

(2) 財務内容評価法

破産更生債権等について財務内容評価法を適用する場合は、債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額を貸倒見積高とします。他方、貸倒懸念債権について財務内容評価法を適用する場合は、担保又は保証が付されている債権について、債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額について債務者の財政状態及び経営成績を考慮して貸倒見積高を算定します。そのため、貸倒懸念債権について財務内容評価法を採用する場合には、債務者の支払能力を総合的に判断する必要があります。債務者の支払能力は、債務者の経営状態、債務超過の程度、延滞の期間、事業活動の状況、銀行等金融機関及び親会社の支援状況、再建計画の実現可能性、今後の収益及び資金繰りの見通し、その他債権回収に関係のある一切の定量的・定性的要因を考慮することにより判断されます。ただし、一般事業会社においては、債務者の支払能力を判断する資料を入手することが困難な場合もあるため、貸倒懸念債権と初めて認定した期には、担保の処分見込額及び保証による回収見込額を控除した残額の50%を引き当て、次年度以降において、毎期見直す等の簡便法を採用することも認められます(実務指針第114項)。

(3) キャッシュ・フロー見積法

キャッシュ・フロー見積法を適用する場合は、債権の発生又は取得当初の割引率で割り引いた現在価値の総額と債権の帳簿価額との差額を貸倒見積高とします。なお、債権の元利回収に係る契約上の将来キャッシュ・フローが予定どおり入金されない恐れがあるときは、支払条件の緩和が行われていれば、それに基づく将来キャッシュ・フローを用い、それが行われていなければ、回収可能性の判断に基づき入金可能な時期と金額を反映した将来キャッシュ・フローの見積もりを行った上で、それを債権の発生当初の約定利子率又は取得当初の実効利子率で割り引きます(実務指針第115項)。
 

21.その他金融商品の会計処理

(1) ゴルフ会員権

施設利用権を化体した株式及び預託保証金であるゴルフ会員権等は、取得価額をもって計上します。それらに市場価格があるものについて著しい市場価格の下落が生じた場合、又は市場価格がないものについて当該株式の発行会社の財政状態が著しく悪化した場合には有価証券に準じて減損処理を行います。また、預託保証金の回収可能性に疑義が生じた場合には債権の評価勘定として貸倒引当金を設定します(実務指針第135項)。

(2) 商品ファンド

商品ファンドの設定形態には、信託型、匿名組合型、パートナーシップ型及び任意組合型がありますが、投資家の運用目的は同一なので、商品ファンドへの投資について短期運用目的のものは売買目的有価証券として、中長期の運用目的のものはその他有価証券として会計処理します。また、他ファンド収益連動型についても同様の処理を行います。
なお、商品ファンドの構成資産が金融資産に該当する場合には金融商品会計基準に従って評価し、商品ファンドの保有者における会計処理の基礎とします(実務指針第134項)。

(3) 任意組合、匿名組合、パートナーシップ、リミテッド・パートナーシップ等への出資金

商品ファンドへの投資を除き、任意組合すなわち民法上の組合、匿名組合、パートナーシップ、及びリミテッド・パートナーシップ等(以下、組合等)への出資については、原則として、組合等の財産の持分相当額を出資金(金融商品取引法第2条第2項により有価証券と見なされるものについては有価証券)として計上し、組合等の営業により獲得した損益の持分相当額を当期の損益として計上します。ただし、任意組合、パートナーシップに関し有限責任の特約がある場合にはその範囲で損益を認識します。
なお、組合等の構成資産が金融資産に該当する場合には金融商品会計基準に従って評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とします。例えば、組合の保有するその他有価証券の評価差額金に対する持分相当額は、その他有価証券評価差額金に計上されることになります(実務指針第132項)。

(4)建設協力金等の差入預託保証

将来返還される建設協力金等の差入預託保証金(敷金を除く)に係る当初認識時の時価は、返済期日までのキャッシュ・フローを割り引いた現在価値です。支払額と当該時価との差額は、長期前払家賃として計上し、契約期間にわたって各期の損益に合理的に配分します。また、建設協力金等の差入預託保証金は返済期日に回収されるから、当初時価と返済金額との差額を契約期間にわたって配分し受取利息として計上します。
建設協力金に関して、通常、差入企業は対象となった土地建物に抵当権を設定している場合、現在価値に割り引くための利子率は、原則としてリスク・フリーの利子率(例えば、契約期間と同一の期間の国債の利回り)を使用します。
ただし、返済期日までの期間が短いもの等、その影響額に重要性がないものは、現在価値に割り引かないことができます。
将来返還される差入預託保証金のうち現在価値に割り引かないものは、債権に準じて処理します。差入預託保証金のうち、将来返還されない額は、賃借予定期間にわたり定額法により償却します。預り預託保証金についても、差入預託保証金等と同様に処理します。

敷金は、取得原価で計上します。しかし、賃借契約において明示された返還されない部分は賃借期間にわたって償却し、賃貸人の支払い能力から回収不能と見込まれる金額がある場合には貸倒引当金を設定する必要があります(実務指針第133項)。

(5) 利息の支払時期又は支払額が不規則な貸付金、借入金、社債等

利息の支払時期又は支払額が不規則な貸付金、借入金、社債等については、取得した債権の処理に準じて、元本と利息の合計額の将来キャッシュ・フローの現在価値が取得価額又は調達価額に一致するような割引率(実効利子率)に基づいて、債務者からの入金額又は債権者への支払額を元本と利息とに区分します(実務指針第131項)。

(6) 債務保証

債務保証については、金融資産又は金融負債の消滅の認識の結果生じるものについて、当初に計上する場合を除いて時価評価は行わず、監査・保障実務委員会実務指針第61号「債務保証及び保証類似行為の会計処理及び表示に関する監査上の取扱い」によって処理します。保証料は、受取保証料又は支払保証料として収益又は費用に計上し、期末には発生主義に基づき未収もしくは前受け又は未払もしくは前払いを計上します(実務指針第137項)。


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