金融商品 第5回:金利スワップ・予定取引の会計処理とヘッジ会計の中止・終了

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 山岸聡
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 湯本純久
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 中村崇
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 水野貴允

15.金利スワップ等の特例処理

(1) 特例処理の対象

金融商品会計基準注解14において、「資産又は負債に係る金利の受払条件を変換することを目的として利用されている金利スワップが、金利変換の対象となる資産又は負債とヘッジ会計の要件を充たしており、かつ、その想定元本、利息の受払条件(利率、利息の受払日等)及び契約期間が当該資産又は負債とほぼ同一である場合には、金利スワップを時価評価せず、その金銭の受払の純額等を当該資産又は負債に係る利息に加減して処理することができる」とされています。
本来、デリバティブ取引は原則として時価評価を行い、ヘッジ取引であれば時価ヘッジか、繰延ヘッジ処理を行わなければなりませんが、想定元本と負債額など、ヘッジ会計の要件を充たした上で、利率、利払日、契約期間がほぼ同一である場合は、一体と見なして会計処理を行うことができます。

(2) 特例処理の要件

金融商実務指針第178項において、金利スワップについて特例処理が認められるためには次の条件の全てを満たす必要があるとされています。

  1. 想定元本と対象資産又は負債の一致
    金利スワップの想定元本と対象資産又は負債の元本金額がほぼ同一であることが求められています。
    →「ほぼ同一」とは5%以内の差異であるとの意味です。

  2. 契約期間と満期の一致
    金利スワップとヘッジ対象資産又は負債の契約期間又は満期日がほぼ一致していることが求められています。
    →例えば、5年の金利スワップでは3カ月の差異までほぼ一致と考えてよいことになります(Q&A Q58)。

  3. 基礎となるインデックスの一致
    →例えば、TIBORとLIBORであれば比較的高い相関関係を示すことが多いと考えられますが、プライムレートとTIBOR又はLIBORであると通常はほぼ一致していると判定することはできないものと考えられます(Q&A Q58)。

  4. 金利改定のインターバル及び金利改定日の一致
    →金利取引は3カ月を単位として行われることが比較的多いため、金利改定日及びインターバルの差異は最大でも3カ月以内でなければ、ほぼ一致しているとは言えないと考えられます(Q&A Q58)。

  5. 固定金利、変動金利のインデックスの同一性

  6. ヘッジ手段に期限前解約オプション等が存在する場合にはヘッジ対象の同等の条件を相殺するためのものであること
     

16.予定取引に係るヘッジ

ヘッジ対象には、予定取引により発生が見込まれる資産又は負債も対象となります。予定取引のヘッジによりヘッジ手段に生じた損益又は評価差額は、ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで、繰延ヘッジ損益として繰り延べられます(実務指針第338項)。
予定取引とは、未履行の確定契約に係る取引と、契約は成立していませんが、取引予定時期、取引予定物件、取引予定量、取引予定価格などの主要な取引条件が合理的に予測可能であり、かつ、それが実行される可能性が極めて高い取引のことをいいます(金融商品会計基準注解12)。
予定取引がヘッジ対象となるかどうかについては、以下の点を総合的に吟味する必要があります(実務指針第162項)。

  1. 過去に同様の取引が行われた頻度

  2. 企業が当該予定取引を行う能力(法的、制度的、資金的な能力)の有無

  3. 当該予定取引を行わないことによる不利益の有無

  4. 同等の効果、成果を有する代替的取引がないかどうか

  5. 当該予定取引発生までの期間(おおむね1年以内)の妥当性

  6. 予定取引数量の妥当性

予定取引にヘッジ会計を適用し、計上された繰延ヘッジ損益は、当該取引の実行時に次のように処理されます(実務指針第338項)。

予定取引により損益が直ちに発生する場合
ヘッジ対象である予定取引に係る損益は、予定取引の実行時に認識されるので、繰延ヘッジ損益もその時点で損益認識することになります。

予定取引が資産の取得である場合
ヘッジ対象である予定取引に係る損益は、購入した資産の売上原価、減価償却費などの形で費用化されるので、繰延ヘッジ損益は資産の取得原価に加減算し、当該資産の取得原価が費用計上される期の損益として計上します。

予定取引が社債、借入金等の利付負債を生じるものである場合
発生した利付負債に係る損益は支払利息の形で発生するため、繰延ヘッジ損益を純資産の部に計上し、当該支払利息に対応するように各期の純損益に反映させます。

17.ヘッジ会計の中止と終了

(1) ヘッジ会計の中止と終了

次のケースの場合、ヘッジ会計の適用を中止しなければなりません(実務指針第180項)。

  1. 当該ヘッジ関係がヘッジの有効性の評価基準を満たさなくなった場合

  2. ヘッジ手段が満期、売却、終了、行使のいずれかの事由により消滅した場合

この場合は、ヘッジ対象が引き続き存在しているけれども、ヘッジ会計を適用すべきヘッジ関係が存在しなくなったケースであり、この場合を「ヘッジ会計の中止」と呼びます。
また、ヘッジ対象が消滅した場合、又はヘッジ対象である予定取引が実行されないことが明らかになった場合は、「ヘッジ会計の終了」と呼びます。

(2) ヘッジ会計の中止の会計処理

  1. 企業のヘッジ有効性の評価基準を満たさなくなった場合
    ヘッジが有効であった期間に係る繰延ヘッジ損益は、ヘッジ対象の損益が認識されるまで、繰り延べます。また、ヘッジ有効性が満たされなくなった時点から、ヘッジ手段の損益は、当期の損益として計上します(実務指針第180項)。

  2. ヘッジ手段が満期、売却、終了又は行使のいずれかの事由により消滅した場合
    ヘッジ手段が消滅した場合は、消滅時点まで繰り延べられていたヘッジ手段の損益は、ヘッジ対象の損益が認識されるまで繰り延べます(実務指針第180項)。

(3) ヘッジ会計の終了の会計処理

繰り延べられていたヘッジ手段の損益は、ヘッジ手段の消滅などの時点において全て当期の損益として認識します。また、その後のヘッジ手段の損益も発生時に損益として認識されます(実務指針第181項)。

(4) ヘッジ会計終了時点における損失の見積もり

ヘッジ会計中止後の相場変動等により、ヘッジ対象に係る含み益が減少し、資産として繰り延べていたヘッジに係る損失又は評価差額に対して重要な不足額が生じている場合には、当該不足額のうち、ヘッジ会計適用中止後におけるヘッジ対象の相場変動に相当する部分の金額を損失として当期の損益に計上します(実務指針第182項、183項)。


この記事に関連するテーマ別一覧


金融商品


企業会計ナビ



会計・監査や経営にまつわる最新情報、解説記事などを発信しています。

ey-japan-corporate-accounting-theme-thumbnail