EYが実施した2024年の移転価格動向調査から、企業は新たなリスクの管理に向けて、堅牢な移転価格ポリシーを必要としていることが分かりました。


要点

  • 調査回答者は、第2の柱(Pillar 2)のグローバルミニマム課税(国際最低課税)の発効を受け、実効税率が不安定化することを懸念している。また、インフレと環境・社会・ガバナンス(ESG)問題がこうした状況に拍車をかけている。
  • 税務部門は、係争解決を円滑に進めるため、データの標準化を通じて移転価格の確実性を高め、プロセスを変更することに注力しなければならない。
  • 税務および移転価格の専門家は、経営幹部との連携で経営判断を行い、ビジネス変革の開始時から確実性を高めていく必要がある。


EY Japanの視点

2024年EY移転価格動向調査が日本企業に指し示すもの

経営環境そして規制環境が急変し、その不確実性がますます高まっている中で、本調査結果は移転価格対応のハードルが顕著に上がってきていることを鮮明に表しています。従来、日本企業は一般的に税務、そして移転価格対応部門が自社の経営に積極的に関与し、オペレーションの現場に影響を及ぼすことはまれでしたが、その対応方法を大きく変化させることが急務になってきていると言えます。とりわけ、BEPS第1、第2の柱のプログラムがまさに実施へと移行する今日において、二重課税リスクはこれまでになく高まっており、従来と比べてより精度の高いグローバル移転価格対応や、APAやICAPを通じた積極的な移転価格リスク対応を進めていかなければなりません。そのためにも自社のグローバル移転価格ポリシーを改めて点検し、その実現のための仕組みづくりに注力することが、ますます求められてきています。


EY Japanの窓口

EY税理士法人 国際税務・トランザクションサービス 移転価格アドバイザリー
リーダー、パートナー 谷津 剛
アソシエートパートナー 森 信夫
※所属・役職は記事公開当時のものです

グローバルな税制改革に伴う二重課税への懸念が、移転価格の確実性に関する企業の考え方や移転価格に関わる業務上のニーズを根本的に変えつつあるということが、移転価格の専門家1,000名を対象にEYが実施した2024年の移転価格動向調査から明らかになりました。

回答者の圧倒的多数が、経済協力開発機構(OECD)の「税源浸食と利益移転(BEPS)」で発生する二重課税に対し、中程度または重大なリスクに直面していると述べています。多国籍企業に対して最低でも15%の税率を求める新たなグローバルミニマム課税を始め、第2の柱の下、本プロジェクトではさまざまな新しい税制を導入しています。世界の50以上の国と地域がこうした規則の導入を予定する中、その進捗状況はさまざまで、早ければ今年にも導入する国や地域もあります。

今回の調査の結果から、二重課税や課税対象の拡大と法改正、および企業業績の不安定性などへの懸念から、企業内ではいくつもの重要な点で移転価格の変更を推し進めていることが分かりました。

二重課税への懸念
の回答者が、グローバルな税制改革に伴う二重課税の中程度または重大なリスクに直面していると述べています。

まず、企業は第2の柱のルールを順守するために必要な新しい計算方法での予測可能性を上げるため、移転価格のポジションについての確実性を求める姿勢を強めています。これは、税務当局により導入された事前確認制度(APA)や、係争解決プログラムへの関心が急上昇していることからも明らかです。こうした先を見越した積極的なアプローチにより、移転価格をめぐる税務係争と第2の柱の導入の両方で確実性を高めることができます。

次に、経営幹部も移転価格の専門家も、税務係争と第2の柱による計算方法を用いた予測可能性の確実性を支えるのは、データ(特に移転価格データ)の標準化であると認識しています。第2の柱で掲げられた最低税率の導入に加え、国別報告書(CbCR)の公開に伴って透明化が進んだ税務環境への移行により、企業は、税務当局からの係争関連の要請と第2の柱による計算方法という大きなうねりに対応するため、内部データの標準化を進めざるを得ない状況となっています。特に、データの標準化は、業務量の負荷増加に対処したり、進行中および予想される税務係争では効果的に管理したりする際に役立つものと考えられます。また、データ管理を強化することで、全世界の納税状況について公的な透明性を求める声の高まりに応じた対処にも役に立つはずです。

ようやく、移転価格担当の経営幹部は、自らが組織の中で非常に戦略的な役割を果たしていることを自覚するようになってきました。二重課税のリスクが急速に高まるこの新しい環境で移転価格担当の経営幹部に求められることは、他部門とのつながりを深め、従来型の業務やコンプライアンス機能の遂行にテクノロジーをうまく活用することです。インフレやサプライチェーンの急速な変化、会社のESG目標に関わる取り組みなど、外部要因による圧力を考えた場合、これは特に当てはまると言えましょう。

「移転価格の確実性がかつてないほど重要になってきています」とEY Global Transfer Pricing LeaderのTracee Fultzは指摘し、続けて「移転価格の不確実性は、資本支出や二重課税の可能性などの重大な経営判断にあまりにも多くの影響を及ぼしています」と語っています。

以下に示す回答者の答えからも、BEPSプロジェクトの影響を受けていることは明らかです。

  • 84%が、BEPSの第1の柱(Pillar 1)と第2の柱に伴う二重課税により、中程度または重大なリスクに直面していると回答。
  • 82%が、税率の安定化は、グローバルな移転価格ポリシーに今後3年間、中程度または重大な影響を及ぼすと回答。
  • 71%が、グローバルミニマム課税は移転価格ポリシーに中程度または重大な影響を及ぼすと回答。
移転価格の確実性がかつてないほど重要になってきています。

その結果、以下に示す通り、事前確認制度(APA)などのプログラムへの関心を示した回答者は、30年続くこの調査で最も多くなりました。

  • バイラテラル(二国間)とマルチラテラル(多国間)の事前確認制度(APA)が「非常に役立つ」と回答した人は、それぞれ61%と59%で、2021年の34%と30%から大幅に上昇。
  • ユニラテラル(国内)の事前確認制度(APA)は、今後3年間、移転価格関連の税務係争への対応で「非常に役立つ」と回答した人は59%で、2021年の29%から約倍増。
  • 相互協議(MAP)が「非常に役立つ」と回答した人も46%で、33%から増加。
  • 国際コンプライアンス保証プログラム(ICAP)が「非常に役立つ」と回答した人は41%(英語のみ)で、27%から増加。

2024年のEYの移転価格動向調査をダウンロードする(英語のみ)

調査結果を総合的に見ると、移転価格係争を解決するために、何らかの協同フォーラムを探し求めている企業が非常に多いことを示唆していることが分かりました。これは、ほとんどの企業が税務当局による税務調査の結果に対処することを望んでいることを示す、これまでの調査結果とは大きく異なる内容です。また、今回の調査結果は、移転価格に事後対応的ではなく、より先を見越したアプローチを取ることが全般的に必要であることを示しています。


複数の税務当局に対して企業が求める確実性の担保には、データの標準化はもとより、移転価格の運用と実施に関する課題の克服が不可欠となったことも明白です。その一方で、圧倒的多数の回答者が、主に以下の重要分野で苦戦していると述べています。

  • 75%が、テクノロジーを有効活用できていないことが最大または2番目に大きな課題と回答。
  • 67%が、「データ品質の低さ」を最大または2番目に大きな課題と回答。
  • 73%が、移転価格業務関連で先進テクノロジーへ投資することは中程度または大きなリスク管理の改善につながると回答。

第1章  税務係争の増加で加速する、移転価格の確実性という新たな視点による対応
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第1章

税務係争の増加で加速する、移転価格の確実性という新たな視点による対応

移転価格の専門家は目下、透明性の向上や事業上の優先順位のシフト、インフレなどの問題の影響などに対処しているところです。

生成AIなどの先端テクノロジーと、日々作成される膨大なデータは間もなく、税務係争に多大な影響を及ぼすことになるでしょう。2023年のEYの移転リスクと税務係争に関する価格動向調査における回答者は、税務調査の件数と厳しさが過去2年間と比較して今後2年間で79%増加すると予想すると答えていました。その前回の調査でもリスクのトップは移転価格で、回答者の53%が、税務当局は今後、国境を跨(また)ぐ税務問題により力を入れるようになると思うと述べています。
 

移転価格は常に税務係争の火種となっていましたが、移転価格調査の本質そのものが変わりつつあります。1つには、当局がかつてないほど納税者情報を入手しやすくなったことが挙げられます。当該データに、生成AIや関連テクノロジーの力が合わせることで、将来調査を実施する税務当局が、企業が現在取っている税務ポジションに関するより詳細な情報を求め、また、入手したデータの照会をより効果的に行うことができるようになると考えられます。だからこそ、企業がこうしたより厳しい調査に効果的に対応する上で、今すぐデータを活用し、標準化することが不可欠なのです。
 

「今から2、3年後に実施される調査はおそらく、現在とはその在り方が大きく変わることになりそうです」と、EY Global International Tax and Transaction Services (ITTS) Controversy LeaderのJoel Cooperは話し、「そのため、今後の調査の新しい形を念頭に、現在の対応を検討しておく必要があります」と加えています。
 

将来の調査に備え、移転価格の専門家が考える必要があるのは、まず「世間から見た自分たちの事業」、次に「会社のデータから見た自分たちの事業」の2つです。

移転価格の透明性の向上
の回答者が、国別報告書の公開に備えて仕事が「ある程度」あるいは「非常に」増えたと述べています。

世間から見た自社事業の評価にあたっては、公開されている情報を把握し、外部から入手できる情報と、移転価格ポリシーや移転価格ポジションを確実に合致させる必要があります。規制当局への申請や過去の求人広告、ソーシャルメディアのプロファイル、新聞記事、知的財産(IP)の登録はいずれも、税務当局が現在または今後、一括して分析して、リスクを評価し、税務ポジションに疑義を申し立てることができる情報源です。  

今から2、3年後に実施される調査はおそらく、現在とはその在り方が大きく変わることになりそうです。

最も注目すべき(ただし、驚くにはあたらない)今回の調査結果の1つは、事前確認制度(APA)への関心の劇的な高まりです。調査回答者はこれまで、準備に時間がかかることなどを理由に、このような制度への参加を若干ためらっていましたが、この制度は将来「非常に役立つ」と回答した人の割合が今回、倍以上に増えた結果となりました。


「事前確認制度(APA)は安心材料を与える役割を果たしますが、第2の柱の導入後には、その安心材料がより大きな価値を持つことになります」とFultzは述べ、「税務ポジションに疑義が申し立てられた場合のダウンサイドリスクは今、かつてないほど高まっています」と加えています。

第2章  企業への広範囲にわたるプレッシャーが移転価格に与えている影響とは
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第2章

企業への広範囲にわたるプレッシャーが移転価格に与えている影響とは

インフレやサプライチェーンの変化、ESG問題はいずれも、企業にとって非常に大きなプレッシャーとなっています。

移転価格の専門家は、第2の柱に伴う二重課税と係争リスクの高まりに対する懸念にとどまらず、より広範囲の経営判断が及ぼす影響への対応に対しサポートを求められてきました。具体的には、近年のインフレやサプライチェーンの変化への対応、ESG目標への取り組みなどです。彼らが果たす役割を複雑化している外部要因の連鎖は、パンデミック以降、広がる一方です。これらはいずれも、企業のキャッシュフローやEPS(1株当たり純利益)、ブランド認知度に多大な影響を及ぼします。


例えば、インフレは前回の2021年の調査では質問にも上らないものでしたが、今回の調査では回答者の77%もが今後3年間に移転価格ポリシーに中程度または重大な影響を及ぼすと答えています。この割合は、税率の安定性に続き2番目の大きさです。また、インフレによる金利上昇が、中長期的な関連者間債務の価格設定に最も影響を及ぼしていると答えた回答者も51%に上りました。これとは対照的に、金利がファクタリング(債権譲渡)契約での価格設定に最も影響を及ぼしていると答えたのは27%のみです。また、21%はキャッシュプーリングの価格設定を、金利上昇の影響が最も大きい項目に挙げています。

インフレによる打撃
の回答者が、インフレは今後3年間に移転価格ポリシーに中程度または重大な影響を及ぼすと述べています。

金利の上昇も、広範囲の経営判断に影響を及ぼしており、その判断の多くが移転価格にも影響を与えています。回答者の41%が、リショアまたはニアショア(re-shoring or near-shoring strategies)への取り組みを拡大したか、大幅に拡大したと答えています。一方、新規市場への進出を大幅に縮小させたと答えた人は54%に上りました。また、55%が金利上昇を受けて新規市場への進出を縮小したと答えたのに対し、リショアまたはニアショアへの取り組みを拡大していると答えたのは61%でした。

「インフレとその対策としての金利上昇は今後も数年にわたり、移転価格に影響を及ぼし続けるでしょう」と、EY Global Operating Model Effectiveness LeaderのJay Camilloはみています。「ブロック経済圏取引が拡大し、直線的で長いサプライチェーンへの依存度が縮小する傾向を示す限り、移転価格の専門家はその結果として生み出される新しいバリューチェーンとサプライチェーンへの対応に追われ続けることになりそうです」。これは、移転価格の専門家が提供する戦略的価値を高める重要な投資意思判断です。

インフレとその対策としての金利上昇は、今後も数年にわたり、移転価格に影響を及ぼし続けるでしょう。

サプライチェーンとESG

サプライチェーンもパンデミック以降、根本的に変わりました。回答者の42%が、過去3年間に生産拠点をある国や地域から、別の国や地域に移転したと答えています。その理由で一番多かったのは地政学的問題です。また、39%が税政策の変更を受けて変更を行ったと答えています。一方で、3分の1近く(32%)が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによる混乱を理由に挙げています。回答者はまた、サプライチェーンが今後も、影響要因となるとみており、62%がサプライチェーンの変化が今後3年間に、移転価格ポリシーに中程度または重大な影響を及ぼすと答えています。

サプライチェーン
の回答者が、サプライチェーンの変化が今後3年間に、移転価格ポリシーに中程度または重大な影響を及ぼすと述べています。

経営幹部は相変わらずESGを重視しており、その取り組みが移転価格に影響を及ぼしています。一方、ESGポリシーに合わせて移転価格ポリシーをすでに変更したとする回答者は28%にとどまり、自組織がESGへの取り組みをかなり進めていると答えた人の割合(28%)と同じでした。回答者の70%強がまだ、ESG目標を達成するためのサプライチェーンの変化を評価しているところであり、ESGは今後も、移転価格の専門家にとって大きなワークストリームになると考えられます。

そのため、税務データと移転価格データを標準化する明確なロードマップが必要です。これらのデータの効率的な評価と分析が可能になり、こうした課題に企業がより的確に対応する一助となります。その一方で、税務と移転価格の専門家は、経営幹部へ助言する立場として、より積極的な役割を担うことが求められるようになると考えられます。今回の調査結果によると、主要な経営判断に移転価格が及ぼす影響についての議論にプロセスの初期段階から加わるよう要請されていると答えた人は半数以下だったことが分かりました。

第3章  移転価格のロードマップを構成する極めて重要な要素とは 将来に向けた移転価格のアプローチでは、思考の転換と、標準化されたデータとテクノロジーに裏打ちされた戦略が必要です。
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第3章

移転価格のロードマップを構成する極めて重要な要素とは

将来に向けた移転価格のアプローチでは、思考の転換と、標準化されたデータとテクノロジーに裏打ちされた戦略が必要です。

従来、移転価格部門は、プランニングに始まり、次に導入し、最終的には、コンプライアンスを通じて、税務係争時に移転価格ポジションをサポートするという直線的なアプローチを取ってきました。しかしながら、移転価格チームの孤立化、専門化につながることが少なくありませんでした。新しい環境では、透明性と確実性に焦点を合わせて判断を下さなければならないため、このアプローチは新しい環境では機能しなくなると思われるためです。移転価格部門は、まず自社データの理解から始まる段階的なアプローチを新たに取り、外部データと内部データを完全に合致させなければなりません。より迅速で多面的な紛争解決を達成するには、データの標準化が必要不可欠ということです。この新しいモデルでは、データが出発点であり、現行の直線的モデルのように税務係争段階で収集すべきものではありません。

従来の移転価格業務は、コンプライアンス対応や税務係争での質問対応に注力しているときを中心に、多大な労力を要します。関連者間のデータセットは、その性質上、大量かつ複雑です。現地の法令に沿った財務報告と親会社が適用しているGAAP(一般に公正妥当と認められた会計原則)に沿った財務報告の間で照合が必要となります。価格をポリシーに整合させるための調整は、期末だけでなく、期中でも行わなければなりません。移転価格調査で最大の課題となるのは、複数のシステムから移転価格に必要なデータを集約することです。税務当局の多くが、調査用として納税者に要請する移転価格データは容易に提出できると考えており、30日以内の対応を期待することが少なくありません。ところが、納税者側では、要請を受けたデータが手元にないこと、あるいは、不正確や不完全であることに気付くことになります。ファイルはその場の状況に応じて(例えば、国別や従業員別に)保存されるため、類似の状況との相互参照ができません。実際、今回の調査では、日常的であれ複雑なものであれ、コンプライアンス活動を一元的に管理していると答えた回答者は4分の1にとどまり、42%が最も複雑で重要な取引は国や地域レベルで管理していると答えています。

関連者間のデータについては、その複雑さゆえに、税務調査を受ける必要がある現地の関係者を介してデータの入手や管理が行われることが少なくありません。その結果、世界各地でのリソース確保のプレッシャーが、最も多く見られる課題となっています。移転価格は、管理部門や広義の財務部門、サプライチェーン組織、税務部門とも関係があるため、このプレッシャーが、組織内のさまざまな縦割り部門に、さまざまな度合いで及ぶことがしばしばあります。より多くのリソースを求める声は、さまざまなステークホルダーから上がっていることから、組織の課題全体が著しく過小評価されているのかもしれません。

コンプライアンス管理
の回答者が、日常的または複雑なコンプライアンス活動を一元的に管理していると述べています。

「人員を増やすことで、データの複雑性を解決することはできません」とEY US Central Transfer Pricing LeaderのRebecca Cokeは指摘します。データの標準化とテクノロジーの活用で新しいプロセスを確立すれば、既存の移転価格関連のリソースでも、一層の効率化を図ることができます。「移転価格のロードマップの構成要素にリソースの必要性が含まれる場合もありますが、出発点になると思われるのは、内部データをマッピングし、モニタリングするプロセスの再構築です」。このマッピングにより、テクノロジーを活用して、移転価格関連情報の各種ソースを処理できるようになります。
 

データの標準化とテクノロジーの活用で、どのように現在の確実性を高められるか

納税者が将来的なデータと包括的な税務文書ファイルを見直したとしても、オープン年度(税務調査が未完了の年度)に関しては対処しなければなりません。すなわち、最も効率的に係争解決を進められる道筋の把握に注力しなければならないということです。そのためには、2つの対応を取る必要があります。

人員を増やすことで、データの複雑性の問題を解決することはできません。

1つ目の対応は、あらゆる移転価格取引フローの全体像を理解し、各取引の各サイドにはどのような当事者がいるかを把握することです。このことが分かれば、共通する当事者を特定することが簡単になり、納税者は複数の取引を、1つの紛争解決フォーラムにまとめることができるでしょう。主要な係争を一本化すれば、別の国や地域での交渉による解決のベンチマークとして使用することができます。

2つ目の対応は、国や地域をまたいで共通する課題を探すことです。例えば、いくつかの国で継続的に大規模な調整が行われたり、不確実な移転価格ポジションであるために税金引当金の維持を求められたりすることに気付く場合があります。データ管理やずさんな監視、価格設定、為替の変動などの問題を含め、どの要素が、解決すべき根本的な問題に寄与しているかを企業は見極める必要があります。1カ国で自動化とデータの標準化を進めることができれば、他の多くの国で生じている類似の問題に、より的確に対処できるようになるでしょう。これは、確実性に向けた、段階的ではなく、飛躍的な前進です。「データソースや内部プロセスのさまざまな可能性を考慮したデータ概念を設定するような、小規模なユースケースから始めたとしても、その取り組みは、企業にとって極めて大きな助力となるはずです」と、Operational Transfer Pricing, Ernst & Young GmbH Wirtschaftsprüfungsgesellschaft(EY Germany)のDirectorであるHanna Moebusは語ります。

どの組織も、この新しい視点を通して移転価格の全プロセスを精査し、それが直線的か、それとも孤立化されているかを自問すべきです(孤立化の主な兆候は、ファイルが容易にアクセスまたは共有できない分散化された状態で保管されていることです)。そうした場合には、データを標準化し、移転価格に関連する技術の導入曲線を上昇させ、ゆくゆくは生成AIや他の機械によるオートメーションを導入して最終的に自動化する組織的なアプローチへと焦点をシフトさせる必要があります。EYではこのようなトランスフォーメーションを管理してきており、企業報告からは、財務部門が移転価格関連の業務に費やす時間を5年間で30%削減できたことが明らかです。
 

テクノロジーの活用方法

データとテクノロジーは注目すべきゲームチェンジャーです。これらを活用することで、企業はコストの大幅な削減とリスクの軽減を実現し、より多くの価値を創造できるようになります。今日のテクノロジーは、データレイクにデータを取り込み、データを検証し、そのデータから共通のデータモデルを作成し、標準的な情報開示や分析、計算エンジンを介して、データの再利用を推し進めることを可能にします。とはいえ、2023年のEYタックス・アンド・ファイナンス・オペレート・サーベイ(TFOサーベイ)の結果から、エンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)を活用した税務処理の効率化では、この調査の回答者の72%にギャップがあることが分かりました。製品レベルや取引レベル、国・地域レベルでの移転価格が関係してくる場合、こうした課題は深刻化します。

生成AIから期待通りのメリットを得るためには、全体的な改革も必要です。今回の調査では、回答者の88%が移転価格に関連する技術で今後3年間にコストを削減できると予想しています。一方で、その間にすべきことがあることも認識しており、回答者の76%が、移転価格プロセスを明確に定める堅牢な移転価格ポリシーを整備する必要があると答え、また47%がデータの管理を一元化する必要があると述べています。また、36%がデータの質を向上させる必要があると答えています。

企業には、データとシステム、サードパーティテクノロジーの力を活用するための計画が必要です。社内のデータ戦略や、EPRを活用した税務処理の効率化、システムの改善に投資することも、あるいは、こうしたケイパビリティをすでに構築しているサービスプロバイダーとタッグを組む(英語のみ)こともできます。さらに、選択肢はもう1つあります。先の2つを組み合わせたハイブリッド方式です。移転価格に関連する技術の普及曲線は、技術の選択肢が複数あれば拡大し続けます。企業にとって重要なのは、ITインフラについてや、さまざまなシステムからどのようにデータを集めてまとめるかについてを考え始めることだとMoebusは言います。データ標準化の問題に取り組めば、テクノロジーは容易に導入することができるでしょう。

結局のところ、移転価格のロードマップを構成する要素によって自動化が役立たないのはどこかを教えてくれるはずです。 移転価格の専門家は、経営幹部の要求とビジネス上のニーズへの対応に苦労するかもしれません。ロードマップの導入と自動化で効率化を図れば、移転価格の専門家が、税務当局との協議や、研究開発とサプライチェーンプランニングへのより積極的な参加など、より多くの付加価値を生む組織のニーズに応えることに集中できるようになるはずです。経営幹部との風通しをよくすることも、生成AIの効果的な活用に寄与すると考えられます。回答者の69%がテクノロジーの恩恵を享受するためには、今後3年間で税務部門を広範な事業戦略とより連携させる必要があると答えています。

第4章  企業が次にすべき5つのこと
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第4章

企業が次にすべき5つのこと

一連の対応は、移転価格部門が将来の税務係争とテクノロジーの進化にうまく対応していく態勢を整える一助となります。

EYが実施した2024年の移転価格動向調査での結果が発するメッセージは明確です。移転価格の古いやり方は、時代にそぐわなくなっています。クロスボーダー企業は、新たな現実に備えるべく新たな道筋を進む必要があります。企業が今すぐ取り組むべき5つのことをご紹介します。

1. 移転価格の確実性の確保に注力する

第2の柱が、国際税務環境を変えつつあります。結局のところ、すべての企業が、移転価格に関わる精度の向上を求められることになるでしょう。二重課税のリスクが高まっているため、確実性の確保は極めて重要です。そして、確実性を確保するためには、可能な限り先を見越して、現行および予想される税務係争に対応していかなければなりません。

2. 将来と現行の紛争解決メカニズムをマッピングする

税務係争は今後より厳しいものになることが予想されますが、それは備えを怠っている企業に限った話です。移転価格への新しいアプローチに今投資をしている企業は、税務当局を将来の問題に引き込み、現在取っている税務ポジションをサポートしやすくなると思われます。従って、社内的には、移転価格ポリシーと税務ポリシーを、組織のより幅広い対外的な見解に沿ったものにしなければなりません。社外的には、事前確認制度(APA)や相互協議(MAP)、国際コンプライアンス保証プログラム(ICAP)など、政府のさまざまな申告前プログラムや紛争解決プログラムについて調べておく必要があります。

3. 移転価格プロセスの中心にデータの標準化を据え、リスクを軽減する

移転価格ポジションをプランニングし、実施し、最終的にサポートするという時代遅れの直線的なアプローチに従った移転価格の従来型プロセスを続けるのではなく、組織的にリスクを軽減する、移転価格プロセスの3年計画を策定しましょう。いわゆる「孤立化された従来型の」移転価格プロセスは時代遅れで、国境を跨ぐグローバルな拠点を反映していない可能性があります。そのため、二重課税に対する懸念がこれまでより高まり、税務当局が情報とデータに関わる対応能力をかつてないほど強化しているこの新しい環境では、そのリスクが高まりかねません。税務当局の対応能力は今後も向上し続け、おそらくその速度は企業の速度を上回ることになるでしょう。移転価格部門は、国別管理への依存を減らさなければなりません。そうすることで、自らのポジションの全体像を「より広い視野」で見ることで、税務調査官が何を問題視する可能性があるかを把握できるようになります。世界各地の税務当局はすでに、「租税条約等に基づく情報交換協定(Tax Information Exchange Agreements)」に従い、かつてないほどの速さで税務データを共有しています。企業も組織内で同様の対応を取り、データを現地で孤立化させたままにしておかないことが不可欠です。

4. データが移転価格のアプローチを支える世界に備える

外部向けと内部向けのナラティブを明確にし、標準化したデータを活用して、それを発信するとともに、より幅広い事業目的に沿った税務ポジションを採用しましょう。データの標準化は、移転価格係争に備える一助となるだけでなく、生成AIを活用した効率化の期待に応えるとともに、生成AIを解析にも活用し、より的確なインサイトを経営幹部に提供する上でも役立つと考えられます。

5. 経営幹部とより緊密に連携する準備を整える

移転価格プロセスの組織的な変更により、最終的に移転価格の専門家は、会社の他部門への助言でより大きな役割を果たせるようになると思われます。移転価格の専門家が損益やバランスシートに影響を及ぼす主要な経営判断について助言をすることは極めて重要です。移転価格や税務関連の諸問題において確実性を高めることは、移転価格の専門家が、会社による経済的/地政学的混乱へのタックスニュートラルな(税金の仕組みによる影響を受けない形での)対応に今まで以上に貢献する一助にもなると考えられます。


2024年のEYの移転価格動向調査

不確実な時代に移転価格の確実性を高めるについて詳しくは、報告書全文をご覧ください。



サマリー

2024年のEYの移転価格動向調査での結果から、グローバル企業がグローバルな税制改革に伴う二重課税と税務係争の増加を懸念し、自社のポジションについての確実性を求めていることが分かりました。これらの企業は同時に、インフレやサプライチェーンのシフト、地政学的混乱などさまざまな外部圧力にも対処しています。企業は今後、データやテクノロジーを活用した、こうした確実性の確保促進へと焦点をシフトさせる必要があるでしょう。


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