(3) 事前照会制度
事前照会制度は、納税者が、自ら実際に行った取引等または将来行う予定の取引等で個別具体的な資料の提出が可能なものについての国税に関する法令の解釈・適用その他の税務上の取扱いに関する事前照会(これまでに法令解釈通達等により、その取扱いが明らかにされていないもの)が対象とされている従前から活用されている制度です。
前述のJ-CAP制度は、東京国税局調査部特官所掌法人に限定されていますが、事前照会制度は全ての納税者に開かれた制度です。
EYで関与した事前照会は数多くあり、実地調査よりも前に税務リスクを解決する手段として大きな効果がある制度であると評価しており、今後も税務リスクが起こり得る取引の内容によって積極的に活用することを推奨していきたいと考えています。
(4) 移転価格税制に関する事前確認(APA制度:Advance Pricing Arrangement)
移転価格税制に関する事前確認(APA制度)とは、移転価格課税に関する納税者の予測可能性を確保するため、納税者の申し出に基づき、その申し出の対象となった国外関連取引に係る独立企業間価格の算定方法及びその具体的内容についての事前確認を国税当局が行う制度です。
APA制度は、国外関連者と行う取引の独立企業間価格の算定方法等について、国税当局に申し出し、国税当局による審査の結果、確認を受けられればその内容に基づき申告を行っている場合に移転価格課税は受けなくて済むことになります。
なお、APA制度は法人が自ら計算した資料で国税当局と交渉することができ、事前に二重課税の回避ができるほか、調査による移転価格リスクを回避することができるため、多くの企業が有効な手段としてAPA制度を利用しており、EYにも多くのAPA制度を活用することによる解決事例があります。
2. 税務調査体制
毎年当法人で実施しているTax Controversyセミナーでもお伝えしていますが、企業活動のグローバル化・複雑化に伴い、税務リスクが多様化・複雑化していることは企業の皆さまも感じていると思います。税務調査の立ち会いをしていると、国税当局の税務調査体制もこのような社会の変革に応じ多角化、効率化、かつ、高度化していると実感しています。
本章においては、国税当局の税務調査体制を、フレキシブルな調査事務運営、国際税務関係、資料情報等(内部データ・外部データ・CRS等)を活用したAI・データ分析による調査・行政指導の効率化・高度化に分けて解説します。
(1) フレキシブルな調査事務運営
新型コロナウイルス感染症の影響により、税務調査については一定期間限定的なものとなっていましたが、国税庁が公表している令和4事務年度(2022年7月~2023年6月)の税務調査の実地件数を見ると、コロナ禍前程度に戻りつつあることが分かります(<図3>参照)。
また、国税庁から公表はされていませんが、令和5事務年度(2023年7月~2024年6月)の調査件数はさらに増加している傾向を感じており、今後国税当局は一段と税務調査に充てる調査事務量を確保していくものと想定されます。
なお、フレキシブルな調査事務運営としては、国税庁は消費税の不正事案の調査体制を強化していること、グループ通算制度の導入などを背景に今までは親会社のみや子会社のみといった単体法人のみの実地調査を行い、その過程で子会社や取引先の確認を行っていくような調査が主流でしたが、最近は、関連グループや取引先等に一斉に同時着手するような調査事案の増加が顕著に感じられ、今後もそのような税務調査が行われることが多くなると想定されます。