EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
J-CAP制度が2023年10月よりスタート
新年度からは国税当局の組織変更も
秋元 現在、税務に関するコーポレートガバナンス(税務CG)の一環として2023年10月から試行されているのが、J-CAP(Compliance Assurance Program of Japan)制度です。これは国税当局と大企業が協力・対話しながら、対象取引に係る税務上の取扱いについて国税当局が早期に回答することで、税務リスクを低減させていく取組みです。注目すべきは「協力と対話」であり、これによって、国税当局側は調査事務量の適正確保が図られ、他方、企業側は予測可能性の確保により税務リスクが低減されるという双方にとってメリットが生じることになります。
これまでは、企業が申告し、国税当局はこれを確認するという「申告」に対する事後「確認(調査)」という流れでしたが、今後はJ-CAP制度を活用することで、「調査」は真に必要な企業や必要な項目(事項)のみに絞り込み、問題事項は事前に解決して、より高水準の申告を実現することを目的としています。国税当局側とすれば、税務調査に投下する事務量をより必要度の高い企業に特化することができることになります。これは「調査の重点化」と言われますが、事務の効率化を図ることが期待でき、企業側においても税務リスクの低減に効果があります。
一方、対象企業は東京国税局の管内にある一部の大企業のみで、本制度は、平等なものなのかという指摘もあります。この点については、現在、試行という位置付けであることを踏まえると、今後はその対象範囲を拡大していく可能性があり、例えば、上場企業のうち国税当局の接触が一定程度あるもの(企業)といった範囲に拡大されることも予想されます。
現行のJ-CAP制度における具体的な相談体制は、調査部特官室と言われる部署に属する1名の特別国税調査官のもと計6名のチーム体制でその審査等の対応に当たっており、ここが窓口になります。審査という観点からすれば、東京国税局調査部には他にも調査審理課という部署があり、現在は同課の審理の担当官も同席し、事実上は8~9名体制で行っているようです。45日以内に回答するというスピード感を意識したルール(45日ルール)もあることから、スタッフの充実を図っているものと思われます。本年7月以降は、この審理の専門部隊である調査審理課内に窓口を設け、相談体制の機構が変更されるようです。今まで以上にスピード感ある質の高い対応がなされるものと期待しています。
角田 すでに20年以上前から、各国の税務当局では、コーポレートガバナンスを利用して、税務のコンプライアンスや申告水準を上げていくべきだという問題意識がありました。そこからわが国でも税務CGという言葉を使うようになったのです。かつて国税当局は企業のコーポレートガバナンスの実効性に疑いの目を向けていましたが、わが国においてガバナンスの水準が上がっていく中、国税当局も信頼の基軸としてコーポレートガバナンスの活用性について評価するようになったのです。企業を信頼して性善説に立ち、相談があった際には、否認はせず、丁寧に対応を行う。それが最終的にJ-CAP制度によって実現したという印象です。