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税務調査とは


税務調査とはどのようなものか、国税調査の概要、税当局の選定方法、調査官の着眼点、調査に向けた準備事項などの基本的な事項についてご紹介します。


要点

  • 税務調査の法的根拠、流れなどの基本を説明
  • 法人税調査の傾向や注意すべき点を列挙
  • 法人税調査の準備資料などを掲載
  • 不服申し立てなどの手続きを紹介



税務調査とは、

税務調査とは、通常、納税者が提出した申告書が税法に準拠して適正に作成されているかを調査することです。

本ページでは、一般的に企業に対して行われる法人税の税務調査に関する内容を中心に紹介します。


まず、税務調査には、任意調査と強制調査があります。

任意調査

納税者の同意を前提として税法で定められた質問検査権に基づく通常の税務調査です。納税者の同意が前提ではありますが、正当な理由なく帳簿書類の提示などの要求に応じない場合には罰則規定があります。

強制調査

国税局査察部が行う大口、悪質な脱税事件に対する強制的な税務調査です。脱税の摘発がその目的で、裁判所の許可を得て、臨検、捜索、差押を行います。



納税申告書を提出した場合における一般的な税務調査の流れを紹介します。

納税申告書を提出した場合における一般的な税務調査の流れ

調査選定

調査担当部署にて、申告内容、過去の調査結果及び部内資料等により調査対象法人を決定します。
原則としてリスク・ベース・アプローチ(※1)による調査選定が行われています。移転価格項目も同時に調査が行われます。

事前通知

原則として、調査対象の納税者(税務代理人)に対して、相当の時間的余裕をおいて、調査の開始日時、対象税目、対象期間、調査担当者等を電話等により連絡します。
担当者等を電話等により連絡します。
なお、一度決めた調査日程について、合理的な理由があれば、変更することも可能です。

事前通知を要しない場合

一定の事由により税務調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ等があると認められる場合には、事前通知をされない場合もあります。

臨場調査

調査官は、まず事業概況を聴取して、その事項や帳簿調査で確認した事項について質問し、納税者から回答を受けます。優秀な調査官はこの事業概況の聴取時に確認した事項から調査を実施するポイントを絞り込んで効率的に調査を進めていきます。
事業概況を聴取後に、会社の帳簿書類を確認し、原始記録である証憑書類と突き合わせることによりその処理に誤りがないか確認していきます。
必要に応じて、取引担当者から直接取引内容を確認することで、取引実態を確認し、税務上の誤りを確認していきます。

反面調査

調査の過程で取引の実態を確認する必要が生じた場合等に、その取引の相手先である取引先において行う調査をいいます。
例えば、期末の取引で多額の費用が計上されている場合に、費用の意図的な繰り上げ計上がなされていないかを取引先が保存する資料や証言で確認をします。

調査結果の説明

調査官が、調査結果の説明を行います。申告書に誤りがある場合、修正申告等の勧奨が行われます。

修正申告等

納税者は申告内容に誤りがあれば、自主的に修正申告書を提出するか、税務署に更正を受けるかのいずれかを選択することとなります。
税務調査の指摘内容に不服があれば、更正を受けた場合に、不服申立制度を選択することができます。
申告書に誤りがない場合は、更正決定等をすべきと認められない旨の通知が書面で送付されます。

(※1)リスク・ベース・アプローチ(RBA)
個々の法人の税務に関するコーポレートガバナンスの状況、事業内容、申告・決算内容、把握された非違の内容や改善状況等、各種要素の分析に基づき税務リスクを判定し、そのリスクに応じた的確な調査選定と適正な事務量配分を実践すること

出典: 国税庁「税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組について 令和3年6月」6ページ
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/shinkoku/hojin/sanko/pdf/160701_01.pdf


法人税の税務調査で確認される主なポイント


【売上に関するポイント】

通常、最初は売上除外がないかという視点から検討し、その後、いわゆる「期ずれ」を検討します。

売上に関する事項は、消費税の課税漏れに連動する場合が多く、税額への影響も大きくなる傾向にあります。

項目

内容(調査官の視点)


売上除外

  • 取引先への交際費、リベート費用を捻出するために、雑収入などの収入除外がないか。
  • 売上金額が急増した会社の調査では、意図的な売上の繰延べが行われていないか。


売上繰延
(期ずれ)

  • 取引に係る納品書の控えや発送伝票などから取引先に商品が引き渡されているにもかかわらず計上されていない売上はないか。


売上値引
赤字取引

  • 売上値引はその取引で値引きが確定した時点で計上されているか。
  • 翌事業年度に計上すべき赤字取引に係る損失がその事業年度に取り込まれていないか。


【仕入・棚卸に関するポイント】

仕入は誤りが多く、誤りが見つかった場合、その金額が大きくなることが多く、必ず調査項目になります。

棚卸資産は、会社内部だけで比較的容易に調整することができ、翌期に戻し入れられるため、利益調整として利用されていないかを想定して調査を行います。

調査官は、事業概況を聞く段階から、さまざまな仮説を立て、それを会社が保存している帳簿書類からチェックしていきます。現金仕入、遠隔地取引、手書きの市販領収証など、通常と異なる取引などをチェックしていきます。

項目

内容(調査官からの視点)


架空仕入

  • 比較的規模の大きい建設会社、IT関連企業などにおいて、その年のノルマを達成した担当者が次年度に備えて、未完成工事に関する原価を意図的に完成工事の原価として付け替えるなどにより、利益を繰り延べていないか。


棚卸資産の除外

  • 仕入先や外注先への預け在庫や遠隔地の倉庫で保管する棚卸資産が計上されておらず、意図的に除外されていないか。


仕入値引・返品処理

  • 仕入値引は、値引きが確定した時点で計上しているか。
  • 返品されているにもかかわらず処理が未処理になっていないか。


【経費項目に関するポイント】

経費項目は全体的に金額が大きい科目、架空計上が想定される外注費、人件費、繰り上げ計上が想定される修繕費などが調査対象となりやすいです。

貸倒損失、有価証券評価損などで計上額の大きいものもチェック対象項目になりやすいです。

項目

内容(調査官からの視点)


修繕費、資産購入

  • 会社で予算と実績を管理しているような場合、前年に確保した予算を消化するために前倒しで計上しているのではないか。


減価償却費

  • 期末に取得した固定資産が事業年度末までに事業の用に供されたか。
  • 取得費に取引運賃、運送保険料、購入手数料などの付随費用や、取付費用などが含まれているか。


交際費

  • 飲食費の5,000円基準(R6年4月以降10,000円)を(不正に)利用するために参加人数の水増しが行われていないか。
  • 会議費、旅費交通費、支払手数料、福利厚生費など交際費以外の科目に税務上の交際費に該当するものが含まれていないか。

この他、海外に子会社などを有する法人の調査では、移転価格税制(※1)、国外関連者寄附金(※2)、外国子会社等合算税制(※3)に関する論点も問題となるケースがあります。


また、合併、分割、現物出資などの組織再編を行っている法人では組織再編成に係る包括否認規定(※4)を適用した指摘も行われるケースもあります。

(※1)海外の企業グループ内の法人との棚卸資産、役務提供などの取引価格を独立した企業間で取引される場合に成立する独立企業間価格で取引したとして課税所得を算定することです。

(※2)海外の子会社等に対して、金銭その他の資産の贈与や経済的な利益の無償の供与を行った場合、その全額が損金の額に算入できない制度です。

(※3)外国子会社等を利用した租税回避を防止するため、一定の条件に該当する外国子会社等の所得を日本の親会社の所得とみなして合算して課税する制度です。

(※4)納税者が組織再編を利用して法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為や計算について、本来あるべき行為又は計算に引き直して法人税を計算できるという規定です。

 

 

税務調査では、上述のポイントを確認するために、一般的に以下の書類等の提出が求められます。

臨場調査開始時に準備しておくことを依頼される場合もあるため、事前に整理しておくことが好ましいと考えます。


(参考) 調査で提出が求められる書類

① 会社案内、パンフレット、商品・製品カタログ、ホームページの写し
② 組織図(各事業部・⽀店・事業所等の状況が分かるもの)、配席図
③ ⼦会社・関係会社の状況(海外法⼈も含む)、資本関係図
④ 各部署の業務内容、業務フローチャート、業務マニュアル
⑤ 株主総会議事録、取締役会議事録、経営会議資料、取締役会資料、稟議書
⑥ 監査報告書、内部監査報告書
⑦ 社内規程集(就業規則、旅費規程など)
⑧ 年度予算計画・実績対⽐表、設備投資・修繕などの年度計画予算・実績対⽐表
⑨ 法⼈税・消費税申告書の写し
⑩ 申告調整事項の明細
⑪ 決算調整事項⼀覧表、決算修正仕訳の明細
⑫ 主要取引先との取引状況⼀覧表
⑬ 総勘定元帳、売上帳、仕⼊帳、現⾦出納帳、
⑭ 会計伝票、請求書、領収証、⾒積書、納品書等の証憑書類
⑮ 期末棚卸資産(製品、商品、原材料、仕掛品)の明細
⑯(作成していれば)移転価格ポリシー、ローカルファイル、
⑰ 子会社や関係会社との契約書


税務調査の前に

税務調査の前には、他にも・・・

①  調査における全体の進行管理も含め、調査官が問題としている事項のポイントが分かるような税務関係の処理に明るい者を責任者とする。
② 机、パソコンのデータ、金庫の中など不要な疑惑を持たれることがないよう整理する。
③ 提示する会計帳簿、稟議書、取締役会議事録、経営会議資料等を整理する。付箋がついていたり、連番となっている資料の一部がなかったりするなど、不要な疑問を持たれることがないようにする。
④ 調査期間、調査会場、調査官の人数などの情報について、関係部署の責任者に連絡し、注意事項を周知する。

等々、事前に整理しておいた方が良い事項がたくさんあります。
 


また、税務調査時に争点となり指摘を受けた事項について、調査終盤で税務専門家に相談するケースがよく見受けられます。

調査終盤ですと、調査官は、指摘した事項に関係する証憑やヒアリング等により取引実態を確認し、調査担当部署内や審理担当との間で当局内の見解をある程度すり合わせています。

問題となり得る取引が存在する場合には、調査の初期段階から事前に税務専門家に相談することで、調査官に誤解のないように指摘事項に対する実態の説明ができることがあります。


不服申し立てと訴訟

税務調査の結果行われた更正又は決定処分に不服があれば、更正又は決定処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内に、処分した官署に対して「再調査の請求」を行うか、国税不服審判所に「審査請求」を行うことができます。また、「再調査の請求」を行った結果に不服がある場合、再調査決定書の送達があった日の翌日から1か月以内に、国税不服審判所に「審査請求」を行うことができます。


国税不服審判所への審査請求を経て、結果になお不服がある場合は裁判所に原処分取消訴訟を提起できます。
 


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      サマリー 

      税務調査について基本的な流れを記載しています。また、法人税の調査を受ける際に、調査官に確認される項目(着眼点)やその注意すべき点、会社として事前に準備しておきたいことを紹介しています。ご一読いただくことで、円満に調査を受けることができます。


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