CEOの半数以上が2022年は投資およびM&Aを拡大すると回答も、逆風は依然続く。日本企業の成長への意識と2022年のM&A動向について

CEOの半数以上が2022年は投資およびM&Aを拡大すると回答も、逆風は依然続く。日本企業の成長への意識と2022年のM&A動向について


企業戦略とM&Aアドバイザリーを専⾨とするストラテジー・アンド・トランザクションのプロフェッショナルが、世界のCEOを対象としたEYの調査を基に、⽇本企業の今後の成⻑への意識とM&Aの動向について読み解きます。

かつてないスピードで変化する市場に、企業の成⻑を担うCEOの迅速な決断は不可⽋です。コロナ禍において加速したサプライチェーンの⾒直しや新たなESG(環境・社会・ガバナンス)に関する課題などを、グローバル企業全体と⽇本企業との結果を⽐較しながら解説します。


要点

  • 経営者には積極的な姿勢が戻ってきたことが明らかになったものの、今後の成功は戦略的な選択をどのように行うかが重要な要因となる
  • 日本企業のCEOの96%がコロナ禍においてサプライチェーンの見直しを行った、もしくは行う予定と回答
  • ESGに関する意識は日本企業も決して低くないものの、欧米と比べると経営戦略の中心ととらえるには、まだ課題が残る


先⽇公開された最新のM&Aに関する調査レポート「2022年度EY CEO Outlook Survey」によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流⾏が新たな段階を迎える中、⼤多数のCEOは成⻑のための投資とM&A(合併・買収)に向けた計画をいつでも加速できる準備を整えていることが明らかになりました。本調査は、これまでEYが23回にわたって⾏ってきたキャピタルコンフィデンス調査において、回答者を企業の経営層からCEOのみに絞り、CEO Outlookとして⽣まれ変わったものです。今回が初めてとなる本調査は、世界の2,000⼈以上のCEOを対象に今後の⾒通し、課題および機会に関する⾒解を集計したレポートであり、本稿ではその調査結果のグローバル全体から⽇本企業のみを抜粋した結果を⽐較して⾒解を加えています。


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サプライチェーンの見直し

今回の調査では、⽇本企業のCEOの回答者の96%がコロナ禍において今回引き起こされたような混乱を⾒据えて、コストを削減し、リスクを最⼩化するためにサプライチェーンの⾒直しを実施した、あるいは実施する予定であるとしています。これはグローバル全体の結果79%を⼤きく上回っています。その理由の中で注⽬すべき点は、コストの削減やリスクの観点からサプライチェーンの⾒直しを⾏っていることを主な理由として挙げたグローバル全体の回答に対し、⽇本企業は、信頼関係を再構築するためにサプライヤーの減少を視野に⼊れていると回答した企業も⼀定数(32%)存在したということです。中国や⽶国に依存してきた⽇本のサプライチェーンの⾒直しは、コロナ禍において加速しています。⽇本企業は単純なコストの削減やロジスティック⾯の効率化だけではなく、サプライヤーとの関係の構築やリショアリングも視野に⼊れています。


2022年のM&Aの動向とリスク

M&Aの取引総額が5兆米ドルと過去最高を記録した昨年に引き続き、2022年もM&AはCEOにとって他の領域への投資を補完する極めて重要なツールとなるとみられます。日本企業の回答者の55%、グローバル全体においてはほぼ3分の2(59%)が今後12カ月以内に買収を実行する見込みであると答え、2021年初頭の57%とほぼ変わらない高い数字になっています。

また、今回の調査の中で⽇本企業のCEOは今後12カ⽉間で実施するM&Aについて、テクノロジー、⼈材、新たな製造ラインやスタートアップ企業の買収(37%)、ならびに事業推進⼒の向上(18%)につながる案件を優先すると答えています。

2022年に買収を行う意向を示している日本企業のCEOが最優先の投資先として挙げた国は、中国、インド、米国、シンガポール、日本となっています。また、買収を行う可能性が高いセクターの上位3分野は、自動車関連・交通、テクノロジー、先進製造業でした。

多くのCEOはいつでも投資を実行に移す準備を整えています。その一方で、地球環境の変動の影響、インフレの進行やエネルギーコストの急騰をはじめとする事業コスト全般の上昇は常に経営課題としてあるでしょう。

欧⽶諸国に⽐べてコロナ対策が遅れがちな⽇本では、海外投資が鈍化した時期もありましたが、主にアジア諸国に対し投資意欲が⾼まりつつあるようです。CEOにとってM&Aは引き続き投資活動における重要なオプションとなるでしょう。昨年空前の活況を呈したM&A市場でしたが、今後CEOの多くは過去12カ⽉に買収したアセットの統合に注⼒することになるでしょう。一方、CEOは依然として買収にも意欲的な姿勢を⽰していることから、2022年もM&Aは⾼い⽔準で推移するものと⾒込まれます。

2022年のM&A市場の最⼤のトレンドについては、クロスボーダーM&Aの増加(72%)、セクターを越えた買収の増加(70%)、アクティビストのさらなる介⼊(64%)、ならびにプライベートエクイティ(PE)による買収の増加(61%)が上位の回答となっています。

しかし、CEOが考える投資計画は、外部リスクにより予定通りに実行できなくなる可能性もあります。自社の今後の成長を脅かす最も重大なリスクとして、調査に参加した日本企業のCEOの大多数(92%)は原料価格の上昇に懸念を示しています。その他の要因として、他社との競合の激化(19%)、気候変動の影響(14%)、競合他社の技術とデータ仕様の加速(12%)が挙げられています。


ESGやサステナビリティに関する課題

今回の調査では、M&Aを実施する上でESGやサステナビリティに関連する課題が一段と重要視されていることが明らかになりました。回答した日本企業のCEOのうち、55%が長期的価値の創出や投資家を魅了するための要素としてESGスコアが重要と回答しています。一方で、ESG要素が戦略的決定を下すうえで極めて重要もしくは重要と答えた日本のCEOは67%で、グローバル全体の82%を大きく下回りました。

 

ESGおよびサステナビリティがますます重要な課題となる中、⽇本企業にとってESGが経営戦略の意思決定における重要な要素であるという認識が欧⽶諸国に⽐べ低いようです。

 

ポストCOP26の世界では、戦略的な意思決定において収益の成⻑は依然として重要なドライバーです。⽇本企業の回答者の21%がサステナビリティの分野でリーダーとなることは明らかに競争優位性につながる、またコストの削減にもつながる(22%)と考えています。

 

その⼀⽅で回答した⽇本企業のCEOの 93%(グローバル全体の回答65%)が、⾃社のサステナビリティ移⾏戦略について投資家や株主からの抵抗を受けていると答えています。また、回答した⽇本企業のCEOの43%(同21%)が、投資家は⻑期的な投資計画に対して⽀持を表明していない、あるいは四半期業績に固執していると述べています。サステナビリティの実現に向けた取り組みによって短期的に発⽣するコストが原因となり、CEOと⼀部の投資家の間に緊張が⽣じているようです。

 

CEOは株主や社会全体に持続的なメリットをもたらす⽅向へと組織を変⾰させる必要性があります。⼀⽅でコストの上昇や⻑期的なリターンへの懐疑⼼を理由に、欧⽶諸国に⽐べ日本企業は投資家や株主から強い抵抗を受けています。特に製造業などとは異なり、ESGやサステナビリティの結果が⾒えにくい業種においては、CEOの計画が頓挫し、会社が歴史の流れに取り残されることにもなりかねません。

 

サステナビリティを優先させるためには、CEOと投資家間において考え⽅の⽅向性を合わせることが今後重要となるでしょう。企業が推進する持続可能な変⾰への⽅向転換が、不可逆的な変化となることが明らかになりつつあります。今後、CEOがサステナビリティ戦略で掲げた⽬標の早期実現に向けて数多くのM&Aを実⾏するためにも、ESGに対する理解は⽇本企業にとっても重要な戦略決定の判断材料と捉えることが必要になるでしょう。⽇本の経営者も株主との対話を通じて、ESGやサステナビリティは経営戦略上⽋かせない要素であることを丁寧に説得することが必要です。


本調査の報告書の全文はこちらをご覧ください: ey.com/ceosurvey


関連ウェブキャスト

EY CEO Outlook Webcast

EYでは世界の2,000人以上のCEOを対象とした経営課題などへの意識を調査した「2022年度 EY CEO Outlook Survey」を実施しました。今回のこのサーベイ結果についてその要旨を解説させていただき、実際に日本の経営層のご意見を聞きながら現在の潮流をご紹介させていただきます。



    サマリー

    「2022年度CEO Outlook Survey」は、2,000名以上のグローバル企業のCEOを対象に、今後の経済見通し、課題および機会に関する見解を集計したレポートです。本稿は、今回の調査結果をグローバル全体での結果と日本の結果を比べながら、日本の視点を交えて解説した記事になります。


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