公共セクターにおける脱炭素社会に向けた新たな取り組み(官民連携)

公共セクターにおける脱炭素社会に向けた新たな取り組み(官民連携)

温暖化対策が求められる中、ゼロカーボンシティを表明した地方公共団体は2022年1月末時点で534自治体に上ります。従来の公共調達の仕組みとは異なる再生可能エネルギーを導入する手法として、PPAの仕組みを活用する団体も現れています。


本稿の執筆者

EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)
インフラストラクチャー・アドバイザリー 関 隆宏

水・環境分野の総合エンジニアリング会社を経て現職。公共インフラ事業の経営戦略策定、自治体間の広域連携の推進、PPP導入、DX推進などの経営改革に向けたさまざまなアドバイザリー業務に多数従事。インフラ事業に係る諸外国の制度やドイツのシュタットベルケに関する調査研究を実施。技術士(上下水道部門)。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) シニアマネージャー。


要点

  • 地方公共団体においては、これまで以上に地球温暖化対策における地域の中心的役割が求められる。
  • 脱炭素に向けては新しい制度が整いつつあり、民間資金を活用する取組みも可能となっている。
  • 公共と民間が適切な役割分担・リスク分担を行うことで、民間投資を喚起することが可能となる。

Ⅰ はじめに

2021年、地球温暖化対策の推進に関する法律(以下、温対法)が改正されたことにより、パリ協定に基づく温暖化抑制目標を達成すべく、国、地方公共団体及び民間の団体などの密接な連携が求められることとなりました(新設第2条の2関連)。温暖化による自然災害の激甚化は、地域全体の持続可能性を脅かすリスクとなり、このリスクを回避、抑制することは全ての組織や個人が共通で取り組むべき課題となっています。

Ⅱ 地方公共団体における地球温暖化対策の現状

温対法では、都道府県及び市町村は、その区域の自然的社会的条件に応じて、温室効果ガスの排出の抑制などを目指して総合的かつ計画的な施策(地方公共団体実行計画)を策定し、及び実施するように努めるものとされています(第21条関連)。また、改正温対法では、「地域の環境の保全のための取組」及び「地域の経済及び社会の持続的発展に資する取組」を併せて行うものとして「地域脱炭素化促進事業」が新たに定義され、地方公共団体実行計画において促進事業の対象となる区域(促進区域)などの事項を定めるよう努めることとされました。

こうした制度改正も踏まえ、昨今、脱炭素社会に向けて、2050年二酸化炭素実質排出量ゼロに取り組むことを表明した都道府県及び市町村が増えつつあります。22年1月31日時点で、40都道府県、319市、15特別区、134町、26村が「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」(いわゆる、ゼロカーボンシティ)を表明しています(<図1>参照)。

図1 2050年「ゼロ表明」をした自治体数・人口の推移

地方公共団体に対しては、これまで以上に地球温暖化対策における地域の中心的役割が求められており、多くの地域において着実に動きが広がっています。

Ⅲ 脱炭素に向けた新しい取り組み事例

地方公共団体においては、これまで温暖化対策は、省エネルギー設備や再生可能エネルギーの導入など、追加的なコストがかかるものであるというのが共通の認識でした。ただ、電力システム改革が進む中で、民間企業との連携において地域の脱炭素促進につながる新たな仕組みの導入が進んでいます。

本稿で取り上げるのは、その一つのPPA(Power Purchase Agreement:電力販売契約)という仕組みです。

これまでも、公共施設などの屋根や空きスペースに太陽光発電設備を設置する事例は多くありました。固定価格買取制度(FIT)導入後は、自家消費だけでなく、FITによる売電も多く行われるようになっています。

PPAは、発電事業者と需要家が相対で直接契約できる仕組みとして21年頃から民間企業の間で活用が活発化しています。発電事業者にとっては、FIT終了後にも長期間固定価格で売電が可能となり、また需要家にとっては初期投資せずに再生可能エネルギーの活用が可能であることから、Win-Winの関係の構築ができることが背景にあります。また、PPAの利点は、遠隔地(オフサイト)であっても発電事業者と需要家が契約を締結できることが挙げられます。このため、必ずしも需要地点の敷地内に十分なスペースがなくても、再生可能エネルギーの調達が可能となっています。

最近では、この動きが民間企業の間だけでなく、地方公共団体でも始まっています。20年12月に、横浜市が複数の小中学校への再生可能エネルギー(太陽光発電)導入の実施事業者を募集したところ、民間企業からの提案によって、余剰電力を太陽光発電設備の設置箇所である小中学校以外の市の公共施設へ自己託送するオフサイトPPAを導入することを決定しています。

本事業では、小中学校のスペースの一部を目的外使用として民間企業に貸し付け、そのスペースに民間企業が自己資金で発電設備を整備します。その上で、民間企業は横浜市との間では電力需給契約を締結するというスキームがあるため、横浜市にとっては初期投資がなく従来のように電力を外部から調達する方法と変わりはありません(<図2>参照)。

図2 脱炭素に向けた新しい取り組み事例

従来の再生可能エネルギー設備の導入では、地方公共団体が導入のための計画を立案し、予算を確保した上で、さらに整備事業を行うための入札を行うという段取りを踏む必要がありました。本方式では、これらを民間企業からの提案及び資金を活用して実施できることから、スピーディーな導入につなげられるという利点もあります。

この他にも、例えば前橋市では、市の清掃工場で発電した余剰電力を、上下水道施設を含む市有施設に送電するPPAの実証事業を行うことを発表しています。

このように、PPAは地方公共団体が保有している遊休スペースや熱源などを活用して、遠隔地の電力需要がある施設で再生可能エネルギーを利用できます。発電地点となる遊休スペースとしては、横浜市のような小中学校の屋上の他、上下水道などの施設屋上やダウンサイジング後の余剰スペースが候補となり得ます。

地方公共団体では、これまで各需要地点(施設)や部署において個々に電力を調達していましたが、PPAによって地域横断的に再生可能エネルギーの調達(エネルギーの面的利用)が可能となり、従来の縦割り管理の域を超えて地域全体での脱炭素に貢献できます。

一方で、発電事業者となる民間企業にとっては、一定の投資を行うため慎重な検討が求められます。例えば、公共施設の屋根に設置する場合は、長期的に建て替えなどが発生しないことを確認する必要があります。また、地方公共団体が所有する公共施設(行政財産)については、地方自治法第238条の4において私権の設定が制限されており、個々の地方公共団体の条例において目的外使用許可の期間は、通常1年とされている場合が多いです。このため、目的外使用許可は毎年の更新となることから、政策的な観点から目的外使用許可が得られないケースも想定し得ます。

このように、公共セクターにおけるPPAの活用においては、行政特有の事業環境にも留意した官と民のリスク分担の取り決めが必要です。

Ⅳ おわりに

50年のカーボンニュートラルを見据え、電力事業を取り巻く制度は日々変化しており、電力需要者にとって活用しやすいものへと変わっています。再生可能エネルギーの導入に当たっては、国からの補助などの支援もあり、そうした支援制度を活用することで、このような取り組みが加速していくことが予想されます。

さらに、再生可能エネルギーを活用して、災害対策にも役立てようという地方公共団体も出てきています。千葉県いすみ市では、再生可能エネルギーなどと地域マイクログリッドを組み合わせ、防災拠点などへの長時間にわたる電力供給が可能な仕組みを構築することで災害に強いまちづくりを目指しています

温暖化対策は、地方公共団体でも避けることができない命題です。また、地域の温暖化対策を進める上では、本稿で示した民間資金の活用スキームも有効となり得ます。今後も官と民の連携によって、地域における温暖化対策を着実に進めていくことが求められます。

 

※ 経済産業省補助事業「令和3年度地域共生型再生可能エネルギー等普及促進事業費補助金(地域マイクログリッド構築支援事業のうち、地域マイクログリッド構築事業)」に採択されている。

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サマリー

温暖化対策が求められる中、ゼロカーボンシティを表明した地方公共団体は2022年1月末時点で534自治体に上ります。従来の公共調達の仕組みとは異なる再生可能エネルギーを導入する手法として、PPAの仕組みを活用する団体も現れています。

情報センサー
2022年5月号

※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

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