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Deal Barometer series

2024年の米国M&A市場は再び活発化へ

EYパルテノンが経済・市場指標に基づき作成した最新のレポート「EYパルテノンDeal Barometer」では、2024年のM&A ⾒通しについてディールが増加すると予想しています。


要点

  • 最新のEYパルテノンDeal Barometerの予測によると、⽶国では2024年に、企業のM&A件数は20%増加し、プライベートエクイティのM&A件数は16%増加する。
  • 2024年の第1四半期には、世界全体のディール件数は36%増加した。EYのM&A⾒通しでは、CEO の買収意欲は⾼く、引き続き資産売却を検討するCEOが増加すると予想される。


EY Japanの視点

世界のM&Aが再び活況を呈しつつあります。日本市場では事業会社やファンドともに世界の動向以上にディール増加が見込まれると考えられます。事業会社においては、資産の入れ替え、事業ポートフォリオの見直し、業界内再編、海外市場への成長機会、新規事業創発のための成長投資が活発に行われています。また、アクティビストファンドからの圧力にディール等での対応が求められています。プライベートエクイティファンドでは、事業会社売却資産・事業の買収、テクノロジー領域を中心に成長投資が引き続き活発です。外資系PE、国内PEともに組織の拡大・強化が行われています。再び熱を帯びつつあるM&A市場では、価値向上がどの程度実現できるのか企業経営者はより慎重な判断と価値の獲得に向けてリーダーシップを発揮することが求められます。


EY Japanの窓口

中川 勝彦
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジー・アンド・トランザクション グローバルストラテジーオフィスリーダー/ソフトウェア・ストラテジー・グループ Asia-Pacificリーダー EYパルテノン パートナー
高柳圭吾
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 EYパルテノン ストラテジー ディレクター


最新のマクロ経済の⾒通しを踏まえて作成された「EYパルテノンDeal Barometer」(以下、「Deal Barometer」)は、⽶国企業のM&A 件数は前年⽐で2023年には17%減しましたが2024年には20%増加すると予測しています。これは、M&Aがパンデミック以前の⽔準近くまで回復することを意味しています。2024年予想のM&A件数は、2017〜19年までの年間平均M&A件数よりも4%下回る程度になります。

 

⽶国のプライベートエクイティ(PE)については、Deal Barometerは、2023年には前年⽐15%減だったものが、2024年には16%増に持ち直すと予想しています。この予測では、M&A件数は過去のピークだった2021年の⽔準には及びませんが、2010〜19年にかけての平均年間増加率の9%よりも速いペースでの成⻑が見込まれます。

 

この傾向はEY CEO Outlook Pulse調査の結果とも合致しています。この調査では、2024年の企業とPEの M&Aについて、CEOと機関投資家が楽観的な⾒通しを持っていることが明らかになりました。CEOは、短期的な優先課題に対処するための主要⼿段として、ディールメイキングに注⽬しており、ディ―ルを通じて特にテクノロジーや新たな⽣産能⼒、⾰新的なスタートアップ企業などを取り込みたいと考えています。

 

また、CEOは⾃社の資産と事業のポートフォリオの現状を⾒直し、何が⻑期⽬標の達成に寄与するのかを検討しています。今後12カ⽉間に資産売却を⾏う予定のCEOは、地域、セクターを問わず増加しており、こうした事実から、CEOは将来の成功に向けて着実に歩みを進めていることが伺えます。
 

本レポートは以下の章から構成されています。

1

第1章

M&A市場の回復は2025年に向けて続く

EYでは、M&Aの今後の動向について、引き続きインフレに留意する必要があるものの、大幅に活発化すると予想しています。

過去3年間、ディールメイキングは著しく変動してきました。2021〜22年初めにかけて、低インフレ、好調な経済、良好な企業収益、そして、とりわけ低⾦利という追い⾵を受け、M&A件数は過去最⾼⽔準にまで増加しました。しかし、2022年3⽉にFRBがインフレ上昇への対処として積極的な⾦融引き締め政策を開始したことや、資本コストの上昇、経済的な不確実性の増⼤、地政学的対⽴を受け、ディールは急激に落ち込みました。2023年になると、⽶国のPEによるディールは前年⽐で15%減少、ピークだった2021年との⽐較では約 25%減少しました。⼀⽅、⽶国企業による取引額が1億ドル超のM&Aは、前年⽐で17%減少し、ピークだった2021年との⽐較では約45%減少しました。

今後については、EY CEO Outlook Pulse調査によると、より多くのCEOが買収を計画しており、資産売却を予定しているCEOに至っては⼤幅な増加が見込まれます。また、機関投資家も、⼤半(61%)がディール環境は安定的に推移すると予想しており、3分の1(34%)がディール活動の活発化を予想しています。

EYのマクロ経済チームは、米国経済の見通しについて、消費者は物価上昇を受けて⽀出により慎重になっているものの、購買⼒と購買意欲は衰えておらず、今後も底堅い⽶国経済をけん引していくと予想しています。堅調な労働⼒市場と実質賃⾦の上昇は、今後も双方が相まって、消費者の⽀出の確かな基盤であり続けるでしょう。⼀⽅、企業は、コストが増⼤し⾦利が上昇する中、投資収益率の⾼い案件や⽣産性向上につながる投資に注力していくと見られます。

今後数四半期にかけて、労働需要および賃⾦上昇の鈍化、インフレの持続、与信条件の厳格化により⺠間セクターの活動が制約を受けるのに伴い、⽶国経済は緩やかに減速していくとみられます。留意すべき点としては、インフレの粘着性が予想以上に強かった場合、実質所得の伸び率の低下、FRBの「より⾼く、より ⻑く」という⾦融政策スタンス、⾦融環境の引き締めによる景気の下振れリスクが、さらに強まる可能性があります。

現時点では、FRBが25ベーシスポイント(bps)の利下げを2度、7⽉と11⽉に実施すると私たちは想定しており、2024年の実質GDP成⻑率は、2023年の2.5%と同⽔準の2.5%となり、その後、2025年には1.7%に減速すると予想しています。

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第2章

詳細な分析:企業M&Aの見通し

2024年のM&A件数は、楽観シナリオでは31%の増加が見込まれ、悲観シナリオでは回復は控えめで、13%増にとどまると予想されます。

EYのマクロ経済チームによるUS economic outlookを踏まえ、Deal Barometerでは、企業M&A件数(取引額1億ドル超)は徐々に増加し、2023年の前年比17%減から、2024年には20%増になると予想しています(下記の図1参照)。

これまで、取引額1億ドル超の企業M&A件数は、年間1,000件前後で⽐較的安定的に推移してきました。しかし、2020〜21年にかけての低インフレ、低⾦利の環境がM&A増加に⼤きく貢献し、2021年には40%を超える⼤きな伸びを記録しました。Deal Barometerでは、M&A活動がおおむねパンデミック以前の⽔準に回復し、2024年のM&A件数は、2017〜19年の年間平均件数よりも、わずかに約4%少ない数値になると予想しています。

楽観的なマクロ経済シナリオでは、さらに⼒強い成⻑、穏やかなインフレ、低い⾦利を想定しており、その場合、Deal Barometerでは、2024年にM&A件数はさらに急速に回復し、31%増加すると予想しています。

悲観シナリオでは、さらに弱い成⻑、激しいインフレ、⾼い⾦利を想定しており、その場合、2024年のM&A件数の回復は控えめで、13%の増加にとどまると予想しています。

図1:米国企業のM&A取引件数


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第3章

詳細な分析:PEディールの見通し

2024年のPEによるディール件数については、楽観シナリオでは前年比23%まで増加し、悲観シナリオでは約8%の増加にとどまると予測されます。

PEに関しては、⽶国の M&A件数について、 Deal Barometerでは2023年の前年⽐15%の減少から持ち直し、 2024年には前年⽐16%の増加に転じると予測しています。この予測では、2024年のM&A件数はピークだった2021年よりも依然として約12%低い⽔準ですが、増加率は、2010〜19年にかけての年間平均増加率である9%より⾼くなっています(図2参照)。

楽観的なマクロ経済シナリオでは、2024年にディール件数の増加の勢いはさらに強くなり、前年⽐23%増になると予測されます。これはパンデミック以前の増加ペースの2.5倍であり、このシナリオでの取引件数は、ピークの2021年よりわずかに6%少ない程度です。

悲観的なマクロ経済シナリオでは、取引件数が回復する時期が遅くなるため、2024年の取引件数ははるかに少なくなり、増加ペースはそれほど速くなく、前年⽐増加率は約8%です。このシナリオでは、取引件数はピークの2021年よりも18%少なくなります。

図2:米国のPEディール件数


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第4章

世界市場の展望

世界全体のディール件数は、2024年第1四半期に前年比36%増加しました。同四半期には、資産売却を予定しているCEOも大きく増加しました。

 

2024年第1四半期に公表されたディールは、世界全体で7,960億ドルに上ります。2023年の同時期と⽐較して36%と順調なペースで増加しています。この背後にあるのは、⽶国、特に、エネルギーセクターとライフサイエンスセクターの⼒強さです。もっとも、欧州全域、中でも英国で勢いが強まり、⾦融サービスセクターでのディールメイキングが加速するとともに、テクノロジー関連の資産の買収が再び活発化しました。

EY CEO Outlook Pulse 調査 の最新版では、トレードセール、PEへの売却、スピンアウトのいずれかによる資産または⼀部事業の売却の意向のあるCEOの著しい増加が明らかになりました。企業は事業の集中化や残存ポートフォリオへの投資資⾦の調達のため、事業の⼀部の処分を検討しており、最近の市場動向を踏まえると、このトレンドは2024年を通して継続すると考えられます。

EY Private Equity Pulse調査の最新調査結果からも、第1四半期を通して、PEディールメーカーの間でダイベストメントへの意欲が⾼まったことが明らかになっています。これは、マクロ経済の不透明感の低下と⾦利の⾒通しが明らかになったことに加え、これまでの数四半期の主要なディールメイキング阻害要因だったバリュエーションギャップが解消に向かっていることが大きく影響しています。しかし、公表件数については、⽉によって⼤きなばらつきがある状況が続いています。昨年最も⽉間公表件数が多かったのは2⽉ですが、翌⽉の3⽉は最も公表件数が少ない⽉になりました。

2024年のPE市場は残りの期間も回復が続くと予想されますが、そのプロセスは直線的なものではないということがますます鮮明になっています。

保有期間の長期化(例えば米国では、昨年の平均保有期間は5.3年でした)に伴い、利益実現に向けた圧力は高まり続けています。多くの企業は引き続き売却、特に非中核的事業のカーブアウトの取り組みを強化していますが、他方、スポンサーはPEでの資産の買収を積極化しています。

戦略的PEが事業の合理化や、中核部⾨への投資資⾦の調達を継続して推し進めているため、カーブアウト件数は引き続き堅調に推移しています。カーブアウトが投資総額に占める割合は、2023年第1四半期には5%、2023年第4四半期には11%だったのに対し、直近の四半期には20%に達しています。

しかも、2024年の世界の資⾦調達市場は2023年よりも開放的になりつつあることを考えると、買い⼿は資⾦確保について⾃信を深めることができるでしょう。また、ダイベストメントを計画している企業にとっては、証券取引所での新規発⾏株式に対する需要の⾼まりや、⻑らく待たれていた、競争⼒のある買い⼿としてのPEの復帰も追い⾵になるでしょう。

EYパルテノンDeal Barometer:予測手法

EY Deal Barometerでは、企業M&Aおよびプライベートエクイティのディール活動の将来のトレンドを予測するにあたり、 EYのマクロ経済チーム の見通しに基づく経済指標および金融市場指標を使用しています。EYのマクロ計量経済フレームワークでは、GDP成長率、企業収益、社債利回り、短期・長期金利の変化などの要因を考慮しています。また、企業活動の推進要因としてCEOの信頼感1を織り込んでいます。企業M&A取引の分析では、取引額が1億ドル超の公表されたM&A案件を対象にしています。

過去35年間について、プライベートエクイティのディール活動とGDP成長率、インフレ、企業収益、短期・長期金利との間には98%の相関がありました。また、M&A活動とこれらの経済指標およびCEOの信頼感の間の相関は約75%でした。したがって、この予測手法は確かな裏付けがあると考えられます。このフレームワークを通じて、プライベートエクイティおよび企業M&Aの今後数四半期の取引活動量について、客観的な視点に立った見通しを企業の経営幹部に提供しています。


EYパルテノンDeal Barometer:予測手法

EY Deal Barometerでは、企業M&Aおよびプライベートエクイティのディール活動の将来のトレンドを予測するにあたり、 EYのマクロ経済チームの見通しに基づく経済指標および金融市場指標を使用しています。EYのマクロ計量経済フレームワークでは、GDP成長率、企業収益、社債利回り、短期・長期金利の変化などの要因を考慮しています。また、企業活動の推進要因としてCEOの信頼感1を織り込んでいます。企業M&A取引の分析では、取引額が1億ドル超の公表されたM&A案件を対象にしています。

過去35年間について、プライベートエクイティのディール活動とGDP成長率、インフレ、企業収益、短期・長期金利との間には98%の相関がありました。また、M&A活動とこれらの経済指標およびCEOの信頼感の間の相関は約75%でした。したがって、この予測手法は確かな裏付けがあると考えられます。このフレームワークを通じて、プライベートエクイティおよび企業M&Aの今後数四半期の取引活動量について、客観的な視点に立った見通しを企業の経営幹部に提供しています。

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    サマリー

    EYパルテノンでは、⽶国のM&Aの⾒通しに関する新たなレポート「EYパルテノンDeal Barometer」において、ディール件数がパンデミック以前の⽔準に向かって回復すると予想しています。Deal Barometerでは、経済指標と⾦融市場指標に関するEYパルテノンのマクロ経済チームの⾒通しに基づき、M&Aのトレンドを予測しています。



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