建築図面を描く青年

CEOが直面する喫緊の課題:自信のあるCEOは、いかに未来を切り開くのか

最も自信のあるCEOは、M&Aや変革を通じて積極的に成長を追求する姿勢を示しています。


要点

  • 自信のあるCEOほど、マクロ経済や地政学的変化、技術革新、市場の混乱に対して大胆な戦略的行動をもって適応することができる。
  • CEOは自信を高めることで、抵抗を克服し、ポートフォリオと戦略的投資を管理する強力なプロセスを通じて、変革を推進することができる。
  • 最も自信のあるCEOのうち、59%が今後12カ月以内に買収を計画しているのに対し、最も自信がないCEOは16%にとどまっている。


EY Japanの視点

グローバルCEOと同様、日本企業のCEOも今後の主要なディスラプション要因のトップとして「AIなどのエマージングテクノロジー」を挙げています。その数値は47%とグローバルの結果より9%ほど高く、日本企業のCEOがエマージングテクノロジーに対してより高い意識と警戒心を持っていることを示しています。

また、ポートフォリオの見直しにおいてもグローバルの結果同様、日本企業のCEOも、「戦略や総株主リターンへの事業部門の貢献度を定量化する有効な指標が欠如していること」が、ポートフォリオの効果的な見直しを妨げる最大の要因となっていると回答しています。さらに、「ポートフォリオレビューのプロセスが先手を打つよりも事後対応になっていること」を課題として認識しています。また、日本を含むアジア太平洋地域のCEOが、「投資家の支持や理解を得ることがポートフォリオレビューの質の向上につながる最適なアプローチ」だと考えていることもわかりました。

競争に先んじるために、資本効率の改善を目的とした、より積極的なポートフォリオアプローチの採用に力を入れることが求められています。トランザクションは、戦略的提携、ジョイントベンチャー、事業売却によって支えられ、今後数カ月間にわたって安定して行われることが見込まれます。日本企業のCEOの半数以上(60%)が、 今後1年間に第三者との戦略的な提携を検討する計画を立てており、37%が事業売却やIPOを検討、36%がM&Aを優先すると回答しています。


EY Japanの窓口

梅村 秀和
EY Japan マネージング・パートナー/ストラテジー・アンド・トランザクション EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 代表取締役


社会経済において、自信や信頼感は重要でしょうか。もちろん、重要です。アナリストは、資本市場の変動に影響を与える投資家の信頼感に注目し、エコノミストは、消費者の信頼感を経済の行方を示す重要な指標として重視しています。では、CEOの自信はどんな意義があるのでしょうか。

EYでは、最新のCEO調査で、「Global CEO Confidence Index(CEOの意識を定量化した指標、以下コンフィデンス指標)」を発表しました。この新しい指標により、自信のある経営幹部ほど前向きで大胆な意思決定を行う準備ができており、より積極的に行動しようとする傾向があることが浮き彫りになりました。

企業の自信は、経営陣が自社の能力に対して確信を抱くことで生まれます。そして、その企業の市場での立ち位置や将来に対する楽観的な見方を反映しています。取締役会レベルでの高い自信は、より迅速かつ大胆な戦略的意思決定を可能にし、リスクを管理しながら、高リターンの可能性がある機会を追求する意欲を高めます。

自信のある取締役会は、イノベーションや研究活動への投資を増やし、新市場への進出にも積極的です。自信に満ちた企業には、優秀な人材や投資家が集まります。根拠に基づいた自信は、成長と価値創造を促進する重要な意思決定を促進します。

CEOが直面する喫緊の課題(CEO Imperative)シリーズの最新版である「EY CEO Outlook Pulse調査 2024年9月期」は、世界各国・地域の経営幹部1,200名を対象に実施されました。今回の調査で、回答企業はさまざまな領域で課題を抱えていることが明らかになりました。経営者は、新興技術の台頭によって複雑化が進む環境の中で、機会とリスクを慎重に見極めようと努めています。また、進化する顧客の要求や期待に応えつつ、経済的および地政学的な不確実性に適応していくことが求められています。このようなダイナミックな状況下で、経営者は、予測困難な未来に向けて、自社の再考、再構築、再定義に取り組んでいます。

この調査に参加した最も自信を持っているCEOは、マクロ経済、地政学、業界の変化に積極的に適応し、それに応じて戦略的意思決定を調整しています。また、自社のポートフォリオのレビュープロセスに強い自信を持ち、既存の重要業績評価指標(KPI)を再評価する準備ができています。加えて、今後12カ月以内にM&Aに積極的に取り組む可能性が非常に高いことも明らかになっています。

変化のスピードと、その変化に対応するための企業全体および関連する広範なエコシステムを巻き込む必要性を、自信を持ってバランスよく管理するCEOは、新たな機会を享受できるでしょう。今、大胆な意思決定を行う意欲のある経営者は、自信を持って自社の未来を切り開こうとしています。

自信のあるCEOほどリスクをチャンスと考え、自信のないCEOほどリスクを足かせと考えるのでしょうか。


今回初めてEYが発表したコンフィデンス指標によると、経済状況、投資機会、そして成長の可能性は、今後12カ月間にわたって好ましいものになるとの見解がCEO間で広く一致しています。この見解は、EYのエコノミスト(英語版のみ)による最新の見通しとも一致しており、2024年にグローバルGDPは3.1%の緩やかな上昇を経て、2025年には3.2%へとわずかに加速することが予想されます。

結果は国・地域、セクターによって異なるものの、深刻な景気後退を予想している国・地域やセクターはありません。

本調査によると、CEOは短期的な見通しに対して自信を持っているものの、過度な楽観視はしていません。強力な経済の追い風を想定していませんが、前進する道筋は見えており、この絶えず変化するビジネス環境の中で、機会を生かし成長するために行動し、適応する準備ができています。

CEOは、自社のセクターにおける成長について、グローバルやローカルのレベルよりも高い自信を示しています。これは驚くべきことではありません。CEOは、豊富な知見と直接的な影響力を背景に、自身のセクターでの成長に対して一層の自信を示す傾向があります。それは、自社の業界動向、競争環境、市場機会について深いインサイトを持っているためです。

これは、4月にEYが発表したCEO調査の結果とも一致しています。同調査では、CEOのレジリエンスが成長と収益性に対する、より前向きな見通しを後押しし、自らの権限外にある課題対応においても一層の安心感をもたらしていることが示されています。

同様に、CEOのオーガニックな投資や技術変革に対する楽観的な見方と、M&Aや合弁事業(JV)といったインオーガニックな施策に対する見方では、若干の差異があります。

このようにCEOが自信を持つことは、世界経済にとって重要です。歴史的に見ても、ビジネスリーダーの自信の欠如は、経済の著しい低迷や悪化を引き起こす可能性があります。将来の見通しに対して自信を失ったリーダーは、投資の延期やキャンセル、採用の縮小、コスト削減などに踏み切る傾向があり、より慎重な姿勢になると、資本財、研究、拡張への支出を控えるようになります。こうした措置は、経済成長を鈍化させる要因となります。また、雇用の減少や潜在的な解雇は失業を増加させ、消費者の購買力低下をもたらします。

企業が事業を縮小すると、その影響はサプライチェーン全体に波及し、他の企業やセクターにも影響を与えます。この悲観的な見方が予言となり、実際に経済活動が減少すると、リーダーは不安を確信し、さらに自信を失い、経済収縮のサイクルが永続する可能性があります。このような負のサイクルは、景気後退の深刻化、あるいは長期化を招きかねません。

United Kingdom, Northern Ireland, County Antrim: silhouette of a person at the Giants causeway at sunset.
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第1章

今こそ戦略策定のあり方を再考すべき時

自信のあるCEOは、刻々と変化する今日の市場環境を見据えて、データに基づいた革新的な戦略を大胆に策定しています。

従来の戦略的計画やポートフォリオ管理は、急速に変化する世界では難しい課題となり得ます。企業にとって今必要なのは、リアルタイムのデータ分析、継続的なイノベーション、アジャイル手法、多様な投資を取り入れた、より反復的で柔軟なアプローチです。これにより、時代遅れの意思決定の回避や、先進的な競争相手に対する弱点を克服することができます。


このような変革に取り組んでいない企業では、ディスラプティブな要因を見極め、それらに適切に対処することが難しくなり、市場関連性や財務業績が低下する可能性があります。変革は、単に競争力を維持するためだけではなく、絶え間ないディスラプションの時代を生き抜くために不可欠なのです。


CEOは、ポートフォリオレビューを強化し、大幅な改善を促進するいくつかの重要な行動を正確に特定しています。これらの行動の中核的要素として欠かせないのが、先を見据えたアプローチ、戦略的整合性、データ主導の考え方です。

長期的な市場動向を把握しているCEOは、戦略的な意思決定をより効果的に導くことができます。このマクロ経済的なインサイトは、企業が変化を予測し、ポートフォリオを将来の機会に向けて調整し、リソースを戦略的に配分するのに役立ちます。

ポートフォリオレビューをダイベストメント活動と整合させることで、レビューから得られたインサイトを実際の成果に変えることができます。この積極的なアプローチにより、パフォーマンスの低い資産や脆弱な資産を迅速に見極め、より収益性の高い事業へと振り向けることが可能になります。

ポートフォリオの再構築には、エビデンスに基づいた論拠を構築することが非常に重要です。厳密なデータ分析は、戦略的決定をサポートし、利害関係者に対して説得力のあるストーリーを提供します。このアプローチは、変化がどのように成長を促進し、競争優位性を高め、株主価値を増加させるかを示しています。

こうした改善を通じて、市場のダイナミクスと実証的なエビデンスに基づいた、包括的で戦略的に整合したポートフォリオのレビュープロセスが構築されます。CEOや取締役会は、情報に基づいた積極的な意思決定を行い、ダイナミックなビジネス環境の中で自社の地位を確立し、長期的な成功へとつなげることができます。

CEOが戦略およびポートフォリオレビューのプロセスと成果を改善するために取るべき行動は以下の通りです。

1.戦略的前提を再考する

ビジネス環境は急速に変化しているため、ポートフォリオ戦略の基盤となる前提も同様に見直す必要があります。そこでCEOに求められるのが、ポートフォリオレビューを導く戦略的前提を定期的に再評価し更新する(英語版のみ)ためのプロセスの確立です。このプロセスには、主要な指標の監視、地政学的および業界動向の把握、顧客ニーズの再評価が含まれます。これらの前提を常に評価することで、CEOはポートフォリオ戦略が市場環境に対して適切であり、整合していることを確認できます。

2.バーチャル・ドッペルゲンガーを開発する

デジタルツインは、サプライチェーン(英語版のみ)や専門チームで既に活用されています。CEOは、人工知能(AI)や高度な分析、データの新たな能力を活用して、この手法をビジネス全体に展開することが推奨されます。また、AIは将来の市場動向の予測分析を行うことができるため、CEOにとっては、どの資産を保有、売却、取得するかについて、より情報に基づいた決定を行うのに役立ちます。

3.部門間のコラボレーションを強化する

ポートフォリオのレビューは、社内の多様な視点を得ることで、大きな恩恵を受けることができます。CEOは、財務、運営、マーケティング、研究開発(R&D)など、さまざまな部門のチームにレビュープロセスへの参加を奨励するとよいでしょう。こうしたコラボレーションは、会社の能力や市場ポジションに対する包括的な理解に基づく戦略的決定に欠かせないだけでなく、組織全体にわたって当事者意識と整合性を高めることができるため、ポートフォリオ決定プロセスの成功に大きく貢献すると考えられます。

Vibrant sunset casts a warm glow on serene lake waters, disrupted by a splash, capturing the essence of joyous memories.
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第2章

今まさにディスラプションを機会に変える絶好の時

自信のあるCEOは、新しいテクノロジーを取り入れて、ディスラプティブな力で組織を導くことができます。

調査に参加した全てのCEOの3分の1強(38%)が、自らが変革を主導していると考えています。しかし、CEOの意識は、自らに対して持つ自信によって違いが見られます。自信の度合いが第3四分位または第4四分位に位置するCEOでは半数以上が、自社は先駆的で、喫緊の課題に効果的に対処していると回答しています。一方、下位四分位に分類される最も自信のないグループの場合、同様に考えるCEOは、わずか8%に過ぎません。


CEOが注力する分野は、急速に進化するビジネス環境を反映しており、調査の結果では、新興テクノロジーとAI、顧客行動の変化、マクロ経済の不確実性が主要なディスラプションの要因として注視されています。新興テクノロジー、特にAIは、前例のない速度で業界を変革し、イノベーション、効率性、競争優位性の新たな可能性を提供しています。AIがプロセスを自動化し、意思決定を向上し、新たな製品やサービスを創出する可能性は、CEOにビジネスモデルや戦略の再評価を促しています。取り残されることへの恐怖が、大規模な投資と注力を促進しています。

同時に、顧客の行動や要求は劇的に変化しており、技術の進歩、社会的変化、世界的な事象の影響を受けています。デジタルプラットフォームの台頭、パーソナライズされた体験、持続可能性への関心が、消費者の期待を再形成しています。これらの変化する嗜好に適応できなければ、市場シェアや関連性を失うリスクがあります。

マクロ経済の不確実性と地政学的緊張(英語版のみ)は、さらに状況を複雑にします。グローバルな経済課題、貿易紛争、政治的不安は予測不可能な市場条件を生み出し、ビジネス運営、サプライチェーン、成長の見通しに大きな影響を及ぼす可能性があります。CEOはこれらの不確実性の中で、長期的な戦略的決定を行っており、これがディスラプティブな影響力にさらに拍車をかけています。

これら3つの要因の相互作用は、ディスラプションの破壊的な可能性を増幅します。例えば、新興テクノロジーは変化する顧客ニーズに応える新しい方法を提供する一方で、地政学的緊張は技術開発や消費者行動にも影響を与える可能性があります。この相互関連性は、CEOが常に監視し対応する必要があるダイナミックで挑戦的な環境を生み出します。

新たなテクノロジー革命を活用する

今日の目まぐるしく変化するビジネスの世界では、CEOは新興テクノロジーを活用することが企業の生き残りと成長にとって不可欠であると認識しています。CEOの戦略的優先事項は、イノベーション、実装、財務的慎重性に対するバランスの取れたアプローチを反映しています。


CEOは、新しいテクノロジーを活用してイノベーションの優位性を得て、働き方を変革することを優先しています。この積極的な姿勢を通して、企業は市場にディスラプションをもたらし、顧客体験を再定義することで、市場シェアや収益の拡大を期待することができます。しかし、このアプローチには、テクノロジーが急速に陳腐化するリスクや、内部抵抗に直面するリスクがあります。

また、経営幹部は、ディスラプティブなテクノロジーを迅速に導入し、実行可能なビジネスモデルを創出することにも注力しています。この構造化されたアプローチにより、迅速なスケーリングと市場の変化への適応が可能になりますが、テクノロジーとビジネス目標との不整合や規制問題の見落としといったリスクを伴います。

ディスラプティブなテクノロジーへの投資には、強力なビジネスケースの構築とROI予測が必要です。これにより、過剰投資のリスクを軽減し、イニシアチブを戦略的目標に合わせることができます。その結果、情報に基づく意思決定が可能になり、潜在的な利益と財務リスクのバランスを取りながら、財務健全性と投資家の信頼を維持することができます。

CEOは、これらの戦略を導入することでテクノロジー主導が進むビジネス環境で成功する最適なポジションに企業を導くことができます。

CEOの自信の表れは、新興テクノロジーの活用方法にも反映されており、最も自信のないCEOは、自信のあるCEOに比べ、イノベーションのためのディスラプティブなテクノロジーの迅速な導入や既存プロセスとの統合を優先する可能性が低い傾向にあります。

新しい世界秩序をかじ取りする

地政学的およびより広範な政治的リスクは、CEOが今日直面する急速に変化する市場環境の主な要因です。ビジネスリーダーの3分の1以上が、地政学的な混乱と変動する経済環境が今後12カ月間で最も重要なディスラプションの要因になると予測しています。同様に、多くのリーダーが規制圧力も市場や業界に大きな変化をもたらす可能性が高いと指摘しています。


CEOがこれらのディスラプションの要因に注目するのは、政治や政策の変化が既に自社に重大な影響を与えているためです。EY-Parthenon 2024 Geostrategic Outlookで示されたデータによると、近年、引き続き地政学的リスクが高まっていることが明らかになっています。産業政策や貿易保護主義、戦争や社会不安に至るまで、政治的リスクのビジネスへの影響は、世界中の経営陣に広く認識されています。2024年1月には、CEOの3分の1(38%)が地政学的および規制の不確実性などの政治的リスクを理由に、予定していたディールをキャンセルしたと報告されています。

最も自信のあるCEOは、事業戦略の見直しや事業拡大、ディールの実施において、政治的リスクを頻繁に戦略的意思決定プロセスに組み込む傾向があり、85%以上が「頻繁に」または「常に」そうしていると回答しています。これに対し、自信が最も低いグループでは、64%未満のCEOが同じ頻度でこれらのリスクを考慮しています。


現在のビジネス環境において、政治的ダイナミクスを企業戦略に組み込むことは、競争優位性を確保する強力な手段となり得ます。経営者と担当部門は、事業を展開する国・地域の地政学的な関係性、例えば、国防上の懸念に関わるトランザクションがあるかどうかなどを積極的に評価する必要があります。このようなアプローチは、地政学的な障害や規制上の課題を予測するために不可欠です。

こうした変化に適応するために、CEOが取るべき行動は以下の通りです。

1.状況の把握・分析、そして行動

組織内で、従業員全体が新興テクノロジーや市場の変化を把握する文化を醸成します。CEOと全ての意思決定者は、来年どのような展開が予想されるのかを把握し、特定のビジネス機能に与える影響を分析し、その変化に対して企業がどのように対応すべきかを明確に示し行動につなげます。

2.顧客エンゲージメントとインサイトの強化

顧客の行動や嗜好の変化を予測するために、データの収集・分析を行う高度なシステムを開発します。これには、先進的な分析ツールの活用、定期的な顧客調査の実施、主要な利害関係者との直接的なコミュニケーションを維持するための顧客諮問委員会の設立などが含まれます。

3.アジャイルでレジリエントなビジネスモデルの構築

市場環境の変化に迅速に対応できる組織構造やプロセスを設計します。これには、サプライチェーンの多様化、柔軟な働き方の導入、地政学的・経済的な変化に備えたシナリオベースの戦略立案プロセスの構築が含まれます。

Sunrise peeking through the trees in a forest
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第3章

M&A主導の変革は競争優位への近道となるのか

自信のあるCEOは、M&Aをビジネス成長のための変革ツールとして活用する傾向があります。

2024年のM&A市場は比較的堅調です。1月から7月までの取引額は1.8兆米ドルで、2023年同期比で17%の増加を示しています。取引件数も2023年に比べて9%の増加を見せており、年間を通じ一貫して改善しています。これらは、2024年の安定したM&A市場の発展を予測させる安心材料となっています。


CEOが将来に備えて活用できる重要な施策の1つがM&Aです。CEO調査によると、CEOはオーガニックな変革をインオーガニックな変革よりもわずかに優先する傾向があるものの、CEOの自信とM&Aへの意欲には明確な相関があります。最も自信のあるCEOのほぼ3分の2(59%)が今後12カ月の間にM&Aを計画しているのに対し、最も自信のないCEOの場合はわずか16%でした。


M&Aを変革戦略の柱として活用する経営者にとって、M&Aには以下のような明確な利点があります。M&Aはオーガニックな成長に比べ、新市場への迅速な進出や新たな能力の獲得を短期間で実現できるため、収益や市場シェア、株主価値を急速に向上させることができます。このアプローチは、人材の獲得をも促進し、社内での採用や訓練よりも、外部から迅速にスキルのある従業員やリーダーシップを確保してギャップを埋めることができます。さらに、主要な競合他社や革新的なスタートアップを買収することで、市場ポジションを強化し、潜在的な脅威を排除することができます。

CEOの意見:今後12カ月の主要な資本投資先上位5カ国

  1. 米国
  2. 英国
  3. カナダ
  4. メキシコ
  5. ドイツ

マクロ経済や地政学的な不確実性が高まる中、先進国市場、またはその市場へのアクセスが容易な市場への投資が注目されています。選挙を巡る不確実性はあるものの、米国がトップであるのは驚くべきことではありません。2024年にかけて、米国はM&A市場のけん引役であり、全取引額の半分以上に米国が関与しています。また、政策支援を受けて、半導体産業への投資やサステナビリティ関連の投資など、M&A以外の投資においても、力強い動きが見られます。

2024年においては、英国もM&Aに積極的に関与しており、中国を抜いて第2位です。英国は、テクノロジーからライフサイエンス、ハイエンド製品の製造業に至るまで、多くの需要の高い資産の中核であり、欧州における最も魅力的な投資先の1つとして引き続き注目されています。英国の新政権が欧州連合(EU)との貿易摩擦を持続的に緩和できれば、同国の魅力はさらに増すでしょう。
 

カナダとメキシコは、いずれも米国経済への比類ないアクセスによって、投資先としての魅力を高めています。カナダは、北米市場全体への投資を検討する欧州企業にとって特に魅力的であり、メキシコはアジアの企業から投資をより多く引き寄せることに成功しています。
 

ドイツは過去数年間、必ずしも順風満帆とは言えませんでした。2022年以降、 ウクライナ情勢によるエネルギー危機が進み、同国のドイツのエネルギー集約型産業セクターは特に厳しい状況に置かれました。しかし、EUの主要経済国であり、またハイエンド製品の製造業に強みを持つドイツは、EUのサステナビリティ関連の開発資金がより広範囲に展開されれば、再び魅力的な投資先としての地位を取り戻すでしょう。

ディールを通じて、ポートフォリオを変革し、将来の価値創造機会を最大化するために、CEOが取るべき3つの行動は以下の通りです。

1.継続的なポートフォリオの最適化

CEOは、継続的なポートフォリオ最適化プロセスを確立し、各資産のパフォーマンスを会社の戦略目標に対して定期的に見直す必要があります。この積極的なアプローチにより、市場の変化、技術的なディスラプション、消費者の嗜好の変化に応じたタイムリーな調整が可能になります。ポートフォリオを継続的に評価・調整することで、CEOは新興テクノロジーへの投資や戦略的パートナーシップの構築など、新たな価値創造の機会を特定し、競争優位性を維持し、長期的な成長を促進することができます。

2.柔軟なディールの構築

CEOは、さまざまな結果に対応できるようにディールをより柔軟に構築する必要があります。これには、調整可能な価格メカニズムや、将来の事象に対して再交渉を可能にする条件を含むことなどが考えられます。このような柔軟性により、企業は不利な状況から保護され、有利な状況を最大限に活用することができます。

3.シナリオに基づくディールの意思決定

シナリオプランニングは、さまざまな将来のシナリオに対して、CEOがディール戦略の頑健性(がんけんせい)を試すためのフレームワークを提供します。これにより、さまざまな市場条件に対してレジリエントな戦略的決定を行うことができます。複数の結果を準備することで、CEOは広範な可能性を考慮し、それに対処するための戦略を策定した上で、自信を持って投資やダイベストメントの決定を行うことができます。








2024年9月期のGlobal CEO Outlook Pulseをダウンロードする

2024年4月期のGlobal CEO Outlook Pulseをダウンロードする

2024年1月期のGlobal CEO Outlook Pulseをダウンロードする

2023年10月期のGlobal CEO Outlook Pulseをダウンロードする

2023年7月期の Global CEO Outlook Pulseをダウンロードする


サマリー

CEOの自信は、ビジネスの意思決定やパフォーマンスに影響を与える重要な要素です。高い自信は、外部環境の変化に対する深い理解に基づくものであり、不安定さが増す世界でCEOや取締役会の迅速な戦略的意思決定を促進します。自信のある取締役会は、新興テクノロジーの活用や顧客ニーズの変化、地政学的および経済的不確実性などに適切に対応し、機会を最大限に活用することができます。また、自信のあるCEOは、変化に対して積極的に適応し、ポートフォリオの見直しや、KPIの再評価、M&A活用、変革とステークホルダーの支持のバランス調整などに取り組むことができます。大胆な意思決定をするCEOは、自信を持ってより効果的に未来を形づくることができるでしょう。


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