インテリジェント・ヘルスエコシステムで価値を生み出すには

インテリジェント・ヘルスエコシステムで価値を生み出すには


インテリジェント・ヘルスエコシステムでは、いつでもどこにいても、よりスマートな知見と個別化されたヘルスケアエクスペリエンスを患者に提供できます。


要点

  • スマートな知見と個別化されたエクスペリエンスを提供する生きたエコシステムによって、いつでもどこにいても医療が提供されるようになるとしたら、今後は価値をどのように生み出しますか。
  • ステークホルダーは良好なアウトカムをもたらす新たな方法をどのように測定し、評価しますか。
  • 人に寄り添う医療を実現するために、AI(人工知能)テクノロジーをどのように活⽤しますか。

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    ヘルスサイエンス・ウエルネス業界の実務はこの100年ですっかり様変わりしました。しかも、私たちの健康管理の方法を大きく変えるデジタルヘルスケアやオンライン診療の変革・導入は現在加速しており、そのペースは飛躍的と言えるでしょう。EYの最新レポート、インテリジェント・ヘルスエコシステム(pdf、英語版のみ)では、この点を考察しています。

    将来の医師は医療エンジニアと呼ばれるかもしれません。AI、ビッグデータ、ロボティクスなど、新たなテクノロジーや方法について訓練を受けることになるでしょう。そしてAI、拡張現実、ナノロボットなど、今日すでに急速に技術的成熟度を上げ、商業的価値を高めつつある強力なツールを使って、多くの患者に遠隔で対応することになります。

    将来の医師(図1)
    将来のスマートホーム(図2)

    医療に対する考え方の大きな変化は、SFのように思えるかもしれません。しかし2022年にはすでに、医療提供の場では大きな変化の兆しが見えています。過去2年の間に遠隔医療がずいぶん増えました。組織ではこれをさらに進め、より一体的で包括的なオンライン診療の方法を構築しようとしています。例えば以下のような例があります。

    • 大手製薬会社が遠隔医療ツールを使用する取り組みが増えています。AstraZeneca社はHuma社に出資し、在宅医療や分散型の臨床試験において病院を支援するデジタルプラットフォームを提供しています。疾病管理ツールと予測アルゴリズムやリアルワールドデータを組み合わせることで、両社は「積極的かつ予測的な治療と研究」を共同で進めています。
    • デジタルを用いて、個別化されたオムニチャネルのコミュニケーション方法を設計している大手製薬会社もあります。Novartis社はNetflixのような、各個人にカスタマイズしたオンデマンドの動画および音声コンテンツを作成して、医療従事者とつながっています。
    • 遠隔医療ネットワークの範囲と階層が広がっています。2022年、Amazon社はTeladoc社と協力してオンライン診療サービスを拡大し、音声で起動する消費者向けツールでサービスにアクセスできるようにしました。Noom社、Ro社、LetsGetChecked社といった企業は、コーチングや患者の管理、在宅での臨床検査からデジタル医薬品まで、さらなる製品・サービスを遠隔医療エコシステムに取り入れ、より広範囲なサービスを作り上げています。

    さまざまなデータや技術革新が標準化されず、互いにつながりがないことから、こうした変化がインテリジェント・エコシステムの構築と出現の契機となっています。このエコシステムは最終的にいつでもどこにいても、よりスマートな知見と個別化されたヘルスケアエクスペリエンスを患者に提供することになります。しかしこのビジョンの実現には、ヘルスサイエンス・ウエルネス業界全体が参加し協力する必要があります。

    包括的な運用モデル(図4)

    ヘルスケア改革は単なる機会であるにとどまらず、緊急かつ不可欠なニーズでもあります。既存のヘルスケアモデルは、長期的に見て持続可能ではありません。治療費が高額となる慢性疾患の発症が世界的に急増し、医療費は増え続けています。また、2030年には世界全体で医療従事者が1,800万人も人手不足となると予想されており、デジタル技術導入の必要性が高まっています。

    こうした傾向が広く認識され、医療機関やステークホルダーは変革につながるツールがあることを理解する必要があるでしょう。そうしたツールは有効な治療や個別化医療を促進するだけでなく、同様に重要な、アクセス性の改善と効率性向上をもたらします。

     

    科学技術がエンジンなら、データは燃料である

    新たなテクノロジーは健康を進化させます。今日、ヘルスケアイノベーターはクラウドコンピューティング、センサー、仮想現実および拡張現実システム、5Gブロードバンドを医療提供モデルに取り入れようとしています。また近い将来、量子コンピューティングやイマーシブなメタバースなどのさらなる先進技術も具体化するでしょう。一つの技術だけがこうしたヘルスケアの未来の鍵となるわけではありません。むしろ、これらの技術がヘルスケア分野で進化と収束を続けることで、医療IoT(IoMT)の拡大が可能になっています。

    今後、このIoMTはあらゆる場所に広がっていくでしょう。家庭や職場には、スマートインフラとつながった接続機器、仮想アシスタント、モーションセンサー、遠隔監視ツールが設置されます。私たちの表皮や体内にも、バイオ電子インプラント、スマート衣料品、摂取型センサー、さらにはナノロボットやスマートダストでマッピングされるようになるのです。

    IoMTの拡大から得られる実質的な効果として、利用可能なヘルスケアデータの量と質がかつてないほど増大します。すでに、医療システムの内外で数十億ギガバイトの患者情報が生成され、ヘルスケアデータは毎年急激に増加しています。以下の点にも留意が必要です。

    • 世界のネットワーク化が進み、膨大なデータ量が常に受動的に取得されています。2020年の世界のセンサー台数はおよそ1兆台とされ、その10年前は約2,000万台だったことから、10年間の成長率(CAGR)は195%でした1。
    • データ取得ツールの数が増えるにつれ、個人に関するデータの量も増えています。テクノロジーの分布に差があるものの、地球上のすべての人は、年間平均50テラバイトを超えるデータを生成しています。医療に直接関わるデータはこのうちほんの一部とはいえ、今ではヘルスアウトカムの最大80%が非臨床データで形作られています。

    今後3年間のヘルスデータの増加については、CAGRが36%と予測されますが、これは製造業(6.3%)や金融サービス業(6%)のデータ生成の増加率を上回っています。

    データは、特に日常生活で生成される場合、ばらばらで構造的でないことが多く、また大抵はヘルスアウトカムに関わっていますが、新たな分析ツールで、生の情報を実用的な知見に変換する必要があります。こうした分析能力はすでに利用できる状態であり、以前は使用されていなかったデータソースを分析して、新たな知識マップを作成できるようになっています。

     

    知見を個別化できるインテリジェント・エコシステムの構築

    ヘルスケア分野へのAI導入の拡大は、2021年に承認された130件以上の新アルゴリズムに表れています。これらのアルゴリズムはすでに、デジタルトリアージ実施のためのツール、ケアパスの最適化、行動コーチングおよびリアルタイム疾病管理の提供、ゲノムや大量のデータセットなどの詳細分析につながっています。

    しかし、AIの可能性はこれらの用途にとどまりません。

    ヘルスケアデータの世界が拡大し続ける中で、AIはこうしたデータをこれまでとは異なる方法で結び付け、組み合わせ、精査し、実用的な知見を引き出すための手段を提供します。AIは、私たちの感知、知覚、学習、理解、推察、計画、行動を助ける能力を急速に進歩させています。すなわち、人間と機械の能力を組み合わせることにより、現在と比べると想像できないほどのレベルで、人間だけが持つ知能を増強する道が開かれるということです。

    医療提供へのAI導入は、継続的な学習プロセスであり、その中でヘルスケア・アルゴリズムはインテリジェンスと価値を向上し続けます。人間とコンピューターの処理能力を組み合わせることで、どちらか一方の場合より大きな価値や能力を提供できるようになります。AIの力があれば、大量の生成データと広範な技術ツールを、包括的な統合スマートヘルスシステムと連携させることができるのです。

    このシステムはデータの統合と分析を行うレイヤーの上に構築され、データバックボーンによってプラットフォームが相互に接続されます。患者個人を取り巻く個別化されたデータクラウドはデータレイヤーに取り込まれ、そこで、個人用に設定された基準および比較可能な患者集団に関するリアルワールドデータと、その患者のデータとが比較されます。これにより、システムは十分な情報に基づき治療を計画でき、またこうした治療から学習して、それぞれの患者に適した治療方針を継続的に調整されます。

    このデータ主導のスマートシステムによって、医療におけるサイロを取り払い、ペイシェントジャーニーを通して最適な意思決定を行えるようになります。最も重要なのは、真に人を中心にした医療の提供につながるという点です。


    ユーザーエクスペリエンスが価値を決める
     

    他の業界では、ユーザーエクスペリエンスを追求することで企業は世界的な地位を確立しています。小売り、エンターテインメント、輸送、その他の市場では、利便性と透明性、消費者の選択性を多く提供し、また予測的で個別化された対応ができるようユーザーに合わせて適応し続けるような、シームレスな取引を提供して成功している企業が多くあります。ヘルスケア業界の企業は、こうした面の学びが遅れていました。
     

    現在、データと技術革新の急激な進化によって、患者中心の個別化されたヘルスエクスペリエンスへと医療を改革する道が示されています。企業が改革後の世界で成功するには、従来の臨床指標だけでなく、患者自身のエクスペリエンスを主観的に捉える臨床以外の指標も考慮する必要があるでしょう。
     

    データを活用するとともに、データセットを共有し、結び付け、組み合わせてデータの力を解き放つことは、こうした従来とは異なる測定の利用を促します。AIを用いてそうした測定から実用的な知見を引き出すことは、単なるデータを価値へと転換するために重要であり、それによってバイオ医薬品企業や医療機器企業はイノベーションや新製品の適正な見返りを得ることができます。
     

    最も重要なのは、ヘルスエクスペリエンスへの企業の関わりがどの程度個別化されているかによって、企業の今後の成功が測られることになる点です。

    データの力を解き放つ(図3)

    この記事には、クライアントとのセッションの一環として作成された各種の等角投影図、3Dグラフィック、ホログラム、人体モデル、その他のグラフィックが含まれます。


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      サマリー

      未来のヘルスケアは2022年とはずいぶん異なるものになるでしょう。私たちの体内や周囲には、ナノロボット、携帯型ゲノム解析機器、常時稼働するセンサー、継続的に学習するAIが存在する世界になります。多くの点でまだなじみのない世界ですが、そこではヘルスケアがもっと人に寄り添ったものになっており、その逆になることはありません。こうした世界で勝者となるには、真に人を中心に据えたヘルスケアの価値を患者に提供できるノウハウを身に付ける必要があります。


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