ヘルスサイエンス・ウエルネス企業にとっては、あらゆる層の⼈たちがテクノロジーを医療提供の場に欠かせないものとしてオープンに受け⼊れ、その活⽤にも意欲的なことが明らかである今こそ、⾏動を起こし機運に乗じる絶好のチャンスです。前向きなのはエンドユーザーである患者や消費者だけではありません。質の⾼い医療の提供に貢献する医療従事者を含めたバリューチェーン全体で、その意欲が⾼まっています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡⼤により、従来型の医療システムの枠外で医療を提供する動きが加速しています。ビデオインターフェースを診察に取り⼊れるといった変化は順調な滑り出しを⾒せましたが、それが最終⽬標ではありません。企業に今求められているのは、医療の提供方法を根本的に変え、定着させ、患者と医療機関からの高い期待に対応することです。
これまでの医療では、安全性や効果、効率に重点を置いてイノベーションを推進してきました。このような高い期待に応えるためには、イノベーションの従来の定義を拡⼤する必要があるでしょう。もちろん、安全性や効果、効率が重要であることに変わりはありません。しかし、今や患者も医療機関もそれ以上を求め、よりシームレスなヘルスエクスペリエンスが適切なタイミングに適切な場所で提供されることを期待しています。
ヘルスエクスペリエンスに対する期待値は上がってきており、今後も上昇あるのみだとEYはみています。他業界の現状を踏まえると、将来的には製品やサービスがいかに優れていたとしても、それだけでは期待に応えることはできません。⼤きな転換点にある今こそ、業界はこのチャンスをうまく⽣かす必要があるのです。
今、「ヘルスエクスペリエンス」の時代が到来しています。
ヘルスエクスペリエンスの向上で担う役割が⼤きくなるにつれ、企業はバリューチェーンの全関係者とより有意義な関係を深めるチャンスに恵まれるようにもなります。このような関係が、顧客ロイヤルティーを⾼めるのと同時に、信頼の構築につながるのは間違いありません。
業界のリーダーを⽬指す企業は、戦略上の重点と、⼈材の配置、財務⾯で資本と取り組みの配置・展開を検討するにあたり、以下の5つのトレンドを精査すべきです。
- 患者を医療の中⼼に据え、個別化医療によって最良のアウトカムが得られる製品やサービス、データを融合させたソリューションを提供する。医療インフラを患者中⼼へと変⾰し、患者が出向かなければならないようなシステムを変えることが求められる。
- パートナーとの連携により、個別化医療をサポートできるような、透明性の⾼い、一体化された、柔軟性と機動性のあるサプライチェーンを構築する。将来的には複雑ながん治療も⾃宅で受けられるようになると見込まれる。
- 臨床データと⾮臨床データを組み合わせて活⽤し、ヘルスアウトカムを向上させることによって、価値を明確にする。臨床エビデンスと⾮臨床エビデンスを組み合わせることで、価値の評価⽅法(そして最終的にはプライスポイント)が⼤きく変わる。
- データをさらに流動化させる。すなわち、さまざまな組織間でデータを簡単かつ安全に共有できるようにし、価値の創造をデータの所有ではなく、利⽤・アクセスと結び付ける。データが⾃社のものか、パートナーになり得る他社のものであるかにかかわらず、価値はデータへのより良い問い掛けによって得られた知⾒から⽣まれる。今⽇、インフォメーションガバナンスがヘルスサイエンス・ウエルネス業界のイノベーションを妨げる主な障害の1つとなっている。
- 持続可能な活動と、それがもたらす⻑期的価値の測定に向けて取り組む。投資家は今後、こうした取り組みを求める声をますます⾼め、影響を測定し、企業の姿勢を精査する⽬をかつてないほど厳しくすると考えられる。企業の資⾦調達⼒は近い将来、持続可能な活動の⾒える化にますます左右されるようになる。
これら5つのトレンドを、4つのビジネスモデルの観点から以下に詳述します。それぞれ戦略的意図が異なっており、オペレーションの最適化にあたっては個別の問題に直⾯しています。企業に必要なのは、将来的に競争優位性を獲得するにはどのビジネスモデルがベストかを判断することです。
最⼤のポイントは、真の顧客を⾒極めることです。ヘルスエクスペリエンスの向上というニーズへの対処に軸⾜を移すにつれ、ターゲットとなる顧客は変わってくるかもしれません。多くの国では現在、D2C(直販)が規制により禁じられています。しかし、⾃らの診療エクスペリエンスに対する患者の影響⼒は増しており、今後は患者の果たす役割も⼤きくなるはずです。
医療・介護機関または保険会社と政府が最も関係の深い顧客となる場合もあれば、富裕層やマスマーケットが主な購買層となる場合もあるでしょう。顧客層によって、ニーズも求めるエクスペリエンスも異なるはずです。多様な顧客から価値を引き出すためには、顧客のニーズを的確に捉えた製品、サービス、ソリューションを開発しなければなりません。ケイパビリティの強化には資⾦が必要です。そのため、複数のビジネスモデルを展開する場合、必要な費⽤も複雑さも増していくことになります。
EYが考える4つのビジネスモデルは以下の通りです。
- ブレークスルーイノベーター︓富裕層が求める最⾼クラスの製品や、⾼価格帯となる医療システムを創出することで価値を実現する。
- 疾病マネジャー:最⾼クラスのサービスと⾏動科学を活⽤した疾病管理に注⼒し、患者・消費者に対する理解と関係を深めることで価値を創造する。
- エフィシェントプロデューサー:公衆衛⽣サービスをより手頃な価格に抑えた医療システムを提供することで価値を創造し、効率的なオペレーションとサプライチェーンのプロセスを提供する。
- ライフスタイルマネジャー:健康の維持(病気の予防)と、顧客に合わせた製品とサービスの提供で価値を引き出すことを⽬指して、ウエルネス分野のマスマーケット向けに製品とサービスを供給する。