EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
3つの質問
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流⾏がオンライン診療を余儀なくさせましたが、その結果、デジタル診療への変⾰が加速したのは⾔うまでもありません。ヘルスケア業界がオンラインへの変革にようやく気付いた時点として、過去を振り返ることになるのではないでしょうか。
テクノロジーは何年も前から存在していますが、より個別化した遠隔対応の医療や健康へのアプローチは、データをベースとしたツールやテクノロジーの導⼊によって可能になります。世界がテクノロジーの導入をヘルスケア業界にこれほどまでに迫ったことはいまだかつてありません。データを取り込んで最⼤限に活⽤するという、業界変⾰に⽋かせないテクノロジーの発展性について、企業も医療機関も⻑い間認識してはいましたが、その変⾰を加速させる「切迫感」が⽋如していました。そのような中、新型コロナウイルス感染症拡⼤とその対応の過程で、このデータを中心にしたデジタルビジネスモデルの実現に向け、より柔軟に機敏にそして⾰新的に医療機関がシフトする機会が⽣まれたのです。
このシフトには、2つの重要な意味があります。第1に、新たな情報源や関連機関からシームレスに提供される最新のデータストリームにより、患者の健康状態をより全体的に捉えることができるようになります。結果として、予防的治療や個別化治療を通してヘルスアウトカムを⾼めることが可能となります。第2に、新型コロナウイルス感染症拡⼤の先にあるものを予測することができます。今回のパンデミックを受け、⽇の⽬を⾒なかったオンライン診療が注⽬を浴びるようになり、テクノロジーこそがスマートな医療システム構築への架け橋となることが証明されました。オンライン診療や遠隔医療は、臨床モデルやオペレーションモデルに恒久的な変化をもたらし、効率性の向上や個⼈に合った健康管理、エクスペリエンスの向上へとつながっています。
何が次に来るかを考えるときこそ、高度につながった統合型データ情報システムの真の変⾰を追求する絶好の機会といえるでしょう。デジタル技術は、将来のヘルスケア業界をデータ中心へと変革します。個別化重視のヘルスエコシステムのビジョンを実現するには、現時点ではまだ⼤きな課題があります。しかし、患者中⼼かつデータ中⼼の製品やサービスの創造に全⼒で注⼒していく医療機関こそが、ヘルス&ウェルネスの変⾰を主導する最⼤の機会を⼿にするのです。
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医療機関のスマート化を考えるとき、より患者を中⼼に据えた医療アプローチを実現するためのデータ環境の構築が求められます。これを実現させるのが、データを取り巻く5つの主なトレンドです。
ヘルスアウトカム、薬の処⽅、保険、患者が⽣成したデータ、公衆衛⽣、患者から報告されるアウトカム、遺伝⼦データなどの膨⼤な量のデータを収集し分析することが、予測医療、予防医療、個別化医療の基礎になります。
いつでもどこにいても受けられる診療は、患者志向のオンライン技術や診療モデルを基に構築されます。保険医療全体にわたって許可された情報は、アプリケーション、ウエアラブル端末、環境センサーなどで取り込んで共有されます。
また、第5世代移動通信システム(5G)の普及が進むにつれて、リアルタイムデータの取得がより速くより確実になるでしょう。5Gは、在宅での緊急診療、新しいコミュニティーサービス、ネットにつなげられた病院のデバイスなどでによってすぐさまそのポテンシャルが発揮されます。バーチャルリアリティー、ゲーミフィケーション(ゲーム要素の応⽤)、ロボティクス、動画でのコーチング、スマートホームといった、より複雑な医療プログラムやアナリティクスツールが可能になります。
これらの新たなテクノロジーから生み出されるデータを体系化し、解明し、そこから知見を得るには、強力なツールが必要です。その過程においてAIは欠かせません。
AIにより、複数の情報源から得られた⼤量の患者データを集約することができます。AIとアナリティクスは、この複雑な情報を個⼈ごとにカスタマイズした健康ソリューションと呼ばれる、価値のある情報に変換します。エコシステム全体でどのように効率的に治療をすべきかを導いてくれるのです。
このデータを中心としたつながりのあるヘルスケア環境が患者のニーズを予測し、健康状態をそのままモニタリングするため、治療の質や適時性を向上させることができます。⼀⽅、医療機関にとっても、ワークフローやサプライチェーンにおける無駄や重複した⼿続きなどオペレーション上の課題解決を促し、臨床リスクを予測するといった観点でも、AIアナリティクスの活⽤が有⽤です。
今日の医療データ生成の速さやその多様性に後れを取らないようにするには、医療提供者が医療と社会両方のデータをつなぎ、組み合わせ、分析し、共有できる医療情報インフラが必要です。現在の医療情報アーキテクチャにもつながりを持たせる余地はある程度あるといえますが、SMART on FHIR (Fast Healthcare Interoperability Resource) と呼ばれる情報規格は⼀般に、その場しのぎにすぎないと考えられています。つながりを持たせる対象にさまざまな制約があり、ソリューションの数が多く(連携ポイントも同様)、データモデルが多岐にわたる上に、データの標準⽤語体系が限られていることが、システム内やシステム間でのデータの共有を困難かつ⾼コストにしています1、2。
関連するデータソースのすべてを組み合わせれば、医療の予防モデルに必要な基盤が構築できます。このモデルでは、健康であることが前提で、診療は例外的に行われるものと位置付けられます。データアナリティクスは個⼈の⾏動パターンにフォーカスし、将来の⾏動様式や変化に対する障害を予測し、最も有望なソリューションを導きます。
ヘルスアウトカムの向上には⾏動変容が不可⽋であることは科学的に立証されているといっても過言ではありません。⾏動変化の継続が健康管理の中⼼部分として認識する必要があります3、4。
ここで最も重要なのは、⾏動変容を医療の個別化と管理に欠かせない要素として取り扱う必要があるということです。これからの製品とサービスは、センサーやAIが患者の⾏動を継続的に「判断して促す」ことで健康に向かっていく、という前提で提供される必要があります5、6。
医療情報の可変性、透明性、可⽤性の⾼まりは、患者と臨床医の双⽅にメリットをもたらします。⼀⽅、システムが流動的であることにより同時にリスクも発⽣させます。
データを共有することには⼤きな意義がありますが、データをつなげることでリスクが伴います。データを共有するには、相⼿のデータの管理⽅法を信⽤するとともに、デジタルに関する利⽤権限やトレーサビリティーや統制をサポートするツールが必要になります。現在は医療業界全体においてこれらの多くが深刻な課題となっています。ガバナンス構造、ポリシー、⼿続きはしっかりと定められ徹底されていなければなりません。また機密性の⾼い医療データを収集し、保存し、共有することの倫理的・法的・道徳的な基準も満たさなければなりません。
データがつながっていることが医療の前提となるにつれ、規制当局はデータ保護により厳しいスタンスを取り続け、患者⾃⾝による医療情報の管理徹底に目を向けることでしょう。データの安全性、有効性、完全性を担保するためにも、患者と臨床医から信頼を得ることは極めて重要です。
データは近い将来、リモートモニタリングによって⾃動的に収集され、AIで継続的に分析されるようになり、医療機関に対してはデータやデバイスの完全性や安全性を⾼いレベルで維持する責任が課せられるでしょう。あらゆる要素は、データセキュリティの枠組みや個⼈の健康データの安全管理基準を満たさなければなりません。これには、個⼈データの所有権、データの⼆次利⽤、個⼈情報保護の明確化が含まれます7、8。
単に現在の⼈材確保・育成サイクルを繰り返すのではなく、今後のビジネスの成長につながるデータ、テクノロジー、従業員の能⼒を中⼼に据えて将来の道筋を構築している医療機関は成功を収めるでしょう。エコシステムを念頭に置いて発想し、どのデータが必要不可⽋で、それにアクセスするにはどの戦略が適切かを識別していきます。このテクノロジーイノベーションをフル活⽤するには、同時にしかるべき⼈材を引きつけなければならなりません。そしてデータはその組織のコアな資産になるのです。
データやテクノロジーによる差別化戦略を策定し試行するにあたっては、イノベーションの推進が鍵を握ります。医療機関はエコシステムの出現という現実に合ったオペレーティングモデルや連携戦略を採⽤し、他の組織と協⼒して⼈材の構成や能⼒を強化する必要があります。
ビジネスモデルは、新しいデータ環境に求められるコア能⼒を反映してデザインしなければなりません。これには、データのサイロ化を解消しデータがスムーズに流れる環境に移⾏するためのガバナンスが必要です。新たなケア提供モデルを構築するには、価値創造に向けた新しいビジネスモデルやオペレーティングモデルが必要になるでしょう。人材戦略では、オートメーション化によって生じた人材の需給の変化や、スキル構成および役割の性質の変化に対応する必要があります。そして、デジタル時代の医療従事者を主導する新たなリーダーシップが求められるのです9。
先の未来への備えとして医療データの課題に優先的に取り組むことができれば、すべてがつながったヘルスエコシステムを医療機関が先駆けて計画できるかもしれません。今すべきことは、データの⼒を利⽤して未来の価値を創造し個別化されたアウトカムを⽣み出すにはどうしたらいいかを考え抜くことです。
医療データの課題への取り組みにおいて重要と考えられる要素は以下の3つです。
⼤量の医療データセットにはポテンシャルがあり、変⾰をもたらすテクノロジーを⼗分に活⽤することが可能になります。現在構築されつつあるのが、臨床判断の根拠となる情報を提供するデータサイエンスモデルです。これらは単に医療機関にデータを報告する段階から、さまざまな診療環境への応用に向けた、ダイナミックな予測分析モデルにおける機械学習アルゴリズムへと姿を変えつつあります。
組織レベルでは、インテリジェンス部門がデータを変換し、公衆衛生、臨床判断のサポート、オペレーションの合理化による効率性の向上について、実行可能な気付きを与えてくれます。医療機関は理想的なデータモデルやベンダーの出現を待つのではなく、データ中心の診療モデルやオペレーションを導入し、あわせてその能力を高め、未来における在り方を定義する必要があります。
未来を描くことにより、今は(まだ)不可能なものへと必然的に目を向けることになります。未来にも通⽤するインフラや能⼒を導⼊することが重要になるでしょう。これは、モジュール性、機敏性、相互運⽤性、不均質性を⾝に付けることを意味します。
「今、次、そしてその先の将来(now, next, and beyond)」というレンズを通して見ると、データ生成技術のメリットとして考えられるのは以下の通りです。
次世代の製品やサービスは、データ中心のインテリジェンステクノロジーを柱に構築されるでしょう。このテクノロジーが、臨床医の⽣産性、患者のエクスペリエンス、イノベーションや知⾒、持続可能性、事業運営、許認可を受けた安全なアクセスや資産活⽤などの、価値の⾼い主領域をサポートします。
最終的には、患者を中⼼としたどこにいてもつながるエコシステムが⽣まれます。それは、アウトカムの向上、健康の公平性、ビジネスモデルの持続可能性向上のため、あらゆる⼈、あらゆるモノがつながったエコシステムです。
執筆協力者: Emily Mailes, Director, Health Consulting, Ernst & Young - New Zealand; Sheryl Coughlin, PhD, EY Global Health Sciences & Wellness Senior Analyst
優れたデータがなければ、医療システムのスマート化を実現することはできません。適切な場所、適切なタイミングでより良い医療を提供するためには、データの流動性を中⼼とした情報アーキテクチャの構築が必要です。本稿では、医療業界のデータ活⽤基盤を形成する5つのトレンドを探ります。医療機関が広範につながったヘルスエコシステムへと移⾏するためには、膨⼤な健康データが持つポテンシャルとトランスフォーメーションを実現するテクノロジーが持つ将来性を活⽤できるよう、技術・業務・⽂化の各側⾯でしかるべき変革に取り組む必要があります。
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患者や医療従事者にとって重要な事項に最もフォーカスすべき理由
満足度の高いペイシェントエクスペリエンスは、医療従事者の満足度をも高めます。逆もまたしかりです。ビジネスにとってはその両方がプラスに働きます。