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EYによる世界のIPO市場動向レポート2024

IPO実現の道筋となる最新のグローバルインサイト


2025年は、金融緩和基調の強まりと市況による下支えが追い風となり、世界のIPO市場が好調に推移する見通しです。


要点

  • AmericasとEMEIAでは2024年もIPO市場の回復が続いた。また、地域のエコシステムにおけるセクター特有の成長ドライバーが注目された。
  • IPOの件数でトップに立ったインドは、グローバルなサプライチェーンの再構築と経済成長の恩恵を受けて、米国や欧州をしのいだ。
  • プライベートエクイティやベンチャーキャピタルの支援を受けたIPOは調達額全体の46%を占め、AIや暗号資産関連のユニコーン企業のパイプラインが拡大している。

2024年は、金利政策の転換などの好循環となる要因に加え、AI技術の進歩に伴う新たな構造的シフトが重なり、一部の主要株式市場では最高値を更新しました。こうした楽観的なムードが、世界のIPO市場の力強い回復をもたらしたのです。Americas(北・中・南米)とEMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)ではIPOの件数と調達額が堅調な伸びを示し、これが世界全体の回復をけん引しました。Asia-Pacific(アジア・パシフィック)は、出足こそ鈍かったものの徐々に勢いを増し、市場の安定化に貢献しました。

2025年に向けて、極めて重要なトランスフォーメーションがIPO環境を刷新する中、世界のIPO市場は不調和に直面しました。財政・金融政策や地政学的緊張、人工知能(AI)とデジタルの変革、新たなESGへの配慮、「世界的な選挙イヤー」の結果によるものです。こうした動きは課題をもたらす可能性がある一方、新たなチャンスの扉も開かれます。メガトレンドの変化にうまく対応し生かすには、トランスフォーメーションを受け入れ、市場の需要の変化に合わせて戦略を柔軟に変え、IPOをプラットフォームとして活用して、成長とイノベーションを加速させなければなりません。レジリエンス(回復力)が高く、2025年の上場を目指して準備を万全に整えた企業は、不確実性を切り抜ける道筋をつけ、IPOのチャンスの窓から羽ばたくことができるでしょう。

これらをはじめとする調査結果は、EYの「世界のIPO市場動向レポート2024」に掲載されています。この四半期レポートでは、世界のIPOデータを分析して市場動向を見極め、事業計画や市場の見通しに役立つインサイトを提供しています。


世界市場で投資家の信頼が戻り、IPO件数ではインド、調達額では米国が首位に

世界経済と地政学的情勢が変化する中、インドがその力強い経済成長や投資家にとって好適な環境を生かして大きな恩恵を受ける国の1つとして浮上し、2024年に初めてIPO件数で世界トップに立ちました。インドのIPO件数は米国のほぼ2倍、欧州の2.5倍超に上ります。米国は、IPO調達額では2021年のピークの後不振が続いていましたが、2024年に3年ぶりに世界トップに返り咲きました。

インフレ圧力の緩和や金利引き下げ、2024年の「世界的な選挙イヤー」によって政策の見通しがより明確になったことで、投資家はIPOに資金を移す意欲を高めています。この傾向は、質の高い新規株式公開先と規模の大きい銘柄への投資意欲が再び高まっていることを明確に物語っています。こうした上場先や新規上場銘柄には、市場の大きな関心と多額の資金が集まっているのです。2024年の大半で、ほとんどの主要市場におけるIPO投資がベンチマークとなる指数を一貫して上回るか同等のリターンを生みました。これは、新規上場企業に対する投資家の信頼が強固であることを示しています。このマクロ経済的要因の改善に強気の投資家心理が重なり、世界のIPO市場では引き続きかなりのリターンがもたらされる可能性があります。さらに、IPO需要の高まりを受けて、オーバーアロットメントの行使が一般的となってきました。


「EY Global IPO Trends 2024」レポート全文では、さらに深い分析結果とインサイトを紹介しています。PDFをダウンロードする


2024年における主要市場別のIPO、IPO投資の年初来リターン、主要株式市場指標

2024年のIPO活動
2024年のIPO活動

IPO市場は、セクター独自の成長ドライバーにより地域のエコシステムへと進化

地政学的環境が変化し、グローバルなサプライチェーンにおいて大規模な再構築が進む中、従来の世界のIPO市場は地域のエコシステムへと変化しています。これは、相互に連携しながらも、それぞれのセクター独自の専門性と成長ドライバーを持つ、独立したエコシステムです。各セクターの成否は、現地市場の経済状況や地域の戦略的優先課題の影響をますます受けるようになってきました。

テクノロジー、メディア・エンターテインメント、テレコム(TMT)や工業、消費財といったセクターが世界のIPO市場を席巻し、件数と調達額の双方で全体の約60%を占めていました。その背景には、これらのセクターが技術の進歩と産業の成長、消費者市場の拡大を推し進めており、投資家の信頼を維持していることがあります。

ASEANや韓国、インドなどのアジア諸国では、映画やゲーム、音楽、テレビを含むエンターテインメントのコンテンツに係るサブセクターの勢いが徐々に増しています。鉱業・金属を中心としたエネルギーセクターのIPOは減少しましたが、鉄鋼のIPOについては、インドのインフラ需要にけん引され、鉄や亜鉛など金属製品のニーズの高まりを受けて着実に増加しています。

地政学的緊張の高まりやナショナリズム政策の復活を背景に、防衛費は世界的に増加しています。こうした変化と、急速な技術進歩が相まって、航空宇宙・防衛製造業に対する投資家の関心が高まってきました。世界のIPO市場全体の動向とは異なり、このセクターは着実な成長を見せ、IPO件数は2021年の10件から2023年には14件、2024年には19件に増えました。国別で、件数が特に多かったのは米国と中国本土、日本、韓国です。米国のメガIPOは、このセクターの隆盛を示す好例といえます。こうした状況は、防衛産業の戦略的重要性と世界中の投資家にとっての魅力が高まっていることを示しています。


クロスボーダーIPOの勢いが続き、中・大型株のリターンが堅調

2024年もクロスボーダーIPO(国境を越えて行う株式上場)の件数は増え続け、世界全体の合計が2023年の83件を超える113件に上りました。その一方で、取引規模の平均は48%縮小しました。ただ、注目度の高い超大型IPOが数件あったり、米国で上場を果たした中国本土のユニコーン企業のIPOが3件あったりと、注目すべき例外もあります。

米国は、2024年もクロスボーダーIPOの上場先として最も人気が高く、IPO件数は101件で全体の89%を占め、前年に比べても51%増えています。米国への取引件数が増えている反面、総取引額が42%減少し59億米ドルにとどまりました。2024年は米国における上場の半数以上を外国からの発行が占め過去最高を記録しましたが、総取引額に占める割合はわずか18%です。地域別では、Asia-Pacificからの取引は中国本土、香港、シンガポール、オーストラリアを中心に大幅に増えました。この背景には、規制強化や国内市場の低迷、資金調達力強化の推進があります。消費財、TMT、工業セクターのIPO企業の間では、投資家の関心が特化していることやバリュエーションがより高いことから、米国の証券取引所の人気が高まってきました。




世界のIPO市場の形成に影響を及ぼす、米大統領選後の政策

これまでも米国大統領選の翌年には、どちらの党が政権を担っていても、IPO活動が活発化していました。通常、選挙に向けてある程度の不確実性が生じます。選挙後は一般的に、政策の方向性や新しい経済構想がより明確になるため、市場全体のムードが安定することが多く、IPOにとってより好ましい環境が整います。選挙後の年に先行して市場に参入するセクターには工業とTMT、金融が含まれますが、ほぼ全てのセクターで成長を示しました。

第二次トランプ政権下では、時限立法である税制改革法が延長される可能性や、規制緩和、国内生産の奨励といった政策がより明確になり、米国でのIPO活動が活発化する可能性があります。特にその恩恵を受けると考えられるのは、エネルギーや工業、金融サービス、テクノロジー、暗号通貨、ヘルス・ライフサイエンスなどのセクターです。こうした経済政策が打ち出され、株式市場も活況を呈すれば、クロスボーダーIPOを検討する欧州企業にとって米国市場の魅力がさらに増すかもしれません。

その一方で、拡張的な財政措置が提案されるほか、政府の大規模な改革が実施されれば、インフレ率と米国債利回りの上昇や市場ボラティリティの高まりを招くおそれがあります。このようなシナリオでは、投資家が株式から債券へと資産を再配分するかもしれません。今後決定される金融政策によっては、不確実性が生じ市場安定性に対する懸念が強まり、リスクに対する投資家のムードが影響を受ける可能性があります。

保護貿易主義や報復関税は、輸入に依存する企業のコスト上昇と収益性低下を招き、IPO活動を妨げかねません。また、中国や欧州、カナダ、他の新興地域といった貿易黒字国・地域の株式市場を圧迫するおそれもあります。移民政策の厳格化が人手不足を悪化させて、人件費が上がり、労働集約型産業の企業の財政がひっ迫するかもしれません。一方、規制緩和はクリーンエネルギーとEVにとって逆風となる可能性があります。米中関係の方向性もまた、注目度の高い中国企業が香港や欧州の証券取引所といった別の市場でのIPOを模索し、地政学的リスクが軽減するきっかけとなるかもしれません。


プライベートエクイティ(PE)とベンチャーキャピタル(VC)の影響力が急激に高まり、2024年のIPO調達額のほぼ半額を支援

2022年と2023年は、PEとVCの支援を受けたIPO件数が全体比でそれぞれ5%と6%に低下しました。これは過去の水準と比べると著しい下落です。その主な要因は、インフレ率と金利の上昇です。これが投資家の投資意欲を減退させました。ところが、2024年には市況の改善を受けて、PEとVCは、バリュエーションの上昇や投資家の信頼回復を生かしてIPO計画を再検討するようになりました。IPO実施企業における上場後のパフォーマンスが好調であることから、こうした復活の動きがさらに活発になり、出資者の支援を受けた企業による市場参入と初期ステークホルダーへの流動性提供が促されました。

 

2024年は、PEやVCの支援を受けたポートフォリオ企業の上場が世界全体の総IPO調達額の46%を占めました。この数字は、PEとVCが世界のIPO活動に多大な貢献をしており、IPO環境の形成で極めて重要な役割を担っていることを示しています。同年のメガIPO20件のうち、12件はPEが支援したものです。前年の2件に比べ、大幅な上昇といえます。ユニコーン企業によるIPOも18件ありました。その半数がVCによるローンチであり、2023年のわずか3件からやはり増加しています。

 

一方、バリュエーションの動向から、大きな格差が生じていることが明らかになりました。IPO後のバリュエーションの中央値は、PE支援のIPOが2023年から72%上昇したのに対して、VC支援のIPOは31%低下しています。それにもかかわらず、VC支援のIPOの平均バリュエーションは、ごく少数のメガIPOのけん引によって上昇しているのです。この背景には、成熟した既存のビジネスモデルと採算性を確実に見込める案件が、市場で引き続き好まれていることがあります。バリュエーションの動向がそれぞれとはいえ、PE支援とVC支援のIPOは共に、投資家に確実なリターンをもたらしてきました。市況が好調な中で企業が市場の期待にうまく応えた場合、セグメントを問わず需要が強くなります。

 

ここ数年でVCの支援を受ける企業の数が著しく増えたにもかかわらず、ベンチャー市場の流動性は徐々に低下しています。2022年以降に資金を確保できた企業はごくわずかで、2,000万米ドルを超える資金を調達したところはさらに少数です。AIに注力する企業への関心が高まっており、莫大な資金需要により公開市場が魅力的なソリューションとなっています。株式を公開したAI企業やAI関連企業は今や、600社以上です。その半数近くがこの4年間で新規上場を果たし、またその多くがVCの支援を受けています。イノベーションと成長を加速させながら、資金調達難を克服する上で、IPOがいかに役立つかをAIセクターが実証しているといえるでしょう。AI企業やAI関連企業の約60社がIPO申請中です。また、400社以上の申請準備が進行中で、このうち150社前後は未上場のAIユニコーン企業であることから、AIセクターが計り知れない可能性を秘めていることがよく分かります。

 

AI産業がIPO成功のベンチマークを確立できれば、他の高成長産業によるIPOの推進を促進し、今後幅広い市場でIPOの勢いを加速できるかもしれません。暗号通貨分野では、ほとんどの企業がVCの支援を受けており勢いが増しています。トークン価格が最高値を記録し、米国市場でビットコインとイーサリアムの上場投資信託(ETF)上場が承認される中、デジタル資産に対する関心が急激に高まってきました。VCの支援を受けた80社ほどの暗号通貨企業が現在、IPOパイプラインのステータスにあります。このうち約半数がユニコーン企業へと成長していることから、規模が比較的小さい産業にもかかわらず、大きな可能性を秘めていることがうかがえます。

 

財政状況の緩和に加え、選挙後の規制改革により市場が一段と活性化されるかもしれません。しかし、こうした新興産業がIPOに成功するには、規制上の課題にうまく対応し、強固なコンプライアンス体制を示すことが鍵になるでしょう。


TMT、工業、ヘルス・ライフサイエンスのIPOが2025年全体の50%を超える見通し

IPO活動状況は、セクターの動向や政府の経済・地政学的政策の方向性を表す指標の役割を果たすことが少なくありません。特に、大国の政府が市場や戦略的産業に対する影響力を強めているときには、その傾向が顕著です。新規上場が活発化しているとしたら、それは成長産業への信頼が高まっている兆候であり、レジリエンスとイノベーションを育むために政策立案者が重視する戦略的優先課題の表れかもしれません。

9月に公表された「2024 EY CEO Outlook Pulse Survey」の結果から、世界のCEOの44%がIPOやダイベストメント、スピンオフといった取引の翌年中の実施を検討していることが分かりました。CEOの意欲は2023年から衰えておらず、ジョイントベンチャーや戦略的アライアンスを1位に挙げたCEOが最も多く(47%)、これに続くのが、IPOやダイベストメント、スピンオフ(44%)、M&A(37%)です。

ジョイントベンチャーと戦略的アライアンスに対する意欲は前年同期比で同レベルでしたが、M&AとIPOの推進に対する関心はそれぞれ28%から37%、40%から44%へとアップしています。この3種の取引のうち、CEOが最重要の財務戦略として挙げたのは、AmericasではIPOとダイベストメントやスピンオフでしたが、Asia-PacificとEMEIAではジョイントベンチャーと戦略的アライアンス、次にIPOでした。


2025年の見通しとIPO準備企業へのアドバイス

2025年の見通しはますます楽観的になっています。市場の回復によって生まれる機会をとらえようとする、各セクターの企業が有望なパイプラインを形成しています。

 

IPOのチャンスの窓は急速に開きまた閉じる可能性があるため、IPOに向けて態勢を整えておくことで、企業はオプショナリティ(状況に応じた柔軟な選択)を維持しています。大きな変革の時代にあって、IPO準備企業は、マクロ経済・政治的・地政学的環境の変化に素早く対応し、技術革新を活用するとともに、価値創造の可能性を明確に示す、魅力的なエクイティストーリーを発信しなければなりません。

 

世界の金融政策が方向転換する中、上場を検討する企業には、よりアジリティの高い財務戦略と強固なリスク管理慣行を導入して、経済環境の変化にうまく対応していくことが求められます。また、金利や地政学的リスク、ESG要件といった世界的な動向の変化に対処しながら、AIとデジタルの変革でイノベーション力を発揮する必要もあります。IPO前の幅広い資金調達や「コーナーストーン投資家」を対象としたエンゲージメント活動、別の上場ルートの開拓は不確実要素を軽減し、バリュエーションを最適化する一助となります。サステナビリティ対策を一本化し、選挙後の政策変化に沿って調整することで、企業は説得力のあるエクイティストーリーをつくり、公開市場で長期的に成長し続ける態勢を整えることができます。





株式公開の手引き

株式公開の手引きは、IPO前、IPO期間中、そしてIPO後において、企業が戦略的に検討すべき事項を取り扱っています。

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サマリー

世界のIPO市場は2024年に目覚ましい回復を見せ始めました。その主な要因はインフレの緩和と金利引き下げ、質の高い上場先への投資家の信頼です。IPO件数ではインドがトップに、調達額では米国が首位に立ち、各地域の強みが表れました。プライベートエクイティとベンチャーキャピタルの支援を受けたIPOが中心的な役割を果たしました。IPO活動が活発だったセクターは、テクノロジー、工業、消費財です。2025年、企業はマクロ経済・地政学的・規制環境の変化にうまく対応し、イノベーションやサステナビリティ、戦略的な資金調達を活用して、新たに生まれる機会をとらえなければなりません。


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