会計不正が企業に与える影響および不正発覚後の事後対応における主な留意点

情報センサー2024年12月 Topics

会計不正が企業に与える影響および不正発覚後の事後対応における主な留意点


不正発覚後、企業価値の毀損(きそん)を最小限に抑えるための対策の検討に際し参考となるよう、最近の会計不正の動向の他、企業に与える影響や事後対応における留意点について、不正事例を踏まえ紹介します。


本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 西日本Forensics 公認会計士 川中 雄貴

平時における不正リスク管理体制の構築・評価支援の他、企業の有事対応(不正調査等)だけでなく、不正発覚後に対応が必要となるさまざまな事項(再発防止策の策定・評価含む)に係る支援業務に従事。

EY新日本有限責任監査法人 Forensics事業部 公認会計士 福原 真

上場会社等の会計監査業務を経て、主に不正調査や企業の内部監査支援業務に従事。2019年から2022年まで証券取引等監視委員会事務局開示検査課に出向し、不正事案に係る検査業務に従事。



要点

  • 企業を取り巻く環境の変化を把握するため、自社だけでなく同業他社等の不正の動向や具体的な内容(不正の動機、機会や正当化含む)を理解しておく必要がある。
  • 不正が発覚した企業にはどのような影響があり、事後対応が求められるのかを理解した上で、企業価値の毀損を最小限に抑えるための対策を講じることが重要となる。


Ⅰ はじめに

近年、親会社の経営者や役員が関与する会計不正が相当数発生している一方、子会社の従業員が関与する不正がグループ全体に大きな影響を及ぼす事案も見受けられます。

不正が発覚した場合、レピュテーションの低下による企業価値の毀損(きそん)を招き、企業を取り巻く利害関係者にも多大な影響を与え、行政当局による処分、企業・役員等に対する刑事罰、上場廃止等の重い措置を受ける可能性もあります。

不正が発覚した企業にとって、ガバナンスの強化や役職員のコンプライアンス意識改革、不正リスクを考慮した管理体制の確立が、内部管理体制等を改善する上で重要です。他社の改善策をそのまま利用するだけではなく、自社のビジネス環境や現状の体制などの実態を踏まえ、内部管理体制等の改善の実効性をどのように確保するかを検討する必要があります。

本稿では、主に証券取引所から改善報告書の徴求や特別注意銘柄(2024年1月に「特設注意市場銘柄」から名称変更。いずれも以下、特注銘柄)の指定措置を受けた企業の最近の事例等を通じて、企業における課題や留意点を見ていきます。

なお、文中意見に係る部分は筆者らの私見である旨、あらかじめ申し添えます。


Ⅱ 最近の会計不正の動向

最近の会計不正の状況は<表1>の通りです。

表1 会計不正の発覚件数推移

(2020年1月~2024年6月の会計不正の発覚件数を適時開示情報に基づき独自に暦年ベースで集計。2024年については、本稿作成時点で調査結果が公表されている企業が多い6月までのデータ。なお、不正の手口は年度ごとで全体に占める割合の高かった主なものを表示している。また、手口別および拠点別・関与者別の表は、1社につき複数の該当項目がある場合が存在している)

(全体)

 

2020

2021

2022

2023

2024

会計不正の発覚件数

45

41

47

57

26

出典:適時開示情報

(手口別)

手口

2020

2021

2022

2023

2024

実態のない売上計上(架空・水増し)

15

5

7

9

1

売上前倒し

7

2

1

6

0

請求書不正(架空会社、水増し請求等)

4

3

5

5

1

経費不正(虚偽の使途、経費水増し、架空経費等)

1

7

4

1

2

預金口座からの不正送金

2

0

2

5

3

取引先への高額発注(キックバック等)

3

0

3

5

6

棚卸資産の過大計上

8

2

1

1

2

原価付替え

3

5

5

6

3

出典:適時開示情報

(拠点別・関与者別)

拠点

関与者

2020

2021

2022

2023

2024

親会社

経営者・役員

9

10

11

15

5

管理職

2

1

4

9

2

従業員

10

10

9

15

10

子会社

経営者・役員

15

9

9

9

5

管理職

1

0

6

7

2

従業員

19

10

10

5

6

出典:適時開示情報

2021年から2023年にかけて、手口としては実態のない売上計上や売上の前倒しといった売上に係る不正、預金口座からの不正送金や取引先への高額発注といった出金に係る不正、関与者としては親会社の経営者・役員の発覚件数が増加しています。

また、1月~6月の半年間分の情報であるものの、2024年は例年に比して実態のない売上計上や売上の前倒しが少ない一方、取引先への高額発注が多くなっており、また、親会社で起きた経営者・役員不正は少なく、従業員不正が多い点も特徴と言えます。

ここで、直近の3年(2022年1月以降)で会計不正が発覚した企業のうち、①特注銘柄に指定された企業、②特注銘柄指定が継続された企業、③証券取引所の措置として上場廃止に至った企業(内部管理体制等について改善の見込みがなくなったと取引所が認めたケース)に焦点を当て、これらの措置が取られた背景・原因を見ていきます(<表2>参照)。

表2 取引所の措置を受けた企業一覧

(2022年1月~2024年6月に会計不正が発覚した主な企業で、証券取引所の措置として改善報告書の徴求や特注銘柄指定を受けた企業。「課徴金」は証券取引等監視委員会の開示検査の結果、勧告されたものを指す)

業種

主な手口

【拠点】
関与者

取引所の措置

その他

改善報告書

特注銘柄

サービス業

実態のない売上・
仕入計上
【親会社】
従業員

  • 課徴金
  • 過去に海外子会社にて従業員不正(給与不正)、国内子会社で役員・従業員不正(実態のない売上計上等)が発覚
  • 上場廃止(株式の併合を理由とする)
情報・通信業

実態のない売上計上

【親会社】
経営者・役員

  • 課徴金
  • 上場廃止(内部管理体制等改善の見込みがなくなったと取引所が認めた)

建設業

調達資金に係る
虚偽の開示

【海外子会社】
経営者・役員

  • 過去に海外子会社にて従業員不正(着服)が発覚
  • 上場廃止(内部管理体制等改善の見込みがなくなったと取引所が認めた)

精密機器

循環取引

【親会社】
経営者・役員、管理職

  • 限定付き適正意見
  • その後新たに子会社の元役員による不正(キックバック)が発覚
  • 特注銘柄指定が継続された
  • 過去に改善報告書
情報・通信業

実態のない売上計上

【国内子会社】
経営者・役員、管理職

  • 課徴金

サービス業

実態のない売上計上

【親会社】
経営者・役員

  • 課徴金
  • 経営者交代
  • 過去に役員による経費不正が発覚

卸売業

旧工事進行基準の悪用

【親会社】
従業員

  • 過去に実体のない売上計上等の従業員不正が発覚
情報・通信業

実態のない売上計上

【親会社】
経営者・役員

小売業

売上前倒し計上

【親会社】
経営者・役員、管理職

  • 意見不表明
  • 上場廃止(株式等売渡請求による取得を理由とする)

サービス業

助成金不正受給

【親会社/子会社】
経営者・役員、管理職

  • 上場廃止(株式の併合を理由とする)
  • 過去に役員・従業員不正(実態のない売上計上)が発覚

不動産業

売上債権の過大計上

【親会社】
経営者・役員

  • 課徴金
  • 上場廃止(内部管理体制等改善の見込みがなくなったと取引所が認めた)
  • 過去にも特注指定(当該指定は継続された)
情報・通信業実態のない売上計上/
着服
実態のない売上計上:

【子会社】
経営者・役員

着服:

【子会社】
管理職

  • 同年に複数の子会社で別種の不正が発覚

建設業

預金口座からの不正送金

【国内子会社】
管理職

卸売業

助成金不正受給

【親会社】
管理職

  • 意見不表明
  • 上場廃止(会社更生手続を理由とする)

小売業

利益相反取引

【親会社】
経営者・役員

  • 意見不表明
  • 上場廃止(株式の併合を理由とする)

情報・通信業

不適切な連結範囲の判定

【親会社】
経営者・役員

  • 経営者交代

サービス業

経費精算(架空経費等)

【親会社】
経営者・役員

  • 過去に従業員による証憑偽造が発覚

出典:適時開示情報、日本取引所グループウェブサイト、証券取引等監視委員会ウェブサイト

まず、①特注銘柄に指定された企業について、証券取引所による措置の主な背景・原因は以下の通りです。

  • 経営者による内部統制の無効化への会社の対応が不十分
  • 取締役会の監督機能や監査役等による是正対応が不十分
  • 役職員の会計知識およびコンプライアンス意識が欠如
  • 管理部門の担当役員の不在や内部監査部門のリソース不足など内部管理体制の基礎的な整備が不十分

これらの企業の不正実行者のほとんどが経営者であることからも、内部統制の無効化リスクに対して十分な対応を取れなかった企業が、主として措置を受ける傾向にあることが分かります。これは、内部統制報告制度の改訂により、従来「内部統制の限界」とされていた内部統制の無効化リスクについて、さまざまな体制や仕組みづくりにより、これを低減する対応が企業に求められるようになった流れとも整合します。

次に、②特注指定が継続された企業について、<表2>で該当する事例は、指定期間中に新たな不正が識別されたものでした。このようなケースにおいて指定が継続されるのは当然と言えますが、過去には、証券取引所の審査において、企業のガバナンス体制強化・コンプライアンス意識向上の取組みが行われていると一定程度評価されつつも、改訂した社内規程の整備または運用上の不備があり、指定が継続された事例もあります。

このことから、有効な再発防止策の実行を徹底しなければ指定解除につながらないことが分かります。そのため、再発防止策実行のモニタリングも重要であると言えるでしょう。

最後に、③証券取引所の措置として上場廃止に至った企業(内部管理体制等について改善の見込みがなくなったと取引所が認めたケース)について、その主な理由は、以下の通りです(企業自らが改善計画書の策定を断念した1社を除く)。

  • 改善計画の実行の前提となる社内規程の整備が遅延し、これを解消するための議論が取締役会で行われず、対応方針も示されない
  • 従業員が社内規程の閲覧方法すら把握していない部署が複数存在するなど、コンプライアンス・ガバナンスを重視する企業風土の醸成に相当の時間を要する
  • 問題となる行為に及んだ経営者等の経営責任の明確化が図られないまま、当該経営者等が引き続き改善計画の主導を表明している

これらは内部管理体制等の改善を行うための計画の相当部分に重大な不備が存在し、また、仮に指定を継続しても実効的かつ合理的な改善計画の作成が見込めないケースです。証券取引所は、主に内部統制の無効化による経営者不正が起きる企業のガバナンス体制を問題視しており、経営者による無効化が会計不正の原因となった企業においては、そのガバナンス体制改善に向けて、より誠実かつ真摯(しんし)な対応が求められます。


Ⅲ 事例から見る具体的な課題

ここでは<表2>の中から経営者・役員による実態のない売上計上を公表したサービス業を営む1社を取り上げ、不正が発覚した企業における課題を見ていきます。

本件では、上場当時から在籍する取締役兼CFOが関与した会社資金の横領等の疑義に対し第三者委員会による調査が入った結果、決算訂正が行われました。また、これを受けて証券取引所から同社は改善報告書を徴求されました。

しかし、その約半年後に外部の公的機関より前回調査で発覚しなかった実態のない売上計上等が指摘されたことから、前回調査における委員会とは異なる委員で2度目の第三者委員会による調査が実施され、結果的に、複数年度にわたる決算のさらなる訂正が行われました。

そして、1回目の調査において役職員による電子データの削除が認められた点や、その時の調査が全容解明に至らないまま終了し、決算訂正が不正確かつ不十分であった点等が重視され、証券取引所により特注銘柄への指定措置が取られました。さらに、同社は、証券取引等監視委員会による開示検査に基づく課徴金納付命令を受けました。

本事例から読み取れる会計不正が発覚した後の事後対応の各フェーズ、すなわち、初動対応・実態調査・再発防止策の実行における課題は以下の通りです。

初動対応

  • 証拠保全:役職員により電子メールやチャット等のデータの証拠隠滅が行われた。
  • 内部管理体制の構築:複数の監査役が不正行為を把握していながら徹底的な追及をせず、問題を放置した。

実態調査

  • 内部統制の無効化への対応:不正実行者は内部統制の無効化が容易な立場にあり、資金の不正流出以外にも実態のない売上計上や費用計上時期の意図的な操作など、複数の会計不正が行われていた。

再発防止策の実行

  • 取締役会の監督機能の強化:上場に貢献した不正実行者に対する周囲の過度な信頼や当該実行者の知人が社外役員に就任したことから、取締役会によるけん制が機能していなかった。
  • 三様監査の連携強化:監査に精通する人員の不足により内部監査が形骸化していることに加え、不正の疑義を識別した監査役も会計監査人に情報連携しておらず、三様監査が機能していなかった。
  • 内部通報制度の整備:内部通報窓口の所管が不正実行者であったなど、有効に機能し得る内部通報制度が設置されていなかった。

Ⅳ 事後対応における留意点

第Ⅲ章で挙げた課題について、企業として検討すべき留意点を見ていきます。

初動対応

① 証拠保全:不正の重要な証拠の廃棄・削除は、実態解明や根本原因の分析の妨げとなるため、不正関与者に証拠を隠蔽(いんぺい)する機会を与えないことがポイントです。

  • 不正関与者や、その所属部署の者等を調査チームに関与させず、調査に関する情報が伝わらない体制をつくる
  • 不正関与者に察知されずに証拠を保全するため、証拠(紙資料・電子データ)の保管場所を把握し、閲覧方法を検討する
  • 不正実行者が役員である場合、従業員よりも調査の情報が伝わりやすいため、可及的速やかに関係者の証拠保全を行う必要がある

② 内部管理体制の構築:監査役等が不正に関する情報を把握した場合、その事実確認が適時に行われるよう行動することがポイントです。

  • 不正を認識した監査役等は、取締役会に報告するとともに、具体的な対応が行われているかに注意を払う
  • 不正実行者が経営トップや複数の役員であるなど、報告しても適切な対応が望めない場合には、社外取締役や社外監査役等と対応を協議し、外部専門家の活用も検討する

実態調査

① 内部統制の無効化への対応:不正実行者は、経営トップと同様の地位を背景に内部統制を容易に無効化し得る立場にあったため、あらゆる財務諸表不正が可能な状況であった点がポイントです。

  • 業績目標達成のプレッシャーの有無や実行者が重視しているKPIを把握する
  • 実行者の動機・関心を踏まえて調査範囲を決定する
  • 収益の過大計上・前倒し計上、費用の過少計上・繰延べ計上など、利益を捻出する行為全般に着目した手続きを検討する(予実分析、担当案件の内容確認、デジタル・フォレンジック調査等)

再発防止策の実行

① 取締役会の監督機能の強化:経営者・役員が関与する不正の場合、経営体制の刷新を検討しなければ、有効な再発防止策の策定・実行が期待できません。その体制づくりにおいて留意すべきポイントは以下の通りです。

  • 経営者・役員の選任プロセス、選定基準を明確にする
  • 不正リスク対応の担当役員を選任し、管理部門等からの積極的な情報収集を通じて取締役会において議論すべき重要なリスク情報が取締役会に伝達される体制をつくる
  • 精神的にも外観的にも経営者や他の役員から独立していると認められる者を社外役員として選任する

② 三様監査の連携強化:内部監査担当者と執行部門から独立した監査役が企業のリスク情報に関する積極的な情報収集や相互共有、会計監査人への共有をいかに行うかがポイントです。

  • 監査役、内部監査担当者、会計監査人による定例会を開催する
  • 監査役および内部監査担当者は、会計監査人を含む三者間のコミュニケーションにおいて把握した不正リスクの対応について、監査計画への反映の必要性を検討する
  • 監査役等に対する企業データへのアクセス権限の拡大を検討する
  • 内部監査が円滑に遂行できる体制の整備や外部セミナーの受講等による内部監査担当者の監査に対する理解の底上げを図る

③ 内部通報制度の整備:不正の疑義に係る情報を把握するための方法として、内部通報は有用ですが、役職員が利用しやすい設計になっていることが重要です。

  • 執行部門から独立した者を内部通報の窓口とする
  • 内部通報の存在や通報者の取り扱いを丁寧に全役職員に向けて周知し、その浸透度を定期的に確認する
  • 運用実績の概要(通報件数、是正の有無、対応の概要等)を役職員に開示する(通報者が特定されないよう十分な配慮が必要)

企業による再発防止策の整備・運用が不十分だと、利害関係者から調査の十分性や類似不正の存在、または不正の隠蔽が疑われるケースも有り得ます。その意味で、経営者自らが調査結果を説明できるほど十全に議論が尽くされているかが非常に重要なポイントです。


Ⅴ おわりに

会計不正が発覚した場合、企業のレピュテーションの低下による企業価値の毀損を最小限に抑えることが重要です。事例で見た通り、特に役員が不正実行者である際の内部管理体制の強化は企業の大きな課題であり(無効化リスク対応)、自社のみでは対応が難しい場合は、専門家を利用して当該課題に取り組むことも考えられます。

企業の内部管理体制等を改善するためには、調査に基づく徹底した原因分析や、企業の実情に即した再発防止策の策定・実行および実行状況のモニタリングが欠かせません。会計不正が発覚した企業はこれら全てに誠実かつ真摯に向き合う必要があります。今は問題が起きていない企業においても他社の事例を参考に、平時から十分検討をしておくことが、事後対応の成否を分けるでしょう。



サマリー

最近の会計不正の動向のほか、主な不正事例から、企業における課題と影響を紹介するとともに、それらの不正事例を踏まえ事後対応における留意点について考察します。


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