欧州サステナビリティ・デューデリジェンス指令の採択 本指令のポイントと日本企業への留意点
名越 正貴
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部 プリンシパル
2024年4月24日、欧州議会は、企業のサステナビリティ・デューデリジェンス指令を正式に採択しました。本指令は欧州域内の企業だけではなく、日本企業にも影響があるため、本指令で規定されている義務履行のための取り組みを進める必要があります。
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要点
2024年4月24日、欧州議会は、コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令を正式に採択した。 適用対象となる日本企業を含む企業およびそのバリューチェーン上の企業は、本指令への対応を組み進める必要がある。 適用対象の企業の事業規模に応じて、指令成立の3年後から順次適用が開始される。
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欧州コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令の成立
EUの立法機関である欧州議会は、2024年4月24日、コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令(Corporate Sustainability Due Diligence Directive/CSDDD/CS3D)(以下「本DD指令」という)を採択しました。今後、採択された指令は、秋までに欧州連合官報に掲載されることとなり、掲載日から20日後に施行されます。
本DD指令は、適用対象の企業の規模に応じて、3年後から順次適用が開始されることとなっているため、2024年中に施行された場合には、最も早い企業の場合、2027年中に適用開始となります。本DD指令は欧州域内の企業だけではなく、日本企業にも影響があるため、対応を進める必要があります。
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適用対象企業と日本企業への影響
本DD指令は、従業員数や売上高などについて一定規模以上の企業に、人権および環境への悪影響に対するデューデリジェンス(Due Diligence/DD)の実施を義務付けるものです。企業のデューデリジェンス義務の対象となる人権と環境への悪影響は、企業およびその子会社の操業が発生させているものにとどまらず、企業の供給網などを含むバリューチェーン(Chain of Activities、以下「バリューチェーン」という) 上で発生する悪影響を含みます。また、本DD指令は、EU企業にとどまらず、EU域外の第三国に本社を置き、EU域内に子会社を置くなどして事業を展開する一定の第三国企業に対しても適用されることになっています(表1参照)。
例えば、連結ベースで、EU域内での年間純売上高4億5,000万ユーロ超となる企業グループの最終親会社に適用されるとされているため、当該要件を充足する企業グループの日本の最終親会社は、本DD指令上のDD義務を履行することが求められることになります。適用対象になる日本企業は、本DD指令の順守体制を構築することが必要ですが、本DD指令が直接適用されない場合でも、適用対象企業のバリューチェーンに含まれる日本企業は、自社の事業活動と関連する人権と環境への悪影響の適正管理を適用対象企業から求められる可能性があります。このように、本DD指令は、日本企業に大きな影響を与えることが見込まれます。
従業員数平均1,000 人超、かつ、直近事業年度におけるグローバルでの年間純売上高4億5,000 万ユーロ超
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EU域内での年間純売上高4億5,000 万ユーロ超
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連結財務諸表を採用した、または、採用すべきであった直近事業年度に、連結ベースで①の閾値 (いきち)を満たす企業グループの最終親会社
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直近事業年度の前の事業年度において、連結ベースで①の閾値を満たす企業グループの最終親会社
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従業員数 5,000 人超、グローバル年間純売上高 15 億ユーロ超
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従業員数 3,000 人超、グローバル年間純売上高 9 億ユーロ超
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本DD指令の主な内容
本DD指令は、DD義務の履行として、6つのステップで人権および環境への悪影響に対応することを求めており、また、各ステップで求められる実施事項を具体的に規定しています(表3参照)※2 。企業は、リスクベースのアプローチをとるべきことが規定されており、必要な場合には、自社のバリューチェーン上の深刻度の高い影響に優先的に対応していくことが求められます。対応の優先度の決定にあたっては、人権や環境に対する悪影響の深刻度や蓋然(がいぜん)性を考慮することが必要です。そして、この深刻度は、人権や環境に与える影響の重大性に基づいて判断されるべきものとなります。
バリューチェーン上の人権と環境影響への対応の具体的な在り方は、業種、操業地域、事業規模、内部外部の環境変化など、諸般の状況によって異なり得るものです。そのため企業は、自社が優先すべき取り組み領域の決定方法や、採用するリスク管理手法が、本DD指令が規定するリスクベースアプローチに基づくDD義務の内容をどのように充足するのかについて、証跡と共に説明責任を果たせることが重要となります。そして、本DD指令の各条に規定される取り組みの内容や手続きに関する法的要求事項に適合させていくことが必要です※3 。
なお、DD義務とは別個の義務として、パリ協定の1.5℃目標と整合的な、気候変動緩和のための移行計画(a transition plan for climate change mitigation)の策定と実行義務が含まれている点にも留意が必要です。
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1. デューデリジェンスに関する方針とリスク管理体制の構築
2. 人権および環境に関する実際のまたは潜在的な悪影響の特定と評価
3. 潜在的な悪影響の防止・軽減、実際の悪影響の終了・最小化
4. 苦情処理メカニズムの構築・運用
5. DDの方針および各措置の有効性についてのモニタリング
6. DDの取り組みについての公的な報告
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・人権および環境への悪影響
※ 人権への悪影響:国際人権条約上の権利の侵害および禁止事項への違反
※ 環境への悪影響:測定可能な環境劣化や、生物多様性、水銀や化学物質の取り扱い、オゾン層破壊防止、廃棄物の移動等に関する国際枠組みで規定されている義務および禁止事項への違反
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・企業のバリューチェーン(Chain of Activities)上の経済活動のうちの以下の活動
(上流側)自社が製造する製品/提供するサービスに関連する上流側のビジネスパートナーの活動(以下の活動を含む)
‒ 原材料/製品/製品一部の設計/抽出/調達/製造/輸送/保管/供給、製品/サービスの開発
(下流側)自社製品の流通、輸送、保管に関連する下流側のビジネスパートナーの活動のうち、自社のために、または、自社に代わって実施される活動(=直接的なビジネスパートナー)
なお、間接的なビジネスパートナーによって実施される活動は対象外
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・適用対象企業のバリューチェーン上の人権および 環境に対する悪影響に関する情報や懸念について、適用対象企業に対して通知・申し立てをできる仕組みや手続き の整備
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・DDの各プロセス※4 におけるステークホルダーとの協議
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・故意または過失により DD義務に違反した結果、各国で法的に保護された利益に対する損害が発生した場合、当該損害に対する民事責任が発生する。ただし、その損害が、バリューチェーン上のビジネスパートナーのみによって引き起こされた場合は、損害賠償責任を負わない。
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・バリューチェーンの下流は適用対象から除外
※自社およびバリューチェーンの上流(調達等)は適用対象
※指令施行後2年以内に追加的なDD義務を課す必要性についてレビュー予定
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気候変動に関するパリ協定(1.5℃目標)と整合的な脱炭素移行計画の策定と実行
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適用対象企業のグローバルの売上高に応じた罰金(グローバルの年間純売上高の5%が上限)
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CSDDD (CS3D)でカバーされる事項について自社のウェブサイトや年次ステートメントを通じた開示。ただし、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)上で報告義務がある企業は、CSDDD (CS3D)上の報告義務は免除される。
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本DD指令(CSDDD/CS3D)との関係
欧州委員会は、本DD指令を、企業サステナビリティ報告指令(Corporate Sustainability Reporting Directive、以下CSRD)に基づいて報告する必要がある内容を補完し、明確にするものと位置付けています。このことは、本DD指令が、CSRD上の報告義務がある企業については、本DD指令上の報告義務を免除する旨規定していることからも分かります。CSRDおよび本DD指令の双方が適用される企業は、両指令の法的要求事項の性質の差異に留意しつつ、同時に、両者の相互関連性を正確に理解した上で、本DD指令に基づく取り組み内容とその結果を、CSRDへの対応の一環として開示をしていくことが求められます。
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図 1:CSRDとCSDDD(CS3D)との相関図
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日本企業に求められる対応
本DD指令はEU域外の企業にも適用されるため、日本企業にも大きな影響を与える可能性があります。DDの体制を整えるには時間がかかるため、早めの取り組みが不可欠です。欧州にバリューチェーンを有する企業は、本DD指令についての最新動向をフォローアップしていただくことを前提に、以下の対応を実施することを推奨します。
自社が本DD指令において適用企業となる可能性があるか確認する。 自社が取るべきDDのアプローチに関し、関連する国際ガイダンス(国連やOECDの関連ガイダンス)や、欧州委員会によって今後公表予定の前述の各種ガイダンスなどについての理解を深める。 適用企業となる可能性がある場合には、自社の現在の運用と本DD指令の要求事項のギャップ分析を行い、対応計画を策定する。 自社の事業活動およびバリューチェーンにおけるデューデリジェンスのための自社の方針の策定をはじめ、自社グループ内において、 本DD指令の要件準拠にむけた管理監督体制を構築する。 必要に応じて、外部団体やデータベースなどからサポートや指導を得ることを検討する。 本DD指令の適用対象企業のうち、CSRDも適用される企業は、本DD指令に基づく取り組み内容とその結果を、CSRDへの対応の一環としてどのように開示をしていくべきかについても検討し、CSRD報告に組み込む準備を進める。
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EYにできる対応
EYの日本のチームは、デューデリジェンスの国際的なルール形成の場でも日本代表を務めるなど政策・実務の両面で本分野をリードする第一線のプロフェッショナルや、クロスボーダーを含む人権・環境デューデリジェンスの豊富な経験を有する実務家を擁し、日本においては、2015年から、日本企業の国内外の事業活動、グローバルなサプライチェーン上の人権・環境リスクに対するDD体制の構築・運用に関する支援を提供しています。
日本およびグローバルで、人権、労働安全衛生、環境関連規制の専門的知識を有するプロフェッショナルによる、マクロなレベルでのリスク分析に加え、事業所・サイトレベルの、アセスメントや是正について、多様な業界における豊富な支援実績を有しています。関係国を拠点にするEYの海外メンバーとの連携も日常的に行われています。
私たちは、専門知識と豊富な実務経験に基づく実践的な助言、各国のDD関連規制やCSRDを含むサステナビリティ情報の開示規制などに関する最新動向の把握、そして、グローバル連携などを強みとして、実務に即して、本DD指令(CSDDD/CS3D)の要求事項を順守するために必要となる、人権・環境デューデリジェンス体制の構築支援が可能です。
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サマリー
上記EUの指令はEU域外の企業にも適用され、指令で規定されるDD義務に違反した場合の罰金も高額となる可能性があります。EU域内に製品・サービスを提供している企業は、本指令への適用該当性を確認し、早急に順守に向けた準備を進めることが推奨されます。
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この記事について
名越 正貴
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部 プリンシパル
人権、サステナビリティの分野で、ルール形成と実務に従事。人を尊重し、環境に配慮した社会発展にコミットする。
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