欧州サステナビリティ・デューデリジェンスの義務化に関する立法プロセスの進展 暫定合意のポイントと日本企業への留意点
名越 正貴
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部 プリンシパル
2023年12月14日、欧州議会と欧州理事会は、企業のサステナビリティ・デューデリジェンス指令案の暫定合意に達しました。この法律は欧州域内の企業だけではなく、日本企業にも影響があるため、今後、EUの関連機関間での最終化に向けた協議を注視しつつ、指令案成立後を見据えた取り組みの検討を進める必要があります。
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要点
2023年12月14日、欧州議会と欧州理事会は、コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令案の暫定合意に達した。 今後、適用対象になる可能性がある日本企業を含む企業は、暫定合意の内容を踏まえて、指令案成立後に備えることが望まれる。 2024年中に正式に採択された場合、2027年から28年にかけて、企業に適用が開始される可能性がある。
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欧州コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令案の暫定合意成立
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EUの立法機関である欧州議会と欧州理事会は、2023年12月14日、立法化に向けたプロセスが進行中のコーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令(Corporate Sustainability Due Diligence Directive/CS3D)(以下「本DD指令」という)案について、暫定合意に達しました。
本DD指令は、従業員数や売上高などについて一定規模以上の事業者に、人権や環境への悪影響に対するデューデリジェンス(Due Diligence/DD)の実施を義務付けるものです。事業者のデューデリジェンス義務の対象となる人権および環境への悪影響は、事業者およびその子会社の操業が発生させているものにとどまらず、事業者の供給網などを含むバリューチェーン上で発生する悪影響を含みます。
本暫定合意では、EU企業にとどまらず、EU域外の第三国企業についても、本DD指令の発効から3年後に、EU域内での年間売上高1億5,000万ユーロ超の場合に適用されることになっています。適用対象になる可能性がある日本企業は、本DD指令への対応を視野に入れた検討を進めることが望まれます。なお、本暫定合意によれば、欧州委員会は、本DD指令の適用範囲に該当するEU域外の第三国企業のリストを公表することとしています。
暫定合意の主な内容
今回の暫定合意には、2022年2月23日に欧州委員会による本DD指令のドラフト案の公表以降、欧州理事会、欧州議会をはじめとするEUの立法機関間での主要な論点についての合意が含まれています(以下の表を参照)。
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EU企業:従業員数平均500人超、かつ、グローバルでの前年度売上高1億5,000万ユーロ超
第三国企業:EU域内での前年度売上高1億5,000万ユーロ超
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適用対象となる事業者のバリューチェーンのうち、上流のビジネスパートナーと、流通やリサイクルなどの下流の活動の一部
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人権および環境への悪影響
※ 人権への悪影響:EU加盟国によって批准されている国際人権条約等で規定されている権利への侵害および禁止事項への違反
※ 環境への悪影響:有害な土壌変化、水または大気汚染、有害な排出物または過剰な水消費、または天然資源へのその他の影響など、測定可能な環境劣化
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金融事業者のバリューチェーンのうち、金融サービスの下流は、暫定的にDDの対象範囲から除外される(※ 上流側に対してはDD 義務がある)。もっとも、下流部分に対しても、DD義務の対象に含める可能性を検討するためのレビュー条項が設けられる。
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気候変動に関するパリ協定と整合的な気候変動対応計画の採択義務
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本DD指令への違反に対する適用対象事業者の売上高に応じた制裁金
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今後のステップ
今後、指令案の文言について最終調整作業が残されています。そして、本暫定合意は、今後、欧州理事会および欧州議会によって、承認・採択されることで、EU指令として、正式に成立することになります。
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日本企業に求められる対応
本DD指令はEU域外の事業者にも適用されることが見込まれるため、日本企業にも大きな影響を与える可能性があります。そして、DDの体制を整えるには時間がかかるため、早めの取り組みが不可欠です。欧州にバリューチェーンを有する事業者は、本DD指令についての議論の最新動向をフォローアップしていただくことを前提に、以下の対応を実施することを推奨します。
自社が本DD指令において適用事業者となる可能性があるか確認を行う。 適用事業者となる可能性がある場合には、自社の現在の運用と本DD指令の要求事項のギャップ分析を行い、必要に応じて対応計画を策定する。 自社が取るべきDDのアプローチに関し、関連する国・地域の政策動向や、関連する国際ガイダンス(国連やOECDの関連ガイダンス)等などについての理解を深める。
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EYにできる対応
EYは、企業のバリューチェーン上での人権・環境DD責任に関する国連や国際機関でのルール形成に関し、日本政府代表としてのルール交渉や日本政府のガイドライン策定の検討委員を経験しているメンバーを擁しています。
日本においては、2015年から人権リスク対応支援や、サプライチェーン上の人権・環境リスクに対するDD体制の構築・運用に関する支援を提供してきました。支援実績ある業界は多岐にわたり、グローバルなサプライチェーン上の人権・環境リスクに対応するため、関係国を拠点にするEYの海外メンバーと連携するグローバルな支援経験も豊富です。
私たちは、専門的知識と豊富な支援経験に基づく実践的な助言、各国のDD関連規制の最新動向の把握、そして、グローバル連携などを強みとして、実務に即して、事業者の皆さまにおける人権・環境デューデリジェンス体制の構築支援が可能です。
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サマリー
上記欧州の規制案はEU域外の事業者にも適用されるため、EU域内に製品・サービスを提供している事業者はその該当性を確認し、必要な場合には早めに準備を進めることが強く推奨されます。
サプライチェーン上のサステナビリティ管理は社会的な関心も高まっており、事業者への要求は今後も強まることが想定されています。
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この記事について
名越 正貴
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部 プリンシパル
人権、サステナビリティの分野で、ルール形成と実務に従事。人を尊重し、環境に配慮した社会発展にコミットする。
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