電気自動車は自動車購入に至るまでの過程をどのように作り変えているか

電気自動車は自動車購入に至るまでの過程をどのように作り変えているか


最新のEY Mobility Consumer Indexによると、電気自動車の台頭が自動車小売のデジタル化を推進しています。


要点

  • 自動車の購入に際して、消費者はデジタルファーストの体験を望んでいるが、真に求めているのは、オンラインの利便性と、ディーラーの担当者との直接対話による安心感の両方が得られる購入体験である。
  • 自動車メーカーの中には、メタバースを使った顧客体験の強化に乗り出し、製品発表への活用を始めたものもある。
  • 電気自動車は、業界全体にわたって消費者、ディーラー、自動車メーカー(OEM)間の関係に変化をもたらし、代理店モデルへの転換を加速している。

電気自動車(EV)への移行に対する消費者意識については、製品(航続距離が長く、より魅力的で多彩なモデル)とインフラ(充電スタンドが利用できるかどうか、またその使いやすさとコスト)を中心に語られる傾向があります。

しかし、パワートレイン技術の変化に伴って変化する顧客の期待については、何が語られているでしょうか。他のセクターからの教訓として、新しいノートパソコンやスマートフォンであれ、食事のテイクアウトであれ、モノやサービスを購入する過程のシームレスなデジタル化への期待が消費者の間で高まっていることが挙げられます。

一見したところ、自動車の消費者もこの傾向の例外ではありません。EVの購入者に限らず、自動車購入者の間でもデジタル化が進んでいます。最新のEY Mobility Consumer Index(MCI)によると、すべての自動車購入者の中で、購入を検討している製品に関する情報を収集するためにデジタルチャネル(アプリ、ウェブサイト、ソーシャルメディア)を使っている人は、今や全体の3分の2に及びます。この値はEV購入者では71%に上昇します。これは、EV顧客の方がデジタルへの精通度合いが高いこと、そして、まだ比較的新しいテクノロジーであるEVを購入前に徹底的に調査したいという願望の両方を反映しています。


第1章  自動車購入もオムニチャネルの時代へ
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第1章

自動車購入もオムニチャネルの時代へ

没入型の体験が増加しています。

MCI 2022は、特にEVの台頭が推進する自動車販売のデジタル化の進化についても強調しています。その進化は物理的なエクスペリエンスセンター(製品体験の充実を図るためバーチャルなテクノロジーを駆使したディーラーの一種であることが多い)と高度体験型テクノロジーという両方の手法を通じて遂げており、ここには、拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、および最新かつ最も没入感の高いテクノロジーであるメタバースなどが含まれます。既存メーカーのほとんどはEVモデルのエクスペリエンスセンターを提供しています。EV専業メーカーも徐々に追い付いてきており、一部のメーカーは優れた体験を提供し、新たなベンチマークを確立しています。これらのEVスタートアップ企業に触発され、既存メーカーがエクスペリエンスセンターの提供に至ったケースもあります。この目標に向けて、EVのOEMも同じきっかけに反応しており、専門のテクノロジー企業との提携を通じて消費者体験を対象とするメタバースアプリケーションを開発しています。

ただし実際のやり取りも依然として重要

しかし、見かけは当てにならない可能性があります。自動車は他の小売製品とおおむね類似しているものの、消費者心理においては今でも重要な点で独自性があります。自動車は多額の出費となるため、本人が直接的に体験することが重要です。消費者の大半は依然として、購入前の試乗、そして最終的には苦労して稼いだお金を手放すことの両方に関して、実際にやり取りすることを好みます。オンラインの販売チャネルは増えていますが、実店舗の持つ優位性は変わりません。自動車購入者の中で、購入前の見学と試乗のために従来型のディーラー店舗に行くことよりも、モバイルショールームや高度デジタルショールームを好む人の割合はわずか38%であり、最終的な購入の際にオンラインチャネルを好む人はさらに少数(23%)にとどまります。 

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顧客は誰のものか

デジタル化は、従来の顧客関係を保ってきたディーラーと、そうした関係を持たないOEMとの間の、顧客獲得競争をあおってもいます。EV専業メーカーが先鞭をつけた消費者向けの直接販売モデルは、現在では一部の既存ブランドでも採用され始めました。他のOEMは、ディーラーに代理店の役割を委任することを進めています。車両はOEMまたはOEMの国内販売会社が所有し、代理店には顧客への納車に対する手数料が支払われる仕組みです。  
 

一方、内燃機関(ICE)車の新車販売は、長期的には減少する可能性が高いものの、依然としてかなりの台数です。少なくともあと20~30年間は使用されるであろう、膨大な数のICE中古車のアフターケアとメンテナンスの市場も同様です。特にディーラーは、こうした歴史的なアナログ収益源におけるデジタル化の機会について自問するべきかもしれません。 


このように、自動車の購入に至るまでの過程は、当初の予想よりも複雑で微妙な状況です。OEMとディーラーの両者にとっての成功は、こうした微妙な差異が自らにどのように作用するかを理解すること、そしてシームレスで統合されたカスタマージャーニーの促進に向けて新しいビジネスモデルと収益源を継続的に進化させる意欲を持つことにかかっています。

第2章  デジタルとフィジカルの融合
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第2章

デジタルとフィジカルの融合

個人的な顧客対応には、変わらない威力があります。

オンラインチャネルをオフラインチャネルの補足手段とすることは、今では普通になってきているものの、カスタマージャーニー全体では、本人の直接的な体験が重要であることに変わりはありません。購入に際して、消費者はデジタルファーストの体験を望んでいます。しかし、真に求めているのは、オンラインの利便性と、ディーラーの専門担当者との直接対話による安心感の両方が得られる購入体験です。どのドライブチェーンを選んだかに関係なく、自動車購入者全体の60%以上が、購入前および購入段階でディーラーを訪問する方を選ぶと回答しています。情報収集のためにディーラーとやり取りする方がよい、また、ディーラーで実車を体験したいとの回答は、共に63%でした。新車購入者の64%が、オンラインよりもディーラーから購入したいと回答しました。

自動車購入者全体の57%、そしてEV購入者の60%が、次に自動車を購入する際はディーラーから買うつもりであると述べました。ディーラーはすでに、実体験のみの場から、実体験とオンライン両方の顧客体験の場へと、進化しています。こうしたプロセスを継続し、顧客が重視する個人的要素を残しながら、デジタル化された体験の提供を強化する必要があります。バーチャルと対面の両方の要素を一体化し、購入前段階のデジタルパンフレットやバーチャル製品ツアーから、仕様の策定・注文・販売・アフターサポートまで、顧客がすべての過程を完全にシームレスな方法で体験できるようにすることも、その一部です。
 

デジタルにも期待する自動車購入者

同時に消費者は、プロセスの少なくとも一部で、迅速で便利なデジタルツールを使うことに前向きになっています。例えば、試乗の予約と新車の価格計算をオンラインで行うことに関心があると回答したのは購入者の60%以上に上りました。一方、自動車の仕様注文にオンラインのコンフィギュレーターを使ってみたいとの回答は約50%でした。

EV購入者は一貫して、ICE車の購入者よりもデジタルツールを使う傾向が強いと言えます。これは、EV購入者の方が「デジタル」な考え方の傾向が高いことを反映していると言えますが、EVがICE車よりも比較的新しい購入対象であるという事実の現れとも言えるでしょう。そのため消費者は、EVを購入する際に、なじみのあるICE車を購入する時よりも多くの情報と安心を求めているのです。

購入プロセスの一部がオンラインツールに置き換わった結果、ディーラーへの訪問回数や滞在時間が減少し、それに伴ってディーラーのコストも削減されました。テクノロジーが向上し、その使用がカスタマージャーニーでより多くを占めるにつれて、ディーラーのコストはさらに削減される可能性があります。
 

世代間格差なのか

Z世代、ミレニアル世代、X世代、ベビーブーム世代という4つの年齢層の間に違いがあることは確かですが、「若いほどデジタルに強い」という、一般的な消費者説明のステレオタイプに完全に合致するわけではありません。MCI 2022で検討した4つの年齢層グループ全体で、自動車購入者は、ディーラーへの訪問、本人の直接的な体験、またはその両方を強く好むことが分かりました。最も若い年齢層であるZ世代の自動車購入者では、情報収集、実車体験、そして自動車の購入の際に、ディーラーを訪問し販売員と対話する方がよいとの回答が半数を超えています。最も年齢の高いベビーブーム世代では、自動車購入に至る前述の3段階で対面による体験を好むと回答した割合が70%を超えています。しかし、本人の直接的な体験については、自動車購入者の一部および購入過程のある段階では根強く残るものの、特に新世代の若い消費者の間では、その重要性は徐々に薄れつつあります。

今日、こうした顧客の大多数がフィジカルな(現実の)接点を望んでいるからといって、明日も求めるでしょうか?フィジカルチャネルの必要性は、数年後には減少すると推定されています。新規の自動車プレーヤーは、大規模なフィジカルネットワークへの投資を縮小し、オンライン販売テクノロジーへの投資を増やそうと考えています。実店舗は、莫大な設備投資を伴うことから、非効率なモデルと見なされることが増えています。自動車メーカーは、大規模な実店舗を廃止するか、エクスペリエンスセンターに転換して顧客の購入体験の向上を目指そうとしています。例えば、ある大手EVメーカーはオフライン店舗をやめ、より安価な立地、試乗車両のリモート管理、納車やアフターサービス関連に重点的に取り組んでいます。1

体験におけるデジタルの価値は高まっており、特に若い消費者の間で顕著です。Z世代の65%、ミレニアル世代の69%、X世代の66%、ベビーブーム世代の60%が、購入前の情報収集ツールとしてアプリやオンラインを好んで使用すると回答しています。新車を実際にオンラインで購入したいと回答したベビーブーム世代はわずか13%ですが、この割合はX世代で20%、ミレニアル世代で28%、Z世代では37%に上昇します。

つまり、いわゆる「デジタルネイティブ」であっても、問題はフィジカルかデジタルのどちらかではなく、両方が必要なのです。若い購入者は、デジタル化された体験を好む傾向が強いものの、フィジカルで直接的なやり取りから得られる安心も求めています。このことは恐らく、若年層は購入の経験が浅いこと、そしてZ世代にとって車の購入は、貯蓄額も収入も高いであろう高年齢層の購入者よりも一段と大きな出費であることを反映していると言えるでしょう。


第3章  未来への展望
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第3章

未来への展望

ディーラーのエクスペリエンスセンターが拡大しています。


消費者が購入に伴う行動を従来よりも多くオンラインでできることを期待しているとすれば、消費者の求める体験の品質と性質も変化しています。ディーラーとOEMは共に、ARやVRで強化されたブランド体験を提供しています。AR技術やVR技術を使って購入体験の強化に取り組むEVメーカーもあり、たいていはテクノロジー対応型のエクスペリエンスセンターを通じて行っています。エクスペリエンスセンターでは、AR技術・VR技術を介した車載テクノロジーや新モデルの展示や、バーチャルでの試乗や工場ツアーの体験が可能です。しかも、これらはすべて、現場で実際の在庫を保持する必要がないため、コストやスペースを削減できます。

メタバースでブームを起こす

2022年における最新の、そして恐らくは究極の没入型体験がメタバースです。高度テクノロジー上で提供されるもう1つの世界であるメタバースは、業界の試算によると、芸術やメディアから製造業、不動産に至るさまざまなセクターで、2024年までに8,000億米ドルのビジネスチャンスを生み出すとも言われています。2

見方によっては、メタバースは、すでに多くの場で提供され始めているAR・VRによるブランド体験の最新版へのアップグレードにすぎません。しかし、メタバースの真の商業的可能性は、限界費用がほぼゼロながら利益拡大に向けて非常に多くの収益源を生み出せるチャンス、そしてZ世代の自動車購入予備軍に対する訴求力にあります。彼らは親世代がウェブサイトを求めたように、OEMがメタバースに存在することを当たり前のように求める可能性が高いでしょう。 

私たちの分析によると、EVメーカーは、メタバースによる収益期待の実現性はまだ低いとしても、「作れば、そのうち客はやって来る」というアプローチを採用しており、この新しいテクノロジーの活用に余念がありません。自動車メーカーの数社はメタバースを使った顧客体験の強化に乗り出しています。全体的なブランドプロモーションを優先するメーカーもあれば、製品発表への活用を始めたメーカーも少数ながらあります。
 

流通のジレンマ

EVは本質的にICE車よりも維持の手間がかかりません。このことは、(一部の従来型OEMをも含めた)EVの直販化を促進するとともに、業界全体にわたって消費者・ディーラー・OEM間の関係に変化をもたらし、代理店モデルへの転換を加速する要因となっています。

代理店モデルでは、従来はディーラーが保有していた販売前の車両在庫の所有権がOEMまたは販売会社にとどまることとなります。これはOEMにとって利点となります。第一に、ディーラーとOEMのシステム間で繰り返されるやり取りがはるかに減り、摩擦が生じにくくなるため、統合されたシームレスなカスタマージャーニーの提供が容易になります。また、価格設定がより適切に制御できるようになり、アップセルやクロスセルの機会が途中で何度か得られるようになります。そして、代理店モデルはOEMに顧客とのより直接的なつながりをもたらします。
 

変化をもたらす代理店

ディーラーにとって、代理店モデルは損得相半ばする方式です。ディーラーは、車両1台当たりの固定手数料を得る(さらに、店舗の運営が簡素化され床面積も小さくて済むためコストの削減が見込める)見返りに、OEMを通じて注文と支払いが済んだ車両の「ラストワンマイル」の流通と納品の役割を担います。

EVのアフターサービス要件がICE車よりも低いことを考えると、ディーラーがいかに長期顧客との既存の関係を活用して代替の収益源を新たに生み出すことができるかは、こうした変化が続くにつれて、重要な考慮事項になるでしょう。

流通のジレンマに対する「万能」の解決策は今のところ存在しません。OEMは、直接販売・ディーラー販売・代理店モデルの適切なバランスを見つけようと試行錯誤しています。直接販売のみから始めたEV専業メーカーの中には、独自のディーラーネットワークの構築を検討している企業もあれば、直接販売を優先して実店舗のレベルを下げている会社もあります。対照的に従来型のOEMでは、EVについては直接販売に限定している企業がある一方で、より統合された体験の提供と収益機会の最大化に向けて、ディーラー店舗の床面積の適正化と再構成を進めている企業もあります。こうした傾向を考えると、実店舗による小売ネットワークは将来的により密度の低いものとなり、カスタマージャーニーのデジタル化が一段と進むにつれて、OEMとディーラーはオムニチャネルモデルを活用していくでしょう。
 

シームレスな明日に向けて

最高の製品、最も優秀な営業担当者、そして最も競争力のある取引が販売の獲得を意味するとは言えなくなった世界に、ディーラーとOEMはすでになじんでいます。次は、オンラインやバーチャルで最高の体験を提供してどれだけ感動させるかを競い合う段階から、生涯にわたって最高の顧客体験を提供できる企業へと進化する必要があります。

顧客体験の目標は、オンライン、オフライン、バーチャルの各要素をデジタルでシームレスに融合することです。OEMやディーラーはこれまでに、こうした体験に関する個々の要素の多くをテストし、開発してきました。現在の課題は、それらを統合し一体化する最善策を見付けることです。OEMであれディーラーであれ、明日のリーダーとなるのは、消費者が期待するシームレスな購入体験を提供する企業です。消費者が引き続き必要とする現実の接点は維持され、消費者が選択するあらゆる媒体が使われることになるでしょう。

最後に、旧来の製品中心の世界観と流通モデルから離れ、シームレスで統合された未来モデルへと移行していく中で、OEMやその他のステークホルダーが考察すべき重要な3つの事項を示します。

  1. ディーラーへの継続提供:代替流通モデルに移行するには、役割、収益機会、およびディーラーからの期待を変える必要があります。ディーラーを味方に付けておくことは、OEMが最終顧客との距離を縮めようとする際に非常に重要です。
  2. デジタルスキルの向上:新しい時代にはスキルセットの強化が必要です。エクスペリエンスセンターでの業務は、従来のショールームと同じではありません。OEMがオンラインとオフラインの両方をうまく統合したいと考えるのであれば、デジタル研修と技術研修を継続して提供する必要があります。
  3. 必要な投資の評価:新しいデジタルインフラやエクスペリエンスセンター(および前述のスキル)には、OEMからのより大規模な投資が必要になります。 

  1. Tesla weighs bringing “Tesla Center” strategy to China and closing retail stores,” Electrek website, 15 September 2022.
  2. Metaverse may be $800 billion market, next tech platform,” Bloomberg website, 1 December 2021.


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    サマリー

    未来の自動車の購入体験には、オンライン、オフライン、およびバーチャルの各要素の組み合わせと、消費者が依然として望んでいる個人的な要素が含まれるでしょう。


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