EYのグローバルインテグリティレポート2022では、過去最高となる回答者の97%が、企業のインテグリティ(誠実性)が重要であることに同意しています19。しかしながら、上級管理職は企業のインテグリティプログラムの有効性を過信していることが多く、言葉と現実の間のいわゆる「SAY-DO-GAP(言行の不一致)」が広まっています。このことは、企業のESGへの取り組みに影響を与え、グリーンウォッシングの機会の増大につながることが推測されます。
こうした背景から、グリーンウォッシングは、企業の発言(言っていること)と行動(実際に行っていること)との間の不一致とみなすことができるでしょう。
上級管理職と役員は、自分たちの発言に裏付があることを確認すべきです。裏付けがない発言では、商業面への影響やレピュテーションの低下、法律や財務上のリスクを負う可能性があることに気を付けなければなりません。さもなければ、管理責任とコーポレートシチズンシップの基本原則(すなわち、企業のインテグリティ)に違反したとして責任をも問われかねません。
今、金融サービスセクターで何が起こっているかを考えてみてください。企業が実施する投資と販売する製品の双方に対して説明義務があることを確認するため、世界中で広範囲にわたって規制が広まっています。
「いわゆる『グリーンな』ファンドに投資しようとする場合、そのファンドがその名にふさわしいファンドであることを示す文書の用意がすぐにも必要です。そして、使われている指標や情報が最新であるかどうかや、適切かつ法令に準拠して発信されているかどうかを確認しなければなりません」とSarkarは述べています。
気候関連の報告とさまざまな危機
SAY-DO-GAPが公になると、企業のレピュテーションやCEO(最高経営責任者)のキャリアは瞬く間に損なわれます。企業のESGパフォーマンスに関する厳格な情報開示義務が施行されるのに伴って、これらのレピュテーションはさらに厳しく精査されることになります。情報開示に関する精査の対象となり、同業他社間での掘り下げた分析や国境を超えた法執行に直面している企業は、公に向けた声明を(戦略、データ、報告を通じて)検証方法を理解する必要があります。その根拠がなければ、声明の意図に関係なく、レピュテーションリスクはグリーンウォッシングと等しいものに捉えられかねないのです。「ESGでは、脅威がどこで発生し、それにどのように対応すればよいかを見極めるのが非常に困難です。グリーンウォッシングの問題を迅速かつ効果的に管理する能力の確保は、取締役会の議題のもっと上位に掲げられる必要があるのです」と、Ernst & Young LLP Forensic & Integrity ServicesのPartnerであるDavid Higginsonは述べています。同氏はまた、自分たちの決定が社会の監視下に置かれる場合、取締役/役員の58%と一般従業員の37%が、「かなり懸念する」または「非常に懸念する」と回答しているEYの調査結果を引用しています20。
インテグリティは、特に企業がさまざまな倫理的ジレンマに直面しているため、定義するのが難しい概念になる可能性があります。重要なのは、目に見えないものを見えるようにし、企業の文化と行動にインテグリティを組み込むことによって、企業と社会の相互依存に向き合うことです。しかし、EYがグローバルインテグリティレポート2022で調査した回答者のうち、規制問題(43%)や倫理(38%)に関する定期的なトレーニングの提供、行動に対する制裁の適用(32%)、サプライヤー(30%)や顧客(28%)に対するデューデリジェンスの実施など、インテグリティ強化対策の基本を活用しているのは、回答者の半数未満でした。
ここで注意すべきことは、サプライヤーも同様のプレッシャーにさらされていることです。等しく有利な機会に引き込まれる可能性があり、その結果、クライアントや顧客と同様にこうした決定を正当化することが考えられます。言い換えれば、まったく同じ不正のトライアングルが存在するため、グリーンウォッシングとまったく同じリスクが存在し、その影響がサプライチェーン全体に及ぶ可能性があると言えます。
企業は、事実を前面に押し出し、ESGに対しては「伝えて即示す」アプローチを採用する必要があります。規制当局がこうした戦略を把握しつつあるため、役員も同様に掌握する必要があります。例えば、一部の企業は、輝かしいCSR報告における主張が公式のESG報告と一致していることを保証するために、すでにデータサイエンスを採用しているところです。
報告内容の整合性がとれており、必須要件であれば、曖昧さが軽減し、報告に対する信頼性が高まるでしょう。そして確実に言えることは、あらゆる利害関係者からのプレッシャーが高まるにつれて、企業は、温室効果ガス排出量などのような、サステナビリティの重要課題や関連する指標(多くの場合、第三者保証付き)について、外部とのコミュニケーションがますます必要となるということです。こうしたコミュニケーションは、企業とその全利害関係者との社会的契約の基盤となります。さらには、サステナビリティを企業戦略の中⼼に据えることで、経済的利益が得られるでしょう。環境パフォーマンスの向上に取り組んでいる500社以上の企業を対象とした最近の調査では、69%が気候変動への取り組みから予想以上の財務的価値が得られていると回答しています21。
推奨事項と取るべき行動