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あなたの会社はインテグリティ規範を守っていますか?

新興国市場では、インテグリティ規範が向上傾向にあるとはいうものの、混乱が続く状況下で不正行為を防ぐには、強力なコーポレートガバナンスが求められます。

本稿はEYグローバルインテグリティレポートの中から、新興国市場の観点で情報を取りまとめたものです。

要点

  • 新興国市場の回答者の大多数が、過去18カ月間でインテグリティ規範が向上したか、変わらないと回答している。
  • 急速に変化する時代において、インテグリティ規範の維持が難しいことを回答者は認めている。
  • 企業はコーポレートガバナンスを強化し、インテグリティ文化を構築し、規制関連のコンプライアンスを越えた、インテグリティの価値を示す必要がある。

EY Japanの視点

EYの調査によると、先進国では34%(日本は36%)、新興国では47%がインテグリティ規範が向上したと回答しており、特に新興国市場におけるインテグリティへの意識の高まりが顕著です。

新興国市場には多くの日系企業が進出しているものの、子会社の取引先に対するデュー・ディリジェンスの実施は欧米企業ほど徹底されていません。そのため、子会社の従業員の親族が経営している企業であることを知らずに取引し、時として他の取引先よりも高い仕入価格で材料などを仕入れてしまっているケースもあり、欧米企業とのコンプライアンス意識の差が出ています。

新興国市場でのコンプライアンス意識は特に若年層ほど高く、意識の低い企業で働くことを敬遠する傾向にあります。SDGsやESG経営を掲げ、企業の持続的な成長を目指すためには、今や意識の高い人材が必要ですが、これが低い企業では、人材の確保が困難になるだけでなく、現人材の流出も懸念されます。このような観点からも、インテグリティやコンプライアンスへの意識を今一度見直してみる必要があるのではないでしょうか。


EY Japanの窓口

荒張 健
EY Japan Forensic&Integrity Services Leader

新興国市場の経済は、いまだ続く世界的なパンデミックからの回復を目指す中で数多くの課題に直面しています。サプライチェーンにおける混乱、アジア地域での地政学的緊張、スリランカの金融危機、ウクライナ情勢などの危機が、企業とその従業員に非倫理的行動を強いかねません。

その一方、EYグローバルインテグリティレポート2022によれば、新興国市場でインテグリティが向上していることが分かりました。調査対象となった新興国市場(33カ国、27業種)の役員、上級管理職、管理職および一般従業員2,756人のうち、92%が過去18カ月間でインテグリティ規範が向上したか、変わらないと回答しています。

また、ほぼ全ての回答者(97%)が企業のインテグリティは重要だと述べています。ここ数年、従業員が管理職に期待する行動規範が高くなってきたと指摘する回答者は、4分の3以上(76%)です。

これは朗報である一方、62%が急速に変化する時代や厳しい市場環境においては、組織がインテグリティ規範を維持することは難しいと認めています。パンデミックによりビジネスを誠実に遂行することが難しくなっていると回答した人は半数(46%)近くでした。

新興国ではインテグリティが引き続き向上しつつあるものの、今回の調査結果からは、企業のパフォーマンスと具体的なアクションとの間に存在する、インテグリティの「Say-Doギャップ(言行の不一致)」の解消に多くの課題が残っていることが分かりました。EYでは、新興国市場の経営幹部が外部からの脅威を最小限に抑え、長期的価値を持続させる一助となるよう、インテグリティ規範と良好なコーポレートガバナンスを維持または向上させる5つの方法を提案しています。

「グローバルインテグリティレポート:emerging markets perspective 2022」全文をダウンロードする(英語版のみ)

1. 規制関連のコンプライアンスにあるギャップに留意する

制裁措置を講じることでインテグリティに欠ける行動に対処してきたと回答した新興国市場の回答者が36%(2020年の32%から若干増加)だった一方で、関連する法律、規制または職業人としての要求事項に関する定期的な研修を実施していると答えた回答者も2020年の39%から45%に増えました。さらに、3分の1近く(31%)が誠実な行動を奨励するインセンティブ制度を設けていると回答しています。

その一方で、今回の調査結果からは、新興国市場の回答者の38%がインテグリティ規範または規制に違反したとして、規制当局から措置を講じられたことがあると答えていることも分かりました。「多くの場合、新興国市場の政府はビジネスや投資がしやすい環境を醸成しています。積極的に執行措置を講じれば、経済成長と経済的利益があるとして引く手あまたの投資誘致には逆効果とみなされるでしょう」とEY ASEAN and Singapore Forensic & Integrity Services LeaderのRamesh Moosaは指摘します。従って、規制当局が本来措置を講じることができた回数は、実際にはもっと多かったかもしれません。

取るべきアクション:

  • 組織は、全社的に強力なコーポレートガバナンスを導入することが必要です。インテグリティとはコンプライアンス項目のチェックボックスを形式的にマークすることや単なるリスク管理活動だけではないと受け止めなければなりません。経営幹部には、組織全体で強力なコーポレートガバナンスを導入することで、規制当局による執行措置に対応し、資産とレピュテーションを真に守る体制を構築することが求められます。これら全てが、ビジネスに持続可能な長期的価値をもたらすことを可能にします。
  • 企業レベルでも、個人レベルでも、決まりきった研修から、インテグリティの重要性についての教育重視の姿勢へと移行しなければなりません。言われるがまま、よく考えずに法令や行動規範に従うのではなく、企業が活動をなぜ、どのように行うかを理解すれば、従業員のパフォーマンスは向上するはずです。このアプローチを取ることで、インテグリティは単に法的必要事項にとどまらず、道徳的に不可欠なものへと変化していくでしょう。

2. ヒト中心のインテグリティ文化を構築する

不正を行うのはシステムやプロセスではなく、人間であるという点を認識することが大切です。今回の調査でインテグリティ規範の向上が浮き彫りになったとはいえ、倫理基準をねじ曲げることをいとわない従業員の数が増えているのも事実です。「自組織における非倫理的行動は、関与者が上位者またはハイパフォーマーである場合、容認されることがよくある」に同意した役員は40%でした。

調査対象となった役員と上級管理職のほぼ半数(52%と47%)が、「倫理的行動と引き換えに短期的な利益を追求する管理職が自組織にいる」に同意しています。賄賂を支払ったり、受け取ったりする可能性があると認めた役員は13%、財務記録を改ざんする可能性があると認めた役員は14%です。

倫理基準をねじ曲げる
の役員が「自組織における非倫理的行動は、関与者が上位者またはハイパフォーマーである場合、容認されることがよくある」に同意と回答。

正しく行動する文化が根底になければ、どんなに強固なガバナンス体制やコンプライアンス体制も効果を発揮できません。だからこそ、強固なインテグリティ文化の構築は、それを支えるガバナンスポリシーや統制環境と同様に重要です。パンデミック下で在宅勤務ポリシーが導入されるようになり、強固なインテグリティ文化と説明責任の必要性が一段と高まってきました。

「倫理的行動が支持され、報われ、また、正しく行動するよう従業員を啓発するインテグリティ文化を構築するメリットは数多くあります。規制リスクを軽減し、従業員の士気を高め、また、約束を果たせる会社としてステークホルダーからの信頼を築く一助となるでしょう」とEY Global Markets and India Forensic & Integrity LeaderのArpinder Singhは述べています。

取るべきアクション:

  • インテグリティを巡り、一貫したトップの姿勢を示すリーダーシップを確立する(役員レベルとインテグリティの推進を担う幹部レベル、そして経営幹部の全員が対象)。従業員は、インテグリティが組織の最高レベルから現場へと浸透していく様子を確認する必要がある。
  • インテグリティ文化を支える人材を採用し、信条の枠組みの中で組織の価値を実践するよう啓発する。倫理関連の研修や教育をサポートし、正しい判断を下す手助けとなるツールを導入する。
  • インテグリティを評価する重要業績指標(KPI)を策定し、業績(パフォーマンス)を報酬、昇進と連動させるとともに、後継者育成につなげる。
倫理的行動が支持され、報われ、また、正しく行動するよう従業員を啓発するインテグリティ文化を構築するメリットは数多くあります

3. 声を上げる文化を奨励する

新興国市場の回答者全般は、過去3年間で通報できる環境が改善したと考えています。39%が従業員は懸念事項を通報しやすくなったと回答し、30%が通報者の保護が強化されたと表明しました。ちなみに、問題を通報したことがあると答えた新興国市場の回答者は41%です。

その一方で、今回の調査では新興国市場の回答者の36%が、懸念があるため通報しないという選択をしました。その最大の理由として回答者が挙げたのは、自らの懸念事項に耳を傾けてもらえると思えないことです。3分の1近く(31%)が、安全性に対する不安から不正行為を通報しないと回答しています。

新興国市場

自身の安全性に対する不安から不正行為を通報しない回答者の割合

ケニア

50%

ナイジェリア

48%

南アフリカ

41%

インド

41%

「アフリカでは報復を受ける恐れに加え、通報した場合の保護が限定的か、あるいは全くないことから、通報者が通報に慎重になる傾向が強まっています」とEY Africa Forensic & Integrity Services LeaderのSharon Van Rooyenは指摘します。「最近、通報者の窮状が世間の注目を集めるようになってきました。彼らは生計を立てるために、しばしば命を危険にさらすような状況に置かれています。法制度を強化し、通報者を確実に保護する必要性が高まっているのは明らかです」

取るべきアクション:

  • 不正行為を誠実に通報する機会と保護を提供することで、従業員が安心して通報できる体制を整備する。
  • 幅広いガバナンス体制の一部として通報制度を構築し、強化する。これは、特にリモートワークやハイブリッドワークに関わる場合に当てはまる。
  • 他の指標やマイルストーンと同じようにインテグリティを重視する。インテグリティをビジネス上の最優先課題の1つに据えることで、良き企業市民、良き企業として、競合他社との差別化を図ることができる。

4. データを保護し、会社を守る

全体として、新興国市場の回答者の27%が自組織の長期的な成功を脅かすリスクの第3位に挙げたのは、サイバー攻撃とランサムウェア攻撃です。このような懸念結果はある意味当然のことでしょう。新興国市場の回答者の5人に1人(19%)が、過去12カ月間で自組織が重大なサイバーセキュリティ侵害を受けたと認めていることを踏まえると、さらに上位のランクでも妥当と言えるかもしれません。

新興国市場

過去18カ月間で自組織が重大なサイバーセキュリティ侵害を受けたと認めた回答者の割合

インド

43%

アラブ首長国連邦

43%

ペルー

40%

タイ

36%

こうした調査結果が出た反面、データセキュリティ侵害から組織を防御するために必要なあらゆる対策を自組織が間違いなく講じていると答えた新興国市場の回答者は88%、顧客データのプライバシーを保護する対策に自信を示した回答者は86%に上りました。

データセキュリティ対策に対する自信
の新興国市場の回答者が、データセキュリティ侵害から組織を保護するために必要なあらゆる対策を自組織が間違いなく講じていると思うと回答。

今や世界中の多くの国と地域でプライバシーが話題になっており、新興国市場の企業がさらに多くのことに取り組むチャンスです。

取るべきアクション:

  • 強固なサイバーセキュリティプログラムとデータインテグリティプログラムを策定し、導入する。その結果、ステークホルダー間の信頼関係を築き、また、ステークホルダーがさまざまな国と地域により異なるデータプライバシーとサイバーセキュリティの要求事項を順守する際の一助となる。
  • 適切なテクノロジーツールとそのトレーニングにより、サイバー攻撃を検知し対応する。
  • サイバーセキュリティを全員が担う文化を構築する。

5. ESGストーリーのグリーンウォッシングを避ける

新興国市場では環境・社会・ガバナンス(ESG)情報開示の取締役会での議題化に向けた動きがなかなか進んでいません。回答者の10人に1人以上(12%)が自社の長期的存続に対する最大のリスクとしてこのことを挙げています。自社がCSR(企業の社会的責任)ポリシーやESGポリシーを定めていると答えた新興国市場の回答者は、全体の3分の1(33%)でした。その一方で、今回の調査結果から、ESGポリシーの内容について企業が述べていることと、説明責任を果たす姿勢の示し方の間にギャップがあることが分かりました。

グリーンウォッシング(うわべだけの環境への配慮)は、組織の真のESGパフォーマンスについて従業員、顧客、そして社会を納得させる上で、ますます効果を失いつつあります。「中東では、世間一般の人々や投資家、ステークホルダーの間で自社のインテグリティ規範が論じられる企業が増え、また企業の社会的側面やガバナンス面が注目を集めています。環境に加え、倫理やインテグリティの高い基準や規範を守らない企業は今後、ESGの全評価項目のスコアが低くなるはずです」とEY MENA Forensic & Integrity Services LeaderのNader Rahimiは述べています。

取るべきアクション:

  • 各部門に階層的かつ不可欠な要素としてESGを組み込んだ業務フレームワークを構築する。
  • データを活用してインテグリティ文化を評価する。
  • プロセスと統制を構築し、ESGプログラムによる長期的価値創造を可能にする。
     

今こそ、インテグリティの「Say-Doギャップ」を解消する時

私たちがクライアントと仕事をする中で、組織がインテグリティ戦略を事後対応重視から事前対応重視へと移行させている状況を目にしてきました。多くの組織がインテグリティ意識向上に向けた研修や不正リスクを評価する機会を増やしています。これは企業のインテグリティリスクの理解と管理に不可欠です。また、先を見越した第三者に対するデューデリジェンスの実施も重視されるようになってきました。

とはいえ、これで満足してはいけません。消費者や規制当局、投資家の間で透明性を求める声が一段と高まる中、新興国市場のリーダーは企業のインテグリティにおいて「有言実行」し続け、インテグリティの「Say-Doギャップ」を解消する必要があります。

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    サマリー

    EYグローバルインテグリティレポート2022の調査結果から、新興国市場ではインテグリティが向上していることが分かりました。その一方で、半数近くが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックの影響により、誠実に行動することが難しくなったとも認めています。また、経済面、地政学面、雇用面の問題が続く限り、不正行為への誘因もなくならないでしょう。新興国市場の組織は、コーポレートガバナンスの強化とインテグリティ文化の構築を図り、不正行為に対抗し、長期的価値を守らなければなりません。


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