建設業 第6回:建設業会計Q&A

2024年4月24日
カテゴリー 業種別会計

EY新日本有限責任監査法人 建設セクター
公認会計士 今村 裕宇矢/川井田 直人/竹俣 勝透/橋之口 晋

1. はじめに

第6回では、建設業で会計実務を行うに当たり、基礎的な内容ではあるものの会計処理方法で時折迷う部分について、Q&A形式で記載しています。会計処理を説明するに当たり、実務慣行は知っているものの根拠となる会計基準がよく分からないときなどにご使用ください。ただし、文中の意見は筆者の私見であり、法人としての公式見解ではないことを、あらかじめお断りします。

また、当Q&Aは2024年2月時点の会計基準等に基づき作成しています。なお、今後、定期的な更新を予定しています。

2. Q&A項目一覧

No. 質問内容
1 当社には短期間で完成する工事もあるのですが、収益認識について、このような工事も含め全ての工事に一定の期間にわたり収益を認識する方法を適用しなければいけないのでしょうか?
2 一定の期間にわたり収益を認識する方法を適用していた工事が中断してしまい、再開の目途がたちません。工事原価総額も見積ることができない状況になってしまったのですが、どのように会計処理すればいいですか?
3 一定の期間にわたり収益を認識する方法の適用範囲に、会計基準と法人税法での違いはありますか?
4 赤字工事に一定の期間にわたり収益を認識する方法を適用しており、工事損失引当金を計上しています。法人税法上、損金処理できますか?
5 一定の期間にわたり収益を認識する方法を適用している場合、未完成の工事でも完成工事高に対応する消費税を計上する必要があり、結果として早期に納税することになるのでしょうか?
6 未完成の工事に対応する支出である未成工事支出金に関する消費税について、税法上の取扱いを教えてください。
7 積算費用や設計費用等の受注を獲得するための費用の会計処理は、会計基準上どのように定められているか教えてください。
8 従来の工事契約会計基準における工事進行基準で計上された未完成の工事に関する未収入金(完成工事未収入金)と収益認識会計基準における契約資産と顧客との契約から生じた債権の違いについて教えてください。
9 外貨建ての工事を受注しましたが、一定の期間にわたり収益を認識する方法を適用する場合に、完成工事高・完成工事未収入金(契約資産、顧客との契約から生じた債権。質問8参照)は、どのように換算すればいいですか?為替差損益は発生するのでしょうか?
10 一定の期間にわたり収益を認識する方法で計上された、未完成の工事に関する未収入金は、貸倒引当金の計算対象となりますか? また、金融商品の時価等に関する事項で開示すべき対象となりますか?
11 建設業におけるジョイント・ベンチャー(JV、共同企業体制度)とは何ですか? また、目的別分類、施工別分類とは何ですか?
12 当社がスポンサーで、共同施工方式のジョイント・ベンチャー(JV、共同企業体制度)を行うことになりましたが、分担施工方式の場合と比べて、どのような会計処理の違いが生じますか?また、当社は独立させずに社内で行う会計処理を行っていると聞きましたが、どのような意味なのでしょうか?
13 ジョイント・ベンチャー(JV、共同企業体制度)の会計処理で、協定原価の給与があることにより、JV上の当社損益と、当社の実際の損益は異なると聞いたのですが、どういう意味でしょうか?
14 有価証券報告書の開示で、個別財務諸表は会社法の様式に合わせた開示が認められますが、建設業では適用できないと聞きました。なぜ、適用できないのでしょうか?

3. Q&A

質問1

当社には、短期間で完成する工事があるのですが、収益認識について、このような工事も含め全ての工事に一定の期間にわたり収益を認識する方法を適用しなければいけないのでしょうか?

(回答)

全ての工事に一定の期間にわたり収益を認識する方法を適用するとは限りません。

期間がごく短い工事契約については代替的な取扱いが認められており、契約における取引開始日から完全に履行義務を充足すると見込まれる時点までの期間がごく短い場合には、一定の期間にわたり収益を認識せず、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識することができます。

工期がごく短い工事契約は、通常金額的な重要性が乏しいと想定されることから、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識したとしても財務諸表間の比較可能性を大きく損なうものではないと考えられるためです。

【収益認識適用指針第95項、第96項、第168項、第169項】

質問2

一定の期間にわたり収益を認識する方法を適用していた工事が中断してしまい、再開の目途がたちません。工事原価総額も見積ることができない状況になってしまったのですが、どのように会計処理すればいいですか?なお、進捗度の見積りはコストに基づくインプット法を採用しています。

(回答)

収益認識会計基準においては、進捗度を合理的に見積ることができるか否かも含め、履行義務の充足に係る進捗度を各決算日において見直すことが求められています。進捗度の見積りにコストに基づくインプット法を採用している場合には、工事原価総額を見積ることができないと進捗度も見積ることができません。このため、事後的な状況の変化によって履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができなくなった場合で、当該履行義務を充足する際に発生する費用を回収することが見込まれる場合には、当該決算日から原価回収基準により会計処理する必要があります。また、その後の決算日に、進捗度を合理的に見積ることができるようになった場合には、再び進捗度に基づき一定の期間にわたり収益を認識する方法を適用することとなります。

【収益認識会計基準第43項、第44項、第45項、第154項】

質問3

一定の期間にわたり充足される履行義務の適用範囲に、会計基準と法人税法での違いはありますか?

(回答)

会計上、一定の期間にわたり収益を認識する方法を適用した工事については、法人税の計算上、法人税法上の工事進行基準(工事の請負に係る収益の額及びその工事原価の額に当該事業年度終了の時におけるその工事に係る進行割合を乗じて計算した金額から、それぞれ当該事業年度前の各事業年度の収益の額とされた金額及び費用の額とされた金額を控除した金額を当該事業年度の収益の額及び費用の額とする方法)が適用されます。また、法人税法及び法人税基本通達においては、会計上、一定の期間にわたり収益を認識する方法により収益認識を行うことが認められています。したがって、実務上、会計基準と法人税における一定の期間にわたり充足される履行義務の適用範囲は同様であると考えられます。なお、法人税法上、長期大規模工事の要件に該当する工事については、工事進行基準の適用が必須となるため留意が必要です。

長期大規模工事とは、①工事期間が1年以上、②請負金額が10億円以上、③対価の50%以上が引渡しの期日から1年を経過する日後に支払予定、の全ての要件を満たす工事となります。ただし、以上に該当する場合であっても、工事の進捗度が初期段階の場合は(事業年度末において着工の日から6カ月を経過していない、もしくは工事進行割合が20%未満)、工事進行基準の適用は強制されません。

【法人税法64条、法人税法施行令129条、法人税基本通達2-1-21の4】

質問4

赤字工事に一定の期間にわたり収益を認識する方法を適用しており、工事損失引当金を計上しています。法人税法上、損金処理できますか?

(回答)

工事損失が発生する工事でも、法人税法上、工事進行基準は適用され、赤字額のうち工事が進捗した部分に対応した損失額は損金処理されます。しかし、工事損失引当金相当額部分は損金算入が認められていないので、工事損失引当金部分のみ加算する必要があります。

【法人税基本通達2-4-19】

質問5

一定の期間にわたり収益を認識する方法を適用している場合、未完成の工事でも完成工事高に対応する消費税を計上する必要があり、結果として早期に納税することになるのでしょうか?

(回答)

消費税法上、請負による資産の譲渡等の時期は、原則として目的物の引渡日とされており、工事進行基準を適用している工事であっても同様です。そのため、会計上、一定の期間にわたり収益を認識する方法を適用して未完成の工事に完成工事高を計上している工事でも、消費税法上は工事物件の引渡時に仮受消費税を認識するのが原則的な処理となります。

なお、会計上の処理と合わせ、一定の期間にわたり収益を認識する方法により計算した完成工事高の額だけ、資産の譲渡等を行ったものとする処理も認められており、この場合は、工事物件の引渡前に仮受消費税を認識することとなります。

【消費税法4条、17条】

質問6

未完成の工事に対応する支出である未成工事支出金に関する消費税について、税法上の取扱いを教えてください。

(回答)

原則として、未成工事支出金として処理されており、完成工事原価となっていない場合でも、資産の譲受け、又は役務の提供を受けた課税期間に仕入税額を控除します。そのため、対応する工事が完成したかどうかには左右されません。ただし、継続適用を条件として、完成工事原価として処理した課税期間の課税仕入れとする処理も認められています。

【消費税法30条、消費税法基本通達11-3-5】

質問7

積算費用や設計費用等の受注を獲得するための費用の会計処理は、会計基準上どのように定められているか教えてください。

(回答)

受注獲得のための費用に関しては、日本の会計基準上、具体的な会計処理方法は明示されていません。実務上は、受注の可否が判明するまで仮払金や未成工事支出金等の資産として計上する会計処理や、発生時に即時費用化を行う会計処理等が考えられます。なお、資産として計上する場合には、計上できる支出内容の範囲を明確にしておくこと、及び決算期において受注可能性を評価することが必要となります。

質問8

従来の工事契約会計基準における工事進行基準で計上された未完成の工事に関する未収入金(完成工事未収入金)と収益認識会計基準における契約資産と顧客との契約から生じた債権の違いについて教えてください。

(回答)

従来の工事契約会計基準における工事進行基準適用工事では、工事の進捗に応じて貸借対照表に完成工事未収入金が計上されましたが、収益認識会計基準では、この完成工事未収入金が、契約資産と顧客との契約から生じた債権に区別されることになります。

契約資産とは企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利(ただし、顧客との契約から生じた債権を除く。)、顧客との契約から生じた債権とは、企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利のうち無条件のもの(すなわち、対価に対する法的な請求権)と定義されています。

具体的には、従来の工事進行基準では収益認識時点から入金日までの期間において完成工事未収入金として表示されていましたが、収益認識会計基準においては、収益認識時点から対価の受領期限(中間払い等の請求権の確定期限)までの期間は「契約資産」として表示されると考えられます。当該資産の入金前に対価の受領期限が到来した場合、完成工事未収入金等の「債権」に振り替えられます。ただし、実務上は収益認識時点から入金までの間、完成工事未収入金等として表示されることが多いものと考えられます。なお、契約資産と顧客との契約から生じた債権のそれぞれについて、貸借対照表に他の資産と区分して表示しない場合には、それぞれの残高を注記することになります。

【収益認識会計基準第10項、12項、79項】

質問9

外貨建ての工事を受注しましたが、一定の期間にわたり収益を認識する方法を適用する場合に、完成工事高と契約資産と顧客との契約から生じた債権(完成工事未収入金、問8参照。)は、どのように換算すればいいですか?為替差損益は発生するのでしょうか?                                                                                                               

(回答)

一定の期間にわたり収益を認識する方法における外貨建完成工事高及び外貨建完成工事未収入金の換算方法について、外貨建取引等会計処理基準の例外となるような特有の取扱いは、収益認識会計基準及び収益認識適用指針では定められておらず、外貨建取引等会計処理基準に従った会計処理を行うことになります。

ヘッジ会計の適用対象でなければ、取引発生時の為替相場による円換算額をもって記録することになります。取引発生時の為替相場としては、取引発生日の為替相場、合理的な基礎に基づいて算定された平均相場(前月の平均相場等)の他、取引日の直近の一定の日(前月末相場等)によることも認められています。

完成工事未収入金は取引発生時の為替相場で当初換算され、決算時には決算時の為替相場で換算するので、一定の期間にわたり収益を認識する方法を適用する場合でも為替差損益が発生することになります。

【外貨建取引等会計処理基準1、外貨建取引等会計処理基準注解2】

質問10

一定の期間にわたり収益を認識する方法で計上された、未完成の工事に関する契約資産は、貸倒引当金の計算対象となりますか?また、金融商品の時価等に関する事項で開示すべき対象となりますか?

(回答)

従来の工事契約会計基準における工事進行基準の工事未収入金については金銭債権として取り扱われてきました。収益認識会計基準においても本会計基準に定めのない契約資産の会計処理は、金融商品会計基準における債権の取扱いに準じて処理されることになります。そのため、通常の金銭債権と同様に貸倒引当金の計算対象となります。一方、金融商品の時価等に関する事項については、契約資産について時価等に関する事項の注記は不要であると考えられます。なお、貸借対照表において契約資産を顧客との契約から生じた債権等の金融資産と区分して表示していない場合には、当該貸借対照表の科目について、貸借対照表計上額、貸借対照表日における時価及びその差額を注記することとされていますが、当該貸借対照表の科目のうち、契約資産を除く顧客との契約から生じた債権等の金融資産について、貸借対照表計上額、貸借対照表日における時価及びその差額を注記することも妨げないとされています。

【収益認識会計基準第77項、金融商品に関する会計基準(企業会計基準第10号)第4項、第14項、金融商品の時価等の開示に関する適用指針(企業会計基準適用指針第19号)第4項、第20-2項、第20-3項】

質問11

建設業におけるジョイント・ベンチャー(JV、共同企業体制度)とは何ですか?また、目的別分類、施工別分類とは何ですか?

(回答)

国土交通省のウェブサイトに「共同企業体(ジョイント・ベンチャー、JV)とは、建設企業が単独で受注及び施工を行う通常の場合とは異なり、複数の建設企業が、一つの建設工事を受注、施工することを目的として形成する事業組織体のことを言います」と記載されています。

また、JVは目的別、施工別に、以下のように分類されます。

(1) 目的による分類

分類 趣旨
① 特定建設工事共同企業体(特定JV) 大規模かつ技術難度の高い工事の施工に際して、技術力等を結集することにより工事の安定的施工を確保する場合等工事の規模・性格等に照らし、共同企業体による施工が必要と認められる場合に工事毎に結成する共同企業体を言います
② 経常建設共同企業体 (経常JV) 中小・中堅建設企業が継続的な協業関係を確保することにより、その経営力・施工力を強化する目的で結成する共同企業体を言います
③ 地域維持型建設共同企業体(地域維持型JV) 地域の維持管理に不可欠な事業につき、継続的な協業関係を確保することによりその実施体制の安定確保を図る目的で結成する共同企業体を言います

(2) 施工方式による分類

分類 趣旨
①   共同施工方式(甲型) JVの全構成員が出資割合に応じて資金・人員・機械などを拠出し、工事全体を共同して施工する方式です。損益は、出資割合に応じて配分することとなります
②   分担施工方式(乙型) 事前に工区に分割し、各構成員は分担した工事について施工する方式です。損益は、それぞれ担当した工事で精算することになります

※ 国土交通省「建設産業・不動産業:共同企業体制度(JV)」、www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000101.html(2024年4月11日アクセス)

質問12

当社がスポンサーで、共同施工方式のジョイント・ベンチャー(JV、共同企業体制度)を行うことになりましたが、分担施工方式の場合と比べて、どのような会計処理の違いが生じますか? また、当社は独立させずに社内で行う会計処理を行っていると聞きましたが、どのような意味なのでしょうか?

(回答)

共同施工方式の場合は、工事全体に出資割合を乗じて、完成工事高、工事原価を計算することとなります。

分担施工方式の場合は、分担した工区ごとでの請負金額で完成工事高を計上し、その工区で発生した原価を工事原価として計上します。共通経費の配分はありますが、基本的には自社の工区で発生した原価が工事原価となります。

このように、共同施工方式では工事全体に貴社出資割合を乗じて計算するのに対し、分担施工方式では貴社担当工区部分のみを、そのまま計上するのが違いとなります。

また、JVの会計処理には、(a)JVを一つの企業体と見なして会計処理を行う独立会計処理方式と、(b)独立させずにJVの会計をスポンサーの会計の中に取り込んで行う方式があります。実務的には、(b)の独立させない方式により会計処理を行うことが多いと考えられ、貴社では(b)の方式を取られているという意味かと思われます。

(参考)

JV会計については、特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在せず、業界の実務慣行により会計処理が行われていると考えられます。この点、採用した会計処理の原則及び手続の概要を示し財務諸表利用者の理解に資することを目的として、財務諸表の注記事項の会計方針において、JVの会計処理の方法の概要を関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続として記載します。

【連結財務諸表規則ガイドライン13-5、財務諸表等規則ガイドライン8の2】

質問13

ジョイント・ベンチャー(JV、共同企業体制度)の会計処理で、協定原価の給与があることにより、JV上の当社損益と、当社の実際の損益は異なると聞いたのですが、どういう意味でしょうか?

(回答)

JVの共通原価に算入すべき原価を協定原価といいますが、人件費等は実際に発生する費用ではなく、あらかじめ月額の給与等の金額を構成員の間で合意しておき、それに基づき協定原価を算定するのが一般的です。合意された給与等の金額と、実際に貴社内で支払われる給与等の金額は異なるため、JV上の損益と実際の損益が異なる原因となっているという意味となります。

質問14

有価証券報告書の開示で、個別財務諸表は会社法の様式に合わせた開示が認められますが、建設業では適用できないと聞きました。なぜ、適用できないのでしょうか?

(回答)

2014年3月26日に内閣府令「財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則の一部を改正する内閣府令」が公布され、有価証券報告書の単体開示簡素化が図られました。基本的には、連結財務諸表を作成している会社で、会計監査人を設置している会社(特例財務諸表提出会社)を対象として、会社法の様式に合わせた開示の特例が設けられています。ただし、別記事業を営む株式会社又は指定法人は対象外となっており、建設業は別記事業に該当します。建設業を営む会社は特例財務諸表提出会社とはならないため、会社法の様式に合わせた開示の特例は適用できません。

【財務諸表等規則第1条の2、第2条、第127条】

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