2021年3月期 有報開示事例分析 第12回:新型コロナウイルス感染症に関する減損損失注記

2022年2月2日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 須賀 勇介

Question

2021年3月決算会社において、新型コロナウイルス感染症(以下「本感染症」という。)の拡大により減損損失を計上した会社の傾向と開示の状況は?

Answer

【調査範囲】

  • 調査日:2021年8月
  • 調査対象期間:2021年3月31日
  • 調査対象書類:有価証券報告書
  • 調査対象会社:以下の条件に該当する2,343社
    ① 3月31日決算
    ② 2021年6月30日までに有価証券報告書を提出している
    ③ 日本基準を採用している

【調査結果】

調査対象会社2,343社のうち、減損損失を認識した資産、減損損失の認識に至った経緯、減損損失の金額、資産のグルーピングの方法、回収可能価額の算定方法等の事項に関する注記(以下「P/L減損注記」という。)において本感染症に言及した会社は80社であり、2020年3月期における調査結果から大きく増加した(<図表1>参照)。業種別では、情報・通信業が16社と最も多かった。なお、2020年3月期における調査結果では、情報・通信業と並んで小売業が6社と最も多かったが、小売業は2021年3月期では1社のみに減少している。

<図表1>P/L減損注記において本感染症に言及している会社の業種別の内訳
業種(※) 2020年3月期 2021年3月期 増減
情報・通信業 6 16 10
機械 4 9 5
サービス業 2 8 6
卸売業 1 6 5
陸運業 0 6 6
食料品 2 4 2
輸送用機器 2 4 2
ガラス・土石製品 2 3 1
化学 0 3 3
その他の業種 12 21 9
合計 31 80 49

(※)東京証券取引所の33業種区分で集計(非上場会社の有報提出会社の場合は、金融庁提出業種で分類)。

また、P/L減損注記においては、減損損失の認識に至った経緯の記載が求められるが、当該経緯について、本感染症の影響のみに言及している会社は80社中58社(72.5%)であり、その割合は2020年3月期における調査結果(45.2%)から増加した(<図表2>参照)。一方、当該経緯につき、本感染症以外の要因についても記載している会社は16社あった。なお、当該経緯について、本感染症の影響に言及している会社74社のうち、単に本感染症の影響又は本感染症による事業環境の変化等とのみ記載している会社は49社であり、店舗や工場の閉鎖又は市場の縮小等の本感染症の具体的な影響に言及している会社は25社であった。

<図表2>P/L減損注記において本感染症に言及している会社の経緯の記載状況
区分 2020年3月期 2021年3月期 増減
本感染症の影響のみに言及しているケース 14 58 44
本感染症以外の要因の影響も言及しているケース(※1) 9 16 7
経緯自体には本感染症の影響への言及がないケース(※2) 8 6 -2
合計 31 80 49

(※1)たとえば、「業績の低迷や本感染症の影響」、「事業計画の進捗に遅れが生じており、加えて、本感染症の拡大による環境変化もあり」など本感染症以外の要因の影響についても言及しているようなケース

(※2)減損損失の認識に至った経緯としては本感染症による影響の直接の言及はない(単に「収益性が低下」などの記載のみとしている会社も含む)ものの、それ以外の減損会計の前提(将来キャッシュ・フローの見積りに用いた仮定や資産のグルーピング)に係る記載において、本感染症の収束時期や関連性等に触れているようなケース

(旬刊経理情報(中央経済社)2021年9月20日号 No.1622「2021年3月期 「有報」分析」を一部修正)