EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 中澤 範之
Question
2021年3月決算会社において、新型コロナウイルス感染症(以下「本感染症」という。)により特別損失を計上した会社の傾向と開示の状況は?
Answer
【調査範囲】
- 調査日:2021年8月
- 調査対象期間:2021年3月31日
- 調査対象書類:有価証券報告書
- 調査対象会社:2021年4月1日現在のJPX400に採用されている会社のうち、以下の条件に該当する203社
① 3月31日決算
② 2021年6月30日までに有価証券報告書を提出している
③ 日本基準を採用している
【調査結果】
特別損失を計上した会社のうち、P/L特損注記において、本感染症に言及した会社は<図表1>のとおりであった。項目別において、2021年3月期は、「操業、営業停止中の固定費等」を特別損失に計上している会社(181社)が最も多い結果となった。特に、店舗運営を行っている小売業、サービス業は、本政府や地方自治体の要請により、臨時休業した期間中に発生した固定費(人件費・賃借料・減価償却費)を特別損失に計上している会社が多く、緊急事態宣言が初めて発令された2020年4月以降に臨時休業した会社が増加していることがわかる。
<図表>2021年3月期のP/L特損注記において本感染症に言及している会社の業種別内訳と記載状況(※1)
区分 | 特別損失の計上内容 | 合計 | ||||
固定資産の 減損損失 |
操業、営業停止中の 固定費等(※2) |
期末在庫の 評価 |
構造改革に関する損失(※3) | その他 (※4) |
||
---|---|---|---|---|---|---|
小売業 | 1 | 32 | 4 | 37 | ||
サービス業 | 8 | 26 | 1 | 35 | ||
陸運業 | 6 | 15 | 1 | 22 | ||
卸売業 | 6 | 13 | 2 | 21 | ||
情報・通信業 | 16 | 13 | 2 | 4 | 35 | |
化学 | 3 | 10 | 13 | |||
輸送用機器 | 4 | 9 | 1 | 14 | ||
その他製品 | 2 | 8 | 1 | 1 | 12 | |
電気機器 | 1 | 8 | 1 | 10 | ||
建設業 | 1 | 6 | 1 | 3 | 11 | |
機械 | 9 | 6 | 15 | |||
繊維製品 | 1 | 6 | 1 | 8 | ||
その他の業種 | 22 | 29 | 1 | 3 | 55 | |
総計 | 80 | 181 | 4 | 8 | 15 | 288 |
(※1)同一の会社で複数の項目を記載している場合、それぞれ1社としてカウントしている。
(※2)操業、営業停止中の固定費のほか、イベントの中止又は延期等に伴う損失も含めている。
(※3)特別退職金、不採算店舗の撤退の閉店損失、オフィス移転に伴う除却損等も含めている。
(※4)支援金や顧客への見舞金など。
(旬刊経理情報(中央経済社)2021年9月20日号 No.1622「2021年3月期 「有報」分析」を一部修正)
この記事に関連するテーマ別一覧
2021年3月期 有報開示事例分析
- 第1回:収益認識会計基準(早期適用) (2022.02.02)
- 第2回:見積開示会計基準(見積開示項目数) (2022.02.02)
- 第3回:見積開示会計基準(主要な仮定) (2022.02.02)
- 第4回:見積開示会計基準(KAMとの整合性) (2022.02.02)
- 第5回:見積開示会計基準(非財務情報との整合性) (2022.02.02)
- 第6回:見積開示会計基準(IFRS適用会社との項目数比較) (2022.02.02)
- 第7回:見積開示会計基準(計算書類の注記との比較) (2022.02.02)
- 第8回:会計方針の開示(関連する会計基準等の定めが明らかでない場合) (2022.02.02)
- 第9回:新型コロナウイルス感染症に関する非財務情報(経営環境等) (2022.02.02)
- 第10回:新型コロナウイルス感染症に関する非財務情報(事業等のリスク) (2022.02.02)
- 第11回:新型コロナウイルス感染症に関する特別損失 (2022.02.02)
- 第12回:新型コロナウイルス感染症に関する減損損失注記 (2022.02.02)
- 第13回:グループ通算制度への移行 (2022.02.02)
- 第14回:総会前提出 (2022.02.02)