EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 兵藤 伸考
Question
2021年3月期決算に係る有報の「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の項目において、会計上の見積り及び見積りに用いた仮定の記載内容と、重要な会計上の見積りに関する注記の整合性を知りたい。
Answer
【調査範囲】
- 調査日:2021年8月
- 調査対象期間:2021年3月31日
- 調査対象書類:有価証券報告書
- 調査対象会社:2021年4月1日現在のJPX400に採用されている会社のうち、以下の条件に該当する203社
① 3月31日決算
② 2021年6月30日までに有価証券報告書を提出している
③ 日本基準を採用している
【調査結果】
「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」(以下「MD&A」という。)の項目において、会計上の見積り及び見積りに用いた仮定のうち、重要なものについて、不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響等、会計方針を補足する情報を記載する必要がある(「企業内容等の開示に関する内閣府令」第三号様式(記載上の注意)(12)、同第二号様式(記載上の注意)(32)a(g))。
ただし、記載すべき事項の全部又は一部を「第5 経理の状況」の注記において記載した場合には、MD&Aの項目にその旨を記載し、当該注記において記載した事項を省略することができる。
MD&Aにおける会計上の見積り及び見積りに用いた仮定の記載内容と、重要な会計上の見積りに関する注記の整合性を分析した。
(1) MD&A参照状況分析
調査対象会社203社について、MD&Aの重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定において、重要な会計上の見積りに関する注記の参照状況を分析した。調査結果は、<図表1>のとおりである。
<図表1>MD&A参照状況分析
記載方法 | 対象会社数(社) | 比率 |
---|---|---|
重要な会計上の見積りに関する注記を参照して内容を全部省略した事例 | 100 | 49.3% |
重要な会計上の見積りに関する注記を参照して内容を一部省略した事例 | 41 | 20.2% |
重要な会計上の見積りに関する注記を参照していない事例 | 62 | 30.5% |
合計 | 203 | 100.0% |
調査対象会社のうち約半数である49.3%の会社は重要な会計上の見積りに関する注記を参照して、重要な会計方針及び見積りの詳細について全部の記載を省略していた。
また、重要な会計上の見積りに関する注記を参照していない事例は62社(30.5%)であったが、そのうち約半数の32社は「連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」を参照して内容の一部を省略していた。
2021年3月期決算に係る有報より重要な会計上の見積りに関する注記の記載が必要となったことから、重要な会計方針及び見積りの詳細について参照する記載が増えているものと考えられる。
(2) MD&Aにおける見積項目の記載内容分析
調査対象会社203社を対象に、MD&Aに具体的に記載されている会計上の見積項目の記載内容を調査した。調査結果は、<図表2>のとおりである。
<図表2>MD&Aにおける見積項目の記載内容分析
見積項目 | 会社数(社) |
---|---|
固定資産の減損 | 68 |
繰延税金資産の回収可能性 | 67 |
退職給付引当金(退職給付費用) | 50 |
貸倒引当金 | 30 |
有価証券の評価 | 29 |
棚卸資産の評価(販売用不動産等含む) | 26 |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大 | 18 |
のれんの評価 | 14 |
工事進行基準 | 13 |
(注)記載会社数が10社未満の項目は記載を省略している。
MD&Aの重要な会計上の見積りについても、重要な会計上の見積りに関する注記の記載項目数分析と同様に、固定資産の減損を記載している事例が最も多かった。
一方、重要な会計上の見積りに関する注記と比較して、退職給付引当金(退職給付費用)や貸倒引当金を記載している事例が多かった。
重要な会計上の見積りに関する注記として開示する項目については、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目を識別することになるとされており、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクとして、退職給付引当金(退職給付費用)や貸倒引当金と比較して、のれんの評価などを多く記載しているものと考えられる。
なお、重要な会計上の見積りに関する注記の開示項目数分析については「2021年3月期 有報開示事例分析 第2回:見積開示会計基準(見積開示項目数)」を参照されたい。
(旬刊経理情報(中央経済社)2021年10月10日号 No.1624「2021年3月期有報における 見積り関連注記の開示分析」を一部修正)
この記事に関連するテーマ別一覧
2021年3月期 有報開示事例分析
- 第1回:収益認識会計基準(早期適用) (2022.02.02)
- 第2回:見積開示会計基準(見積開示項目数) (2022.02.02)
- 第3回:見積開示会計基準(主要な仮定) (2022.02.02)
- 第4回:見積開示会計基準(KAMとの整合性) (2022.02.02)
- 第5回:見積開示会計基準(非財務情報との整合性) (2022.02.02)
- 第6回:見積開示会計基準(IFRS適用会社との項目数比較) (2022.02.02)
- 第7回:見積開示会計基準(計算書類の注記との比較) (2022.02.02)
- 第8回:会計方針の開示(関連する会計基準等の定めが明らかでない場合) (2022.02.02)
- 第9回:新型コロナウイルス感染症に関する非財務情報(経営環境等) (2022.02.02)
- 第10回:新型コロナウイルス感染症に関する非財務情報(事業等のリスク) (2022.02.02)
- 第11回:新型コロナウイルス感染症に関する特別損失 (2022.02.02)
- 第12回:新型コロナウイルス感染症に関する減損損失注記 (2022.02.02)
- 第13回:グループ通算制度への移行 (2022.02.02)
- 第14回:総会前提出 (2022.02.02)