2021年3月期 有報開示事例分析 第3回:見積開示会計基準(主要な仮定)

2022年2月2日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 水野 貴允

Question

2021年3月決算会社について、重要な会計上の見積りに関する注記における主要な仮定の開示項目数を知りたい。

Answer

【調査範囲】

  • 調査日:2021年8月
  • 調査対象期間:2021年3月31日
  • 調査対象書類:有価証券報告書
  • 調査対象会社:2021年4月1日現在のJPX400に採用されている会社のうち、以下の条件に該当する203社
    ① 3月31日決算
    ② 2021年6月30日までに有価証券報告書を提出している
    ③ 日本基準を採用している

【調査結果】

(1) 固定資産の減損に関する主要な仮定の注記事例

調査対象会社(203社)を対象に、重要な会計上の見積りに関する注記において、主要な仮定の開示項目を調査した。固定資産の減損に関する調査結果は<図表1>のとおりである。

<図表1>固定資産の減損に関する主要な仮定
新型コロナウイルス感染症による影響 その他の主要な仮定 サービス業 化学 陸運業 不動産業 小売業 電気機器 ガラス・土石製品 建設業 食料品 情報・通信業 電気・ガス業 保険業 その他 合計
記載あり 販売量 3 4 5 4 1 2 1 2   2     8 32
販売単価 2 1 3 4     1 1   1     2 15
売上原価・費用 2 1   1 1 1   1         1 8
割引率       2           1     3 6
その他   1         1 1         1 4
新型コロナ影響以外に記載なし     6 1 1 2     1 1   1 5 18
記載なし 販売量 4 6 2 1 5 3 1 1 2 1 2 3 4 35
販売単価   2 1 1     1   2   1   1 9
売上原価・費用 2 1     2   1       2   2 10
割引率 2 1   1     1   1     1   7
その他 1               1       2 4
主要な仮定の記載なし 3 2     1 2 1 2 1   1 1 2 16
合計   19 19 17 15 11 10 8 8 8 6 6 6 31 164

(※1)主要な仮定を複数記載している場合でも、類似や同種の項目に関しては、表内の「その他の主要な仮定」に掲げた項目名ごとに、まとめて集計している。

(※2)(※1)の記載に沿ってまとめた後に、なおも複数の項目に該当する場合には、それぞれを1社としてカウントしているため、会社数と合計数は一致していない。

<図表1>のとおり、主に減損損失の認識判定における割引前将来キャッシュ・フローに関する主要な仮定が記載されており、新型コロナウイルス感染症の収束時期や回復の程度を記載している会社は83社該当した。新型コロナウイルス感染症による影響以外の主要な仮定としては、売上高の要素となる販売量を記載している企業が最も多く、化学業においては10社該当した。販売単価については、販売量と比較すると少なく、不動産、小売業は5社、陸運業は4社となっている。販売単価は販売量より年度ごとの変動が少ないため、記載している会社が少ないと考えられる。また、販売量や売上原価・費用については過去実績や一定の成長率を基礎としている記載が多くみられた。将来キャッシュ・フローの割引率を記載している会社としては不動産業が3社、サービス業が2社となっている。割引率は加重平均資本コストとしている事例が多くみられた。

(2) 繰延税金資産の回収可能性に関する主要な仮定の注記事例

繰延税金資産の回収可能性に関する主要な仮定の業種ごとの記載内容について、調査対象会社(203社)のうち、繰延税金資産の回収可能性に関する重要な会計上の見積りに関する注記を行っている会社に関して、主要な仮定の記載は67社該当した。調査した結果は、<図表2>のとおりである。

<図表2>繰延税金資産の回収可能性に関する主要な仮定
  陸運業 電気・
ガス業
電気
機器
化学 石油・
石炭製品
卸売業 サービス業 小売業 不動
産業
その他 合計
新型コロナウイルス感染症による影響 15 1 2   1 3 2 1 1 6 32
販売量 3 4 3 4 1 1   1 1 2 20
販売単価 2   2   2           6
売上原価・費用   4 1 2 1         1 9
主要な仮定の記載なし   1 1     1 1 1 1 7 13
合計 20 10 9 6 5 5 3 3 3 16 80

(※1)主要な仮定を複数記載している場合でも、類似や同種の項目に関しては、表内の「その他の主要な仮定」に掲げた項目名ごとに、まとめて集計している。

(※2)(※1)の記載に沿ってまとめた後に、なおも複数の項目に該当する場合には、それぞれを1社としてカウントしているため、会社数と合計数は一致していない。

主に将来の課税所得の見積りにおける主要な仮定について、新型コロナウイルス感染症の収束時期を記載し、回復水準を記載している企業が最も多く、32社であった。業種別には、陸運業が最も多く、15社であり、次に卸売業が3社、電気機器業やサービス業が2社であった。これらの業種については、いずれも新型コロナウイルス感染症による影響を大きく受けた業種であると考えられる。

また、将来の課税所得の見積りにあたって、新型コロナウイルス感染症による影響以外の記載としては売上高の基礎となる販売量の記載が多く、化学業、電気・ガス業は4社記載していた。販売量の基礎として過去実績、一定の成長率を使用している会社が多い点においては、減損に関する主要な仮定と共通していた。売上原価・費用について記載している会社が次に多く、4社記載のあった電気・ガス業では仕入価格や発電所稼働率に関する記載が多かった。新型コロナウイルス感染症による影響を記載していない会社は電気・ガス業や化学業が多かったが、インフラに関する業種は影響が重要でなかった会社が多いと考えられる。

なお、主要な仮定について詳細に記載していない会社が13社あったが、事業計画に基づき見積られた将来の課税所得により、繰延税金資産の回収可能性を検討している旨の記載がされていた。

(3) 子会社株式の評価に関する主要な仮定の注記事例

調査対象会社(203社)のうち、子会社株式の評価に関する重要な会計上の見積りに関する注記を行っている会社7社について、主要な仮定に記載した項目を調査した。調査結果は、<図表3>のとおりである。主要な仮定について、回復可能性の判定に使用する将来キャッシュ・フローに関する記載をしている会社が2社であり、将来キャッシュ・フローが過去実績に基づき今後も継続するものと仮定して算定している旨等の記載がされていた。

<図表3>子会社株式の評価に関する主要な仮定
  サービス業 その他金融業 化学 食料品 不動産業 総計
回復可能性   1     1 2
超過収益力     1     1
N/A 3     1   4
総計 3 1 1 1 1 7

(※1)対象は、提出日2021年6月30日時点の2021年3月期決算のすべての有価証券報告書提出会社

(旬刊経理情報(中央経済社)2021年10月10日号 No.1624「2021年3月期有報における 見積り関連注記の開示分析」を一部修正)