1つ目は、「変化に左右されないサステナブルなプロセス・組織設計」を行うことです。グローバル化の進展、サステナブルな企業成長課題、新たなビジネスモデルの登場を契機にレギュレーションは絶えず変わります。レギュレーション変更に柔軟に対応できるよう、プロセス、人材、システムの柔軟性を高め、筋肉質なファイナンス組織を構築する必要があります。SSC/BPOのさらなる活用は、サステナブルなプロセス・組織設計の一つの答えとなるかもしれません。ただし、2000年前後から進められてきたSSC/BPO化による組織改革は、多くの企業において虫食いでの改革にとどまっています。そこからもう一歩踏み込んで、グローバルで統合されたEnd to Endプロセスという業務サービスの塊として、各事業に対してどのような価値提供をできるか、という観点で改めてオペレーション・モデルを再考する必要があります。
2つ目は、「少子高齢化の中でのファイナンス人材育成・リテンション」です。少子化に伴う新卒採用の競争激化、ベテラン社員の高齢化と大量退職、あるいは中途採用市場での若手人材の減少といった人的リソースが枯渇している現状に加え、若年層の就業選択意識の変化や、ワークライフバランス重視といった就労意識の変化を踏まえた人的リソース配置・リスキリング・離職防止策を考える必要があります。
3つ目は、「FP&A機能の強化」です。現在のファイナンス部門は、伝統的なブックキーピング能力だけではなく、ビジネス・パートナーとして経営層や事業責任者の意思決定に資する、分析や予測に基づくインサイトを適時に提供する能力が求められています。特に事業・地域に対してファイナンスがFP&A機能を担ってビジネスに積極的に介入することによってバリューチェーン横断での利益最大化実現に貢献する必要があります。
4つ目は、「両利き経営の推進」です。VUCAの時代において企業が生き残るためには、主力事業の深化による安定的な収益獲得と、さらなるイノベーションを創出するための事業の探索のバランスを取って実践していくことが求められます。適切な事業ポートフォリオの入れ替えや事業管理を行っていくためのKGI/KPI、PDCAサイクルを設計し、それらを可視化することで、過去に縛られない意思決定を行える両利き経営をファイナンスがリードしていく必要があります。
5つ目は、「長期的価値創出と社会課題解決の両立」です。多くの企業は、自社を取り巻くステークホルダーとともに歩みながら社会課題を解決することをパーパスとして掲げていますが、取り組んでいる社会課題の解決がどのように自社の長期的企業価値につながるのかは果たして明確になっていますでしょうか。自社の長期的企業価値の源泉はどこにあるのか、あるいはどのようなバリュー・ドライバーが企業を持続的成長に導くのかという点を、財務データおよび非財務データをモデリングしながら解析・明示し、企業の戦略的意思決定に生かすことで、適切な経営資源配分をリードすることがCFOには求められています。企業価値の構成要素を分解し、ロジック・ツリー化を図り、企業内外のデータを用いた分析を行い、自社の企業価値の見える化を図る必要があります。
6つ目は、「サステナブルな成長ストーリーに基づくIR戦略」です。長期的価値の追求を目指した経営はいずれのステークホルダーにおいても一定の評価がされていますが、不確実性の高いビジネス環境下においては、依然として短期的な利益配分を求めてくる投資家も一定数存在します。そのような投資家に対応するために、ひいてはマルチステークホルダー経営を実現するために、CFO自身が自社の企業価値の源泉や企業価値を高めるサステナブルな成長ストーリーを、説得力を持ってナラティブに語るCVO(Chief Value Officer)へと変革する必要があります。
7つ目は、「非財務情報含むデータ収集と利活用」です。経営と現場、すなわち戦略とアクションが矛盾なく一気通貫となるためには、財務データのみではなく非財務データと連動させることが不可欠です。一方で企業内外に存在する財務データと非財務データは、それぞれ異なる利用目的があるため管理粒度が異なりますし、そもそもデータボリュームが膨大です。財務データと非財務データを手作業で収集・クレンジングし、そこから気づきを得ることは全くもって現実的ではありません。データ収集やクレンジング作業、および分析作業はEPMツールやデータレイクなどのテクノロジーを活用して効率化を図ることで、人間はインサイトを見いだし、具体的なアクションにつなげるという、本来の業務に注力する必要があります。
CFOアジェンダを支えるオファリング
EYでは、こうしたアジェンダの推進に悩んでいるCFOを支えるために、大きく4つのオファリングを用意しています。1つ目は、複雑な環境下で発生するさまざまな変化やリスクに迅速・柔軟に対応し、継続的・安定的に業務品質も担保しながら、さらなる変革に向けた余力も創出するために、新たなファイナンス・オペレーティングモデルを構築する「レジリエントファイナンス」。2つ目は、ライフサイクル損益の最大化を目指すために、バリューチェーン上の意思決定を正確な財務情報(計画・見込み・影響試算)を踏まえて行えるよう、戦略と事業の橋渡しをファイナンスが行う「Value Chain Improvement」。3つ目は、長期的な企業価値の源泉を把握し、マルチステークホルダーに説得力のあるナラティブを語ることで、適正資源配分をリードするCVO組織を作り上げることを目的とする「」。4つ目は、データ面からCFOアジェンダを横串で支える「グループ統合データ基盤」です。これら4つのオファリングを通じて、CFOが取り組むべき7つのアジェンダにEYは伴走します。
【共同執筆者】
村上 信司
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ファイナンス シニア・マネージャー