現代のCFOが抱える3つのジレンマとその解消に向け取り組むべき7つのアジェンダ

現代のCFOが抱える3つのジレンマとその解消に向け取り組むべき7つのアジェンダ


EYが多くのCFOと対話する中で、CFOが典型的に抱える3つのジレンマを解明し、そのジレンマを解消するための施策について7つのCFOアジェンダとして整理しました。


要点

  • CFOは企業内外の環境変化に対して、さまざまなフラストレーションを抱えている。
  • こうしたフラストレーションのもとで、CFOの役割が拡大し、限られたリソースの中で大きな成果を上げつつファイナンス部門の変革に取り組む上での3つのジレンマがある。
  • そのジレンマを解消するためにCFOが検討するべきアジェンダは7つに分類される。EYはそれらのアジェンダに対応するために4つのオファリングで改革をサポート。


複雑なビジネス環境下において現代のCFOはさまざまな方面に対してフラストレーションを感じています。

日本の生産年齢人口は1995年をピークに減少し続け、少子高齢化の時代の中で多くの企業は人手不足の課題を抱えています。ファイナンス部門においても例外ではなく、適切な人材確保はCFOの大きな悩みの種です。その一方で、会計基準、サステナビリティ開示基準、GloBEルールなどレギュレーション変更は絶えず生じており、CFOはファイナンス部門の強化以前に、現状維持や新たな法令対応に手一杯なのが現状です。

また自社全体を見渡しても、これまで進めてきたデジタル化やシェアード・サービス・センター化のプロジェクトは部分最適なものにとどまっています。その結果、財務データと非財務データは依然として分断されており、バリューチェーンの可視化もままならず、ビジネス上の戦略的な意思決定に貢献できるインサイトを導くこともできていません。また、海外子会社に対するガバナンスも脆弱であり、不正リスクを感じているものの、対策をなかなか打てないままでいます。

さらに社外に目を向けると、株主権利の確保と企業の持続的な成長をステークホルダーから求められ、短期的利益の確保と長期的利益の創出のバランスに頭を悩ませています。時として、ESG投資などの時間をかけて初めて成果が刈り取れる長期投資を犠牲にしながら、目先の短期的利益を追求してしまっているのではないかと自問自答します。また、長期的な企業価値向上への道筋が、全社戦略や事業戦略と有機的に結合していないため、企業価値の源泉を見据えたロードマップを描くことが困難な状況にあります。

内外の環境変化を踏まえてCFOが感じている典型的な3つのジレンマがあります。

1つ目は、革新的な改革を進める必要性を感じながらも、既存業務での成果を上げることに精一杯で組織が疲弊してしまっているため、改革のためのリソースを創出できない点です。その結果、一向に改革が進まず、毎日のブックキーピング業務から抜け出せないというジレンマを抱えています。少子高齢化の時代下で人的リソースの確保が困難であるにもかかわらず、企業内外からCFOに期待される役割が飛躍的に拡張している中で、ミスの許されない既存業務の継続・品質担保を続けながら、より経営意思決定に踏み込んでいくビジネスパートナーへの役割変革を同時に成し遂げることの難しさを感じています。


2つ目は、既存事業を深化させながら新規事業の探求を進めるために、事業や地域へのガバナンスのあり方を最適化する必要があります。事業推進や意思決定のスピード感を高めるために事業や地域部門への権限移譲(遠心力)を強める一方、それに釣り合うけん制(求心力)を担保する必要がありますが、現在のファイナンス部門のスキルやガバナンス力では求心力を発揮する戦略的対応が難しいという点です。ファイナンス部門は取引を正確に記帳する伝統的なブックキーピングスキルは担保しつつも、事業ポートフォリオ最適化のモニタリングや戦略的投資意思決定のサポート、事業や地域事業構造やバリューチェーンに関する深い理解と洞察力、事業や地域部門との対話力、事実に基づく分析や提言を行う上でのデータ・サイエンスなど、従来とは全く異なるスキルが求められていることを痛感しています。


3つ目は、さまざまなステークホルダーの存在を意識しながら、適正に付加価値を配分することに対するジレンマです。すなわち、株主、投資家、従業員、顧客、取引先、地域社会などのマルチステークホルダーからの期待を的確に把握しながら長期的な企業価値を創造する必要がある一方で、今日の不確実性の高いマクロ経済環境下で短期的な利益追求プレッシャーが強いため企業行動も短期的な思考に陥ってしまう傾向にあり、獲得した付加価値を公平に配分できているかという疑問を常に感じています。2023年6月に発行されたEY Global DNA of the CFO Surveyにおいても、回答者の半数(50%)が、「長期的視点で重要なESG事業などの優先分野への投資を犠牲にして、短期的な収益目標を達成している』と回答しています。

ジレンマを解消するためにCFOがチャレンジすべきアジェンダは7つあります。

CFOが考えるべきCFO Agenda

1つ目は、「変化に左右されないサステナブルなプロセス・組織設計」を行うことです。グローバル化の進展、サステナブルな企業成長課題、新たなビジネスモデルの登場を契機にレギュレーションは絶えず変わります。レギュレーション変更に柔軟に対応できるよう、プロセス、人材、システムの柔軟性を高め、筋肉質なファイナンス組織を構築する必要があります。SSC/BPOのさらなる活用は、サステナブルなプロセス・組織設計の一つの答えとなるかもしれません。ただし、2000年前後から進められてきたSSC/BPO化による組織改革は、多くの企業において虫食いでの改革にとどまっています。そこからもう一歩踏み込んで、グローバルで統合されたEnd to Endプロセスという業務サービスの塊として、各事業に対してどのような価値提供をできるか、という観点で改めてオペレーション・モデルを再考する必要があります。

2つ目は、「少子高齢化の中でのファイナンス人材育成・リテンション」です。少子化に伴う新卒採用の競争激化、ベテラン社員の高齢化と大量退職、あるいは中途採用市場での若手人材の減少といった人的リソースが枯渇している現状に加え、若年層の就業選択意識の変化や、ワークライフバランス重視といった就労意識の変化を踏まえた人的リソース配置・リスキリング・離職防止策を考える必要があります。

3つ目は、「FP&A機能の強化」です。現在のファイナンス部門は、伝統的なブックキーピング能力だけではなく、ビジネス・パートナーとして経営層や事業責任者の意思決定に資する、分析や予測に基づくインサイトを適時に提供する能力が求められています。特に事業・地域に対してファイナンスがFP&A機能を担ってビジネスに積極的に介入することによってバリューチェーン横断での利益最大化実現に貢献する必要があります。

4つ目は、「両利き経営の推進」です。VUCAの時代において企業が生き残るためには、主力事業の深化による安定的な収益獲得と、さらなるイノベーションを創出するための事業の探索のバランスを取って実践していくことが求められます。適切な事業ポートフォリオの入れ替えや事業管理を行っていくためのKGI/KPI、PDCAサイクルを設計し、それらを可視化することで、過去に縛られない意思決定を行える両利き経営をファイナンスがリードしていく必要があります。

5つ目は、「長期的価値創出と社会課題解決の両立」です。多くの企業は、自社を取り巻くステークホルダーとともに歩みながら社会課題を解決することをパーパスとして掲げていますが、取り組んでいる社会課題の解決がどのように自社の長期的企業価値につながるのかは果たして明確になっていますでしょうか。自社の長期的企業価値の源泉はどこにあるのか、あるいはどのようなバリュー・ドライバーが企業を持続的成長に導くのかという点を、財務データおよび非財務データをモデリングしながら解析・明示し、企業の戦略的意思決定に生かすことで、適切な経営資源配分をリードすることがCFOには求められています。企業価値の構成要素を分解し、ロジック・ツリー化を図り、企業内外のデータを用いた分析を行い、自社の企業価値の見える化を図る必要があります。

6つ目は、「サステナブルな成長ストーリーに基づくIR戦略」です。長期的価値の追求を目指した経営はいずれのステークホルダーにおいても一定の評価がされていますが、不確実性の高いビジネス環境下においては、依然として短期的な利益配分を求めてくる投資家も一定数存在します。そのような投資家に対応するために、ひいてはマルチステークホルダー経営を実現するために、CFO自身が自社の企業価値の源泉や企業価値を高めるサステナブルな成長ストーリーを、説得力を持ってナラティブに語るCVO(Chief Value Officer)へと変革する必要があります。

7つ目は、「非財務情報含むデータ収集と利活用」です。経営と現場、すなわち戦略とアクションが矛盾なく一気通貫となるためには、財務データのみではなく非財務データと連動させることが不可欠です。一方で企業内外に存在する財務データと非財務データは、それぞれ異なる利用目的があるため管理粒度が異なりますし、そもそもデータボリュームが膨大です。財務データと非財務データを手作業で収集・クレンジングし、そこから気づきを得ることは全くもって現実的ではありません。データ収集やクレンジング作業、および分析作業はEPMツールやデータレイクなどのテクノロジーを活用して効率化を図ることで、人間はインサイトを見いだし、具体的なアクションにつなげるという、本来の業務に注力する必要があります。

CFOアジェンダを支えるオファリング

EYでは、こうしたアジェンダの推進に悩んでいるCFOを支えるために、大きく4つのオファリングを用意しています。1つ目は、複雑な環境下で発生するさまざまな変化やリスクに迅速・柔軟に対応し、継続的・安定的に業務品質も担保しながら、さらなる変革に向けた余力も創出するために、新たなファイナンス・オペレーティングモデルを構築する「レジリエントファイナンス」。2つ目は、ライフサイクル損益の最大化を目指すために、バリューチェーン上の意思決定を正確な財務情報(計画・見込み・影響試算)を踏まえて行えるよう、戦略と事業の橋渡しをファイナンスが行う「Value Chain Improvement」。3つめは、長期的な企業価値の源泉を把握し、マルチステークホルダーに説得力のあるナラティブを語ることで、適正資源配分をリードするCVO組織を作り上げることを目的とする「マルチステークホルダー経営」。4つ目は、データ面からCFOアジェンダを横串で支える「グループ統合データ基盤」です。これら4つのオファリングを通じて、CFOが取り組むべき7つのアジェンダにEYは伴走します。


【共同執筆者】
村上 信司
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ファイナンス シニア・マネージャー

※所属は記事公開当時のものです。


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サマリー

企業内外のさまざまなステークホルダーがCFOに期待する役割は年々広がっています。これは決して過度の期待ではなく、サステナブルな企業成長に向けてCFOがより戦略的なビジネスパートナーとして活躍する上で必要不可欠なものです。変革を先送りにして致命的な手遅れにならぬよう、取り組むべきアジェンダを明確にし、直ちに着手することはCFOの使命です。


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