建築図面を描く青年

CEOに求められるトランスフォーメーションの優先事項のバランス確保 – その統制を高める方法とは


CEOを対象とするEYの調査で、CEOが利益追求という直近の課題とサステナビリティ経営という長期的な目標の両立をどのように図っているのか明らかになりました。


要点

  • CEOは、当面はAIトランスフォーメーションによる生産性向上を優先課題に位置付けているが、長期的にはネットゼロと新たな収益源の創出を目指している。
  • 企業、投資家、政策立案者が協働すれば、サステナブルなネットゼロの未来へと迅速に移行できると期待される。
  • CEOも投資家も2024年はM&Aの勢いが増し、買収や売却が増加すると予想している。


EY Japanの視点

日本では、71%のCEOが自社の収益成長について、また、70%のCEOが事業の収益性についてより肯定的に捉えています。持続可能性に関する質問においては、日本では94%ものCEOがその取り組みを加速させるために、より広範な社会的要請に応えることが優先事項であると回答し、世界のCEOの77%を大きく超えました。さらに、持続可能性の優先順位を下げたと回答したCEOは世界で23%だったのに対し、日本では6%にとどまりました。2050年までにカーボンニュートラルを目指す日本政府の取り組みや、製造業におけるグローバル競争の中で消費者が持続可能性への取り組みを求めている状況、異常気象や災害に対する日本の消費者の高い関心などに企業が対応している結果と考えられます。

また日本では、世界全体よりも6ポイント高い53%のCEOがAIを含むテクノロジーへの投資を今後12カ月間の最優先事項と回答しました。同様に、AIを含むテクノロジーへの投資を今後3年間の最優先事項と回答した日本のCEOは53%と、世界のCEOの34%を大きく上回り、日本のCEOのテクノロジーへの関心、デジタルトランスフォーメーションへの投資意欲が表れています。少子高齢化による労働力不足に対応するための業務効率化や、海外企業に対する競争力強化など日本企業の喫緊の課題や、米国IT企業による日本への巨額投資などが背景にあると考えられます。

そのほか日本においても、今後12カ月間にディールを追求するCEOの強い意欲が表れました。特に、IPO、ダイベストメント、スピンオフについては、世界全体より6ポイント高い77%のCEOが積極的に機会を求めています。また、買収の主な目的の上位3つは、『市場シェアの拡大』、『技術の獲得、新しい生産能力、革新的なスタートアップの獲得』、『サプライチェーンの確保』でした。世界でのトップ3と異なり、グローバル規模での複雑なサプライチェーンを有する製造業の多い日本においては、サプライチェーンの確保もCEOの高い関心事の1つであることがわかりました。この傾向は日本だけでなくアジア太平洋地域全体においても見られ、コロナ禍以降も複雑な国際情勢を背景に、サプライチェーンの再構築に関心を寄せるCEOが少なくないことが伺えます。


EY Japanの窓口

梅村 秀和
EY Japan マネージング・パートナー/ストラテジー・アンド・トランザクション EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 代表取締役

2024年の傾向として、世界各国・地域のCEOは、自身の影響力が及び得ることも、そうでないことも、「管理できる」と自信を深めています。こうした背景には、企業のレジリエンス(回復力・適応力)の高まりがあり、それが自社の成長と収益性の見通しの改善や、自らの権限外の課題対応に対する自信の向上につながっています。

CEOの目下の課題は生産性と成長の促進であり、その手段として、CEOはテクノロジー、特に人工知能(AI)によるトランスフォーメーションに注力しています。しかし、近い将来に目を向けた場合、焦点はビジネスの脱炭素化と新たな収益源の創出によるネットゼロ達成へと移ります。

CEOが利益と広範な目標達成の両立を目指すのは、株主への財務的価値の創出、ならびにサステナビリティの取り組みの加速化を求める社会的要請への対応などのニーズの表れです。

CEOの半数超(54%)は、サステナビリティ課題の優先度が12カ月前よりも上がっていると考えています。対照的に、同様に考える機関投資家は28%に過ぎません。こうした数値だけ見ると、機関投資家はサステナビリティ目標の早期達成よりも短期的な財務リターンを優先しているように見えますが、それは短絡的な見方かもしれません。

サステナビリティ目標の達成は一筋縄ではいかないものであり、特にコスト重視の厳しい市場では困難が伴います。今回の調査結果でも、企業、投資家、政策立案者間の協働を強化することが、新たなボトムアップの取り組みの流れをつくり、ネットゼロへの歩みの加速と、より持続可能な未来像の実現につながり得ることが明らかになっています。

また、CEOと機関投資家は2024年のM&Aの見通しについて、低調だった2023年に比べ、楽観的です。買収を検討するCEOは増加しており、さらに多くのCEOが資産売却を計画しています。機関投資家においても、過半数(61%)がディール環境は安定すると予想し、3分の1(34%)はディールの加速を見込んでいます。

CEOが直面する喫緊の課題(CEO Imperative)シリーズ」の最新版である本調査レポートは、世界各国・地域の企業のCEO 1,200名を対象にEYが四半期ごとに実施するCEO Outlook Pulse調査に基づいて作成したものです。本レポートでは、世界の経済状況が急速に変化する中で、経営陣が直面する資本配分、投資、ビジネストランスフォーメーション戦略などに関する課題を分析し、有益な気付きを提供しています。また、今回は、機関投資家300社の見解も取り上げ、投資対象のセクターや地域に関する、投資する立場ならではの認識や洞察も盛り込んでいます。

本レポートの内容

  1. AIトランスフォーメーションが個々の優先課題の解決を加速
  2. ネットゼロの未来を目指しESG経営へとかじを切る
  3. 2024年を通してM&Aの勢いは続く
第1章  AIトランフォーメーションが個々の優先課題の解決を加速
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第1章

AIトランフォーメーションが個々の優先課題の解決を加速

CEOの多くは将来に向けて自社の競争力を高めるためにAIなどのテクノロジー分野に目を向けています。しかし、長期的な優先事項は、企業ごとに成功指標が異なるため、一様ではありません。

世界経済の見通しは改善しています。あるいは、少なくとも悪化してはないといえます。国際通貨基金(IMF)は、米国経済の継続的な回復、中国経済の予想を上回る第1四半期の成長、欧州の堅調な経済状況を踏まえ、2024年の成長見通しを上方修正しました¹。

 

加えて、高インフレが持続しているにもかかわらず、労働市場が改善し、それに伴い個人消費が堅調に推移していることから、CEOや機関投資家の間で楽観的な見通しが広がっています。これは、課題は残っているものの、最悪の時期は過ぎ去ったという認識であるとも捉えられます。

サステナビリティ課題の優先度にギャップ
サステナビリティ課題の優先度が12カ月前よりも上がったと回答したCEOの割合
 
サステナビリティ課題の優先度について同様に回答した機関投資家の割合

しかし、重大な課題は残っています。世界の多くの地域で武力紛争が起きており、一部の国・地域が貿易を地政学的な戦術として利用するなど、通商関係の緊張が高まっています。特に戦略的に対応が難しいセクターでは状況が深刻化しています。依然として、企業が進むべき道は定かではありません。インフレ問題は以前ほどではないものの、多くの国・地域で今もなお存在しており、消費者信頼感は改善しているとはいえ、脆弱な状態が続いています。また、2024年は世界的に「選挙イヤー」となるため、多くの国・地域で不確実性が生じ、信頼感の持続的な回復が失速する可能性があります。

CEOが最優先で取り組むべき行動は、成長と生産性の促進を目的とする、既存のテクノロジーの強化、ならびにデータ管理とサイバーセキュリティの拡充です。M&A戦略においても、ディールの主な動機は、テクノロジーの強化や、新たな生産能力、革新的なスタートアップ企業の獲得となっています。

インフレや生産コストなどの経済環境が落ち着いてきた中でも、投資家の強い関心事であるエンド・ツー・エンドのコスト管理は、引き続き重視されています。


今後3年間の展望では、CEOはネットゼロ目標の達成、成長の維持・強化、テクノロジー投資の継続などのために、焦点を事業の脱炭素化へと移していく考えです。
 

あらゆるセクター・地域が、成長と機会の重要な推進力となるAIを駆使したテクノロジー競争に加わっています。EYの調査(英語のみ)によると、世界のGDPは今後10年間で1兆7,000億米ドル(基本シナリオ)から3兆4,000億米ドル(楽観的シナリオ)の間で増加する可能性があり、これは10年間のインドの経済規模に相当します。このような世界経済の大幅な拡大は、主要経済国における革新的な生成AIテクノロジーの導入と統合が加速的に進んでいるということを物語っています。
 

CEOは、AIが約束する短期的な効率化と中期的な生産性向上だけでなく、その先に目を向ける必要があります。今後3年間の優先課題の1つは収益の拡大ですが、新製品・サービスの投入、または隣接市場・新規市場への参入によって収益成長を加速させるには、新しいテクノロジーやAIを早急に導入する必要があります。
 

EYの2023年度EYグローバル・サイバーセキュリティ・リーダーシップ・インサイト調査(Global Cybersecurity Leadership Insights Study)によると、最高情報セキュリティ責任者(CISO)や経営幹部のわずか5人に1人が、⾃社の対策は現在および将来のサイバー脅威に有効であると考えています。これは、2023年に国家によるスパイ活動からソフトウェアサプライチェーンの脆弱性を突く攻撃まで、多くの重大なサイバーセキュリティインシデントが発生し、その種類も広範囲に及んでいたことを目の当たりにした後でも同じ状況です。
 

CEOが見据える今後3年間の展望は、機関投資家の期待とほぼ一致していますが、投資家はCEOに比べ、脱炭素化への関心が低いです。投資家がより重視しているのは、成長、収益性、コスト最適化という3要素のバランス維持です。

機関投資家が、今後3年間にCEOに注力してほしいと考える最も重要な行動のトップ3

1. 収益拡大の維持または新たな収益源の創出

2.  デジタルイノベーションとテクノロジーインフラ

3.  コスト最適化


CEOは、これまで多くの同じような外的問題に対処してきた経験から、自社の対応能力に自信を深めています。また、北・中・南米のCEOは、外的要因についての見通しに大きな相違は見られないものの、自社に対する見通しについては、欧州やアジアのCEOに比べてはるかに楽観的です。これは、特に欧州の主要国と比較して、米国経済が引き続き堅調であることを反映しています。

インフレの上昇率については、供給サイドの要因が明らかであることから、今後数年間でインフレ率は2%の水準を超え、しかもそれにとどまることなく、さらに上昇する可能性が高いと予想されます。こうしたインフレ動向は、超低インフレと超低金利への回帰を期待するCEOにとっては予測を見直す必要性を迫るものでしょう。

収益成長の見通しにギャップ
自社の収益成長を確信している北米のCEOの割合
 
自社の収益成長を確信している欧州のCEOの割合

企業の主要なビジネス市場別で見ると、こうしたギャップはより鮮明になります。欧州を主要市場としている企業では、自社の収益成長に自信を持っている企業はわずか29%であるのに対し、北米を主要市場とする企業では81%です。

また、北・中・南米のCEOとアジア・欧州のCEOでは、地政学的情勢についての見通しにも違いが見られます。アジア・欧州のCEOは1年前に比べて悲観的であり、これは近隣の最近の事象が関係していると考えられます。CEOは、政治・地政学上の不確実性を乗り切る上で、圧力が増大することを想定しており、不確実性がもたらすリスクは、2024年を通して高まる一方であるとみられます。

機関投資家の見通しも落ち着いており、CEOと比較して、自社の業績が予想を大きく上回ると予想する回答者の割合は低くなっています。また、地政学的な安定性についてより悲観的な見方をする回答者の割合が高くなっています。これは、単一事業を統括するCEOと比べて、機関投資家は、運用する投資ポートフォリオで多岐にわたる問題を抱え、直近の懸念事項による影響を受けやすい状況にあるためかもしれません。

第2章  ネットゼロの未来を目指しESG経営へとかじを切る
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第2章

ネットゼロの未来を目指しESG経営へとかじを切る

CEOは、引き続き、ネットゼロ達成に向けて事業の脱炭素化に取り組んでいます。

2023年も、世界はかつてない熱波や干ばつ、猛烈な嵐、壊滅的な洪水などの異常気象に見舞われました。世界の平均気温は、産業革命前の平均を摂氏1.48度上回り、その影響はあらゆる地域・セクターに及んでいます。農業生産高は大幅に減少し、水上供給路が遮断または制限され、電力供給には、気温上昇による需要増とインフラへの影響に起因する問題が生じています。

こうした中、大半のCEOは、引き続き、ネットゼロ達成に向けて事業の脱炭素化に取り組んでいます。世界全体の調査対象者の半数超(54%)が、12カ月前に比べ、脱炭素化の優先順位は上がっていると回答しています。一方で、短期的な金融・経済の逆風を受けて、4分の1がサステナビリティの優先順位を下げており、この分野における企業の方向性に期待している人には残念な結果となるでしょう。


長年にわたる事業投資により、多くの企業がサステナビリティに向けて前進しています。しかし、2023年度の EY Sustainable Value Study(英語のみ)の調査結果によると、容易に達成できる目標に的を絞り早期に成果を求める初期段階は終わりを迎えているようです。

多くのCEOが、サステナビリティ課題は今後、サプライチェーンやエコシステムのパートナーにますます影響を及ぼすことになる(77%)と考えており、気候変動の影響に効果的に対処するには、世界中の政府が協調して一貫した行動を取ることが不可欠であり(76%)、テクノロジーとAIは、目下の主要なサステナビリティ課題の多くを解決に導くことができる(75%)としています。

また、74%のCEOが、新しい規制などの環境・社会・ガバナンス(ESG)要因が座礁資産や部分的な減損の発生リスクになり得るとみています。特にサステナビリティの観点から将来を見据えたポートフォリオを構築するには、レジリエントで、世界のサステナビリティ動向を反映した事業運営の実現に向けて、微妙なバランスを取る必要があります。

機関投資家も、3分の2(67%)が、新たな規制などのESG要因によって生じた座礁資産や部分的な減損を抱える投資先企業のリスクが自社のポートフォリオに及ぶことを懸念しています。


機関投資家においては、類似領域や関連領域でCEOと共通の見解を示しており、例えば、機関投資家の4分の3超(78%)が、各国政府による協調的で一貫した行動の重要性を唱えています。しかし、機関投資家は、規制当局や政治家が投資家のESG投資戦略に対する監視を強めており(74%)、消費者の行動も依然としてサステナビリティ目標に沿ったものではないため、企業、政府、NGOは、変化をもたらすためにさらに多くのことを行う必要がある(73%)とも述べています。

どちらのグループも、政策決定において政府と規制当局の協働を強化することが、気候変動の影響への適切な対処へとつながると考えています。CEOの半数(50%)は、政策立案者も規制当局もサステナビリティ関連の主要規制の策定に当たり、業界に働きかけて積極的に意見を求め、取り入れていると回答しています。また、45%が、中程度のエンゲージメントを認めており、最小限のエンゲージメントしかなかったと回答したのはわずか5%でした。機関投資家の回答にも同様の傾向が見られ、規制について話し合いをしたことがないと回答したのはわずか7%でした。


また、両グループの見解は、企業のネットゼロへの歩みを加速させるための政策手段として、罰則よりもインセンティブの方が効果的であるという点でも一致しています。
 

CEOは、EUグリーンディールや米国インフレ抑制法に基づくインセンティブなどの、グリーンテクノロジーへの投資に対する補助金や減税のメリットを明確に認識し支持しています。これに対応し、中国やインドを含め、他の主要な国・地域も投資を強化し、再⽣可能エネルギーの⽬標を引き上げています。
 

こうした競争の激化は、新興グリーンテクノロジーの開発を促し、エネルギー移⾏を加速させるとみられますが、⼀部の国・地域がさらに取り残される懸念があります。国内の再⽣可能エネルギーを開発することで、経済活動が広範囲に及び加速する可能性がありますが、サプライチェーンへの圧⼒が増⼤するため、新たなパートナーシップの迅速な形成が必要となるでしょう。
 

他方、このような懸念はあるものの、再⽣可能エネルギーに対する政策的な⽀援の強化は、世界中の再生可能エネルギー業界に需要を喚起し脱炭素化を推進できる、またとない機会をもたらしています。
 

また、再生可能エネルギーインフラなどのインフラへの政府投資は、企業の成長とサステナビリティのアジェンダの推進を後押しするものであると広く認識されています。


しかし、新しいエネルギーの未来へと続く世界の道は、1つではなく、真っすぐに続いているとも限りません。世界の動向、技術⾰新、消費者エンゲージメントに関するEYモデリングは、今後の変化の複雑さや多様さを浮き彫りにしました。エネルギー移行は1つだけではなく、世界中でさまざまなエネルギー移行が異なるスピード、それぞれの形で進んでいます。

また、機関投資家は、政府がインフラ投資の支援に注力する必要性について、概して肯定的です。機関投資家の4分の3超(77%)が、自社の主要市場の経済成長には政府のインフラ投資が不可欠であるとし、80%が、政府は地域経済の成長を後押しするプロジェクトへのインフラ投資を優先するべきであるとしています。

さらに両グループとも電気自動車の充電ネットワークなどの新たなインフラ投資の機会は、従来のインフラ投資よりもリスクが高く、インフラ投資に向ける資本は十分あるものの、投資可能なプロジェクトが不足していると感じています。


また、機関投資家の多くが、官民パートナーシップ(PPP)はインフラプロジェクトに最も適した資金調達モデルであるものの、現在のモデルには問題があり、PPPプロジェクトにおいて政府は民間セクターに不均衡な資本出資をするよう求めているとしています。

ネットゼロ化には、企業、投資家、政府を含む全てのステークホルダーの協働が必要です。ステークホルダーはそれぞれの立場で、サステナビリティの推進において重要な役割を果たすことができるため、有意義な進歩を遂げる上でステークホルダー間の協力は不可欠です。

企業は温室効果ガス排出の主要な要因となっていることから、自社の事業とサプライチェーンの全体においてサステナビリティ目標を導入する責任があります。機関投資家は、資金力と影響力を通じて、サステナビリティを戦略の主柱とする企業やサステナビリティの取り組みに資金を誘導することにより、前向きな変化を促すことができます。一方、政府には、サステナビリティの推進と環境への配慮を促すインセンティブを提供する規制枠組みを、策定・導入する権限があります。

低炭素経済への移行には、多額の投資と技術の進歩が必要であり、企業、投資家、政府のパートナーシップを構築することによって、より円滑に進めることができます。次世代に豊かでレジリエントな地球を手渡すには、ステークホルダーが一丸となり、サステナビリティへのコミットメントを共有する必要があります。

第3章  2024年を通してM&Aの勢いが続く
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第3章

2024年を通してM&Aの勢いが続く

CEOは技術革新と企業変革を加速させる手段としてM&Aを検討しています。

CEOは、M&Aを短期の優先課題に対処するための主要手段と捉えており、ディールは主に、テクノロジー、新たな生産能力、または革新的なスタートアップ企業の獲得を目的としています。また、CEOは現在の資産と事業のポートフォリオを精査し、長期的な目標の達成に寄与するディールを検討しています。今後12カ月間に資産を売却したいと考えるCEOが、地域・セクターを問わず急増していることは、CEOが異なる環境における将来を見据えていることを浮き彫りにしています。

2024年第1四半期に発表されたM&A取引額は7,960億米ドルで、2023年の同時期に比べて36%増加しました。記事の見出しとしては、朗報だといえるでしょう。特に米国やエネルギーセクター・ライフサイエンスセクターなどで、世界的に力強い動きが見られました。また、欧州全域、特に英国で勢いが増し、金融サービスセクターのディールメイキングが加速し、テクノロジー資産の買収が再び活発化しました。


この実績は、16件のメガディール(100億米ドル超)によってけん引されたものであり、2020年7月から2022年6月まで続いたM&Aのスーパーサイクルの頂点となった2021年第3四半期以来の高い水準となっています。
 

そうした中、M&A市場全体では、依然として主要領域において弱い動きも見られます。プライベート・エクイティ(PE)活動(買収およびエグジット)には、大きな増加は見られず、消費財や小売りなどのセクターのディール活動は低水準にとどまっています。
 

しかし、経営陣が年初に比べてM&Aに積極的になっていることから、1月のCEOを対象にした調査以降、買収と売却の双方への意向が高まっています。
 

最も目を引くのは、トレードセール、PE企業への売却、スピンアウトのいずれかによる資産または一部事業の売却の意向が急激に高まっていることです。
 

2024年には、中核事業への集中のため、または残るポートフォリオへの投資資金のために、事業の一部売却を検討する企業が増加する可能性があります。
 

2024年第1四半期の世界のデット・キャピタル・マーケッツ(DCM)での資金調達は、2023年第1四半期比16%増の2兆9,000億米ドルとなり、1980年の記録開始以来、最も好調でした。 同様の分析によると、2024年第1四半期の株式資本市場の総調達額は2023年第1四半期比1%増の1,410億米ドルで、世界の株式資本市場の活動としては、過去3年間で最も好調でした。
 

2023年に比べ2024年は、世界の資金調達市場が活発化しているため、資金需要者の懸念は低下すると思われますが、世界的な選挙のスーパーサイクルにおける重要な投票日が近づくにつれて、市場が再び急激に引き締まる可能性があります。
 

証券取引所での新規発行に対する需要の高まりや、PE企業が競争力のある買い手として市場に待望の復帰を遂げることは、ダイベストメントを検討している企業の後押しとなる可能性はありますが、M&A市場に主要プレーヤーとしてPE企業が復帰する時期は依然として不透明です。PE企業の確かな復帰には、金融政策の方針の決定が必要です。


CEOは自社全体の戦略に沿って、革新的な競合他社に先んじるために必要な技術や新製品に関する能力の取得や、革新的なスタートアップ企業の買収などをM&Aの最優先課題としています。


M&A市場の見通し
ディールの加速を予想している投資家の割合

機関投資家もディール市場について楽観的で、過半数(61%)がディール環境は安定的に推移すると予想しており、3分の1(34%)がディールの加速を予想しています。

M&Aもまた、持続可能な長期的価値を創造するためにCEOと機関投資家が協力できる分野です。

機関投資家はCEOに対して、ディールがどのように成長の加速に寄与するのか、また新たな機会につながるのかを、明確に説明することを求めています。

また、リスクの低い他の投資よりもディールによるリターンの方がはるかに優れていることを明確に示すロードマップも必要です。

M&Aの最優先原則
リスクの低い手段よりもディールのROI(投資利益率)の方がはるかに優れていると考える投資家の割合

当面の優先課題と長期目標を両立させるための3つの行動:

協力する:特に依然として厳しい市場環境において、企業は投資家や政府と協力し合うことで、必要な資金や助成措置を得ることができ、より持続可能な事業への移行を加速することができます。投資家は自らの影響力を行使して、投資先企業に前向きな変化を促し、政府はイノベーションを促進し、持続可能な慣行の実践を奨励する環境を整えることができます。

動き続ける:CEOは、サステナビリティに関する政策の決定時に、主要なステークホルダーとして政府との関わりに積極的に参加する必要があります。CEOは、十分な情報を持ち、経済への悪影響を最小限に抑えた上で、政策目標を支える最適なメカニズムについて助言する理想的な立場にあります。

より良いストーリーを示す:投資家はディールメイキングの見通しについて概して楽観的ですが、内部成長投資に比べて買収によるリターンが高くなる理由について、企業が明確に、より説得力のある説明をすることを望んでいます。



1.Steady but slow: Resilience amid divergence, April 2024; https://www.imf.org/en/Publications/WEO/Issues/2024/04/16/world-economic-outlook-april-2024 (2024年4月15日アクセス)


本シリーズについて

2024年1月期のGlobal CEO Outlook Pulseをダウンロードする

2023年10月期のGlobal CEO Outlook Pulseをダウンロードする

2023年7月期の Global CEO Outlook Pulseをダウンロードする


サマリー

CEOを対象とするEYの調査で、CEOは自社のレジリエンス(回復力・適応力)が高まっていると感じていることが明らかになりました。彼らは、当面の期待事項や、将来的成長のための投資に必要な資本創出に向けて今取るべき行動などに関して、以前より楽観的に捉えており、少なくとも悲観的ではないといえます。市場環境が厳しい中で、引き続き焦点となるのは短期的なリターンでありますが、いくつかの重要な戦略的転換は長期的な目標になる可能性が高くなっています。

このような機会は、企業が機関投資家や政府とより効果的に関わることで、より迅速に確保できる可能性があり、世界中の多くの政府が、産業主権の強化を検討する中で、より深いエンゲージメントの機会が生まれています。この3者間のコミュニケーションと協働を深めることが、経済成長の鈍化、近年の生産性向上の低迷、切迫する気候問題対策の遅れなどの解決への鍵となるでしょう。


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