TradeWatch 2023年 Issue 3 EU:CBAMが始動

TradeWatch 2023年 Issue 3  EU:CBAMが始動


2023年10月1日、EUにおいて炭素国境調整メカニズム(CBAM)に関する世界初の法規制が施行されました。これは、カーボンプライシングの展開にとって重要な出来事であり、EUに拠点を置く企業だけが影響を受けるものではありません。EU CBAMは、世界の多くの企業にも影響を与えます。また、自国のCBAMの法整備を始めているオーストラリアや英国を含め、他の国・地域で検討されているカーボンプライシング制度への取り組み方にも影響を与える可能性があります。

EU CBAMの主要スケジュール

  • EU CBAMは、まず移行期間を設けて開始し、その期間は2025年12月31日までとなります。これにより、輸入者(関税申告者、関税代理人)は、CBAMデータに関する記録を保持し、CBAM対象製品の内包排出量を報告することが義務付けられます。
  • 2026年1月1日から完全導入されるCBAMでは、製品をEU域内で自由に流通させるための申告を行うため、輸入者は、新たに「認定CBAM輸入者」としての地位を取得することが必要です。「認定CBAM輸入者」の申請は、2024年12月31日以降行うことが可能となります。
  • 2026年1月1日から、輸入されたCBAM対象製品の内包排出量に対する課徴金支払いのため、輸入者は、CBAM証書を継続的に購入することが求められます。
  • CBAMによる課徴金は、2026年から2034年にかけて段階的に導入され、段階が進むにつれて、CBAM証書によって徴収される金額が増えていきます。
  • このCBAMの段階的な導入は、いわゆる炭素の無償割当の段階的廃止と並行して行われます。EU域内の製造業者が引き続き今後数年にわたって受け取る予定の無償割当は、EU域内の製品とEU域外からの輸入品との間で公平な競争環境を維持することを目的としています。
     

CBAM課徴金の影響

輸入者がEU域内に輸入する製品の量、および輸入する製品の炭素排出量によって、CBAM課徴金は大きなコストとなる可能性があり、企業にとって紛れもない、戦略上または競争上のメリットやデメリットを生じる可能性があります。

低炭素技術やカーボンニュートラル技術での製造に投資を行っている企業は、その投資から競争優位性を手に入れることになります。

なぜなら、投資を行っていない競合他社と比べ、投資を行っている企業のカーボンプライシングはより低くなるからです。(EUで製造された製品にはEU排出量取引制度〈EU ETS〉による課徴金が適用される一方、EU域外で製造されてEU域内に輸入された製品にはCBAMが適用されます)

CBAMの影響を受ける企業とは?

多くのセクターの企業が、CBAMの影響を受ける可能性があります。現行のCBAMは以下の製品カテゴリーに適用されます。

  • カオリン、およびその他のカオリン系粘土(焼成されたもの)
  • セメント、アルミナセメント、セメントクリンカー等
  • 肥料(アンモニア、硝酸、硫黄酸等を含む)
  • 塊成化された鉄鋼石および精鉱
  • 鉄鋼製品全般(一部の合金鉄、スクラップ等を除く)
  • ねじ、ボルト、ナット、コーチボルト、ねじフック、リベット、コッター、コッターピン、座金(ばね座金を含む)、その他これらに類する品目の川下製品を含む鉄鋼製品
  • アルミニウム構造体およびその部品
  • 特定のアルミニウム製貯留容器、タンク、バット、コンテナ
  • アルミニウム製の撚り線、ケーブル、組ひもその他これらに類するもの(電気絶縁をしたものを除く)
  • その他のアルミニウム製品
  • 水素
  • 電気エネルギー
     

多くの企業が対象となり得る幅広い規制

CBAMは、上記製品の「大量輸入者」だけでなく、さらに広範囲の企業に適用されます。つまり、こうした製品を少量しか輸入しない企業であっても、CBAM規則の対象となる可能性があります。これは、CBAMの適用除外とされるのが、150ユーロまでの低価格貨物など、極わずかなケースだけであるためです。したがって、CBAM対象製品のビジネス間(B2B)の輸入貨物の大半が影響を受けることになるでしょう。

特に、CBAMが原材料や中間製品だけでなく、スクリューやボルト、ナットなどの基本的な金属部品や接合器具などの一部の川下の製品も対象としていることを考慮することが重要です。つまり、こうした一般的な製品(機械や電子機器のスペアパーツや部品など)をEU域外から調達する企業もCBAM規則の対象となり得るということです。したがって、各企業は、(CBAMの対象範囲がとても広いため)CBAMの対象外であるかどうかを積極的に検証することが重要です。

CBAM規則の対象が、今後数年でさらに広範囲となる可能性があります。サステナビリティの重要性を考えると、製品がEU域内で製造された場合、EUのカーボンプライシングの対象となるすべての輸入製品をCBAMの適用範囲に含める政策が導入される可能性が高いと考えられます。その際には、広範な金属製品、ポリマー(プラスチック)、鉱油製品、多種多様な化学製品、紙やパルプ、セラミック、その他のさまざまな製品が、CBAM規則の対象となる可能性があります。したがって、CBAMの戦略的な影響は今後数年でさらに増大する可能性があり、より多くの企業がその影響を受けることになると予想されます。

組織における責任者

大半の企業にとって、CBAMへの対応は、誰がCBAM対応の責任者なのか?という基本的な問いかけで始まります。しかし、簡単に答えを出すことはできません。

CBAMは純粋な関税や内国税ではありません1。そのため、税務と貿易のプロフェッショナルのなかには、組織内の他の誰かがCBAM対応の責任を担うべきだと主張する人もいるでしょう。実際には、サステナビリティやサプライチェーン、あるいは調達などの部門がCBAM対応の責任を担うことがよくあります。しかし、これが必ずしもベストな答えとは限りません2。

CBAMは、貿易と製品の国境を越えた移動に密接に関連した仕組みです。つまり、CBAMは、税関の輸入データ(正確なCBAMの報告に必要)だけでなく、関税と大きく関係しています。CBAM規則には、関税規則から採用された法的条項や、それらに言及する条項が非常に多くあります。したがって、CBAM規則を効果的に順守するためには、関税の原則に関する深い知識が必要となります。これが、CBAMへの対応において、組織内の貿易部門が大きな役割を果たすべき理由となります。

責任を担うその他の部門としては、税務、貿易、財務の部門が考えられます。これらの部門がCBAM対応の責任を担う可能性を有する理由の1つは、税務や貿易のプロフェッショナルが、CBAMのような法規制への対応およびその規定の順守に求められる経験と知識を備えているからです。さらに、これらの部門には、長年にわたって規制当局への報告を行ってきた豊富な経験があります。これも、これらの部門がCBAMへの対応を担うべきだという理由の1つとして挙げられています。もしCBAMの責任を担う部門が他に存在しない場合、これらの部門が自動的に担当部門となる可能性があります。

このような決定のどれも、正しいものでも間違ったものでもありません。誰がガバナンスの責任を担うにしても、それぞれの決定にはメリットとデメリットがあります。もちろん、責任者を決定する際には、リソース、経験、組織構造なども重要な要素として考慮しなければなりません。現実的には、組織全体から複数のステークホルダーを関与させることが、最善の解決策である可能性が高いでしょう。重要なのは、最終的な責任者を決定すること、そしてそれを自動的にではなく、意識的に決定するべきであるということです。今やCBAM は現実問題です。

そのため、影響を受ける企業は、CBAMの責任者を決め、CBAM報告とCBAMコストの影響に自社が対応できるように準備を進める必要があります。

CBAMへの対応

責任者を決定した後、企業がCBAMへの対応として取るべき最初のステップは、一般的に以下のようになります。

  • 製品ポートフォリオからCBAM対象製品を選別する
  • 影響を受ける組織(エンティティ)を特定する
  • 影響を受ける通関サービス業者とサプライヤーを特定する

企業や組織の新しい法規制への対応を支援してきた私たちの経験によれば、こうしたプロジェクト全体は、当初の予想よりもはるかに複雑になる可能性があります。問題となる可能性のある課題には、以下のものが含まれます。

  • 関税分類:一部の製品(特に金属製品)の関税分類(HSコード)は非常に複雑になる可能性があります。同じ機能を持つ製品でも、製品の特性の詳細によって、異なる関税分類となり、CBAMの対象となる場合もあればならない場合もあります。
  • 間接材調達:企業では、製品や取引原材料を輸入する以外にも、「間接材調達に伴う」輸入が多く発生します。これには、IT部門やマーケティング部門による製品の購入やサンプルの輸入などが含まれます。これらの製品は標準的な報告書では容易には確認できず、一見CBAMの対象とは見えない組織(エンティティ)に関連している場合があります。
  • 通関業者とサプライヤー:非EU企業がEU域内に製品を輸入する際には、物流サービス提供者や関税代理人を自社の代理人とし、これらの通関代理人を通じて輸入を行うことがよくあります。
    しかし、これらEUのサービス提供者には、CBAMによってさらに多くの義務が課される可能性が高くなります。その場合、彼らはCBAMの下で非EUのクライアントの代理人となること、追加のリスクを負うことを避けるために、現行の取り決めやサービス契約を見直したいと考えるかもしれません。
     

追加コストについてのシナリオプランニング

大多数の企業はまた、2026年以降のCBAMによるコストへの影響についても関心を持っています。こうしたシナリオシミュレーションは、さまざまな側面をカバーすることができます。企業は自社の輸入によってCBAMから直接的にどのような影響を受けるのか理解したいと考えるでしょう。また、もし調達の川上にいる取引先が製品を輸入し、CBAM証書を購入した結果、それがEU域内での販売価格に転嫁される可能性がある場合、間接的なCBAMの影響も理解したいと考えています。

調達した製品のポートフォリオや数量の変更を考慮する場合もあるかもしれません。その他にも、モデリングでは、排出量の改善、原産国で支払われた炭素価格、EUでの炭素価格(CBAM証書の価格)が考慮される可能性があります。

通常、社内の他のステークホルダーに対して、CBAMがビジネスにとって重要になり得ることを説得するためには、初期の指標的なモデリングの結果が必要となります。これは、包括的なCBAMへの準備を推進する支援とリソースを受けるための必要なステップとなるでしょう。

データ管理上の課題

ほとんどの輸入者にとって、CBAM報告書の作成は困難なデータ集計作業になると考えられます。CBAM報告書には、合計で200以上のデータ項目が含まれています(ただし、最初からすべてが義務付けられているわけではありません)。報告書は、税関申告から収集すべきデータ、統合基幹業務(ERP)システムからのデータ、排出量データで構成されています。主な準備段階としては、適切なデータソースの特定(すなわち、関連するシステムとデータ保有者の特定)、システムからのデータ抽出方法の確定、および入手可能なデータの可用性や品質の判断があります。

データが利用可能で品質が良好な場合、それぞれのデータソースと保有者からデータを取得した後、指定された中央管理部門にこれらを転送し、CBAM報告書を作成し、それを規制当局(EU委員会)に提出する役割を担うガバナンス組織とプロセスが必要となります。

報告の方法としてさまざまな選択肢が考えられます。例えば、報告書作成は、組織内の各グループのために報告書を取りまとめる内部のシェアードサービスセンターを通して、または外部のサービス提供者を統合することで、個々の組織が各国で行うことが可能です。これらの作業をアウトソーシングまたはコソーシングすることも選択肢の一つとして考えられます。サービス提供者(EYを含む)は、CBAM報告書をマネージドサービスとして提供することや、データプロバイダーと効率的に連携し、CBAM報告書のワークフローを効率化する専用のITソリューションを提供することができます。

排出量データの報告

企業にとってもう1つの具体的なデータの課題は、排出量データの報告です。法律では排出量決定方法として以下の3つが定義されています。

  1. 標準的なEU方式では、いわゆる「活動データ」に基づいて、排出源からの排出量を決定することを求めていますが、これは、継続的な測定によって排出源からの排出量を決定するということです。
  2. 2024年末までの簡便な方法として、「MRV規制」(CO2排出量の監視、報告、検証制度)で使われている方法、または他の方法で排出量を決定することもできます。
    他の方法としては、(例えば、設備の所在地でカーボンプライシングが適用される場合、設備に適用可能な排出モニタリングスキーム〈認定検証者によって検証されたものも含む〉に基づくデータ、もしくは強制的な排出モニタリングスキームに基づくデータ)を使用することがあります。
  3. CBAMの義務を負う輸入者が、上記の方法によって算出されたデータを有していない場合、EU委員会が公表する標準値を使用して、製品の内包排出量の簡易計算を行うことが可能です。しかし、この簡便な方法は、2024年の中盤まで、そして最初の3回の報告に限って使用可能です。

EU委員会は、排出量情報を文書化し、共有するためのテンプレートを提供しています。

これは、CBAMにおける排出量決定の基準を詳述した包括的なガイドラインです。しかし、そこに記された規則は複雑で、多くの製造業者にとって過度な負担となる可能性があります。また、考えられるシナリオとしては、商業上の理由から、サプライヤーが製造業者や製品の内包排出量の詳細を提供する準備が整っていない場合があります。こうなると、輸入者は必要なデータを入手できないという困難に直面する可能性があります。

EU市場で販売している非EU製造業者は、CBAMの製品内包排出量算定のためのEU規則に精通し、この情報を提供する方法を模索しなければなりません。EUの輸入者が第三者サプライヤーから調達している場合、輸入者は、どのようにして自らが必要とするデータをそのサプライヤーが提出できるようにするのかを検討する必要がある一方で、サプライチェーン全体を通じての協働が不可欠となります。

CBAMの罰則

CBAM規則を正確に順守するよう努めることも、コンプライアンス違反や虚偽の報告による罰則リスクを回避するために重要です。CBAM規則では移行期間における罰則として、未報告の排出量1トン当たり10~50ユーロの罰金が科されると規定されています。規制当局が罰金額を決定する際には、未報告の情報の範囲、未報告の輸入製品の数、およびそれら製品に関連する未報告の排出量を考慮する可能性があります。CBAM申告者の改善措置を講じる覚悟や、過去の行動もまた考慮されます。不完全または不正確な報告書が2回以上連続して提出された場合や、報告書が6カ月以上未提出の場合は、さらに高額の罰金が科される可能性があります。また、一部のEU加盟国では、独自の罰則制度を追加で設けており、場合によっては、はるかに厳しい制裁が含まれていることがあります。

巻末注

  1. 「EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)は、EUに輸入される炭素集約型製品の生産時に排出される炭素に公正な価格を設定し、非EU国におけるクリーンな産業生産を奨励するための画期的な手段です。CBAMの段階的な導入は、EUの産業の脱炭素化を支援するためのEU排出量取引制度(ETS)における無償割当の段階的な廃止と並行して実施されます。」欧州委員会ウェブサイト、こちらをご覧ください。
  2. “The role of customs and trade functions in the ESG era,” TradeWatch Issue 3 2023, page 44. こちらをご覧ください。

関連税務ニュース