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2024年7月発行のIPOガイドブックを転載したものであり、本文中特に断り書きのない限り、2024年4月15日現在の法令・規則等に準拠して作成しています。
2024年版 IPOガイドブック
資本政策上、適正な株主構成と最適な発行済株式数の拡大という目標を実現するため、株式移動や増資あるいは関係会社の持合関係の見直しを行うに当たり様々な手法が利用されます。
こうした手法は、実施時期や移動先、引受人の属性によって移動価額等、税務上の取扱いが異なりますので、顧問税理士等の専門家のアドバイスを受けながら慎重に行わなければなりません。
株式移動には「売買による方法」と「贈与による方法」があります。既存の株主のうち、退職した者・旧経営者等からオーナーグループが株式を買取る場合、また、上場前にオーナーからオーナー一族へ贈与によって移動する場合には、課税上の問題が生じないよう適正な算定方式による株価(時価)で移動する必要があります。
第三者割当増資によって、特定の者に対して募集株式の割当をする場合には、既存株主の利益保護の見地から、適正な価額で割当なければ株主間の不平等を招き、課税の問題が発生します。
有利な価格で募集株式の割当をした場合には、発行会社は資本取引のため税務上の問題は発生しません。しかし、割当を受けた株主については、原則として、個人株主は所得(一時所得あるいは給与所得)、法人株主は受贈益として課税されます。
株式の適正な価額について、上場会社は株式市場の客観的時価が存在するのに対し、未上場会社はこうした客観的な時価がないので、財務状況、成長性、株主構成、経営参加の関係、株式の取引実態等によって、後述の株式の評価方法が利用されています。
既存株主に対してその持株割合に応じて募集株式の割当をした場合には、発行価額が時価である場合はもちろんのこと、有利な価格であったとしても株主間の価値の移動はないので、募集株式の割当を受けた株主に対する課税の問題は発生しません。
しかし、同族会社の特定の株主が意図的にその全部又は一部を失権して、親族等特別の関係にある者へ持分の一部を移転した場合には、同族会社の特定の株主から贈与によって親族等が取得したものとして取扱われます。
人的、資本的関係会社がある場合には、投資者保護、役員の公私混同の防止、適正な開示という観点から、財務状況及び取引関係等が厳しく審査されます。そのため問題となるグループの企業を再編する場合、原則として、資産を移転した法人において資産の譲渡損益が計上され、また株主に対するみなし配当や譲渡損益の問題が発生しますが、一定の税制適格条件に該当する場合には、これらの課税が繰り延べられることとされています。
株式交換とは、子会社になる会社の株主が、その保有する株式を親会社になる会社に拠出し、その拠出した株式に見合う親会社株式を取得することをいいます。
一方、株式移転とは、会社の株主が、完全親会社を設立するために、その保有する株式を拠出して、新設完全親会社の株式の割当を受けることをいいます。
株式交換・株式移転は、原則的には「株式の譲渡」ととらえ、交換・移転時点で含み損益が実現したものとして課税されますが、一定の要件を満たせば、交換・移転時点では課税損益を認識せず、交換・移転により取得した株式を売却するまで課税が繰り延べられます。
企業グループ内の合併・会社分割が行われた場合、資産の引継ぎについては、原則として時価による移転として譲渡損益を認識すること(時価移転)となっています。ただし、税制適格要件に該当する合併・分割については、移転資産が帳簿価額で引き継がれ、譲渡損益が繰り延べられます。
また、被合併会社又は分割法人の株主に対するみなし配当(交付株式等の額の合計額が、その法人の資本等の金額のうち交付株式に対応する部分の金額を超える部分)・株式譲渡課税については、下記のようになりますが、会社法における子会社分割は物的分割(法人税法の「分社型分割」)に統一され、人的分割(法人税法の「分割型分割」)は「物的分割」と「剰余金の配当」を同時に行うことになりました。
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株式等の譲渡損益 |
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合併 |
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課税 |
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分社型分割 |
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課税なし |
株式の上場に際して、上場基準を充足するため、あるいは上場時の初値を円滑に形成するため、更には、創業者利潤をもたらすため等様々な目的のために、株式上場時にほとんどの大株主等が株式を一部売却します。個人が株式を譲渡した場合には、申告分離方式によって課税され、株式の譲渡対価からその取得原価を控除して求めた株式売却益に20%の課税(所得税15%、住民税5% )が発生します。(復興特別所得税を除く)
個人から個人へ株式等を贈与した場合には、受贈者側に贈与税が課されます。贈与税の税率については、下記のとおりです。
贈与額 |
2,000千円以下 |
2,000千円超 |
3,000千円超 |
4,000千円超 |
6,000千円超 |
10,000千円超 |
15,000千円超 |
30,000千円超 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
税率 |
10% |
15% |
20% |
30% |
40% |
45% |
50% |
55% |
控除額 |
- |
100千円 |
250千円 |
650千円 |
1,250千円 |
1,750千円 |
2,500千円 |
4,000千円 |
贈与額 |
2,000千円以下 |
2,000千円超 |
4,000千円超 |
6,000千円超 |
10,000千円超 |
15,000千円超 |
30,000千円超 |
45,000千円超 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
税率 |
10% |
15% |
20% |
30% |
40% |
45% |
50% |
55% |
控除額 |
- |
100千円 |
300千円 |
900千円 |
1,900千円 |
2,650千円 |
4,150千円 |
6,400千円 |
注:贈与額=贈与された財産の価額-基礎控除額110万円
ストック・オプションの権利者が権利を行使して権利行使時の株価(時価)より安い価格で新株を取得した場合には、その経済的利益(すなわち時価と行使価額の差)については給与所得等とされ、累進税率による所得税が課されることになります。
しかし、一定の基準を満たすストック・オプションについては、権利行使時点では所得税を課税せず、当該株式を売却した時点で株式譲渡益として課税し、所得税の申告分離課税(税率に関しては前頁(1)参照)を適用するという優遇措置が手当てされています。この優遇措置によって課税時期が繰り延べられる結果、納税資金捻出のために権利行使と同時に株を売らなければならないといった心配はありません。
原則 |
特例 |
|
---|---|---|
権利付与時 |
課税は行われない |
課税は行われない |
権利行使時 |
権利行使時の株価と権利行使価額との差額 |
課税の繰延 |
株式譲渡時 |
売却価額と権利行使時の株価(所令109①)との差額(キャピタルゲイン)に課税 |
売却価額と権利行使価額(租措令19の3⑫)との差額(キャピタルゲイン)に課税 |
課税繰延の要件に該当する税制適格ストック・オプションとは、「新株予約権の有利発行の決議」に基づき無償発行された新株予約権(旧商法の自己株式方式のストック・オプションである「株式譲渡請求権」及び新株引受権方式のストック・オプションである「新株引受権」を含む)で、次に掲げる要件のすべてを満たすものをいいます(措法29の2①)。
① 行使期間は、付与決議の日後2年を経過した日から10年※を経過する日までの間
※設立後5年未満の一定の要件を満たす会社は15年
② 行使価額の年間の合計額が、1,200万円を超えないこと
ただし、令和6年度税制改正により設立後5年未満の一定の会社は限度額が2,400万円に、設立後5年以上20年未満の会社のうち一定の非上場会社と上場後5年未満の一定の上場会社は限度額が3,600万円に引き上げ
③ 行使価額は、契約締結時における時価以上であること
④ 新株予約権は、譲渡禁止であること
⑤ 権利行使に係る株式の譲渡または新株の発行が、付与決議がされた会社法に定める事項(取締役等の氏名を除く)に反しないで行われること
⑥ 行使により取得した株式は、発行法人と証券会社または金融機関との間で管理等信託契約を締結し、保管の委託等がなされること
ただし、令和6年度税制改正により発行会社自体が管理等する場合は保管不要
税制適格ストック・オプションの付与対象者は、発行会社(50/100超の子会社を含む)の取締役または使用人である個人及びその相続人です。また、平成31年度税制改正により、一定の外部外協力者(※)も付与対象が可能となりました。但し、付与決議日において発行済株式総数の1/3(上場会社等は1/10)超の株式を有する大口株主は対象者となりません。(租措令19条の3②③④)。
※ 中小企業等経営強化法に規定する認定新規中小企業者等(仮称)から認定を受けた新事業分野開拓計画(仮称)に従って企業に貢献する外部協力者。
なお、取締役等が権利行使時の経済的利益について非課税措置を受ける場合には、権利行使をする際に、その付与会社の大口株主に該当しないことを誓約し、かつ、他の新株予約権等の行使等を記載した書面を、その付与会社に提出しなければなりません(措法29の2②)。
そして、税制適格ストック・オプションを付与した会社は、付与した取締役等の氏名および住所、権利行使価額等所定の事項を記載した「特定新株予約権等の付与に関する調書」を、付与した翌年1月31日までに、本店所在地の所轄税務署長に提出しなければなりません(措法29条の2⑤)。
売却株主は売買時にその売却方法(市場買付・公開買付・相対取引)によって下記の通り課税されます。
取得方法 |
対象株式 |
課税方法 |
---|---|---|
市場買付 公開買付(TOB) |
公開株式 |
譲渡益課税(みなし配当課税なし) みなし配当+譲渡益課税 |
相対取引 |
公開株式/非公開株式 |
みなし配当+譲渡益課税 |
みなし配当:
1株当たりの交付金銭等の額が1株当たりの取得資本金等の金額を超える場合の、その超える部分の金額
譲渡損益:
1株当たりの取得資本金等の金額が帳簿価額を超える場合 → 譲渡益を計上
1株当たりの取得資本金等の金額が帳簿価額に満たない場合 → 譲渡損を計上
自己株式の購入時・消却時・処分時には原則として課税関係は生じず、下記の税務処理を行います。
購入時 |
みなし配当課税あり |
資本金等 |
*** |
現預金 |
*** |
---|---|---|---|---|---|
購入時 |
みなし配当課税なし |
資本金等 |
*** |
現預金 |
*** |
消却時 |
ー 仕訳不要ー |
||||
譲渡時 |
現預金 |
*** |
資本金等 |
*** |
資本政策で使う株価の算定方式は、上場申請会社の財務状況、成長性、株主構成、経営参加の関係、株式の取引実態によって異なります。
純資産方式は、企業のストックとしての純資産に着目して、企業の価値及び株価を算定評価する方式です。
① 純資産を帳簿価額で評価する「簿価純資産法」
② 純資産を再調達時価で評価する「再調達時価純資産法」
③ 純資産を清算処分時価で評価する「清算処分時価純資産法」
収益方式は、企業のフローとしての収益または利益に着目して、企業の価値及び株価を算定評価する方法です。
① 収益を利益として展開する「収益(または利益)還元法」
② 収益を資金上の収入として展開する「DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー・メソッド)」
配当還元方式は、企業のフローとしての配当に着目して、企業の株価を算定評価する方式です。
① 配当に実際に行われる配当予想金額を用いる「実際配当還元法」
② 配当に経営者の配当政策に左右されない一般に妥当とされる配当額を用いる「標準配当還元法」
③ 企業が獲得した利益のうち、配当にまわされなかった内部留保額は再投資によって将来利益を生み、配当の増加を期待できるものとして、株価を評価する「ゴードンモデル法」
比準方式は、評価対象会社と、上場会社のうち業種、規模等が類似する会社(類似会社)または業種の平均の株価と比較して、対象会社の株価を算出する方式です。
この方式は、比準する株価により、以下に分類されます。
① 評価対象会社とa.事業内容、b.企業規模、c.利益の状況等が比較的類似すると見られる複数の会社の株価と比較する「類似会社比準方式」
② 評価対象会社と類似する業種の平均株価と比較する「類似業種比準方式」
③ 評価対象会社の株式に実際に取引事例がある場合に、その取引価格を基にして株価等を算出する「取引事例法」
各種方式を組み合わせて株価を算出する方法です。
非上場会社の相続税・贈与税における評価方法として「取引相場のない株式の評価方式」があります(評基通178条~ 189-7条)。
未上場株式は相続税を計算するうえでその財産価値を認識していかなければなりませんが、その未上場株式自体は換金性に乏しく、資金繰りに苦労している相続人が多く見受けられます。
その点、上場株式はいつでも証券市場又は取引所を通じて売買が可能となり、株式の換金性が増大します。したがって、株式上場は相続税の納税資金対策という観点からは有効な手段であるといえます。
上場後の株価は、会社の業績や環境等により変化していくため、相続開始時の株価が未上場時の株価に比して高くなるか低くなるかの判断は非常に困難です。
ただし、一般的には上場直後の株価は未上場時の株価よりも高くなることが予想されます。また、自社株式が市場で流通し、株価が上昇することによって財産価値が増大し相続税の負担が増加することも考えられますが、上場時のキャピタルゲインによって確保した納税資金で相続税を納めても、未上場時より株価がかなり高いことを背景に、納税後に残る資金と保有株式の財産価値が結果として多額となる場合が数多くあります。
オープンイノベーションに向け、国内の事業会社がスタートアップ企業の発行株式を一定額以上取得した場合(※)には、その株式の取得価額の25%が所得控除されます。ただし、特別勘定として経理した金額を限度とし、5年以内にその株式を譲渡した場合等の一定の場合にはその特別勘定の相当額が益金に算入されます。
※ 一定のM&A時の発行株式の取得も対象
対象法人 |
スタートアップ企業とのオープンイノベーションを目指す青色申告法人 |
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出資の要件 |
3年(2022年3月31日以前の出資は5年)以上の株式保有を予定する1件あたり1億円以上の大規模出資 |
詳細は経済産業省ウェブサイトから「オープンイノベーション促進税制」をご覧ください。
青色申告法人である全国・ローカル5G事業者が一定の特定高度情報通信用認定等設備を取得した場合には、その資産の取得価額の30%の特別償却、または、一定割合の法人税額の税額控除が適用されます。
税額控除割合等、詳細は経済産業省HPから「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律」をご覧ください。
第四次産業革命の社会実装に向けての積極的な研究開発投資を促すために、一定の試験研究を行った場合には、法人税額の税額控除が適用されます。
① 総額型 |
税額控除額:試験研究費総額×控除率(※) |
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② 中小企業技術基盤強化税制 |
税額控除額:試験研究費総額×控除率(※) |
③ オープンイノベーション型 |
税額控除額:共同・委託試験研究費総額×税額控除率(※) |
※ 控除率等、詳細は経済産業省HPから「研究開発税制」をご覧ください。