令和7年3月期決算における税務上のポイント ~物価上昇を上回る構造的な賃金上昇の実現と国際課税への対応に向けて~

Japan tax alert 2025年2月25日号

エグゼクティブサマリー

今年も3月決算法人の決算期末が近づいてきました。一昨年、令和6年度税制改正の大綱において政府は、「賃金上昇が物価高に追いついていない国民の負担を緩和し、物価上昇を十分に超える持続的な賃上げが行われる経済の実現を目指す観点から、所得税・個人住民税の定額減税の実施や、賃上げ促進税制の強化等を行う。また、資本蓄積の推進や生産性の向上により、供給力を強化するため、戦略分野国内生産促進税制やイノベーションボックス税制を創設し、スタートアップ・エコシステムの抜本的強化のための措置を講ずる。加えて、グローバル化を踏まえてプラットフォーム課税の導入等を行うとともに、地域経済や中堅・中小企業の活性化等の観点から、事業承継税制の特例措置に係る計画提出期限の延長や外形標準課税の適用対象法人の見直し等を行う。」と述べています。

このうち令和7年3月期決算における法人課税の分野では、賃上げ促進税制の改正がメインとなっており、戦略分野国内生産促進税制やイノベーションボックス税制は、翌期以降の対応事項となります。また、国際課税の分野では、グローバル・ミニマム課税の導入に伴う関係法令の整備も行われています。

本税務ニュースでは、令和7年3月期に適用される税制改正のうち、主要な項目に絞って解説を行います。


I 法人課税

1. 賃上げ促進税制の見直し

令和6年度税制改正で、今までの2区分から、大企業向け(全法人向け)、中堅企業向け、中小企業者等向けの3区分となりました。特に今まで大企業向けを利用していた法人にあっては、新しい区分である中堅企業に該当するか確認する必要があります。

(1)法人の区分
①全法人向け
全法人向けといわれているものは青色申告書を提出する法人であれば良く、企業規模などの制限はありません。中堅企業向けや中小企業者等向けに該当するときはそれぞれの制度を適用した方が有利であるため、結果として全法人向けは中堅企業と中小企業者等に該当しない大企業に適用されるケースが多くなります。

②中堅企業向け
中堅企業とは、青色申告書を提出する法人のうち、事業年度終了のときにおいて常時使用する従業員の数が2,000人以下の法人をいいます。

この場合、その法人と、その法人による支配関係がある他の法人の常時使用する従業員の数の合計数が10,000人を超えるときは、中堅企業に該当しないこととされます。なお、この従業員数に含める法人は、「その法人による支配関係がある他の法人」と規定されているため、判定対象法人の子会社が典型例で、判定対象法人の親会社や兄弟会社は含まれません。また、海外子会社があるときはこれを含める必要があります。

③中小企業者等向け
中小企業者等とは、例えば資本金の額が1億円以下など、租税特別措置法に規定する一定の中小企業者と農業協同組合等をいいます。なお、大規模法人の子会社等、一定数の株式を所有されているものは除かれます。また、適用除外事業者(前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人)は中小企業者等向けの賃上げ促進税制の適用対象外とされています。

(2)税額控除割合
税額控除割合が【表1】のとおり改正されました。大企業向け(全法人向け)においては、継続雇用者給与等支給増加割合の区分が4つに増えるとともに、今までと同じ控除割合を適用するためには、賃上げ率を上昇させる必要がある内容になっています。

また、税額控除割合の上乗せ措置の1つに、子育てとの両立支援、女性活躍支援に関する要件が加わり、いずれかを満たす場合には税額控除割合が5%上乗せされます。
 

【表1】税額控除割合の改正

【表1】税額控除割合の改正

出典:国税庁「令和6年度法人税関係法令の改正の概要」、https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/kaisei_gaiyo2024/pdf/A.pdf(2024年12月27日アクセス)を一部加工して作成

(3)子育てとの両立支援、女性活躍支援に関する要件
新たに設けられた子育てとの両立支援、女性活躍支援に関する要件については、大企業向け(全法人向け)、中堅企業向け、中小企業者等向けでそれぞれ対象範囲が異なります。

なお、プラチナくるみん認定とプラチナえるぼし認定は、その事業年度終了の時においてこれらの認定を受けていれば加算措置の対象となる一方で、くるみん認定、えるぼし認定は、その認定を受けた事業年度が加算措置の対象となります。

【表2】子育てとの両立支援、女性活躍支援に関する要件

(※)令和4年3月31日以前の改正前のくるみん認定基準を前提に取り組んでおり、男性の育児休業等の取得に関する基準の算出に当たって、令和4年4月1日から当初の計画期間の終期までを計画期間とみなして算出し、くるみん認定・くるみんプラス認定を受けた場合は加算措置の対象となるが、令和4年3月31日以前の改正前の基準によるくるみん認定は加算措置の対象外

出典:国税庁「令和6年度法人税関係法令の改正の概要」、https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/kaisei_gaiyo2024/pdf/A.pdf(2025年2月18日アクセス)を一部加工して作成

(4)マルチステークホルダー方針の公表
主に大企業に適用されるマルチステークホルダー方針の公表対象法人について、常時使用する従業員の数が2,000人を超える法人が追加されました。また、公表内容として「取引先に消費税の免税事業者を含む」ことが明確化されたことから、記載の見直しを検討する必要があり、その見直し後の公表期限は事業年度終了の日までとなっています。

なお、事業年度終了の日から45日以内に経済産業大臣に一定の申請が必要となる点に変更はありません。

(5)控除限度超過額の繰越制度
中小企業者等の区分に該当する場合は、控除限度超過額の繰越制度(5年間)が設けられました。なお、控除限度超過額(未控除額)が発生した事業年度以後の各事業年度の確定申告書に繰越税額控除限度超過額の明細書の添付・提出がされていない場合、未控除額は繰り越されず、繰越税額控除を適用できないこととされていますので留意が必要です。

また、繰越控除を行う年度は全雇用者給与総額が対前年度比で増加していることが要件です。


2. 交際費等の損金不算入制度の見直し

今まで、交際費等の範囲から除外される一定の飲食費に係る金額基準は1人当たり5,000円以下でしたが、令和6年4月1日以後に支出する飲食費から1人当たり10,000円以下に引き上げられました。

一定の飲食費とは、従業員等が得意先等を接待して飲食するための飲食代などをいい、社内飲食費やゴルフ、観劇等の催事に際しての飲食等に要する費用はここでいう飲食費には該当しません。


3. 特定税額控除規定の不適用措置の見直し

(1)要件の上乗せ措置の見直し
一定の大企業が、租税特別措置法の税額控除のうち特定税額控除に該当するものの適用を受けるときは、賃上げや国内設備投資などの定められた要件を充足する必要があります。

このうち、資本金の額等が10億円以上であり、かつ、常時使用する従業員の数が1,000人以上である場合および前事業年度の所得金額がゼロを超える一定の場合のいずれにも該当するときの要件の上乗せ措置について、次の見直しが行われています。

①要件の上乗せ措置の対象に、常時使用する従業員の数が2,000人を超える場合および前事業年度の所得金額がゼロを超える一定の場合のいずれにも該当する場合が加えられました。

②当期の国内設備投資額が当期償却費総額の30%を超えることの要件について、当期償却費総額の40%を超えることとされました。

この結果、次の(a)から(c)の全てを満たす資本金1億円超の企業が不適用措置の対象となります。

(a)所得金額が対前年度比で増加
(b)継続雇用者の給与等支給額が対前年度以下(前年度が黒字の大企業〈資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上、または従業員数2,000人超〉の場合は対前年度増加率1%未満)
(c)国内設備投資額が当期の減価償却費の30%以下(前年度が黒字の大企業〈資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上、または従業員数2,000人超〉の場合は当期の減価償却費の40%以下)

(2)給与等の支給額から控除する金額
継続雇用者給与等支給額に係る要件を判定する場合に給与等の支給額から控除する「その給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額」から、役務の提供の対価として支払を受ける金額を除くこととされています。

【不適用措置の対象となる特定税額控除規定】

  • 研究開発税制
  • 地域未来投資促進税制
  • 5G導入促進税制
  • デジタルトランスフォーメーション投資促進税制
  • カーボンニュートラルに向けた投資促進税制


4. 特定資産の買換えに係る圧縮記帳の対応

令和6年4月1日以後に特定資産の買換えに係る圧縮記帳の適用を受ける資産の譲渡をし、同日以後に買換資産の取得をする場合には、譲渡資産の譲渡日または買換資産の取得日のいずれか早い日の属する四半期の末日の翌日から2月以内に本特例の適用を受ける旨の届出をする制度が導入されています。

本制度の対象となる場合は、四半期単位の期限までに届出が完了しているか確認する必要があります。


II 国際課税

1. 外国子会社合算税制の見直し

外国子会社合算税制(いわゆるタックスヘイブン対策税制)については、令和5年度税制改正で手当てされたトリガー税率の引き下げ、および添付対象外国関係会社の範囲の見直しと、令和6年度税制改正で手当てされたペーパーカンパニー特例の収入割合要件の見直しがあります。

また令和7年度税制改正法案にある外国関係会社の課税対象金額の益金算入時期に関する改正の早期適用(経過措置)が可決成立し、施行された場合には、令和7年3月期の確定申告に影響する可能性があります。

(1)特定外国関係会社のトリガー税率の引き下げ
今まで特定外国関係会社(ペーパーカンパニー、キャッシュボックスまたはブラックリスト国カンパニー)の各事業年度の租税負担割合が30%以上である場合に会社単位の合算課税が免除されていましたが、内国法人の令和6年4月1日以後に開始する事業年度から、この30%のトリガー税率が27%に引き下げられました。

(2)外国関係会社に係る書類の添付義務の緩和
部分適用対象金額がない部分対象外国関係会社と、部分適用対象金額が2,000万円以下であること等の要件を満たすことにより合算所得が生じない部分対象外国関係会社について、添付対象外国関係会社の範囲から除外されました。これにより、これらの合算所得が生じない部分対象外国関係会社に関する別表への記載が不要となりました。
なお、これらの外国関係会社に係る財務諸表等については、確定申告書への添付を不要とし、保存しておくこととされました。

(3)特定外国関係会社の判定におけるペーパーカンパニー特例に係る収入割合要件の見直し
特定外国関係会社の判定におけるペーパーカンパニー特例に係る収入割合要件について、外国関係会社の事業年度に係る収入等がない場合は、その事業年度における収入割合要件の判定が不要とされました。

(4)外国関係会社の課税対象金額の益金算入時期
令和7年度税制改正大綱によると、外国関係会社の課税対象金額の益金算入時期について、現行の外国関係会社の事業年度終了の日の翌日から2月を経過する日を含む内国法人の各事業年度という規定が改正され、外国関係会社の事業年度終了の日の翌日から4月を経過する日を含む内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入することが予定されています。

当該改正の経過措置として早期適用が設けられる旨の記載もあり、その内容で法制化がなされた場合には、令和7年3月期の確定申告において、令和6年12月1日から令和7年1月31日までの間に終了する事業年度(例えば、令和6年12月決算)の外国関係会社の課税対象金額を益金の額に算入せず、これを令和8年3月期の確定申告で益金算入する選択が可能となります。実務上の影響があるため、改正法の制定状況が注目されます。


2. グローバル・ミニマム課税の適用開始

令和5年度の税制改正でグローバル・ミニマム課税が創設されました。本制度の適用対象となる一定の大企業は、令和7年3月期を対象会計年度として確定申告書および情報申告書の提出が必要となります。
適用初年度はその申告期限が対象会計年度終了の日の翌日から1年6カ月後であり、通常の法人税の確定申告書とはタイミングが異なりますが、申告に用いる情報を海外子会社等から収集するために相応の時間を要すると考えられることから、計画的な対応が求められます。


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※所属・役職は記事公開当時のものです