EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
ベルギー連邦議会は2024年5月2日、2023年12月19日の法律により当初制定されたベルギー第2の柱法令の細かい改正などさまざまな租税措置が盛り込まれた法案を可決しました。ベルギー第2の柱法令にはそもそも、QDMTT、IIR、軽課税所得ルール(以下、「UTPR」)が組み込まれています(2023年12月19日付EY Global Tax Alert「Belgian parliament approves draft bill on Pillar Two」<英語のみ>参照)。
今回の改正の主な狙いは、意図していなかった導入におけるエラーの一部是正、2023年にOECDが公表した運用指針の一部国内法制化、IIRやUTPR上の税の徴収を促進する第2の柱の事前納付制度のための法的枠組みならびに所定の(追加)報告義務の確立にあります。
さらに、今回の法案によりベルギー知的財産(以下、「IP」)制度(通称イノベーション所得控除<以下、「IID」>)も改定され、納税者は自己の課税標準からIIDの一部(または全部)を控除しないという選択をし、同控除を繰越可能な新しい非還付型の税額控除に転換することができるようになりました。これは特に、第2の柱の対象でIIDを受けられるベルギーの納税者に関係のある措置であり、それらの納税者は自己の課税標準を自発的に増やし、よって所与の年における自己の実効税率を引き上げることができます。この制度の有効性は、(IIDの)未使用部分を非還付型の税額控除として繰り越し、将来の年(例えば、当該ベルギーの納税者の実効税率が15%を超える年)に使用できるという点により確保されています(2024年5月20日付EY Global Tax Alert「Belgium modernizes investment deduction regime and enhances IP regime」<英語のみ>参照)。
今回の新しい法律により、対象の多国籍企業および大規模国内企業グループに、UPEの所在地がベルギー国内にあるか国外にあるかを問わず企業のクロスロードバンク(Crossroad Bank for Enterprises、ベルギーの商業登記所)に登録することを義務付ける法的枠組みが定められました。登録をすると、対象の多国籍企業と大規模国内企業グループには新しい固有の第2の柱納税者識別番号(TIN:Tax Identification Number)が付与され、例えば第2の柱課税の納付時にこれを使用します。
ベルギー国外の国・地域にてグローバル税源浸食防止(GloBE:Global Anti Base Erosion)情報申告書(以下、「GIR」)をまとめて提出する場合、IIRやUTPR上賦課する税を算定するのに必要なデータがベルギー税務当局に到達するのにいくらか時間を要しかねません。
したがって、GIRの提出と同時に、ベルギーにて支払うべきIIRやUTPR上の額を示した追加の(国内用)フォームを作成しベルギーにて提出することが必要になります。
適格還付税額控除の定義が広げられ、(2023年7月17日付のOECD運用指針に記載されている)いわゆる市場性のある譲渡可能な税額控除の概念も組み込まれました。一般的に言えば、これら税額控除は非関連当事者へ譲渡でき、具体的に法律で定められている譲渡可能性と市場性の基準を満たします。よって、所得と同様の特徴を有すると判定されます(したがって所得として扱われます)。今日まで、ベルギーにはこうした税額控除はありませんでした。
GloBEモデルルールに従い、短期保有株式(配当の分配時点での保有期間が1年を下回る保有株式と定義される)からの配当は、GloBE所得・損失(GloBE Income or Loss)の計算に含まれます。
多国籍企業グループ(以下、「MNEグループ」)が構成事業体(CE:Constituent Entity)について、(2023年2月9日付のOECD運用指針に沿って)選択により全ての短期保有株式からの配当を構成事業体のGloBE所得・損失の計算に含めることを認めるという新しい選択肢が導入されました。
同一年度に国内源泉損失と国外源泉所得が生じた場合において、国外源泉所得に係る税は外国税額控除(以下、「FTC」:Foreign Tax Credits)により相殺し、損失は国内ルールのもと原則繰り越すという国があります。GloBEモデルルール第4.4条のもと、こうした損失に関連する繰延税金資産(DTA:Deferred Tax Assets)は繰り越され、翌年以降の年に当該損失を用いて国内源泉所得と相殺するときにこれを調整後対象税額に加算します。
反対に、FTCの適用前に国内の損失を先に国外源泉所得と相殺しなければならない国・地域では、損失が生じません。その代わり、そうした国・地域では一般的に、将来の国内源泉所得を国外源泉所得に分類変更し、国内源泉損失の代わりにそのFTCを使用して、そうした将来の所得と相殺することが認められることになります。
こうした場合に将来の国内源泉所得を相殺するのに使用するFTCとしては、赤字を計上した過年度から繰り越したFTCか、またはFTCの繰り越しが認められないときは、翌年以降の年に生じた超過FTCが考えられます。この取り扱いは、国内源泉損失を繰り越す場合と実質同じ結果を生じさせることができます。
もっとも、(FTC繰越額を含む)税額控除に関係する繰延税金資産は調整後対象税額の計算においては考慮に入れないと、将来の所得をFTCにより相殺する国・地域では、損失を繰り越す国・地域と比べてトップアップ税が多くなってしまいます。
2023年2月の運用指針では、GloBEルールのもと、上記2つの取り扱いにより生じる「結果が機能的に同等」になる措置が図られています。それらのルールが今回の改正によりベルギー国内の税法に反映されました。よって、一定の条件のもと、特定欠損金の繰り越しに係る繰延税金資産(Substitute Loss Carryforward DTA)に起因する繰延税金費用は、構成事業体の繰延税金調整額合計(Total Deferred Tax Adjustment Amount)に含まれます。
QDMTT導入国・地域が、憲法の規定またはTax stabilization agreement(またはQDMTT導入国・地域とMNEグループの間での同様の協定)に起因してQDMTTの適用が妨げられたり、制限される場合があります。その場合は一般的に、QDMTTのもと支払うべきトップアップ税によりGloBE上のトップアップ税がゼロまで減らず、GloBEルールのもとIIRまたはUTPRを介して他の国・地域により徴収される場合があります。
そのような場合でも、当該MNEグループの財務諸表にQDMTT費用が計上されているときがあります。そのような場合、QDMTTがGloBEモデルルール第5.2.3条のもと支払われるべきものだと判定されるときは、当該MNEグループはGloBEルールに基づくトップアップ税が課されません。2023年7月の運用指針は、GloBEルールのもとでのこうした整合性リスクを認識しています。
このリスクを軽減するために、MNEグループが直接または間接的に不服を申し立てている訴訟または行政手続によるQDMTTの額は、その不服申し立てが憲法その他上位の法律を根拠とする場合は、第5.2.3条に基づく支払うべきQDMTTとして扱ってはいけません。Tax stabilization agreementや投資協定、同様の協定など、MNEグループの納税債務を限定するQDMTT導入国・地域の政府との個別の協定に基づく不服申し立てにおいても、同じ取り扱いを適用しなければなりません。
CFC税制のもと構成事業体所有者が納付しもしくは納付すべき税金で、構成事業体に割り当て可能なもの、ならびに主たる事業体が納付しもしくは納付すべき税金で当該国・地域に所在する恒久的施設に割り当て可能なものは、QDMTTから除外されます。その背景には、各国・地域には自己の領域内に所在する事業体の所得に対し、課税する優先権が与えられるべきであり、よって、構成事業体が所在する国・地域がその事業体の所得に対して最初に税金を課すことができ、構成事業体所有者の国・地域によって当該構成事業体の所得に課された税について、そのQDMTTにおいて控除を認めるよう要求することはできないという政策合理性があります。
しかし、2023年2月の運用指針は、構成事業体所有者がハイブリッド事業体の所得、または配当を行う構成事業体からの配当について支払う税の取り扱いを特にとりあげていませんでした。2023年7月の運用指針にて、上記政策合理性に基づく税金を含めこの問題がとりあげられました。現行の法律には指針のこうした更新が反映されています。
GloBEモデルルールの規定によると、構成事業体所有者の国・地域にて支払われたCFC課税は、CFC構成事業体の国・地域に割り当て、係る税金を、関係するGloBE所得に対応させる必要があります。
GloBEルールの適用開始後数年における税の確実性と同ルールの運用を改善させるために、(2023年12月運用指針に概説されている)Blended CFC税制について時限的に特別な割当方法が策定されています。Blended CFC税制は、全てのCFCの所得、損失、および控除可能な税金を合算して、同税制のもとの株主の納税債務を計算し、かつ適用税率が15%を下回るCFC税制をいいます。そうした税制の例としては米国の米国外軽課税無形資産所得(GILTI:Global Intangible Low-Taxed Income)税制が挙げられます。
このアプローチは2026年1月1日より前に開始する事業年度から適用されます(ただし、2027年6月30日より後に終了する事業年度を含まない)。
(背景については、2023年2月9日付EY Global Tax Alert「OECD/G20 Inclusive Framework releases Administrative Guidance under Pillar Two GloBE Rules: Detailed Review」、2023年2月28日付 EY Japan税務ニュース「OECD、第2の柱GloBEルールの運用指針を公表(前編)」、2023年3月8日付EY Japan税務ニュース「 OECD、第2の柱GloBEルールの運用指針を公表(後編) 」参照)
特定の国・地域が移行期国別報告(CbCR)セーフハーバーの適用要件を満たすか否かを判定するに当たっては、(2023年12月運用指針にて説明されているように)2023年12月18日より後に締結されたいわゆるハイブリッド型裁定取引(Hybrid Arbitrage Arrangements)に関する調整を当該国・地域の税引前利益と税金費用に加えなければなりません(ハイブリッド型裁定取引の概念に関する詳細は、2023年12月22日付EY Global Tax Alert「OECD/G20 Inclusive Framework releases additional Administrative Guidance on Pillar Two GloBE Rules and update on Pillar One Amount A timeline」、2024年1月24日付EY Japan税務ニュース「OECD/G20包摂的枠組み、第2の柱GloBEルールに関する新たな運用指針と第1の柱Amount Aのスケジュールに関するアップデートを公表」参照)。
同一の構成事業体についてGloBEルールとQDMTTルールのもと別々にトップアップ税の計算をするという規定により、MNEグループのコンプライアンス上の負担が増えます。事実、税額控除の仕組みを適用するには、同一の国・地域に関して少なくとも2つの別々のトップアップ税の計算をしなければなりません。1つ目の計算は現地構成事業体の国・地域におけるQDMTTの法令に基づくもので、GloBEルールに基づく(例えば最終親事業体の国・地域の法令のもとでの)計算が2つ目以降の計算です。
2023年7月運用指針にて導入されたQDMTTセーフハーバーは、この問題に対処する現実的な解決策の提供がその趣旨です。MNEグループがQDMTTセーフハーバー適用要件を満たす場合においては、「2つ目の」トップアップ税の計算は不要です。このQDMTTセーフハーバーは今回、ベルギー国内の法律にも反映されました。
なお、2023年7月運用指針が示唆するところによると、ミニマム課税がQDMTTに当たるか否かを判定するために、GloBE実施枠組み(GloBE Implementation Framework)のもとピアレビュー手続が策定される予定です。同ピアレビュー手続には、QDMTTがQDMTTセーフハーバーの基準も満たすか否かを判定するための経過的レビュー手続と恒久的レビュー手続が組み込まれる予定です。
簡易計算セーフハーバーの一部として、重要性の低い構成事業体(NMCE:Non-Material Constituent Entities)のGloBE所得・損失、GloBE収益、調整後対象税額の算出に関する簡易計算が2023年12月運用指針により導入されました。NMCEとは、大まかな定義によると、専ら規模または重要性を根拠に連結財務諸表において科目ごとに連結されていない事業体をいいます。
NMCEに関するこの代替計算方法は、そうしたNMCEに関するデータの収集、加工および記録に関係するコンプライアンス上の負担を一部軽減するというのがその趣旨です(2023年12月22日付EY Global Tax Alert「OECD/G20 Inclusive Framework releases additional Administrative Guidance on Pillar Two GloBE Rules and update on Pillar One Amount A timeline」、2024年1月24日付EY Japan税務ニュース「OECD/G20包摂的枠組み、第2の柱GloBEルールに関する新たな運用指針と第1の柱Amount Aのスケジュールに関するアップデートを公表」参照)。
UPEの国・地域がQDMTTを導入していない場合においては、GloBEルールの適用順序のもとUTPRは、その国・地域にてトップアップ税を課す主たる仕組みとして実質機能します。UPEの国・地域にてUTPRの適用を受ける可能性があるMNEグループは、一定の限度のもと、UPEの利益をIIRの対象にするために所有構造を変えることができます。
したがって、UPEの国・地域の通常の法人税率が20%以上である場合においては、2026年1月1日より前に開始し2026年12月31日より前に終了する事業年度についてのみ、UPEの国・地域のUTPRトップアップ税額をゼロとみなすことができるという経過的UTPRセーフハーバーが2023年7月運用指針により導入されました。
新しい法律によりまた、MNEグループと海外展開の初期段階にある大規模国内企業グループのIRRおよびUTPRからの除外に関するルールと、欧州連合(EU)域内の多国籍企業と大規模国内企業グループに対する世界共通の最低税率での課税徹底に関する2022年12月14日付理事会指令(EU)2022/2523との整合性がさらに高まりました。なお、所与の事業年度において:(a)構成事業体の拠点がある国・地域が6つ以下であり、かつ、(b)基準国・地域以外の全ての国・地域に所在するMNEグループの全構成事業体の有形資産の正味帳簿価額の合計が5,000万ユーロを超えない場合、そのMNEグループは海外展開の初期段階にあると判定されます。QDMTTについては海外展開の初期段階にある企業グループのための免除はありません。
同法によりまた、複数層の被部分保有親事業体(POPE:Partially Owned Parent Entities)に適用される課税の仕組みに関するルールに変更が加えられ、想定外のエラーの是正および同法の文言と理事会指令との整合性の確保が図られています。
これらの追加ルールと改正は2023年12月31日以降に開始する事業年度から適用されます。
当面の間は、企業は自己が第2の柱の対象であるか否か、ベルギー第2の柱の固有の番号を申請すべきかを判定する必要があるでしょう。追加指針が間もなく公表される見通しであり、企業においては、自己の税務上のポジション、自己のシステムにおいて必要なデータ項目の取得可能性、全般的なコンプライアンス手順への第2の柱グローバルミニマム課税の影響を引き続き評価し綿密に備えることが大切です。
ベルギーがQDMTTとIIR課税に特化した前納の仕組みを導入することを選択した中、企業においては第2の柱に伴い負担し得る納税債務を十分に余裕をもって予測し評価すべきです。
新たなルールや指針が相次いで導入されており、ただでさえ複雑なルールを十分に把握することが難しくなっています。この点に関しては、OECDはこのほど、包摂的枠組みが2022年3月から2023年12月にかけて公表した第2の柱に関するコメンタリーと運用指針を整理しました。対象の納税者で、個別の状況または取引に関する第2の柱の法令の適用について質問がある場合は、ご自身の税務アドバイザーにご相談ください。
EY税理士法人
関谷 浩一 パートナー
大堀 秀樹 ディレクター
牛尾 圭吾 シニアマネージャー
野々村 昌樹 シニアマネージャー
工藤 保浩 シニアマネージャー
EYベルギー
Peter Morea パートナー
馬場 翔太 シニアマネージャー
※所属・役職は記事公開当時のものです
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