EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
2021年3月3日、英国のリシ・スナク財務相は、「持続可能な」財政への復帰を開始すると同時に、継続的な支援策を提供し、英国への投資を奨励する必要があるという2つの相反する課題を背景に、予算を発表しました。
以下は、日本の法人クライアントに関連する主要な措置の一部です。最も重要なものは、2023年4月1日から英国の法人税の上限税率が25%に引き上げられたことで、これは日本の外国子会社(JCFC)合算税制のトリガー税率である20%を超えています。今回の変更により、英国子会社の税負担が増える可能性がありますが、JCFCコンプライアンスプロセスが簡素化されるのは歓迎すべきことであり、日本の株主に対する合算課税リスクが軽減されることが見込まれます。
今年の春季予算では、近年慣れ親しんできたものよりも多くの変更が英国の税務環境に盛り込まれており、英国で事業を展開する日系企業グループにも大きな影響を与える可能性があります。日本に拠点を置くEYの英国税務デスクチームは、クライアントの皆様による春季予算の今後のビジネスに与える影響の理解およびその対応についてお手伝いいたします。
法人税の上限税率は、利益が25万ポンドを超える英国企業の場合、2023年4月1日から25%に上昇します。まだ確定ではありませんが、英国の税率の上限と下限が以前同様、25万ポンドの閾値について関連会社の数で除したものを用いることが予想されることに留意してください。したがって、クライアントの大多数は上位帯域に分類される可能性があります。
年間利益が5万ポンドまでの企業には、19%の軽減税率が導入されます。利益が5万ポンドから25万ポンドの間の企業は、25%ではなく、25%までの逓増税率を支払います。なお、軽減税率は、非事業投資持株会社には適用されません。
英国の法人税の上限税率の引き上げは、英国子会社の税負担の増加につながりますが、この変更は、多くの日系企業グループにとって歓迎すべき恩恵となる可能性があります。英国の法人税率が、20%のJCFCトリガー税率を上回ることになり、その結果、外国子会社合算課税性の対象外となる英国子会社が増加する可能性があります。
法人税やパテントボックスなどの四半期分割納付のための大企業(largecompany)と大規模企業(verylargecompany)の定義が改訂され、より多くの企業がこの納付制度に組み込まれるようになります。この変更により、多くの企業の法人税の納付期日が前倒しされ、現在、大規模企業に該当するものは、会計年度末までに納税義務の大部分を履行する可能性があります。
迂回利益税(「DPT」)の税率は、2023年4月1日に開始する会計年度で25%から31%に増加します(本則税率との差額6%を維持)。
2023年の法人税増税後、銀行が多額の税金を支払わないように、銀行サーチャージ(現在は8%)が見直されます。
繰越欠損金:今後2年間、企業は年間200万ポンドの損失を3年間まで追加して繰り越すことができますが、欠損金の繰戻控除が優先されます。200万ポンドの上限は、控除限度額のない過去1年への繰戻控除後の欠損金の額とは別途適用されます。新型コロナウイルスの世界的感染の影響で利益が大幅に減少した日系企業グループにとっては、これを利用してキャッシュフローを改善できる可能性があります。
税務上の減価償却(キャピタル・アロ―ワンス):今後2年間は、設備投資に対して130%のスーパー控除が適用されます。新たに対象となる工場や機械設備に投資する企業は、その130%を税務上減価償却することのできるスーパー控除キャピタルアロ―ワンスと、特別償却率の対象となる資産の初年度50%のアロ―ワンスを受けることができます。この追加のスーパー控除により、今後2年間に英国で行われる投資に対して最大5.7%の節税効果が期待できます。
さらに、新たに設立される8つのフリーポート(経済特区)内の課税対象拠点では、通常3%である構造物および建物の減価償却(SBA)が強化され、10%となります。また、これらの拠点については、キャピタルアロ―ワンスも強化され100%との償却率となります。
源泉税:政府は、EU利子・ロイヤルティ指令を適用する国内法の廃止を立法化する予定です。2021年6月1日より、EU企業への年間の利子およびロイヤリティの支払いに源泉税が適用されます。軽減措置は、関連する租税条約に基づいて利用可能です。英国に地域資金調達センターを設立しているグループは、すべての条約で源泉税率が0%になるわけではないため、これらの変更を考慮する必要があります。
研究開発費控除:政府は、英国が競争力のある国であり続けるために、研究開発費税額控除の見直しを行う予定です。さらに、この見直においては、特定のデータおよびクラウド・コンピューティング費用を適格支出の範囲内に含めるかどうかが判断されます。英国の研究開発費控除制度は、すでに世界的に広く普及しているものの一つであり、同制度をさらに拡大することは、日本国外で研究開発活動を行おうとする日系企業グループに大きな利益をもたらすことになります。
租税回避防止-リース:政府は、新型コロナウイルスの結果として期限が延長されたリースに影響する租税回避防止法制の一部無効を立法化する予定です。この緩和措置によってキャピタルアロ―ワンスの適格性を回復することができます。
コロナウイルス雇用維持制度(CJRS)が2021年9月末まで延長されます。この制度は、このような厳しい時期に従業員を雇用し続ける企業を支援するために導入されたもので、就業していない時間分の給与の80%を支給することになっています。企業に対して、7月1日からは給与の10%、8月1日からは20%の拠出が求められます。
イングランドの小売業、接客業、レジャー業向けの現行のビジネスレート(事業用不動産に対する課税)の停止は、100%の引き下げ割合で6月まで、その後は3分の2の割合でさらに9カ月間延長されます。ビジネスレートとは、事業所の課税価格を課税標準として事業者に別途課される固定資産税です。
小売業、接客業、レジャー業に対する付加価値税の5%への引き下げは、2021年9月30日まで継続されます。その後、6カ月間は12.5%への引き下げとし、2022年4月からは標準税率の20%に戻ります。
コロナ事業休止融資スキーム(CBILS)とバウンスバック融資スキーム(小規模事業者を対象とする政府による100%保証制度)は終了しますが、あらゆる規模の企業を対象とする新たな復興融資制度が、4月6日に開始され年末に終了します。これでは政府が融資額の80%を保証します。
今回の予算案には、税法全体の抜本的な変更はあまり盛り込まれませんでした。しかし、新型コロナウイルスの世界的感染発生後の激動期からの英国経済の回復を支援することを目的とした重要な措置が多数導入されたため、英国で事業を展開する日系企業グループは、これらに適切に対応していく必要があります。特に、英国の法人税率の上昇は、日系企業グループにとってヨーロッパにおける事業ストラクチャーを検討する絶好の機会です。欠損金の3年間の繰越し、スーパー控除、税率引き上げの相互作用により、業績や投資の状況に応じて様々な結果が生じる可能性があります。このようなポジションをモデル化することは、多くの日系企業グループにとって重要と考えられます。日本に拠点を置く英国税務・デスクチームは、この2021年度春季予算案の一環として導入される法改正やビジネスサポートの変化について、貴社がビジネスに受ける影響を理解し管理するお手伝いをいたします。
※本アラートの詳細は、下記PDFからご覧ください。