EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 物流セクター
公認会計士 清野 竜
物流・倉庫業は、通常、物流業者が倉庫業者を兼営又は倉庫業者が物流業者を兼営している複合的な事業です。物流・倉庫業のうち、物流業には貨物自動車運送業、鉄道運送業、船舶運送業、航空運送業等がありますが、本稿では貨物自動車運送業に焦点を絞って以下の点について解説します。
(1) 物流・倉庫業の事業内容、特徴及び経営環境
(2) 物流・倉庫業の業務の流れ及び内部統制の特徴
(3) 物流・倉庫業の会計処理・表示の特徴
第1回の今回は、(1)物流・倉庫業の事業内容、特徴及び経営環境と題して、
について解説します。
なお、本稿において意見にわたる部分は執筆担当者の私見であることをあらかじめお断りしておきます。
貨物自動車運送業とは、他人の需要に応じ、有償で自動車を利用して貨物を運送する事業のことをいいます。
貨物自動車運送業の関係法令には、いわゆる物流二法と呼ばれている「貨物自動車運送事業法」及び「貨物利用運送事業法」があります。
貨物自動車運送業は「貨物自動車運送事業法」により、その事業内容が、①一般貨物自動車運送事業、②特定貨物自動車運送事業、③貨物軽自動車運送事業の三つに区分されています。これらの3区分の概要は下表のとおりです。
一般貨物自動車運送事業 |
特定貨物自動車運送事業 |
貨物軽自動車運送事業 |
|
---|---|---|---|
荷主 |
不特定多数 |
特定 |
不特定多数 |
車両 |
軽自動車、自動二輪を除く自動車 |
取り決めなし |
軽自動車又は自動二輪 |
主な事業形態 |
貸切、積み合わせ、特別積み合わせ
|
原則として特定の1社と契約 |
赤帽、バイク便 |
貨物自動車運送業の特徴としては、①中小零細業者の多さ、②荷主―元請―下請の多層構造、③運賃交渉力の弱さ、④労働集約性等が挙げられます。
平成2年に、いわゆる物流二法が施行されたことに伴い、個人事業者でも一定要件を満たすことにより、貨物自動車運送業へ新規参入することが容易になりました。そのため、収益性の低い中小零細業者が多く存在しています。
貨物自動車運送業では、経営規模の大きな事業者により、他の事業者のトラックを運転手ごと借り受ける取引が多く見られます。このような下請のことを傭車といいます。
荷主からの信用度や信頼度が高く、経営規模の大きな事業者と比べ、零細事業者が独自に荷主の貨物を獲得することは決して容易ではありません。従いまして、零細事業者は、荷主及び大手の同業他社に対して下請的な性格が強くなっており、零細事業者ほど特定荷主への依存度が高くなる傾向にあります。
また、下請構造の多層化が進行しており、場合によっては元請業者から5次、6次以降の下請業者が実運送を行うことがあります。
零細事業者は荷主に対し運賃交渉力が極めて弱いため、燃料価格の上昇等に伴うコストについて運賃転嫁が行われていない状況にあります。
この状況に対し、平成20年に国土交通省は燃料サーチャージ制を導入して事業者が荷主に対し、燃料価格の上昇に伴うコストを運賃転嫁できる環境を整えました。しかしながら、社団法人全日本トラック協会による「軽油価格の高騰と運賃転嫁に関する調査(平成25年3月調査結果)」によれば、主たる荷主との交渉において燃料価格の上昇等に伴うコストを運賃に転嫁できていない事業者は全体の88%となっています。また、平成20年9月には運賃に転嫁できている事業者は過半数でしたが、今回の調査では全体の12.2%となっており、徐々に低下している傾向にあります。
貨物自動車運送業は、売上高に占める人件費の割合が高い傾向にあります。社団法人全日本トラック協会による「経営分析報告書(平成30年度決算版)」によれば、売上高人件費比率は39.7%となっています。このことから、貨物自動車運送業は労働集約的な業種であるといえます。
なお、人件費の抑制策として、現業部門を地域子会社等に分社化している事例が見受けられます。
倉庫業とは、倉庫業法に基づき、寄託者の依頼に応じ、物品を預かり保管する事業のことをいいます。倉庫会社は、預かった保管物(他人の財貨)について保管責任を負うため、その使用施設の設備及び構造が適法か否か倉庫業法によって規制されています。倉庫業に類似したものに貸倉庫業があります。これは施設そのものを賃貸する事業であり、貨物の保管責任は利用者にあるため、不動産賃貸業に分類されます。
倉庫業で利用される倉庫は営業倉庫と呼ばれています。営業倉庫は大きく三つに分類され、保管可能な物品の種類によりさらに細分されています。これらの区分の概要は下表のとおりです。
倉庫の分類 |
|
---|---|
普通倉庫 |
1類倉庫 1~3類倉庫 建屋 2類倉庫 3類倉庫 野積倉庫 野積場 鉱物、材木、自動車等 貯蔵槽倉庫 サイロ サイロ:小麦、大麦、トウモロコシなどの穀物類等 危険品倉庫 建屋、野積、 危険物、高圧ガス等 トランク 1~8類の 家財、美術骨董品、ピアノ、書籍等の個人財産 |
冷蔵倉庫 |
8類倉庫 食肉、水産物、冷凍食品等10℃以下で保管することが適当な物品 |
水面倉庫 |
5類倉庫 原木
|
(社団法人日本倉庫協会ウェブサイト 社団法人日本倉庫協会ウェブサイトへ「倉庫業の概要」を参考に作成)
倉庫業の特徴としては、①立地産業的な性格の強さ、②大規模装置産業的な要素の強さ、③兼営事業者の多さ等が挙げられます。
倉庫は昔から交通の要衝である港湾地区や工業地帯周辺に立地していましたが、近年では、港湾地域、空港、高速道路のインターチェンジ周辺等の他、流通業務市街地の整備に関する法律で定められている流通業務地区に、他の物流施設とともに集中して立地する傾向にあります。
倉庫業は大規模な設備を要する装置産業的な要素の強い業種であるといえます。
特に、近年においては、倉庫の機能が多様化してきたため、荷主からの要求により1施設当たりの床面積が広い大規模施設が増加する傾向にあります。
倉庫業は、総合的な物流サービスの提供という荷主のニーズに応えるため、港湾運送業、貨物自動車運送業、梱包業等を兼営しているケースが多く見受けられます。
また、保有している優良不動産を活用して、不動産賃貸事業を兼営しているケースも見受けられます。
物流・倉庫業を取り巻く経営環境は、(1)顧客ニーズの変化、(2)近年の規制緩和、(3)燃料価格の高騰、(4)環境規制、(5)労働関係問題発生、(6)人員不足による人件費の高騰、(7)Eコマース市場の発達、(8)荷主勧告制度の法改正を主な要因として、大きく変化しています。
荷主の生産拠点が、国内から海外へ移転していること等を要因として、物流に関する需要が海外へシフトしており、陸運、海運、空運等の複合一貫サービスを国際的に提供できる体制を整備することが求められています。
また、荷主による物流体制の見直しやコスト削減要求により、3PL(サード・パーティー・ロジスティクス/提案型の包括的な物流業務受託)に対する顧客ニーズが高まっており、荷主の物流合理化を企画・提案する能力が求められています。
平成2年に、前述の物流二法が施行され、従来の免許制から届出制へと参入規制が緩和されました。これに伴い、多くの貨物自動車運送業者が新規参入した結果、業者間競争が激しくなり運賃は一貫して低下する傾向にあります。
平成15年まで1リットル当たり64円程度で安定していた軽油価格は、原油価格高騰に伴い、平成20年には1リットル当たり144円となり、2倍以上にも上昇しました。その後、原油価格の大幅な下落により、平成27年には116円程度まで下落、令和2年では110円前後で落ち着いていますが依然として高止まりの状況です。
自動車の大気汚染問題に対応するための規制としてディーゼル重量車のNOx・PM規制があり、特にここ数年、排ガス規制が強化されてきており、事業者は最新規制適合車への代替えや低公害車の導入を進めています。
これに対して、物流業界全体でのCO2排出量の削減のため、モーダルシフト(トラック輸送から船舶や鉄道への切り替え)やトラック輸送の共同化・大型化による積載効率向上など物流システムの改善に向けた取り組みが行われています。さらに、デジタルツインの活用による配送の最適化やドローン配達といった新しいテクノロジーの検討も進んでいます。
物流・倉庫業において、労働者派遣や請負が利用されていますが、契約形態は請負とされていながら発注者が直接指揮命令を行う、いわゆる偽装請負等の労働者派遣法違反が社会問題となっていることから、荷主等との間の契約関係の見直しが行われています。
少子高齢化による労働人口の減少やドライバー不足により、物流業では人材不足という問題が発生しています。これは若者のトラックドライバー離れや、他業界との人材争奪戦の激化によるものであり、人員不足の結果人件費や傭車費が高騰し、事業者の収益環境が悪化する要因となっています。
Eコマース市場は、インターネットやスマートフォンの普及とともに右肩上がりに成長を続けており、今後しばらくこの状態が継続すると考えられています。このような中、大規模物流施設の建設の動きが活発化しており、従来の倉庫-小売店というルートから、大規模施設-直接個人消費者というルートが増加するとも考えられます。他方、物流業界における労働力不足の問題が深刻化しており、これに対応するため、再配達の削減、倉庫・在庫管理のデジタル化、AI活用による物流システムの最適化等、新しい取り組みも進められています。
平成26年4月1日より、安全を考慮し、ドライバーの拘束時間は原則月間293時間を限度とする労働条件となり、違反となっている要因が荷主の責任である場合には、荷主勧告が発動され、荷主名及び事案の概要が公表されることとなりました。荷主としても、コンプライアンスの観点から、品質及び安全面に取り組む物流会社との取引を優先すると考えられます。
<参考文献>
物流・倉庫業