わかりやすい解説シリーズ「ヘッジ会計」 第5回:ヘッジ会計の中止と終了

公認会計士 照沼 景子
公認会計士 武澤 玲子


1. ヘッジ会計の中止と終了

以下のような事態が発生した場合、ヘッジ会計の適用を中止しなければなりません。

①ヘッジ関係が企業のヘッジ有効性の評価基準を満たさなくなった。

②ヘッジ手段が満期、売却、終了又は行使のいずれかの事由により消滅した。

ヘッジ会計の適用を中止するのは、ヘッジ対象がひきつづき存在している場合です。一方、ヘッジ対象が消滅したとき、または、ヘッジ対象である予定取引が実行されないことが明らかになったときは、ヘッジ会計の適用を終了します。

ヘッジ会計の中止と終了

2. ヘッジ会計の中止の会計処理 

ヘッジ会計の中止時点までの、ヘッジ手段に係る損益又は評価差額は、ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで、引き続き繰り延べます。これにより、ヘッジ会計が有効であった期間のヘッジ手段の損益はヘッジ対象の損益に対応させることになります。
ヘッジ関係がヘッジ会計の有効性の評価基準を満たさなくなった場合、ヘッジ会計の中止時点以降のヘッジ手段に係る損益又は評価差額は、発生した会計期間の損益計算書に計上します。

ヘッジ会計の中止の会計処理

なお、ヘッジ手段が債券、借入金等の利付金融商品の金利リスク(相場変動リスク、キャッシュ・フロー変動リスク)をヘッジするものであった場合にヘッジ会計を中止する場合は、その時点まで繰り延べていたヘッジ手段に係る損益又は評価差額は、ヘッジ対象の満期までの期間にわたり、金利の調整として損益に配分します。

[設例] ヘッジ会計の中止

  • 前提条件
    • X0年4月1日に期間3年、6か月LIBORプラス0.5%で100,000円の変動借入れを行った。

    • 変動金利を固定金利に変換するため、6か月LIBORの変動金利を受け取り、2.0%の固定金利を支払う、期間3年、想定元本100,000円のスワップ契約を同日に締結したが、X1年9月30日に取引先の強制解約により決済され、消滅した。

    • 借入金及び金利スワップの利息は、いずれも後払いで3月31日に支払われる。

    • 各金利決済時点の6か月LOBORは1.2%とする

    • 決算日は年1回3月31日、利息の計算は月割りとし、税効果は考慮しないものとする。
       
  • 価格の推移 (単位:円)

日付

金利スワップ時価

金利スワップ
時価変動額

X0年4月1日(金利スワップ契約締結日)

-

X1年3月31日(決算日)

100

+100

累計(X0年4月1日~X1年3月31日)

-

+100益

X1年9月30日(ヘッジ会計終了日)

150

+50

累計(X0年4月1日~X1年9月30日)

-

+150益

X2年3月31日(決算日)

200

+50

累計(X0年4月1日~X2年3月31日)

-

+200益

  • 仕訳(単位:円)(※借入金の元本に関する仕訳は省略しています)
     

① X0年4月1日(借入日、金利スワップ契約締結日)

①X0年4月1日(借入日、金利スワップ契約締結日)

② X1年3月31日(決算日)

②X1年3月31日(決算日)

③ X1年9月30日(ヘッジ会計中止日)

③X1年9月30日(ヘッジ会計中止日)

④ X2年3月31日(決算日)

④X2年3月31日(決算日)

(*1)借入金の支払利息1,700円=100,000円×(6か月LOBOR1.2%+0.5%)

(*2)金利スワップの受払利息800円(借方)=100,000×6か月LOBOR1.2%-100,000×2%

(*3)価格の推移より、X0年4月1日~X1年3月31日の金利スワップ時価変動額

(*4)価格の推移より、X1年3月31日~X1年9月30日の金利スワップ時価変動額50円......ヘッジ有効期間(9月30日まで)のヘッジ手段にかかる損益は繰り延べられる。

(*5)価格の推移よりX1年9月30日時点の金利スワップ時価150円...強制決済につき、X1年9月30日時点の時価評価相当額を受領する。

(*6)借入金の支払利息1,700円=100,000円×(6か月LOBOR1.2%+0.5%)

(*7)50円=150円(金利スワップ消滅時に計上されている繰延ヘッジ損益)×6か月(金利スワップの消滅時から翌決算期末まで)÷18か月(金利スワップの消滅時から借入金の返済期日まで)
...金利スワップ取引の消滅時に計上されている繰延ヘッジ損益を、借入金の返済期日に渡って期間配分する

 

3. ヘッジ会計の終了の会計処理

ヘッジ会計の適用を終了するときは、その時点まで繰り延べられていたヘッジ手段に係る損益を、当期の損益として会計処理します。
ヘッジ会計の適用は終了しますので、その後、ヘッジ手段に係る損益は、原則通り、発生した会計期間の損益として会計処理します。

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[設例] ヘッジ会計の終了

  • 前提条件
    • X0年4月1日に期間3年、6か月LIBORプラス0.5%で100,000円の変動借入れを行った。

    • 変動金利を固定金利に変換するため、6か月LIBORの変動金利を受け取り、2.0%の固定金利を支払う、期間3年、想定元本100,000円のスワップ契約を同日に締結した。

    • X1年9月30日に借入金を繰上返済したため、ヘッジ会計を終了した。

    • 借入金及び金利スワップの利息は、いずれも後払いで3月31日に支払われる。

    • 各金利決済時点の6か月LOBORは1.2%とする。

    • 決算日は年1回3月31日、利息の計算は月割りとし、税効果は考慮しないものとする。
       
  • 価格の推移 (単位:円)

日付

金利スワップ時価

金利スワップ
時価変動額

X0年4月1日(金利スワップ契約締結日)

-

X1年3月31日(決算日)

100

+100

累計(X0年4月1日~X1年3月31日)

-

+100益

X1年9月30日(ヘッジ会計終了日)

150

+50

累計(X0年4月1日~X1年9月30日)

-

+150益

X2年3月31日(決算日)

200

+50

累計(X0年4月1日~X2年3月31日)

-

+200益

 

仕訳(単位:円)(※借入金の元本に関する仕訳は省略しています)

① X0年4月1日(借入日、金利スワップ契約締結日)

①X0年4月1日(借入日、金利スワップ契約締結日)

② X1年3月31日(決算日)

②X1年3月31日(決算日)

③ X1年9月30日(ヘッジ会計終了日)

③X1年9月30日(ヘッジ会計終了日)

④ X2年3月31日(決算日)

④X2年3月31日(決算日)

(*1)借入金の支払利息1,700円=100,000円×(6か月LOBOR1.2%+0.5%)

(*2)金利スワップの受払利息800円(借方)=100,000×6か月LOBOR1.2%-100,000×2%

(*3)価格の推移より、X0年4月1日~X1年3月31日の金利スワップ時価変動額

(*4)X1年3月31日に計上した繰延ヘッジ損益の取り崩し

(*5)価格の推移より、X1年4月1日~X1年9月30日の金利スワップ時価変動額

(*6)価格の推移より、X1年9月30日~X2年3月31日の金利スワップ時価変動額...ヘッジ会計の適用終了日(X1年9月30日)以降のヘッジ手段にかかる損益は当期の損益として認識される。

 

4. ヘッジ会計終了時点に生じるおそれのある損失の見積りについて

ヘッジ会計の要件を満たさなくなったことにより、ヘッジ会計の適用を中止した場合に、ヘッジ対象に係る含み益が減少することにより、ヘッジ会計の終了時点で重要な損失が生じるおそれがあるときは、当該損失部分を見積もり、当期の損失として処理しなければなりません。

ここで、「重要な損失が生じるおそれがあるとき」とは、ヘッジ会計の適用を中止した後における相場変動等によりヘッジ対象に係る含み益が減少して、含み益に対応させて繰延計上していたヘッジ手段に係る損失又は評価差額(評価差損)に対して重要な不足額が生じている場合を指します。

この場合、ヘッジ対象に係る含み益の金額とヘッジ手段に係る繰延ヘッジ損失の金額が対応しなくなる為(繰延ヘッジ損失の金額の方が大きくなる為)、ヘッジ会計の終了時点で、重要な損失が生じることになります。

それを避けるために、重要な損失が生じるおそれがあると判断した時点で、当該損失部分を見積もり、当期の損失として処理します。

損失の見積額として処理すべき金額は、当該不足額のうち、ヘッジ会計の適用を中止した後における、ヘッジ対象の相場変動に相当する部分の金額となります。



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