EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
公認会計士 照沼 景子
公認会計士 武澤 玲子
第3回では第2回に引き続き、ヘッジ対象とヘッジ手段から生じる損益を同一の会計期間に認識する具体的な方法について、設例を用いて解説します。
外貨建金銭債権債務をヘッジ対象、為替予約等をヘッジ手段とする場合、ヘッジ会計の特例として振当処理が認められています。振当処理とは、為替予約等により固定されたキャッシュ・フローの円貨額により外貨建金銭債権債務を換算し、直物為替相場による換算額との差額を、為替予約等の契約締結日から外貨建金銭債権債務の決済日までの期間にわたり配分する方法です。振当処理が認められるのは当分の間とされています。振当処理を採用する場合は、ヘッジ会計の他の方法を採用する場合と同様、会計方針として決定し、また、ヘッジ会計の要件を満たす限り継続して適用する必要があります。
なお、為替予約等をヘッジ手段とする場合、ヘッジ対象とヘッジ手段にそれぞれ原則的な会計処理を適用することによっても、ヘッジ取引の効果は損益計算書に反映されます。この場合、ヘッジ会計の対象外となり、ヘッジ会計の要件を満たすかどうかの判定も不要となります。
(*1)取引日の為替相場(直物相場)で売上を計上します。
120,000円=売上計上日(3月1日)の直物レート120円/米ドル×1,000米ドル
(*2)直々差額(売上計上日の直物レートと予約締結日の直物レートの差額)は、売掛金の換算差額として、為替予約の契約締結日が属する期の損益として処理します。
10,000円(直々差額)=(予約締結日(3月20日)の直物レート110-売上計上日(3月1日)の直物レート120)円/米ドル×ドル建売掛金額1,000米ドル
・・・差損なので借方に計上します。
(*3)直先差額(予約締結日の直物レートと先物レートの差額)は、為替予約の契約締結日が属する期から決済日が属する期までの期間にわたり合理的に配分します(この仕訳では一旦前払費用に計上し、決算日に期間配分)。
5,000円(直先差額)=(予約締結日(3月20日)の先物レート105-予約締結日(3月20日)の直物レート110)円/米ドル×ドル建売掛金額1,000米ドル
→この仕訳の結果、売掛金残高の円貨額は予約日の先物為替レートで換算した金額となります。
(*4)直先差額のうち、予約締結日から期末日までに属する金額を損益計算書に計上します。
1,200円=為替予約締結日に前払費用として計上した直先差額5,000円×(3月10日~3月31日の日数)12日間/(3月10日~5月8日の日数)50日間
(*5)売掛金を決算日の為替相場(直物レート)に換算替えします。
15,000円=(決算日の直物レート105-売上日の直物レート120)円/米ドル×ドル建売掛金額1,000米ドル
(*6)為替予約を決算日の時価で評価替えします。
3,000円=(予約レート105-決算日の先物レート102)円/米ドル×ドル建売掛金額1,000米ドル
(*7)105,000円=売掛金貸借対照表計上額
(*8)100,000円=決済日の直物レート100円/米ドル×ドル建売掛金額1,000米ドル
(*9)決算日の計上額
(*10)(*9) - (*8)
(*11)3,800円=為替予約締結日に前払費用として計上した直先差額5,000円×(4月1日~5月8日の日数)38日間/(3月10日~5月8日の日数)50日間
(*12)5,000円=(予約レート105-決済日の先物レート100)円/米ドル×予約契約額1,000米ドル
(*13)決算日の計上額
(*14)(*13) - (*12)
なお、外貨建金銭債権債務の為替予約に関しては、ヘッジ対象である外貨建債権もヘッジ手段である為替予約も、各決算期末において時価評価されるため、ヘッジ対象とヘッジ手段にそれぞれ原則的な会計処理を適用することによっても、ヘッジ取引の効果は損益計算書に反映されます。
資産又は負債にかかる金利の受払条件を変換することを目的として利用されている金利スワップをヘッジ手段とする場合、ヘッジ会計の方法は、原則的な繰延ヘッジに加え、特例処理が認められています。具体的には、以下の要件を全て満たす場合に、金利スワップを時価評価せず、その金銭の受払の純額等を当該資産又は負債に係る利息に加減して処理することができます。なお、ヘッジ対象が売買目的有価証券及びその他有価証券にかかる金利である場合、特例処理は認められていません。
<金利スワップのイメージ図> 変動金利を固定化する金利スワップの場合
<金利スワップ特例処理の要件>
(*3)インデックス...指標。ここでは変動金利の基礎となる指標のことをいい、例えば変動金利が「LIBOR+0.5%」の場合の LIBORのことを指します。
(*4)支払金利のフロアー...金利オプションの一つで変動金利に下限が設定されていることをいいます。
(*5)受取金利のキャップ...金利オプションの一つで変動金利に上限が設定されていることをいいます。
日付 |
LIBOR |
---|---|
X1年10月1日 |
1.400% |
X2年4月1日 |
1.400% |
日付 |
金利スワップ時価 |
---|---|
X1年12月31日 |
900 |
X2年3月31日 |
1,400 |
X2年6月30日 |
1,900 |
X2年9月30日 |
2,400 |
→金融商品会計に関する実務指針178項の要件をすべて満たすので、金利スワップの特例処理を適用できることになります。
(*1)前提条件より、借入金100,000円
(*2)借入金にかかる経過支払利息425円=100,000円×(10月1日のLIBOR1.2%+0.5%)×3か月/12か月
(*3)金利スワップの経過受払利息200円
金利スワップの経過受取利息300円(100,000円×10月1日のLIBOR1.2%×3か月/12か月)-金利スワップの経過支払利息500円(100,000円×2%×3か月/12か月)
(*4)前提条件より、X1年12月31日の金利スワップの時価900円
※金利スワップ特例処理を適用した場合、金利スワップの時価評価の仕訳は不要となります。
(*5)借入金にかかる支払利息425円=(100,000円×(3月31日のLIBOR1.2%+0.5%)×6か月/12か月)-経過利息425円
(*6)金利スワップの受払利息200円(借方)=金利スワップの受取利息300円-金利スワップの支払利息500円
金利スワップの受取利息300円=(100,000円×3月31日のLIBOR1.2%×6か月/12か月)-経過受取利息300円
金利スワップの支払利息500円=(100,000円×2%×6か月/12か月)-経過支払利息500円
(*7)(*13) 金利スワップの受払利息150円(借方)=金利スワップの受取利息350円-金利スワップの支払利息500円
金利スワップの受取利息350円=100,000円×4月1日のLIBOR1.4%×6か月/12か月-経過受取利息350円
金利スワップの支払利息500円=100,000円×2%×6か月/12か月-経過支払利息500円
(*14)金利スワップの利息純支払額300円=100,000×(2%-1.4%)×6か月/12か月
(*15)前提条件より、X2年9月30日の金利スワップの時価2,400円-決算日(X2年6月30日)に計上した金利スワップの残高1,900円-(*14)=200円(借方)
わかりやすい解説シリーズ「ヘッジ会計」