わかりやすい解説シリーズ「ヘッジ会計」 第1回:ヘッジ取引とヘッジ会計の必要性

公認会計士 照沼 景子
公認会計士 武澤 玲子

はじめに

本解説シリーズでは、ヘッジ会計の概要について、平成20年3月10日改正「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)及び平成28年3月25日改正「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号)に基づいて解説します。

なお、文中の意見に関する部分は私見であることをお断り申し上げます。

 

1. 企業活動に潜む様々なリスク

企業はその活動を営む上で、価格変動リスク、金利変動リスク、為替変動リスクといった様々な相場変動リスクにさらされています。

たとえば、変動金利で借入を行っている期間中に金利が上昇し、利息の支払額が増加するリスク、米ドル建ての売上がある場合に円高ドル安が進行し、米ドル建ての売上高が変わらないにもかかわらず、円での入金額が減少するリスクなどが考えられます。

 

2. リスクを回避するために行うヘッジ取引

このような相場変動リスクを回避(ヘッジ)するために行われるのがヘッジ取引です。リスクにさらされている取引(=ヘッジ対象)と、逆の動きをする取引(=ヘッジ手段)を行うことで、相場変動による影響を相殺することができます。
 

<ヘッジ取引のイメージ> 

<ヘッジ取引のイメージ>

ヘッジ取引には、以下の2種類があります。いずれも、ヘッジ手段としてデリバティブ取引を用いるのが一般的です。

① 公正価値ヘッジ
ヘッジ対象に係る相場変動と逆の動きをするヘッジ手段を組み合わせることにより、相場変動による影響を相殺し、実質的に相場変動による損失を回避・減少することを目的とするヘッジ取引

② キャッシュ・フロー・ヘッジ
ヘッジ対象に係るキャッシュ・フローが相場変動の影響を受ける場合に、キャッシュ・フローがヘッジ対象とは逆の動きをするヘッジ手段を組み合わせることにより、相場変動による影響を相殺し、実質的に相場変動による損失を回避・減少することを目的とするヘッジ取引

 

3. ヘッジ会計の必要性

ヘッジ手段となるデリバティブ取引は、原則として毎期末に時価評価され、評価損益が損益計算書に計上されます。一方、ヘッジ対象については必ずしもそうではありません。そこで、必要となるのがヘッジ会計です。ヘッジ会計を適用し、ヘッジ対象とヘッジ手段から生じる損益を同一の会計期間に認識することによって、ヘッジ取引の効果(=ヘッジ対象から発生した損益をヘッジ手段から発生した損益によって相殺しているという効果)を適切に会計に反映させることが可能になります。

ヘッジ会計には、以下の4種類の方法があります。

① 繰延ヘッジ(原則)
② 時価ヘッジ(例外。現行制度上その他有価証券のみに適用)
③ 振当処理(例外)
④ 金利スワップの特例処理(例外)
 

<繰延ヘッジと時価ヘッジ(収益認識のタイミング)> 

<繰延ヘッジと時価ヘッジ(収益認識のタイミング)>

詳細については、第2回・第3回で、設例を用いて解説します。

 

4. ヘッジ会計の適用要件

ヘッジ取引の効果を適切に会計に反映させることができるヘッジ会計ですが、その会計処理は原則的な方法とは異なります。また、ある取引がヘッジ取引に該当するか否かは、企業によって、ないしは個々の状況によって異なります。そのため、ヘッジ会計を適用するためにはいくつかの要件を満たす必要があります。具体的には、ヘッジ取引開始時において、当該ヘッジ取引が企業のリスク管理方針に従ったものであるかどうかを検討し(=事前テスト)、ヘッジ取引開始時以降において、定期的にヘッジの効果が保たれていることを確認します(=事後テスト)。詳細については、第4回で、設例を用いて解説します。



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