EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY税理士法人 People Advisory Service 税理士・行政書士 藤井 恵
15年にわたり、日本から海外または海外から日本への赴任者・出張者の税務、給与、福利厚生、リスク管理など、グローバルモビリティに関する総合的なコンサルティングサービスを企業に提供。主な著書(共著)に『海外勤務者の税務と社会保険・給与Q&A』(清文社)『すっきりわかる!海外赴任者・出張者・外国人労働者雇用(税務と社会保険・在留資格・異文化マネジメント)』(税務研究会)などがある。EY税理士法人 パートナー。
要点
前号(本誌2022年11月号)では「日本企業における外国人材の受け入れに関する課題(前編)」として「グローバル展開する外資系企業と比較した日本企業における受け入れ態勢の違い」「日本企業における外国からの赴任者と、日本から海外への赴任者の違い」について、それぞれ3つのポイントにまとめてご紹介しました。後編となる本稿では、「海外からの人材受け入れ時に知っておきたいこと」「具体的な留意点」について紹介します。
海外から日本への受け入れの場合、日本の法律が適用されるため、日本人社員と同じように税務や社会保険の面でも対応する形で大丈夫だろうと思いがちです。
しかし、税務面においても、日本への赴任中は手取りで給与を補償しようとすると、グロスアップ計算が必要になります。この計算は非常に複雑です。赴任元の国からも給与が支給される場合、それらについては国外払給与として、日本での確定申告が必要になります。また、社会保険についても、赴任元の国と日本との間での社会保障協定の発効有無や対象項目により、日本での社会保険の取り扱いは異なります。
どのような人材が日本に赴任して来るかについて、早い段階から人事担当者に連絡が入り、準備に時間をかけられる場合もあります。しかし、中には「どのような条件で、どのような役割を日本で担うのかを知らされていないので準備のしようがない」というはっきりしない状況の中、急遽(きょ)受け入れ準備を行う必要があるケースもよく聞かれます。
外国人が日本で適法に滞在するためには「在留資格」が必要です。日本で働くための在留資格の種類はさまざまで「どの在留資格が最も適切なのか」という点もよく検討する必要があります。
① 在留資格の更新・管理
赴任期間が長期にわたる場合、在留資格管理を本人に任せていると、うっかり在留期限を越えて日本に滞在してしまうことがある。
この場合、入国管理法違反となり、退去処分や在留資格更新ができなくなることがある。
② 本店移転時の届け出
本店所在地を移転したり、商号・会社名を変更した場合は「所属機関等の名称変更・所在地変更の届出」が必要になる。本人任せにしていると実施できていないことがある。本件の義務は外国人本人にあるが、会社側が放置して対応していないと「外国人従業員管理」が出来ていないとの評価を受け、新規外国人受け入れ等に際して良い評価を得られないリスクも考えられる。
③ その他外国人固有の状況に基づく手続き
海外からの赴任者の受け入れに際し、日本本社で雇用した社員にはあまり関係しないものの、留意が必要な点は次の通りです。
Global Mobility Policyは存在するものの、必ずしもその通りに運用が出来ていないケースも見られます。
現状のポリシー通りに運用が出来ているか、そもそもポリシー自体、運用する上で無理がないかのチェックをしたほうがよいでしょう。「支払うと記載しておきながら支払っていないケース」や「定められた日に支払いが行われていない」等も確認が必要です。
前号と今号の2回にわたり、日本企業が海外子会社等から赴任して来る人材を受け入れるに際し、外資系企業との相違点や、日本から海外に赴任する人材の特性と、海外から日本に赴任して来る人材の特性を紹介しました。
コロナ禍において、日本企業における海外との人材交流はいったん減速しているものの、コロナ終息後は、本来受け入れたかった人材の受け入れや、グローバル化のさらなる進展により、外国からの人材受け入れはより活発になると考えられます。今のうちに現在の進め方が正しいかチェックを行い、問題点を正した上で、体制構築に向けた準備を進めることをお勧めします。
日本企業の海外人材受け入れの課題は「海外からの人材受け入れに慣れていない」「専門家等外部リソースの活用に慣れていない」「統一的なモビリティポリシーが存在しない・または機能していない」が挙げられます。また、同じ海外赴任者でも、日本から海外赴任する場合とは異なる留意点が多いので注意が必要となります。