2022年11月30日
日本企業における外国人材の受け入れに関する課題 後編

日本企業における外国人材の受け入れに関する課題 後編

執筆者
EY 税理士法人

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

Ernst & Young Tax Co.

藤井 恵

EY Japan ピープル・アドバイザリー・サービス/グローバルモビリティリーダー EY税理士法人 パートナー

兵庫県出身。趣味は映画鑑賞、旅行。

2022年11月30日
関連トピック 税務 人材・組織

日本企業の海外人材受け入れの課題は「海外からの人材受け入れに慣れていない」「専門家等外部リソースの活用に慣れていない」「統一的なモビリティポリシーが存在しない・または機能していない」が挙げられます。また、同じ海外赴任者でも、日本から海外赴任する場合とは異なる留意点が多いので注意が必要となります。

本稿の執筆者

EY税理士法人 People Advisory Service 税理士・行政書士 藤井 恵

15年にわたり、日本から海外または海外から日本への赴任者・出張者の税務、給与、福利厚生、リスク管理など、グローバルモビリティに関する総合的なコンサルティングサービスを企業に提供。主な著書(共著)に『海外勤務者の税務と社会保険・給与Q&A』(清文社)『すっきりわかる!海外赴任者・出張者・外国人労働者雇用(税務と社会保険・在留資格・異文化マネジメント)』(税務研究会)などがある。EY税理士法人 パートナー。

要点
  • 海外からの人材に係る対応は日本人社員への対応とは異なる。
  • 海外からの人材受け入れに関して検討すべき具体的な留意点がある。

Ⅰ はじめに

前号(本誌2022年11月号)では「日本企業における外国人材の受け入れに関する課題(前編)」として「グローバル展開する外資系企業と比較した日本企業における受け入れ態勢の違い」「日本企業における外国からの赴任者と、日本から海外への赴任者の違い」について、それぞれ3つのポイントにまとめてご紹介しました。後編となる本稿では、「海外からの人材受け入れ時に知っておきたいこと」「具体的な留意点」について紹介します。

Ⅱ 海外からの人材受け入れ時に知っておきたいこと

海外から日本への受け入れの場合、日本の法律が適用されるため、日本人社員と同じように税務や社会保険の面でも対応する形で大丈夫だろうと思いがちです。

しかし、税務面においても、日本への赴任中は手取りで給与を補償しようとすると、グロスアップ計算が必要になります。この計算は非常に複雑です。赴任元の国からも給与が支給される場合、それらについては国外払給与として、日本での確定申告が必要になります。また、社会保険についても、赴任元の国と日本との間での社会保障協定の発効有無や対象項目により、日本での社会保険の取り扱いは異なります。

どのような人材が日本に赴任して来るかについて、早い段階から人事担当者に連絡が入り、準備に時間をかけられる場合もあります。しかし、中には「どのような条件で、どのような役割を日本で担うのかを知らされていないので準備のしようがない」というはっきりしない状況の中、急遽(きょ)受け入れ準備を行う必要があるケースもよく聞かれます。

Ⅲ 具体的な留意点

1. 在留資格に関しての留意点

外国人が日本で適法に滞在するためには「在留資格」が必要です。日本で働くための在留資格の種類はさまざまで「どの在留資格が最も適切なのか」という点もよく検討する必要があります。

<在留資格についての留意点>

① 在留資格の更新・管理

赴任期間が長期にわたる場合、在留資格管理を本人に任せていると、うっかり在留期限を越えて日本に滞在してしまうことがある。

この場合、入国管理法違反となり、退去処分や在留資格更新ができなくなることがある。

② 本店移転時の届け出

本店所在地を移転したり、商号・会社名を変更した場合は「所属機関等の名称変更・所在地変更の届出」が必要になる。本人任せにしていると実施できていないことがある。本件の義務は外国人本人にあるが、会社側が放置して対応していないと「外国人従業員管理」が出来ていないとの評価を受け、新規外国人受け入れ等に際して良い評価を得られないリスクも考えられる。

③ その他外国人固有の状況に基づく手続き

2. 税務に関する留意点

海外からの赴任者の受け入れに際し、日本本社で雇用した社員にはあまり関係しないものの、留意が必要な点は次の通りです。

<海外からの赴任者に関してのみ必要になる税務関連事項>

  • 所得税額・住民税額の試算
    赴任者に提供する待遇を前提として、どれだけの税金コストがかかるかを試算する。これを行わないと想定以上に税コストが発生していることに後から気が付く可能性がある。

  • 赴任者への日本の所得税・住民税の説明
    日本には諸外国のような海外赴任者向けの大きな優遇税制がないこと、住民税は1年遅れで発生する税であること、現物給与
    に対する課税があることについて説明。
    一般に日本人よりも税金に関する関心が非常に高い。

  •  グロスアップ計算業務
    手取りで給与を補償している場合、手取りから税額を逆算する必要がある。
    住民税等も考慮する必要があり、複雑になることが多い。

  • 予定納税の減額申請書
    年の途中に出向者給与減額見込みの場合に予定納税額を減額またはゼロにするための申請を行う。申請を行わないと、納税者は支払義務を負うため、キャッシュフローが一時的に厳しくなる。

  • 口座振替依頼書作成
    税金支払について、口座引き落としを設定するための依頼書を作成・提出する必要がある。

  • 国外財産調書の支払い作成・提出
    国外財産が5,000万円超の場合に必要になる。海外からエグゼクティブクラスが赴任して来る場合、この規模の財産を持っていることも少なくない。

  • 財産債務調書の作成支援・提出
    財産3億円または記入財産1億円以上、かつ所得金額が2,000万円超の場合、提出する必要がある。

  • 国外転出時課税制度(出国税)への対応
    1億円以上の金融財産を所有している赴任者に対して、その対象資産の含み益に所得税が課される。

  • 選択課税の申請書提出
    帰任時の厚生年金の脱退一時金、退職金にかかる源泉所得税の還付が可能な場合は提出が必要。

  • その他、税務にまつわる相談
    赴任中の給与等について赴任元国等で所得税等が発生し、会社負担した場合の取り扱い。

3. 海外赴任者に関する規程の留意点

Global Mobility Policyは存在するものの、必ずしもその通りに運用が出来ていないケースも見られます。

現状のポリシー通りに運用が出来ているか、そもそもポリシー自体、運用する上で無理がないかのチェックをしたほうがよいでしょう。「支払うと記載しておきながら支払っていないケース」や「定められた日に支払いが行われていない」等も確認が必要です。

Ⅳ おわりに

前号と今号の2回にわたり、日本企業が海外子会社等から赴任して来る人材を受け入れるに際し、外資系企業との相違点や、日本から海外に赴任する人材の特性と、海外から日本に赴任して来る人材の特性を紹介しました。

コロナ禍において、日本企業における海外との人材交流はいったん減速しているものの、コロナ終息後は、本来受け入れたかった人材の受け入れや、グローバル化のさらなる進展により、外国からの人材受け入れはより活発になると考えられます。今のうちに現在の進め方が正しいかチェックを行い、問題点を正した上で、体制構築に向けた準備を進めることをお勧めします。

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サマリー

日本企業の海外人材受け入れの課題は「海外からの人材受け入れに慣れていない」「専門家等外部リソースの活用に慣れていない」「統一的なモビリティポリシーが存在しない・または機能していない」が挙げられます。また、同じ海外赴任者でも、日本から海外赴任する場合とは異なる留意点が多いので注意が必要となります。

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※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

 

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