仕事関連のツールやテクノロジーが人材を取り巻く環境に変革をもたらしているとしても、組織は、人を中心に据えたインクルーシブな行動こそがより良い成果をもたらすことができるということを認識する必要があります。周期的、構造的な課題に前向きな勢いをもって対処するには、アジャイルでレジリエントなワークフォースが不可欠であり、人を中心に考えられていない断片的なソリューションでは、そうしたワークフォースを創出することはできないでしょう。
「ネクストノーマル」は、働き方の再構築の在り方について新たな見通しを示しています。組織は、この見通しに基づいて、以下の5つの領域で、戦略を進化させることを検討する必要があります。
「Great Rebalance」を意識した戦略の再構築:
組織は、周期的な市場関連の課題に対処する能力を構築する必要があります。また、トータルリワード、ハイブリッドな働き方、組織文化など従業員の優先事項における構造的な変化には、適応力とレジリエンスが不可欠であるということを理解することも必要です。従来の人材戦略モデルや組織構造では、現在のダイナミックな環境を乗り切ることはできません。
EVPと研修体系を通じた社内外労働市場の均等化:
需要の高いスキルを確保できるかどうかは、組織が既存の従業員または将来の潜在的従業員の中から人材を見つけ、育てる能力を有しているかどうかによります。そのため、企業は社内外の労働市場環境において、トータルリワードとキャリアに均等性を確保する必要があります。これは例えば、トータルリワード・パッケージをインフレに対応させるための社内調整や、多様性に富む全従業員のウェルビーイングを促進するトータルリワード・プログラムの再考などが含まれます。また、人材の調達やアップスキリング/リスキリングの対応策を改善することで、人材の定着とケイパビリティの成長を促進することができます。
信頼に基づくPeople-first(人を中心に据えた)の文化の定義付けおよび醸成:
ビジネスリーダーは、より良い成果を促進する「信頼」と「共感」の重要性を過小評価してはいけません。「私」という考え方から脱却し、共創を軸とする「私たち」という考え方へと意識を変え、チーミングを実践することができれば、生産性とつながりを解き放つことができます。信頼を築く上でまず重要となるのは、透明性の確保と、さまざまなデータソースから得られる行動、考え方、および成果の測定です。その指標を理解することで、「私たち」および「組織」のミッション、パーパス、文化を持続可能なものにし、最大限に展開することが可能になります。
従業員を引き付けるオフィスとエクスペリエンスの規模・質の最適化:
働き方の柔軟性は、とりわけナレッジワーカーにとって基本的な期待事項となっており、本調査回答者の3分の1以上が完全なリモート勤務を望んでいます。組織は、効率性の観点からリモート勤務に適している職種を見極め、接点となる場や機会)、テクノロジー、プロセスを整備して、こうしたニューノーマルに求められるハイブリッドな働き方、学習機会、組織文化を構築する必要があります。ワークフォースモビリティに関しても、税制や法規制を無視するといった現実逃避的なアプローチでは成果を挙げることはできません。国・地域をまたぐ人材調達は、なるべくリスクにさらされないようにするためのガードレールが必要ですが、柔軟な働き方のメリットを最大限に引き出すことができるため、企業にとってもモバイルな従業員のエクスペリエンスにとっても有益です。不動産は従業員の意識を左右する主要な要因ではありませんが、企業文化や生産性、従業員の定着意向にそれなりの影響を及ぼします。そのため、ソーシャルなつながりや協働を促進する、規模・質ともに適切に設計された不動産を持つことが、高い投資対効果(ROI)につながります。
生成技術が浸透する中でも人を優先:
生成AIの可能性に対する楽観的な見方や、テクノロジーのシームレスなユーザーエクスペリエンスの重要性は、企業と従業員に、メリットや能力、安全性などに関して新たな期待を共同で創り出す機会をもたらします。先端技術は、サイバーセキュリティやコンプライアンス、ワークフォースエクイティ関連の課題が伴うものであり、また、テクノロジーを活用したからといって、企業が直面している構造的な人材課題を完全に解決できるとは限りません。新しいツールのメリットを最大限に享受できるようにするには、研修の機会を提供し、従業員のエンパワーメントを高める必要があります。そうすることで企業は、新たなケイパビリティを受け入れながら、常に人を中心に据えた働き方を再考することができます。