近代的なオフィスビルのスタンディングデスクで残業するAIビジネスチーム
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生成AIは税務・財務の変革にどのような影響を与えるでしょうか

2024年のEYタックス・アンド・ファイナンス・オペレート(TFO)調査では、生成AIが人材不足、予算削減、BEPS報告書への対応に苦慮する税務・財務部門を支援できることが明らかになりました。


要点

  • 税務・財務プロフェッショナルの87%が、生成AIによって自身の業務がより効率的かつ効果的になると回答している。
  • EYの調査では、税務・財務担当者の回答者が初めて、近代化のビジョンの実現を阻む最大の障壁として、予算の制約を挙げた。
  • 税務・財務部門が人材不足と新たな報告義務の複合的な課題に対処するには、より多くの人材が必要である。


EY Japanの視点

生成AIは税務・財務部門の変革に大きな影響を与えており、調査では税務・財務プロフェッショナルの87%が生成AIによって業務がより効率的かつ効果的になると回答しています。これは、前回調査の15%から大幅に増加しており、主に以下の課題に対処するために生成AIの活用が検討されています。

  • コスト圧力:長年のコスト削減とインフレにより、予算が大幅に減少し、税務・財務部門は予算管理を最優先事項としてこれまで以上にコスト削減のプレッシャーを受けています。
  • 人材不足:会計の専門職に就く人数が減少しており、税務・財務分野における人材不足は危機的な状況で、多くの企業は大学課程を修了していないプロフェッショナルを活用することも検討しています。
  • 新たな報告義務:企業は新たな法規制要件に対処するために適切なデータ戦略とテクノロジーの導入に苦慮しており、BEPS2.0対応やESG関連開示等の複雑な税務業務の管理が求められています。

生成AIは税務・財務部門の業務体制を刷新し、企業はより付加価値の高い業務に税務・財務のリソースを振り分けることが可能となります。企業は生成AIやコソーシングを活用して、より効率的で効果的な業務モデルを構築し、将来の課題に対処するための準備を進める必要があります。


EY Japanの窓口
上田 理恵子
EY Japan サステナビリティ・タックスリーダー/タックス・テクノロジー・アンド・トランスフォーメーションリーダー EY税理士法人 グローバル・コンプライアンス・アンド・レポーティング パートナー
福澤 保徳
EY Japan テレコムセクター・タックスリーダー EY税理士法人 グローバル・コンプライアンス・アンド・レポーティング パートナー

2024年 EYタックス・アンド・ファイナンス・オペレート(TFO)調査
2024年 EYタックス・アンド・ファイナンス・オペレート(TFO)調査

日本における税務アウトソーシング調査結果



CFOと税務リーダーは生成AIに対して楽観的

EYのGlobal Tax and Finance Operate LeaderであるDave Helmerは、回答者がどのように生成AIが税務・財務部門の効率性と有効性の向上を促進するのに役立つと考えているかについて話しています。(英語のみ)


生成AIは、企業が税務・財務部門の変革についての考えを根本的に変えつつあります。これは、1,600人のプロフェッショナルを対象に実施された2024 EYタックス・アンド・ファイナンス・オペレート(TFO)調査から明らかになった結果であり、回答者の87%が、生成AIの統合により税務部門の効率性と有効性の向上が促進されると回答しています。こうした楽観的な見方は、生成AIの能力における画期的な進歩が注目される前に実施された前回の調査とは対照的です。前回は、このテクノロジーが影響を与えると答えた回答者はわずか15%でした。


今回のTFO調査の結果は、コスト、人材、データ、報告への圧力など、長年の課題が深刻化した6年間の歴史の中で、最も大きな変化が見られました。生成AIは、これらの課題を解決するための鍵を握っており、税務・財務部門に新たな機会をもたらし、運用モデルを刷新する可能性があります。調査結果は以下の通りです。

  • 長年にわたるコスト削減とインフレにより、予算が実質的に大幅に減少したため、今回初めてコスト圧力が最大の懸念事項となりました。その結果、税務・財務のプロフェッショナルは予算管理を最優先事項とし、それに続くのがキャッシュタックス・プランニングです。54%が運用モデルを再考しており、回答者は現在検討している最も重要な取り組みとしてコソーシングを挙げています。
  • 近年、会計の専門職に就く人数が減少していることや、多くの会計士が退職していることから、税務・財務分野における人材不足は危機的なレベルに近づいています。また、興味深い調査結果の1つは、税務・財務リーダーの大半が、人材戦略において大学課程を修了していないプロフェッショナルが重要であると回答していることです。これは大学課程修了の有無よりもスキルを重視する傾向が強まっていることを示しています。
  • 企業は、新たに生じる法規制要件に対処するために必要な適切なデータ戦略とテクノロジーの導入に苦慮しています。これには、世界中の国・地域で導入が進む新たなグローバルミニマム課税に関する規則や、電子インボイスを含むリアルタイムでの申告要件、さらには税務・財務情報の公開を義務付ける新たな規則などが含まれます。

生成AIは、まだこれらの課題のすべてに対するソリューションを提供できるわけではありませんが、圧倒的多数の人々が、生成AIがそれらの課題に影響を与えると確信しています。約1年前には生成AIについてほとんど知識がなかった回答者も、現在では、このテクノロジーを慎重かつ適切な形で統合することで、どのように現代の税務・財務部門のあり方を刷新できるかについて検討しています。もちろん、その活用には多額の投資と人材ガバナンスが必要であるため、生成AIの可能性は、コスト管理や人材に関する課題への懸念というジレンマをもたらします。企業は、自社の税務・財務部門を変革するために、生成AI機能を構築するか購入するか、あるいはハイブリッドアプローチがより理にかなっているかを決定することが求められます。

「生成AIは、私が知る限り最も急速なペースで税務・財務部門のあり方を刷新しており、そのペースはさらに加速しています」と、EY Global Vice Chair – TaxのMarna Rickerは述べています。「テクノロジーを最大限に活用するには、従来とは異なる考え方が必要であり、理想的な運用モデルを構築するには、これまで以上に戦略的なアプローチが重要になるでしょう」


Three different hands touch a large interactive screen that glows from within
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第1章

生成AIが税務・財務変革にもたらす変化

調査の回答者は、新しいテクノロジーの可能性を確信しており、すでに初期のユースケースは影響をもたらしています。

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AIを活用したデータの最適化は、どのように税務・財務の変革を加速するのか

データに基づく知見が税務・財務の変革を推進し、戦略的なデータ活用が意思決定を導き、コンプライアンスに効率化をもたらします。

    ⽣成AIは2022年後半に本格的に普及し、すでにビジネス界と世界経済に変⾰をもたらしています。EYは、⽣成AIが今後10年間で世界のGDPを1.7兆⽶ドルから3.4兆⽶ドル(「GenAI risks and challenges for the economy(英語のみ)」)に押し上げ、世界の労働⼈⼝の半数以上に⼤きな影響を与える可能性があると推定しています。

     

    従来の機械学習と生成AIの主な違いは、機械学習が過去のデータに基づいてパターンを見つけ、予測を行うのに対し、生成AIは、それ自体でロジックを理解し、非常に幅広い税務業務においてほぼ瞬時に意思決定を行うことができる点です。

     

    「税務はデータ主導かつルールに基づく業務であるため、税務のプロフェッショナルは生成AIによるイノベーションの草分け的存在です」と、EY Global Managing Partner – Growth & InnovationのRaj Sharmaは述べています。「この分野におけるイノベーションは、特に適切な投資を行う組織において、今後数年間で飛躍的に成長を続けると予想しています」

     

    調査の回答者は、データ収集からコンプライアンスや税務係争に至るまで、あらゆる業務領域で生成AIが改善をもたらしていると考えています。しかし、まだ初期段階にあるため、75%の回答者は、税務・財務部門における生成AIの実用化は「未着手(23%)」や「探索期(52%)」と回答しています。今後数年で、その導入状況は成熟度スケールにおける「初期」および「統合期」カテゴリーへと急速にシフトし、より多くの組織が生成AIについて、変革をもたらすものとして認識するようになるでしょう。


    MicrosoftのIndustry Solutions DeliveryのCorporate Vice PresidentであるLyn Bird氏は、税務部門は、ほとんどの企業において、この成熟度曲線に沿って急速に成長を続けるけん引する役割を担っていくだろうと述べています。

    例えば、企業はすでに生成AIを活用して、間接税申告時に納税額をより正しく算出することで、数年後に還付金を請求する必要性をなくしました。また、給与部門では、より高度なチャットボットが従業員の問い合わせにより適切でカスタマイズされた回答を提供できるよう支援しています。さらに、生成AIはさまざまな種類のデータセットを比較し、これまで検出が困難であった税務上の控除や税額控除を特定するために使用されています。

    「税務は、多くの企業で生成AIを使用する上での基準となっています」とBird氏は述べています。「これは、税務担当幹部がリーダーシップを発揮する絶好の機会なのです」

    税務のプロフェッショナルは、データソリューションの迅速な分析と構築、予測分析とホライズンスキャニングの実行、リアルタイムデータを用いたベンチマークなど、より高度なタスクに生成AIの活用を拡大し始めています。自然言語を使用してAIシステムとチャットする機能であるプロンプトエンジニアリングなどの新しいスキルは、エンタープライズデータと組み合わせることで、複雑な税務文書やデータを大規模に分析するケースが増えています。

    生成AIには多額の投資が必要です。生成AIの革新的な影響を生かし、成熟曲線に沿って成長していくには、綿密な計画と、広範でコストのかかる障害を克服する力が求められます。これらの障害には、アクセスが容易かつ高品質で信頼性の高いデータの不足、テクノロジーの構築、導入、保守、管理を行う人材の不足などが含まれます。また、データセキュリティとプライバシーに関する懸念、規制順守と法律に関する不確実性を指摘する声もありました。

    「生成AIは税務機能のあらゆる側面において大きな機会を生み出しています」とEY Global Tax and Finance Operate LeaderのDave Helmerは言います。「ほとんどの企業は成熟曲線の初期段階にあり、生成AIのメリットを実現するための計画が必要です」

    Group of business people working late in the office. Focus is on two of them using digital tablet by the window.
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    第2章

    トランスフォーメーションが、税部門のコンプライアンスの効率化を促進する理由とは

    新しいグローバルミニマム税、税の透明性要件、リアルタイムの申告により、効率的な運用モデルの必要性が高まっています。

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    なぜ国別報告書(CbCR)の開示に注目すべきなのか

    国別の税務情報の開示によって、企業グループに新たなリスクがもたらされようとしています。

      税務当局はデジタルトランスフォーメーションへと動き出し、生成AIの統合も進むことで、納税者による申告の必要性はますます高まり、変革の必要性も加速しています。税務部門は、増え続ける政府の要求に対応するために必要なデータと新しいテクノロジーに後れを取らないよう、ますます大きな圧力にさらされています。

       

      今回の調査では、以下の3つの課題が浮かび上がりました。

      1. すべての企業は、電子インボイスを含むリアルタイムでの申告のニーズの高まりに直面しています。
      2. 大企業は、経済協力開発機構(OECD)/G20包摂的枠組みが策定したグローバルな税制改革への対応に苦慮しています。
      3. 多くの企業は、政府による税務・財務に関するより詳細な情報の公開要求に備えています。

      デジタル納税申告と電子インボイス

      調査の回答者は、リアルタイムのデジタル納税申告への対応が、税務・財務部門にとって最も重要で新たな報告要件であると述べています。特定のデータに関して通常はリアルタイムで税務当局に送信する電子インボイスを義務付ける国が、これまで以上に増えています。政府がこのようなアプローチを取るのは、データを入手することで納税額を確定できるからです。これにより、企業にはデータが正確かつ信頼できるものであることを担保する、という大きな圧力がかかることに加え、事実上、監査サイクルが前倒しになり、実質的にリアルタイムでの監査が行われることになります。

       

      電子インボイスの導入は中南米で始まり、当地域で定着しています。欧州では、独自の電子インボイス要件の導入に取り組む国・地域が増えており、アジア太平洋の国・地域もこれに続いています。現在、約80の国・地域が何らかの形で電子インボイスを導入しており、その大半が常に制度を変更しているため、企業はこうした変化に後れを取らないよう絶えず対応を迫られています。さらに、2027年までに新たに16カ国が導入を決定または提案しています。

       

      企業にとっては、電子インボイスを含むリアルタイムのデジタルファイリングが、構築か購入かの新たな難題を提起しています。多国籍企業は、電子インボイスの課題解決に地域ごとのアプローチを取ることは、もはや経済的に実現不可能であることに気づいています。

       

      「かなりのコストとリソースを必要とします」と、Haleon plcのHead of Tax and Trade ComplianceのGemma Beck氏は指摘します。「絶え間なく変化する申告要件に合わせて、人材やテクノロジーを含む現地および中央のリソースを調整することは、終わりのないタスクです。サービスプロバイダーと提携することは、あらゆる国・地域でコンプライアンスを維持するための費用対効果の高い方法です」

      第2の柱:グローバルミニマム課税

      企業は、刻々と変化するグローバルミニマム課税の義務を順守するという課題にも直面しています。

      具体的には、回答者の83%が、BEPS2.0に準拠した税務申告用情報を作成するために、ソースデータに「中程度」から「大幅」な調整を加える必要があると回答しています。

      これらの報告要件は、主に、世界中の国・地域において第2の柱であるグローバルミニマム課税が実施されていることに大きく起因しています。第2の柱は、グローバルな収益が7億5,000万米ドル以上の企業が、その収益がどこで得られたかにかかわらず、その収益に対して最低でも15%の実効税率が適用されることを目的として策定された相互関連性のある一連の規則です。

      140以上の国・地域が、第2の柱であるグローバルミニマム課税に原則として合意しており、それぞれの国・地域は異なるペースで、これらの規則について国内法を通じて実施に移しています。EYによるBEPS 2.0の「Pillar Two Developments Tracker」(英語のみ)の調査によると、2024年9月現在、39の国・地域が最終的な法律を制定し、14の国・地域が草案を提出し、9つの国・地域が立法化の意向を発表しています。これにより、影響を受ける企業は事業を展開するいずれかの国・地域において追加税を支払う必要があるかどうかを計算する必要が生じ、すでに急速に変化している税制の環境にさらなる複雑性が加わることになります。

      OECDが以前に提唱した、いわゆる国別報告書(CbCR)も、企業が自社のデータにアクセスし、分析し、生産的に利用しようとする動きを強く後押しするものです。これらの報告書は、約10年前にOECDの税源浸食と利益移転(BEPS)プロジェクトの行動13で初めて求められたもので、国・地域ごとに収益額、税引前利益、納税済みおよび未払いの法人税を内訳で報告することが求められています。また、グループが事業を展開する国・地域ごとの資本、利益剰余金、従業員数、有形固定資産に関する情報も含まれます。(行動13では、移転価格に関するマスターファイルとローカルファイルの要件も定められており、これは過去10年間で税務当局によって課せられた税務透明性に関するもう1つのマイルストーンです)

      これらの報告書は、税務当局への他の提出書類と同様に機密扱いとなりますが、EU加盟国を含む多くの国・地域では、CbCRの情報を一般に公開するための新たな要件を制定または検討しています。情報公開に向けた取り組みは、企業のデータシステムに新たな負担を生み出しています。CbCRへの対応のために、約34%が「大幅」な数のソースデータへの調整が必要だと回答しており、また、47%が「中程度」の数の調整が必要だと回答しています。

      情報公開
      自社が支払った税金の総額を自ら公表すると答えた回答者の割合

      一部の国・地域で義務的な公開要件が導入される見通しであることを受け、回答者の56%が、世界中で支払う税金の総額の詳細を公表する予定であると回答しており、2023年の38%から増加しています。

      また、生成AIは税務行政にも影響を与えています。回答者のおよそ3分の1(32%)が、自社の税務リスクプロファイルが「中程度」または「大幅」に減少したと回答しています。また、40%が税務紛争について「中程度」または「大幅」に減少したと回答しています。49%が税務当局による申告書の査定が「中程度」または「大幅」に迅速化されたと回答しています。

      プロバイダーの統合によるさらなる機会の創出

      今回の調査では、回答企業が税務のコソーシング・プロバイダーの統合を検討しており、その多くが現在、大手監査法人4社のうちの1社を利用していることが分かりました。この傾向は、法人税、BEPS、間接税、法定会計などのコンプライアンスや報告業務において、企業が自社のデータをより効率的に再利用しようとしていることから生じています。

      このようにビジネスデータとプロバイダーの専門知識を組み合わせることで、回答者が現在社内で行っている残りの業務量の一部をコソーシングする戦略的な機会がもたらされる可能性があります。


      Lots of people working late. Employees seen as silhouettes against their brightly lit offices with large windows. Building framed by the "blue hour" evening sky
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      第3章

      税務・財務人材の確保と活用が最大の課題に

      大学課程を修了していない人の採用が進む中で、生成AIはそのギャップを埋めるだけでなく、税務・財務リーダーに対して、経営幹部が求めるより戦略的な洞察を提供する支援もします。

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        税務・財務部門は長年にわたり、運用モデルの変革を決定する要因として人材不足を指摘してきました。今回の調査では、この危機がより大きな影響を及ぼしていることが明らかになりました。

         

        53%が、人材の確保と引き付けは「非常に深刻」または「深刻」な問題であると回答しています。同時に、回答者の89%が、人材に関する障壁が税務・財務部門の目的やビジョンの実現を妨げていると回答しています。これらの障壁は、予算の制約から必要な人材の雇用ができないことまで多岐にわたります。

         

        世界的な人材不足の大部分は人口統計学的な要因によって引き起こされています。例えば、米国公認会計士協会(AICPA)1によると、米国では2019年に公認会計士の4分の3が定年退職を迎え、Fortune2によると、米国だけでも34万人の会計士と監査人が不足しています。

         

        こうした労働人口の減少は、税務・財務部門に深刻な影響を及ぼしています。調査回答者の約70%が、今後5年間で会計士の数が減少することにより、税務・財務部門の業務遂行に「中程度」または「重大」なデメリットが生じると回答しています。同時に、63%が、税務・財務部門の上級管理職の退職は、税務・財務部門の業務に「中程度」または「重大」なデメリットをもたらすと述べています。実際、回答者の39%が、生成AIを活用することで、税務・財務部門の業務に「中程度」または「大幅」なメリットがもたらされると予想していますが、依然として、解決すべき大きな課題は残ります。

        学位は必要ない
        大学課程を修了していないプロフェッショナルが自社の人材戦略にとって重要であると答えた回答者の割合

        しかし、それは単に従業員数の問題ではありません。税務・財務部門は、税務・財務の規則を十分に理解しているだけでなく、データやテクノロジーにも精通した新しいタイプのプロフェッショナルが常に必要とされています。また、生成AIを活用する能力もますます重要視されるでしょう。

        「税務部門は、生成AIを扱う能力も含め、適切なスキルを持つ優秀な人材を確保するために、次世代の人材モデルを構築する必要があります」とHelmerは指摘します。「そのために、社内研修の改善とプロバイダーとのコソーシングを組み合わせ、従業員が高度なスキルを生かせるプロジェクトに従事できるようにすることが求められるでしょう」

        人材不足は深刻であり、税務部門は採用する人材についてより柔軟な発想を持つようになってきています。62%が、税務・財務部門の従業員については、大学課程を修了していない人材も人材戦略上「非常に重要」または「ある程度重要」であると回答しています。さらに、77%が、データサイエンティストの採用は「非常に重要」または「ある程度重要」であると回答しています。


        「人材に関して言えば、現代の税務部門にとってアジリティが鍵となります」とUPSのSenior Vice President兼Global Head of TaxであるAaron Konnick氏は述べています。「プロバイダーと連携することで、必要に応じてチームの規模を拡大・縮小し、プロフェッショナルの力を活用することができるようになります」

        税務部門は、より少ないリソースでより大きな成果を組織に提供することが一層強く求められています。従業員に対して、これまでの2倍の時間を付加価値の高い業務に費やし、修正業務に費やす時間を減らすことを望む企業が占める割合は高まっています。

        例えば、調査の回答者は、データクレンジングや税務申告のコンプライアンス、調整などの定型的なコンプライアンス業務に業務時間の45%を費やしていると回答しています。残りの35%の時間を、法人税申告書の確認や署名、税務アドバイザリー業務の管理、リスク管理、利害関係者とのコミュニケーションといった中核的な業務に費やしています。また、クロスボーダーの税務分析や複雑な税務係争案件といった付加価値の高い業務に費やす時間はわずか20%にとどまっています。理想的なのは、この時間の割合が逆転し、回答者が戦略的な業務に42%、定型的な業務に25%の時間を費やすことです。

        生成AIは、人材不足の多くの課題を解決する可能性を秘めています。例えば、生成AIが担う業務が税務部門に「中程度」から「大幅」なメリットをもたらすと答えた39%の意見を上回り、41%の回答者は、生成AIが人材の採用や定着率を「中程度」または「大幅」に向上させていると述べています。生成AIがより多くの基本的かつ定型的なタスクを実行することで、従業員がより価値の高い、やりがいのある業務に集中できる環境が整うことは、人材確保の面でも魅力的です。また、AIの効率化があっても、回答者の10人に6人は、従業員数は変わらないか、増えると予想しています。


        税務コンプライアンスの合理化

        生成AIは、間接税のプロフェッショナルによる製品分類を支援します。

        Woman using smart phone while scanning QR code for payment at store checkout

        課税すべきか、課税すべきでないか:生成AIが食料品店のリスク管理にどのように役立っているか

        間接税のプロフェッショナルにとって、製品分類は常にコンプライアンス上の課題となっています。同じ製品でも、国や州、県、さらには近隣の市町村によって課税処理が異なる場合があり、広く流通している製品については、非常に複雑な状況が生じます。食品は特に複雑です。ベーグルはスライスされているかどうかによって課税対象となるかならないかが決まります。また、ボトルに入った飲料やアイスキャンディーは、本物の果汁の含有率によって非課税となる場合があります。また、ピザは店舗で焼かれたものか、シュリンク包装された容器に入れて持ち帰るものかによって課税対象となるかならないかが決まります。こうした複雑さは、年間何万もの新製品やプライベートブランド製品を開発する食料品店にとって特に厄介です。分類ミスは、数百万米ドルの罰金や和解金につながる可能性があります。

        最近のパイロットプログラムでは、生成AIのエージェントが数万の最小在庫管理単位(SKU)の番号をスキャンし、食料品店が事業を展開するすべての国・地域の税法と原材料を相互参照することができました。このテクノロジーが導入される前は、製品は店頭に並び、テクノロジーを使用せず人の手で数カ月後にデューデリジェンスが実施され、特に徴収されるべきではない税金が徴収されていた場合に、税務および法務上のリスクが生じていました。生成AIのエージェントは、製品が何であるか(原材料を含む)を迅速に判断し、国・地域ごとに製品を特定し、課税対象かどうかを判断することができます。その結果、より確実で正確な納税、より優れたキャッシュ・マネジメントを実現し、人間である税務のプロフェッショナルは付加価値の高い業務に集中できるようになります。


        Holding tablet. Male leader talking to employees, showing the plan on the projector in office of stock exchange company.
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        第4章

        コスト圧力への対処が最優先課題に

        コンプライアンス業務をコソーシングすることは、リソース不足に苦慮している企業の解決策となる可能性があります。

        税務・財務部門の大部分は、生成AIを活用した新たな未来を受け入れる準備をする前に、さまざまな予算面での圧力の高まりに対処する必要があります。回答者は、今後2年間で税務・財務部門の予算が平均3.3%削減されると予想しており、13%は凍結されると予想しています。加えて、2018年以降のEYの調査(合計約8,000件の回答)では、2年間の平均コスト削減率が4%から9%であったと報告されています。これらの削減は、インフレ率が高い時期と相まって、ほぼすべての企業の購買力を縮小させています。

        同時に、回答者は社内リソースでかなりの量の税務コンプライアンス業務を依然として行っていると述べています。コスト削減を検討する中で、特にBEPS報告や直接税コンプライアンスなどの業務の多くをコソーシングすることを検討する企業も現れるでしょう。

        生成AIの活用は、こうした予算面での圧力に新たな側面を加えることになります。企業がどの業務を社内で行い、どの業務をコソーシングするかを分析する必要があるのと同様に、生成AIツールやその機能についても、構築と購入のどちらを選択するかの判断が迫られます。こうした機能の構築は、企業のニーズを満たすかもしれませんが、その実現は困難でコストもかかります。必要なツールやサービスの一部またはすべてを購入した方が、より迅速に変革を実現でき、より高い価値を得られる可能性もあります。

        変革が進む財務部門

        コストに関する懸念も、財務部門の変革を促しています。税務と同様に、財務のプロフェッショナルの54%が今後2年以内に運用モデルの変更を検討していると回答しており、CFOはそれを税務と財務の統合的な変革として取り組んでいると回答する傾向がわずかに高くなっています。

        税務担当者と同様に、CFOとそのチームは、コスト削減を図りながら、最も戦略的な業務にチームを配置するという課題に直面しています。また、人材に関する課題や、自社固有の複雑なコンプライアンスおよび報告義務にも直面しています。最適な成果を達成するには、多くの場合、財務部門の運用モデルの変革も必要となります。

        また、本調査の回答者のCFO、財務部門の上級管理職、財務コントローラーは、さまざまな業務、特に取引勘定や財務計画・分析について、より多くのコソーシングを検討していると回答しています。企業は引き続き業務コストの削減方法を模索していますが、同時にコントロールも維持したいと考えており、自動化がその役割を果たすことができます。例えば、コソーシングはコスト削減を可能にしながら、データとテクノロジーを活用してさらに高い価値を引き出すことができるため、財務計画・分析のソリューションとして特に魅力的です。また、企業は主に、標準的なレポート作成と分析に秀でたプロバイダー、設定可能なワークフロー、タスク管理、業務の割り当て機能を備えたプロバイダーを求めています。さらに、企業は、従業員とサービスプロバイダーの両者がシームレスにデータにアクセスできることを保証する、高度に統合されたソリューションを備えたプロバイダーを必要としています。


        Cropped shot of young colleagues working in a modern office at night
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        第5章

        生成AI時代の変革にどう取り組むべきか

        組織がディスラプティブな時期に、より少ないリソースでより多くを成し遂げようとするときに考慮すべき4つの取り組みを紹介します。

        変革のどの段階にあるかにかかわらず、税務・財務部門が取るべき4つ行動は以下の通りです。

         

        1. 税務・財務部門における生成AIの運用

        生成AIは、単に短期的な効率性向上を達成するための手段ではなく、変革のツールとして認識するべきです。税務・財務部門は、生成AIツールを業務に導入するために、成熟曲線に沿って迅速かつ賢明に変革を進める必要があります。まず自社のビジネスに適合するユースケースを特定し、適切なツールを選択することから始めて、次にデータの準備を行い、小規模なパイロットプロジェクトを選定します。その後、規模を拡大、統合し、継続的に改善していきます。最も重要なのは、従業員が自信を持って生成AIを活用できる体制を整えることです。例えば、自社で税務取引を適切に分類し、計画や分析の機会を特定し、経営幹部が企業価値の向上に活用できるリアルタイムの分析結果を提示する生成AIエージェントを開発できる体制をつくる必要があります。

         

        2. 包括的なデータ戦略を策定する

        生成AIとデータ再利用のメリットを最大限に享受できる体制を整えましょう。規制当局への報告要件が増加し、コストや人材に関する圧力への対処が必要になるにつれ、この重要性はますます高まります。

         

        3. 戦略的な人材計画を策定する

        この計画では、人材不足、生成AIの役割、戦略的活動への集中能力、新たな報告要件、コスト圧力など、税務・財務部門に影響を及ぼす多くの課題に対処する必要があります。税務・財務担当者が将来にわたって成功を収めることができるよう、戦略的人材な計画を策定する必要があります。これには、将来の人材ニーズを予測し、社内採用、サービスプロバイダーとの連携、自動化、生成AIの組み合わせを通じて、必要な人材をいかに確保するかを決定することが含まれます。

         

        4. 運用モデルの再検討を継続

        特に生成AIの能力が急速に成長している中で、戦略的計画は依然として必要であり、変革の選択肢は基本的にこれまでと変わりません。投資によって構築する、業務の大部分をアウトソーシングする、またはより一般的な方法として、一部の業務は外部プロバイダーを利用し、その他の業務は社内で行うハイブリッドアプローチを取る、といった方法です。

         

         

        今回の新しい調査では、結論として、データに対する需要の高まりにより、特に第2の柱のコンプライアンスのような特定の業務においては、単一のサービスプロバイダーと連携することが賢明な選択であることが示されています。単一のプロバイダーがすでに貴社のコアデータの取り扱いを担当している場合、予算がますます厳しくなる中で社内での対応が難しくなっているタスクをさらにアウトソーシングすることは合理的な選択であると考えられます。これにより従業員は、貴社のビジネスが求めるデータ主導の知見を提供するための万全の体制を整えることができます。また、生成AIを飛躍的に向上させる可能性がある量子コンピューティングなど、目覚ましい進化を遂げているテクノロジーを最大限に活用する上でも、より適切な体制を整えることができるでしょう。


        サマリー

        EYタックス・アンド・ファイナンス・オペレート(TFO)調査の回答者の87%が、生成AIを統合することで業務がより効率的になると回答しています。生成AIは、今後もコスト圧力や人材不足の対処を迫られる中、重要な鍵を握ります。企業はデータ標準化を担う単一のプロバイダーとより多くの業務をコソーシングすることで、AIを活用し、その変革の可能性を実現する上で、万全の体制を整えることができます。

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        EYは、AIを活用したビジネス変革のための統合型プラットフォームであるEY.aiを使用し、企業が自信を築き、価値を促進し、ビジネスにプラスの影響を与えられるよう支援します。