EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
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CbCRコンテクストの重要性
新たな開示要件は、該当企業に新たな検討事項をもたらします。移転価格の専門家1,000人を対象に行ったEYの調査によると、回答者の96%が、報告書の開示準備に伴い、負担が「ある程度」あるいは「非常に」増えると回答しています。
多くの企業グループではすでに、税務戦略に関する情報など、税務データを自主的に公開し始めています。そうした取り組みは、ブランドやコーポレートシチズンシップ、透明性という点で、ステークホルダーによい印象を与え、ひいては株主価値につながる可能性があります。
しかし、CbCRを開示する重大なリスクの1つに、開示したデータに対する誤った解釈や不正確な情報の提供によるレピュテーション(評判)の低下があります。CbCRのそもそもの受け取り手である税務当局には、データを分析する専門知識があります。しかし、税務の専門家でなければ、情報のニュアンスや文脈を十分に理解することは難しいでしょう。
EYのGlobal International Tax Services Policy Leaderであり、かつてOECDの租税条約・移転価格・金融取引部門を率い、OECDのBEPSプロジェクトの行動13におけるCbCR制度策定を担当したMarlies De Ruiterは、次のように語ります。
「当時、税務情報の共有を当局間に限定するという意図的な決定がなされました。それは、税務申告の数字だけでは必ずしも全体像を把握できるわけではないためです。例えば、実効税率の低さを示す数値があったとしても、数字からは理由は分かりません。損失補填や加速償却、あるいは公共政策目標の推進を意図した政府による税制上の優遇措置があったのかもしれません。こうしたことは数値だけでは分かりません。」
EY Global Tax Policy LeaderのBarbara Angusは、企業グループへの助言として、開示したCbCRデータをより多くの人が理解できるよう、コンテクスト(文脈)をどのように示すのかを考慮すべきとしています。「多くの企業にとって、自社のストーリーを語ることが非常に重要になってきます。CbCR情報だけでは、簡単に誤った解釈をされる可能性があります。」
EY Global Transfer Pricing Market and Innovation LeaderのRonald van den Brekelも、CbCRの解釈が不正確になされることは重大なリスクだと考えます。「従業員数、利益率、納税額を単純に比較して誤った解釈をされ、納税額が少ないのではという疑いを持たれる、そうしたリスクに企業グループは直面しています。しかし、税金計算はもっとはるかに複雑なものです。
例えば、利益率の高い業種では、知的財産を多く有するバリューチェーンがしばしば見られます。その知的財産が存在する国・地域や株式投資を負担する国・地域、重大な事業リスクを負担する国・地域では、納税が多くなる傾向にあります。
利益率が高い企業は注目されることが多く、この残余利益はいったいどこの国・地域に移転するのか、という疑問を持たれることが増えるかもしれません。」
CbCRの開示プロセスを最適化
CbCRのコンテクストを物語る最も効果的な方法は企業グループによって異なり、他に公開された計算書や報告書も考慮に入れる必要があります。これには、企業の他部門による開示書類も含まれます。
「監査後の財務諸表だけでなく、あらゆる関連情報を収集して整理するプロセスを整備することが重要です。公表した内容がもとで税務係争が生じる可能性があるため、企業は情報の整合性を説明できるよう準備しておかねばなりません」と、EY Global Tax Controversy LeaderのLuis Coronadoは指摘します。このようなプロセスの整備は、不注意によるデータの漏れや申告の遅れを回避する上でも鍵となります。漏れも遅れもペナルティや新たな税務係争につながりかねない問題です。
さらに、開示した情報が税務申告書など税務当局に報告した情報とどのように整合しているかも、企業グループは考慮する必要があります。税務当局が新たに公開された情報と当局が直接受け取る情報を共に確認するためです。
「税務係争の可能性を減らすには、予想される質問に備えて事前に対策しておくことが重要です」とCoronadoは言います。
企業内のどの組織が主体となりCbCRの開示をどのように管理するのか、各部署の役割の明確化と調整が必要です。調整を効果的に進めるには、税務、IT、法務、財務報告、広報といったチームの関与が欠かせません。このプロセスには連携こそが重要だと、Barbara Angusは強調します。
「税務部門の深い関与が必要なのはもちろんですが、特に税務情報と企業の語る広範なストーリーとを結びつけるには、組織全体で協力してCbCRの開示に取り組まなければなりません。」
検討すべきベストプラクティス
このような専門知識を要する報告書を、一般の人が理解できるような文脈に落とし込むことは難題です。この新しい時代のCbCR開示プロセスを最適化するに当たって、影響を受ける企業グループは、以下の点を検討する必要があります。
- 国・地域ごとに要件の違いがあるので、国別報告書(CbCR)の開示先に合ったCbCRプロセスを構築する。まず開示に際しての必須項目をテンプレート化して、通常業務の情報開示を盛り込む。追加情報がある場合は、ケースごと、年度ごとにまとめ、税務の特例や特殊な事態が生じた際にそのコンテクストを提供できるようにしておく。
- 社内の主要ステークホルダーと計画を共有する。税務、法務、PRの各リーダー、サステナビリティチーム、その他の経営幹部など合同で取り組めば、さまざまなインサイトを得られる。開示後の質問に対応するチームを編成し、想定質疑応答集を準備する。
- 税務関連の情報開示と、企業の透明性をより高める⽬標との整合を図る。
- CbCRの開示状況が世界規模でどう進化していくかを注視し、EU域内外で今後起きる変化に対応に備える。
社内のCbCRプロセスを最適化して、新たな国別報告書(CbCR)開示の遵守を徹底することは、もちろん重要です。しかし、多くの企業グループにとって本当の成功といえるのは、開示情報について説得⼒を持って語ることにより、あらゆるステークホルダーが開⽰情報を容易に理解できる、真の透明性を実現することでしょう。