なぜ国別報告書(CbCR)の開示に注目すべきなのか

なぜ国別報告書(CbCR)の開示に注目すべきなのか


関連トピック

国別の税務情報の開⽰によって、企業グループに新たなリスクがもたらされようとしています。


要点

  • 国別報告書(CbCR)の開⽰がEUで義務化され、オーストラリアでも法案が出されている今、企業グループは新時代の税の透明性に備えようとしている。
  • CbCRの開⽰には、⼀般の⼈々が重要なデータを誤って解釈するリスクがあるが、コーポレートシチズンシップに注⽬が集まる機会ともいえる。


EY Japanの視点

2024年7月11日にOECDから公表された法人税統計報告書によると、約900弱の日本企業グループが、国別報告書(CbCR)を作成し、国税庁に提出していることが分かります。日本企業グループの多くは、EU加盟国に中規模以上の拠点を有し、オーストラリアでは売上⾼1,000万豪ドル以上の拠点を有すると考えられることから、EUもしくはオーストラリア(議会において審議中)において、国別報告書(CbCR)の開示義務を課されることになります。

日本企業グループは、開示義務について遵守する姿勢を示す一方で、開示義務において求められる最小限の情報を収集して開示義務を果たすことに集中し、開示した内容についてステークホルダーに一方的に解釈されるリスク、非税務のより経営指標的に問われた場合のリスクにまで、注意を払う企業グループは、まだ少ない状況です。

日本企業グループにおいても、税についてより透明性のある開示を図るためには、CbCRを単なる数値ではなくコンテクストとして捉え、その背景にあるストーリーをステークホルダーに対して語る姿勢が重要になると考えられます。


EY Japanの窓口

EY税理士法人 ビジネス・タックス・サービス
パートナー 関谷 浩一
ディレクター 大堀 秀樹
※所属・役職は記事公開当時のものです

多くの国・地域で国別報告書(CbCR)の開示がいよいよ現実のものとなる中、その対象の広範さを考慮すると、報告する情報のコンテクスト(背景・文脈)を提供できるよう準備を整えておくことが、今まで以上に重要になってきます。

適⽤対象となる企業グループには、収益や法⼈税納付額などの情報を国別にまとめ、公開することが義務付けられます。情報が標準化された報告書では、⼀般の読者は企業活動の全体像までを明確には把握できないかもしれません。

報告書を開示すれば、その情報はステークホルダーや競合他社などにも幅広く知られるようになります。そのため、CbCRの開示が、企業戦略の全体像や環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する方針、ステークホルダーの期待とどのように整合するかを検討することが重要です。

 

当局限定であった国別報告書(CbCR)

2016年以降、グローバルな企業グループに対し、国別の税務情報を税務当局に提供するよう義務付ける国・地域の数は増えてきています。CbCRの制度は元々、経済協⼒開発機構(OECD)によって、税源浸⾷と利益移転(BEPS)プロジェクトの⾏動13の⼀環として策定されたものです。制度の⽬的は、税務当局がグローバル企業の各国・地域の拠点での事業活動について、より多くの情報を得ることにありました。ここで重要なのは、CbCRは経営上の機密情報を含むことから、多国間協定を通じて、各国税務当局には納税者情報の守秘義務が課されたということです。

しかし、EUは、CbCR開⽰指令のもと、企業グループにCbCRの情報開⽰を義務付けることで、税の透明性を⼤幅に向上させようとしています。この指令は、EUに拠点を置く企業グループと、EUで事業を⾏うEU域外に拠点を置く企業グループの双⽅に適⽤されるもので、グローバルの連結売上⾼が7億5,000万ユーロを超える企業が対象です。対象の企業グループは、27の全EU加盟国および税務⾯で⾮協⼒的な国・地域のリスト(EUブラックおよびグレーリスト)に記載の国・地域ごとに、法⼈税納付額をはじめ、利益、収益、従業員数の内訳など、税務関連の国別情報を公表しなければなりません。指令は2024年6⽉22⽇以降に始まる会計年度から適⽤され、報告書の提出期限は通常、当該年度の決算⽇の12カ⽉後とされています。

各加盟国は、このEU指令の国内法制化が義務付けられていますが、最終的に採⽤される規則には国によって多少の差異が⽣じています。ルーマニアとクロアチアでは規則をより早く適⽤することを選択し、それぞれ2023年1⽉1⽇以降および2024年1⽉1⽇以降に始まる会計年度から適⽤しています。また、ハンガリーやスペインのように、報告書の開⽰時期を早める加盟国もあります。

EUに本社を置く企業グループについては、加盟国ごとの法規の違いがあることから、⾃国の規則に従うことが求められています。しかし、本社がEU域外にある場合、居住地ごとの法規の違いにより、EUのCbCR開⽰指令への遵守が追加の課題になります。⾃国の規則だけでなく、⼦会社があるそれぞれの国・地域の規則を守らなければなりません。

オーストラリアでは、2024年7⽉1⽇以降に開始する財務報告期間から同様の開示を求める法案が提出されています。法案が成⽴すれば、その対象となるのは、世界全体の連結売上⾼が10億豪ドル以上で、かつオーストラリアからの売上⾼が1,000万豪ドル以上であり、オーストラリアに拠点を持つ企業グループです。EUならびにオーストラリア以外の国・地域でも、CbCR開⽰の義務化が提案される可能性があります。


EUにおける国別報告書(PCbCR)の開示に関する最新状況一覧

EU PCbCR Developments Trackerは、EU指令の概要と、各EU加盟国および欧州経済領域(EEA)の国々が指令をどのように実施しているかの状況を提供します。


CbCRコンテクストの重要性

新たな開示要件は、該当企業に新たな検討事項をもたらします。移転価格の専門家1,000人を対象に行ったEYの調査によると、回答者の96%が、報告書の開示準備に伴い、負担が「ある程度」あるいは「非常に」増えると回答しています。

 

多くの企業グループではすでに、税務戦略に関する情報など、税務データを自主的に公開し始めています。そうした取り組みは、ブランドやコーポレートシチズンシップ、透明性という点で、ステークホルダーによい印象を与え、ひいては株主価値につながる可能性があります。

 

しかし、CbCRを開示する重大なリスクの1つに、開示したデータに対する誤った解釈や不正確な情報の提供によるレピュテーション(評判)の低下があります。CbCRのそもそもの受け取り手である税務当局には、データを分析する専門知識があります。しかし、税務の専門家でなければ、情報のニュアンスや文脈を十分に理解することは難しいでしょう。

 

EYのGlobal International Tax Services Policy Leaderであり、かつてOECDの租税条約・移転価格・金融取引部門を率い、OECDのBEPSプロジェクトの行動13におけるCbCR制度策定を担当したMarlies De Ruiterは、次のように語ります。

 

「当時、税務情報の共有を当局間に限定するという意図的な決定がなされました。それは、税務申告の数字だけでは必ずしも全体像を把握できるわけではないためです。例えば、実効税率の低さを示す数値があったとしても、数字からは理由は分かりません。損失補填や加速償却、あるいは公共政策目標の推進を意図した政府による税制上の優遇措置があったのかもしれません。こうしたことは数値だけでは分かりません。」

 

EY Global Tax Policy LeaderのBarbara Angusは、企業グループへの助言として、開示したCbCRデータをより多くの人が理解できるよう、コンテクスト(文脈)をどのように示すのかを考慮すべきとしています。「多くの企業にとって、自社のストーリーを語ることが非常に重要になってきます。CbCR情報だけでは、簡単に誤った解釈をされる可能性があります。」

 

EY Global Transfer Pricing Market and Innovation LeaderのRonald van den Brekelも、CbCRの解釈が不正確になされることは重大なリスクだと考えます。「従業員数、利益率、納税額を単純に比較して誤った解釈をされ、納税額が少ないのではという疑いを持たれる、そうしたリスクに企業グループは直面しています。しかし、税金計算はもっとはるかに複雑なものです。

 

例えば、利益率の高い業種では、知的財産を多く有するバリューチェーンがしばしば見られます。その知的財産が存在する国・地域や株式投資を負担する国・地域、重大な事業リスクを負担する国・地域では、納税が多くなる傾向にあります。

 

利益率が高い企業は注目されることが多く、この残余利益はいったいどこの国・地域に移転するのか、という疑問を持たれることが増えるかもしれません。」


 

CbCRの開示プロセスを最適化

CbCRのコンテクストを物語る最も効果的な方法は企業グループによって異なり、他に公開された計算書や報告書も考慮に入れる必要があります。これには、企業の他部門による開示書類も含まれます。

 

「監査後の財務諸表だけでなく、あらゆる関連情報を収集して整理するプロセスを整備することが重要です。公表した内容がもとで税務係争が生じる可能性があるため、企業は情報の整合性を説明できるよう準備しておかねばなりません」と、EY Global Tax Controversy LeaderのLuis Coronadoは指摘します。このようなプロセスの整備は、不注意によるデータの漏れや申告の遅れを回避する上でも鍵となります。漏れも遅れもペナルティや新たな税務係争につながりかねない問題です。

 

さらに、開示した情報が税務申告書など税務当局に報告した情報とどのように整合しているかも、企業グループは考慮する必要があります。税務当局が新たに公開された情報と当局が直接受け取る情報を共に確認するためです。

 

「税務係争の可能性を減らすには、予想される質問に備えて事前に対策しておくことが重要です」とCoronadoは言います。

 

企業内のどの組織が主体となりCbCRの開示をどのように管理するのか、各部署の役割の明確化と調整が必要です。調整を効果的に進めるには、税務、IT、法務、財務報告、広報といったチームの関与が欠かせません。このプロセスには連携こそが重要だと、Barbara Angusは強調します。

 

「税務部門の深い関与が必要なのはもちろんですが、特に税務情報と企業の語る広範なストーリーとを結びつけるには、組織全体で協力してCbCRの開示に取り組まなければなりません。」


 

検討すべきベストプラクティス

このような専門知識を要する報告書を、一般の人が理解できるような文脈に落とし込むことは難題です。この新しい時代のCbCR開示プロセスを最適化するに当たって、影響を受ける企業グループは、以下の点を検討する必要があります。

  • 国・地域ごとに要件の違いがあるので、国別報告書(CbCR)の開示先に合ったCbCRプロセスを構築する。まず開示に際しての必須項目をテンプレート化して、通常業務の情報開示を盛り込む。追加情報がある場合は、ケースごと、年度ごとにまとめ、税務の特例や特殊な事態が生じた際にそのコンテクストを提供できるようにしておく。
  • 社内の主要ステークホルダーと計画を共有する。税務、法務、PRの各リーダー、サステナビリティチーム、その他の経営幹部など合同で取り組めば、さまざまなインサイトを得られる。開示後の質問に対応するチームを編成し、想定質疑応答集を準備する。
  • 税務関連の情報開示と、企業の透明性をより高める⽬標との整合を図る。
  • CbCRの開示状況が世界規模でどう進化していくかを注視し、EU域内外で今後起きる変化に対応に備える。

社内のCbCRプロセスを最適化して、新たな国別報告書(CbCR)開示の遵守を徹底することは、もちろん重要です。しかし、多くの企業グループにとって本当の成功といえるのは、開示情報について説得⼒を持って語ることにより、あらゆるステークホルダーが開⽰情報を容易に理解できる、真の透明性を実現することでしょう。


サマリー

社内のCbCRプロセスを最適化し企業全体で連携することで、企業グループはCbCRデータを幅広いステークホルダーに効果的に語れる仕組みを構築できるようになります。

新たな国別報告書(CbCR)の開示要件への対応にとどまらず、さらに⼀歩進んで、透明性の確保や外部ステークホルダーのエンゲージメント強化といった、企業グループ全体に及ぶ⽬標に関して、税務部門の貢献と他部門との連携が求められることになります。


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