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AIを活用したデータの最適化は、どのように税務・財務の変革を加速するのか


関連トピック

AI(人工知能)とデータ生成の標準化されたアプローチは、より広く税務・財務部門全体にわたり、人々とその業務プロセスの変革を推進します。


要点

  • ますます複雑化する環境下で、データは税務・財務部⾨におけるコンプライアンスの基盤となる。
  • ほとんどの企業は、依然として効率的かつ持続可能な⽅法で⾼品質のデータを抽出することに苦⼼している。
  • AIによるデータ照合と、データに対する⼀元化/⾃動化されたアプローチが、税務チームをコンプライアンス業務から解放し、より⼤きな付加価値をもたらす業務に集中することができる。


EY Japanの視点

日系企業の経理・税務部署は従来、限られた予算と人員に基づき、新規のコンプライアンス対応や海外子会社の増加に伴う税務ガバナンス構築・改善などのさまざまな課題に対処してきました。そのような中、AIの活用は、税務の変革推進に向けた大きなポテンシャルを有しています。

日系企業においても税務調整のドラフトやレビューにAIを活用する事例が生まれてきているほか、EY税理士法人でも複数の内部業務にAIを活用しています。特に生成AIを用いたドキュメントインテリジェンス技術は、これまでデータ管理が原因で進展してこなかった社内税務データの分析を実現するもので、今後の展開が期待されます。

これら先端技術を税務・財務の変革に結び付けるためには、税務業務とAIの双方を理解し、そこから得られる利益と実現に向けた課題を見通せる人材の存在が重要です。EYは変革に向かう意欲的な企業の取組みをサポートいたします。


EY Japanの窓口

山口 君弥

EY税理士法人 タックス・テクノロジー・アンド・トランスフォーメーション パートナー

データは税務・財務部門に変革をもたらし、当部門が日常的なコンプライアンス業務に縛られることなく、より広範にわたり組織を導き、戦略的なデータを活用した知見を創出することを支援します。この変革は、規制環境とその規模が急速に変化していること、当部門が税務・財務当局とこれまで以上に大量かつ詳細なデータを電子的に共有する必要性があることから、特に重要です。

しかし、ほとんどの組織にとって、⾼品質のデータに迅速にアクセスし運⽤することは、依然として⼤きな課題です。最新のEYタックス・アンド・ファイナンス・オペレート調査(英語のみ、近日中に日本語版公開予定)で、その詳細が明らかになりました。税務担当者は現在、データの収集とクレンジング、納税申告のコンプライアンスと関連する調整など、⽇常的なコンプライアンス業務に約4分の3の時間を費やしています。⼀⽅、データ分析、タックスプランニング、税務係争管理、全般的な戦略、コミュニケーション、リスク管理など、付加価値のより⾼い業務に費やしている時間はわずか28%です。

データから最大限の変革力を引き出す鍵は、税務チームが必要とする高品質の情報にアクセスできるようにすることです。しかし、これは簡単なことではありません。回答者の約半数(48%)が、最新の税務・財務部門のビジョンを実現するための最大の障壁として、データとテクノロジーに関する持続可能な計画の欠如を挙げています。

先進的な企業では、このデータの課題を克服するために、現在、データソースでのデータ作成の⼀元化による改善や、AIを使⽤して信頼性の低いデータを特定し、⼈によるレビューへのエスカレーションにつなげるなど、さまざまな戦略を駆使しています。

税務目的の一元的把握

Ernst & Young US LLPのTax Technology and TransformationのPartner であるTerri Beighは、現在、Microsoftおよび世界最⼤規模の製造業の企業と協⼒して、このデータの課題を克服し、組織の税務・財務部⾨の変⾰を進めています。解決策は⼀元的に「税務の真正性」を把握し、それを複数のチームやプロセスで⾃信を持って使⽤できるようにすることだとBeighは⾔います。

また、⼀般的には、税務・財務チームは、個々のコンプライアンス要件を満たすための情報を、それぞれに取得されています。

その理由は、試算表を必要とする異なるチームがまったく異なるTコードを実行し、その結果、数値の不一致がしばしば起こってしまうからです。これにより、税務チームと財務チームは、長期化する可能性のある遡及的な数値照合業務に取り組まなければなりません。Beighの説明によれば、その結果、データ運用化のプロセスに、ある程度の反目が存在する可能性が出てきます。

「個々に生成されたデータが共有されると、通常、各チームは自身の試算表が最も正確で、他のチームのデータは間違っていると考えます。各チームには、それぞれが試行錯誤した独自の方法があり、コンプライアンス要件を達成はできますが、このプロセスは精度に欠け非効率です」と、Beighは言います。

各チームによるデータ生成は、国・地域間のレイアウトや言語の違いもあらわにします。例えば、財務ディレクターが試算表を作成する場合、各国・地域における複数の形式とレイアウトに従い作成する必要があることから、さらに複雑なプロセスが伴います。

税務・財務データの標準化と一元化

Beigh のチーム、Microsoft、およびクライアントの協働にとっての解決策は、データ生成プロセスを一元化し、コア・データ・ポイントを元のソースまで追跡して重複を排除することです。

「私たちはデータの標準化と⼀元化に取り組みました。これには、試算表が必要なチームの数を特定し、同じパラメーターと同じ使⽤期間の標準形式に合意することが必要でした。試算表を5つのバージョンで作成するのではなく、すべてのチームは、同時期に⽣成され提供された単⼀形式の試算表を使⽤します」と、Beigh は⾔います。

その結果、すべての詳細な財務取引について総勘定元帳までさかのぼることのできる、単一のデータパイプラインが作成され、アプリケーション・プログラミング・インターフェイス(API)コネクタが Microsoft Finance Insightsのソリューションを通して SAP からデータを自動的に取得します。

この新しいデータ生成プロセスは、優れた制御性を備え、手作業が大幅に削減されるため、より正確です。また、処理速度を向上し、労力削減とリソースの集約をもたらします。

MicrosoftのIndustry Solutions DeliveryのSenior Directorである Mariusz Beben氏は、データ抽出の自動化が重要な役割を果たしたと説明しています。

「私たちは、毎月数百件に及ぶ手作業による情報リクエストを、スケジュール設定した自動データ取得に効果的に切り替え、自動化した品質チェックでバックアップしました。これにより、税務チームは、納税申告書を提出した後ではなく、提出前にデータの不一致を照会し、調整する時間を増やすことができます」と、Beben氏は述べています。

私たちは、毎月数百件に及ぶ手作業による情報リクエストを、スケジュール設定した自動データ取得に効果的に切り替え、自動化した品質チェックでバックアップしました。

これによって、プロセスはよりスムーズで、より合理化され、タイムリーでエラーが発生しにくくなると、同氏は述べています。このMicrosoft Finance Insightsに通じたアプローチは、追加の人員やリソースを必要とせず、簡単に拡張することもできます。

また、一元化され標準化されたモデルにより、企業は税務当局や規制当局とグローバルに共有する情報の概要をより簡単に管理できるようになり、データの確信性も増します。

飛躍する税務・財務の変革

Beighは、データの収集と加工に費やす時間を排除することで、チームとその協働者は納税申告プロセスを20%から30%加速したと述べています。

これまでは、税務当局が定める申告期限まで税務申告書の作成が続いていましたが、Beighのクライアントは、現在は大幅に時間の余裕があり、誰もがより広範な税務問題に集中し、税務に関する論争を管理することが可能となり、税務知識を革新的な方法で活用できるようになりました。また、急な法律や規制の変更への対応にも役立っています。

「統一されたデータの強固な基盤があれば、すべての事業体で同じ純利益の定義を使用しているため、より自信を持って分析、計画、戦略的な意思決定を行うことができます」と、Beigh は述べています。

統一されたデータの強固な基盤があれば、すべての事業体で同じ純利益の定義を使用しているため、より自信を持って分析、計画、戦略的な意思決定を行うことができます。

データ生成に対するこの一元化/標準化されたアプローチが、基盤となる変革を引き起こすことができるとBeighは言います。

 

「組織をより高いレベルに引き上げるのです。私たちは、税務チームが新しい形態のテクノロジーを取り入れて、今求められている業務を実行できるように支援していますが、それはまた、テクノロジーのスキルセットを向上させ、より戦略的な方法で行動し、考えるために必要なデータを提供することでもあります」

 

このデータの有機的な使用は、税務部門と財務部門を連携させ、テクノロジーの進歩とともに、人々と業務プロセスに変革をもたらすことを目的としています。この変革的なアプローチは、税務チームが税務当局の要求に応え、既存の納税申告プロセスではなく、リアルタイムのデータ交換に切り替えるときに不可欠であることが証明されるでしょう。

 

AIを活用して無理難題に挑む

 

データソースでのデータ作成の一元化/標準化を通して税務目的を一元的に把握することは、データの課題に対処するための強力で将来性のある方法です。このプロセスには、AIソリューションを活用して、信頼性の低いデータを特定する税務機能も含まれます。

 

Ernst & Young US LLPのTax Technology and TransformationのSenior ManagerであるIvan Roussevは、次のように述べています。「税務の仕事は、無理難題に挑んでいるようなものです。私たちは、大量の情報に隠されたエラーを常に探しています。しかし、信頼性の高いデータの大部分を迅速かつ簡単に処理し、不正確な情報に時間を集中できるとしたらどうでしょうか。それこそが人工知能で私たちが行っていることです」

 

税務会計の照合作業の大部分は少数の取引に関わるもので、これらは簡単に識別でき、認識しやすく、エンコードされた決定論的ルールを使用して自動的に処理できるため、照合が比較的簡単であるとRoussevは言います。

私たちは、大量の情報に隠されたエラーを常に探しています。

また、データポイントのサブセットという、より難しい課題もあります。しかし、AIは、履歴データに隠されたパターンから学習する能力があり、このサブセットを特定することに特に優れています。潜在的なデータ異常を特定して、AIは各データポイントの信頼度スコアを生成することができます。このサブセット内の信頼性の高い取引は問題なく進行しますが、信頼性の低い取引は、自動的にエスカレーションされ、人によるレビューにつながります。

この2段階のAIを活用した照合プロセスを使用するクライアントは、照合に費やす時間を年間数千時間から数十時間にまで短縮することに成功したとRoussevは言います。このアプローチでは、年に1回ではなく毎月の税務会計照合も可能です。これによって会計上のエラーを早期に発見し、二次的な問題を引き起こすことが少なくなります。さらにこの結果は直ちにAIモデルにフィードバックされ、学習されるため、将来的にはさらに効果が期待されます。

AIは、大量の付加価値税(VAT)取引を分類するようにトレーニングすることもできます。税務上のエラーの大部分は、手作業で入力した低品質の発注データ(商品コードや品目グループなど)に起因しており、入力担当者は、これらのデータが正しい税務処理の決定にどれほど重要であるかを、必ずしも理解していないとRoussevは説明します。その結果、企業は日常的に大量の取引で納税の過不足を生じています。

この問題に対処するため、従来、企業は監査法人に依頼し、(多くの場合、3年サイクルで)逆監査を実施し、納税を慎重に見直し、過払いの有無を判断してきました。

しかし、現在では、AIを使用して、誤った課税区分を自動的に特定し修正する組織が増えています。これにより、劇的な時間の短縮だけでなく、税務データの信頼性も大幅に向上します。また、企業はより適切なビジネス上の意思決定をより迅速に行うことができ、税金調整の準備金としてではなく、組織の資金を活用することができます。さらに、AIは、多くの場合、逆監査の対象外である過少支払いを特定するのにも役立ちます。AIは、プロセスを合理化し、チームのメンバーに貴重な知見を提供する税務チームのジュニアメンバーと考えることができます。また、このテクノロジーは、税務実務家にイノベーションやその他の付加価値活動のためのさらなる時間的余裕を創出し、雑務からの解放を実現してくれるでしょう。

リアルタイムでのデータ品質の向上

次のステップは、人工知能を活用して、税務・財務データの品質をリアルタイムかつソースで改善し、照合と再分類作業の必要性をさらに減らすことであると、BeighとRoussevは言います。

これが実現できれば、税務部門は、市場、製品、サービスと共に進化し変化を遂げる幅広いビジネスに対して、より多くの時間を費やすことが可能になります。より高品質なデータにアクセスすることで、税務部門は、業務プロセスの一連の過程を通じて相談を受けるのではなく、それよりはるかに早い段階で、ビジネスに積極的に関わり影響を与えることができます。

サマリー

データは、税務・財務部⾨の変⾰の基盤です。しかし、各チームが独⾃の税務データを抽出して⽣成する現在の慣⾏は時間がかかり、⾮効率で、不正確であり、変⾰の⼤きな障害となっています。EYは、Microsoftや世界最⼤級の企業と協⼒して、税務データの⽣成と抽出の⾃動化および改善を進めています。

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税務部門でAIを適正に利用するためには、管理体制やルールを構築することが不可欠です。AIの信頼性や正確性などを担保するためにも、AIを開発・利用・運用するときの活動をコントロールする基本的な考え方や仕組みを整備することが必要になります。現状、法令に規定はなく、どのような社内ルールを策定するかは、各社の判断に委ねられているため、政府のガイドラインなどを参照しながら、社内教育を行っていく必要があります。


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