Ⅱ 制度の内容
1. 適用対象法人
青色申告書を提出する法人が適用対象法人となります。
2. 適用事業年度
適用事業年度は2025年4月1日から2032年3月31日までの間に開始する各事業年度の7年間です。租税特別措置法の優遇税制は2~3年の期間で制度化されるものが多いところ、本制度は研究開発から特許権等の取得までに一定の期間を要することや、特許権が収入をもたらす期間は平均的に7年程度であることから、7年間という比較的長い期間の制度となっています。
3. 特許権譲渡等取引
本制度の対象となる特許権譲渡等取引とは、次のイ及びロの取引を言います。
イ 居住者又は内国法人に対する特定特許権等の譲渡(関連者に対する特定特許権等の譲渡を除く)
ロ 他の者に対する特定特許権等の貸付け(関連者に対するものを除く)
上記の特定特許権等とは、特許権 、人工知能関連技術を活用したプログラム著作物として一定のもの(適格特許権等)のうち、適用対象法人が2024年4月1日以後に取得又は製作をしたものを言います。
4. 適用対象となる所得金額
本制度の適用対象所得金額は、原則による所得金額と、2027年4月1日前に開始する事業年度に適用される経過措置による所得金額の2種類があります。
(1) 原則
適用対象所得金額の原則は、適用事業年度において行った特許権譲渡等取引ごとに、その特許権譲渡等取引に係る所得の金額に研究開発割合を乗じて計算した金額の合計額となります。
特許権譲渡等取引に係る所得の金額とは、特許権譲渡等取引に係る収益の額としてその適用対象事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入される金額から、その特許権譲渡等取引に係る譲渡原価の額、特許権等の出願、審査、登録又は維持に要する費用の額、その他一定の金額のうち、その適用対象事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される金額を減算した金額とされています。
特許権譲渡等取引に係る所得の金額がマイナスになった場合には、そのマイナスの金額を他の特許権譲渡等取引に係る所得の金額と合計して計算します。なお、合計した後の金額がゼロに満たないときはこれをゼロとします。
研究開発割合とは、次のイの金額のうちにロの金額の占める割合をいいます。なお、イの金額が ゼロである場合は、研究開発費割合はゼロとなります。
イ その適用対象事業年度及びその適用対象事業年度前の各事業年度(2025年4月1日以後に開始する事業年度に限ります)において生じた研究開発費の額のうち、その特許権譲渡等取引に係る特定特許権等に直接関連する研究開発に係る金額の合計額
ロ イの金額に含まれる適格研究開発費の額の合計額
適格研究開発費の額とは、研究開発費の額のうち、次の金額以外の金額をいいます。
イ 他の者からの適格特許権等の譲受け又は借受けによって生じた研究開発費の額
ロ 国外関連者に委託する研究開発及び非国外関連者に委託する研究開発のうち国外関連者に再委託されることがあらかじめ定まっている場合などの一定の研究開発
ハ 適用対象法人の国外事業所等を通じて行う事業に係る研究開発費の額
(2) 経過措置
2027年4月1日前に開始する事業年度は、その適用対象事業年度において行った特許権譲渡等取引に係る特定特許権等のいずれについても、その特定特許権等に直接関連する研究開発に係る研究開発費の額がその適用対象法人の2025年4月1日前に開始した事業年度において生じていない場合など一定の場合を除き経過措置が適用され、本制度の対象となる所得の金額を算出する際に、経過措置研究開発費割合を用いることになります。経過措置研究開発費割合とは、次のイの金額のうちにロの金額の占める割合をいいます。なお、イの金額がゼロである場合は、研究開発費割合はゼロとなります。
イ その適用対象事業年度及びその適用対象事業年度前2年以内に開始した各事業年度において生じた研究開発費の額の合計額
ロ イの金額に含まれる適格研究開発費の額の合計額
原則による研究開発費割合は、研究開発費の額のうち、その特定特許権等に直接関連する研究開発に係る金額を算出した上で計算することとされますが、経過措置研究開発費割合は特定特許権等に直接関連する研究開発に係る金額を算出せず、研究開発費の全体の金額を用いて計算します。
なお、特許権譲渡等取引、研究開発費の額及び適格研究開発費の額は原則と同様です。
5. 所得控除の金額
本制度の適用により損金の額に算入される金額は、 適用対象所得金額と、その適用対象事業年度の所得の金額(所得基準額)のうちいずれか少ない金額の30%相当額とされています。
この所得基準額とは、本制度を適用しないで計算した場合の所得の金額から、繰越欠損金を控除した金額とされますが、欠損金の繰越控除額が欠損金控除前の所得金額の50%相当額となる場合であっても、前期から繰り越された欠損金の全額を控除したものと仮定した場合の所得の金額となります。
また、グループ通算制度を適用している法人については、通算グループ内の損益通算後の所得の金額の合計額から、通算グループ内の繰越欠損金額の合計額を控除した金額を通算グループ全体の所得基準額として、これを各通算法人の通算前所得金額の比で按分した金額を各通算法人の所得基準額とすることとされています。