日本のサステナビリティ情報開示基準を巡る今後の動向とは

日本のサステナビリティ情報開示基準を巡る今後の動向とは


世界各地の投資家の間で、サステナビリティ情報開示関連の法整備に対する需要が高まり、企業は報告実務を大きく変更するよう求められています。


要点

  • 日本の関係当局では開示基準の義務化を段階的に進めており、その影響は4,000社近い日本の株式公開企業に及んでいる。
  • その一方で、EUおよび米国の規則や基準、ならびに国際サステナビリティ基準審議会(International Sustainability Standards Board、以下ISSB)が策定する基準の採用も、日本の多国籍企業に影響を与えている。
  • 各企業は世界中の主要イニシアチブ間の相互運用性および整合性を含む、規則や基準の動向の監視に取り組んでいく必要がある。


背景

G7(主要7カ国)の首脳らはこの5月に、パートナーシップの多様化と深化およびデリスキングに基づく経済的強靱性および経済安全保障へのアプローチにおいて協調する具体的な措置を講じることに合意しました。また、サステナビリティ関連リスクの高まりに対する政策の主要な要素として、サステナビリティ報告および情報開示の重要性にも言及しました。

G7首脳コミュニケには、次のように記されています。「我々は、気候を含む持続可能性に関する情報の一貫性、比較可能性、及び信頼性のある情報開示へのコミットメントを強調する。我々は、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が、持続可能性に関する全般的な報告基準及び気候関連開示基準を最終化し、またグローバルに相互運用性のある持続可能性開示枠組の達成に向けて取り組むことを支持する」

政府トップレベルがサステナビリティ情報をグローバル規模で一致させ比較可能とすることを支持したのは、投資家やその他のステークホルダーの要望を満たすサステナビリティ情報の開示規則および基準の策定に向けて近年取られてきた主要なアクションを受けてのことです。このような取り組みとして特に注目すべきものには、ISSBの設立、欧州委員会による企業サステナビリティ報告指令(CSRD)の公表、および米国証券取引委員会(SEC)による気候変動情報開示案の公表などがあります。

これらの取り組みはいずれも、日本企業に対し直接または間接的な影響を及ぼす可能性があります。これには、(i) 米国取引所に上場している日本企業、(ii) 欧州で事業を展開する日本企業、(iii) ISSBの基準が世界各国・地域で採択された場合にその影響を受ける日本企業が含まれます。一方、日本では規制当局が日本の上場企業に対するサステナビリティ情報開示の義務化に向けて段階的アプローチを取っています。この取り組みは、日本で上場している外国企業も含め、4,000社近くの株式公開企業に影響を与えることになります。

日本におけるサステナビリティ報告および情報開示の現状

長年にわたり、日本は気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への賛同を表明した企業・機関の数が世界で最も多い国の1つとして認められてきました

東京証券取引所(東証)は2021年6月にコーポレートガバナンス・コードの改訂を行い、「コンプライ・オア・エクスプレイン」の枠組みの下、プライム市場上場企業に向けてTCFD提言に基づく開示を行い、社会問題に対応することを求めました。

2023年3月には、金融庁が策定した新たな規則が発効の運びとなりましたが、これは日本におけるサステナビリティ情報開示を義務化する規則の第1段階に相当するものです。この規則により、有価証券報告書(法定報告書)におけるサステナビリティ関連情報に対し「記載欄」の新設が義務付けられました。同規則では、日本のすべての上場企業(日本で上場している外国企業も含めた約4,000社)は、TCFDの柱(戦略、指標と目標、ガバナンス、リスク管理)を用いてサステナビリティ関連情報を開示しなければなりません。

重要なことは、この規則は具体的な基準(例えば、TCFD)を定めておらず、第三者保証も義務付けていないということです。

日本におけるサステナビリティ報告および情報開示の今後の動向

日本におけるサステナビリティ情報開示を義務化する規則の第2段階は、2025年4月までに施行される見込みです。この規則は、新設されたサステナビリティ基準委員会(SSBJ)によって起草されることになります。

2021年11月のISSB設立を受けて2022年7月に設立されたSSBJは、規範的なサステナビリティ開示基準を策定するプロジェクト計画の概要を最近になってようやく示したところです。この計画には、公開草案と最終案を遅くともそれぞれ2024年3月と2025年3月までにまとめることが盛り込まれています。強制的な施行日は設定されていませんが、企業は2025年4月頃からこの基準の任意適用が選択できるようになるでしょう。

本基準は、IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」(S1)およびIFRS S2号「気候関連開示」(S2)など、ISSBが策定した当初の基準と整合するものになると見込まれています。

SSBJとISSBによる取り組みは、日本の岸田文雄首相の歓迎を受け、奨励されています。2023年3月、東京を拠点とするIFRS財団アジアオセアニアオフィスへの支援延長に関する覚書の締結後、岸田首相は東京でIFRS財団の評議会を主催しました。同オフィスは2012年から国際会計基準審議会(IASB)による取り組みを支援しており、現在はISSBの取り組みも支援しています。

SSBJが起草した情報開示規則案は、東京証券取引所に上場している外国企業を含む、日本のすべての上場企業に適用される予定です。

日本企業に適用されるグローバルルール

グローバルに事業展開している日本企業の多くが、特にEUや米国で策定された規則などのように、日本国外で策定されたサステナビリティ報告規則の対象となるでしょう。

EUのCSRDは、数百社にのぼる日本の大手多国籍企業に適用されます。これには、(i) EU市場で上場している企業、(ii) EU域内に大規模な子会社を有する企業(売上高、総資産および従業員数またはそのどちらか一方で測定)が含まれます。2028年から、EU域内での純売上高が1億5,000万ユーロを超える(またはCSRDの適用域内に1つ以上の子会社を有する等、他の条件に該当する)日本企業がこの指令の対象になると、CSRDの域外適用の影響は最大になります。

一方、米国を見ると、SECが提案している気候変動開示規則の適用対象はより限定的になる見込みであり、影響を受けるのは米国取引所に上場している日本企業にみる、米国外の民間発行体(FPI:Foreign Private Issuer)のみとなっています。SECの気候変動開示規則案「投資家向けの気候変動開示強化および標準化」の下では、スコープ3での排出量の開示に関して、FPIはすべての登録企業に与えられる免除を超える、さらなる段階的免除または適用除外の対象とはなりません。

最後に 

複数の国・地域で開示要件が具体化していく中で、日本企業は規則がまだ策定中であっても、事前対応的な計画立案と法規制動向の十分な監視が必要になるという課題に直面します。

経営幹部がすべきことは、自社がどの程度対象になるのかを評価し、関連データを用意し、デジタルイネーブルメントについて調べ、監査に対応できるプロセスと統制を構築(注:SSBJはこれまでに外部アシュアランス〈保証〉の義務付けを示唆していないが、米国およびEUの規則と基準はアシュアランスを義務付けている)することであり、財務および非財務情報に関する取り組みに重複があるため、財務およびサステナビリティ担当部門は最善の対処方法を採るために協力すべきです。サステナビリティガバナンス体制は企業によって異なるものの、次なるステップを特定し対処する上で、そして、究極的には気候関連およびサステナビリティ関連のリスクと機会に対処する上では、部門横断的なグループが不可欠となります。



サマリー

サステナビリティ情報開示に関する政策が急速に進展しています。グローバル企業にとって、今こそコーポレートレポーティングの新時代に備えるべき時です。


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